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★孫崎享氏の視点ー(2013/06/05)★ :本音言いまっせー!
『鳩山由紀夫 孫崎享 植草一秀 対米従属という宿痾』
はじめに 鳩 山 由 紀 夫
日本を真に尊厳のある国にしたい。名誉ある地位を占めたいのではなく、
世界の国々からも尊敬される国でありたい。そのためには、
アメリカの保護領だなどと揶揄されるのではなく、真の意味で独立した国に
したい。そして、そのことによって、国民みんなが公正で幸せを
感じられる社会にしたい。
これが二〇〇九年の政権交代の大きな一つの目的でした。
しかし、その目的は十分に果たすことができませんでした。
多くの国民のみなさんの期待を裏切ってしまったことを申し訳なく
思っています。私の責任は極めて大きいと自覚しています。
それだけに、なぜ独立運動とも言える革命的事業が成功しなかったのか、
この本の鼎談の中で明らかにしていきたいと思います。
今の日本は、ぜんまい仕掛けの時計の針を前に進めようと、
力いっぱい巻いたら、パーンと弾けて、一気に緩んで時計の針が
逆に回り始めてしまったように思えます。
多くの国民は、景気がよくなるのではとの束の間の幻想に、これで
いいのだと、四年前の熱狂こそ幻だったのだと言わんばかりに酔いしれて
いるように見えます。
そして、国際環境と言えば、過去の自分たちや自分の親たちの行為に
目を瞑り、悪いのは自分たちではないと強がっているうちに、信頼して
もらっていると信じていた仲間たちからも、冷ややかな視線が届き始めて
きています。
このような時に、私たちはこの現実にただ身を任すだけでも、又、
現実の前にどうしようもないと立ちすくむだけでもいけないと、
私は強く思います。
この国は粉飾に満ち溢れています。多くの国民はあまりにも粉飾が
多いので、それに気付いていませんし、粉飾ではなく事実だと信じています。
いや、これは何も日本だけではないようです。例えば、アメリカでは
軍需産業を正当化するために、歴史が創られてきました。
大量破壊兵器が存在するとブッシュ大統領が主張し、イラク戦争が始まり
ましたが、結局イラクには大量破壊兵器はありませんでした。
この事実を世に問うべく、オリバー・ストーンが語る
「もう一つのアメリカ史」が放映され、粉飾のベールを剥がす努力が
なされています。
日本ではこの本の鼎談の一人の孫崎享氏が「戦後史の正体」を著し、
粉飾のベールを剥がそうとしました。大変な勇気のいる作業だったと
想像します。孫崎氏の、事実を積み上げての議論に対して、既存の勢力からは、
陰謀)史観などとのレッテル貼りがなされたようですが、多くの一般の市民の
方々からは、目からウロコだったと賛辞が送られました。
では一体、誰が何のために粉飾を行っているのでしょうか。鼎談のもう一人
の植草一秀氏は、既得権集団を「米、官、業、政、電」と略称し、
アメリカ、官僚、大手業界、政治家、そして大手メディアが彼らの既得権益を
守るために、事実を粉飾して国民に伝えていると喝破しました。
言うまでもなく、彼らの中にも勇敢に国民のために既得権益と戦っている方は
沢山います。しかし、往にして組織全体の行動となると、すでに得ている
自らの利益を守ろうとします。
最近の顕著な例はTPPと原発事故への対応でしょう。
TPPに関しては、なぜこれほどまでにアメリカに尻尾を振らなければ
ならないのか、理解に苦しみます。後から入れて下さいとお願いする方が、
交渉が不利になることは当然です。
すでに日米事前協議は日本側が大幅に譲歩する形になりました。
農業に関しては、例外を認めるかのように見せながら、アメリカの本音は
「聖域なき関税撤廃」です。私はそれ以上に、作物の種子戦争でアメリカが
勝利し、日本人の生殺与奪(せいさつよだつ)の権をアメリカが握ることに
ならないか、非常に心配しています。
もう、遺伝子組み換え作物はすぐそこまで来ています。それにも関わらず、
国民のみなさんにあまり大きな反対の盛り上がりがないのは、日本政府の
説明は「粉飾」だからだと、『東京新聞』は書いています。
都合の悪い情報を、政府や東京新聞以外の大手メディアは国民に覆い隠して
いるからです。まさに「米、官、業、政、電」ぐるみの粉飾です。
国民のみなさんが不利益を被(こうむ)らないのならば、それでもよいので
しょうが、残念ながらそうはならないでしょう。
原発事故の対応に関しては、東京電力を始めとして電力業界と官僚、政治家、
メディアとの間で多額のお金が寄付や広告料として流れ、また天下りなどの
癒着が激しく、TPP以上に、いまだに国民のみなさんに事実が伝わって
いません。
政府は避難の仕方も、原子炉の冷却の方法も、除染や放射性廃棄物の処理の
あり方も、初動から今に至るまで間違っています。
今でも毎日多量の放射性物質が、空に、海に、地中に漏れています。
そのことで最も可哀想(かわいそう)な状況に置かれているのが、福島を
中心とした地域にお住まいの方々、とくに小さな子どもたちです。
政府や電力業界は放射能の汚染被害は大したものではないと決めつけて、
子どもたちへの甲状腺検査などは数年に一度で十分としています。
あまつさえ、心配する親御さんのためにと、子どもたちに一年に複数回、
無料で検査を実施している医療機関の奉仕活動には、政府は迷惑と言わん
ばかりに、全く財政支援しません。
この既得権の集団ぐるみの癒着、そして粉飾の原点はどこにあるのでしょうか。
私は、畢竟、「日本は戦争に負けた」という事実を粉飾しようとしている
ところから来ているように思えてなりません。
先日、青山学院大学で講演を行ったところ、男子学生から
「あなたの言うことは分かりますが、領土問題で主権は譲るべきではない
のではないか」と質問を受けました。北方領土や竹島や尖閣は日本固有の
領土であって、領土の主権は譲ってはならないという趣旨でした。
この学生だけではなく、ほとんどの日本人はそう信じています。
しかし、本書を読んでいただければ分かりますが、日本は第二次世界大戦に
敗れ、ポツダム宣言を受諾したのです。ポツダム宣言には日本の領土は
北海道、本州、四国、九州のみで、あとの島は連合軍が、すなわち、事実上
アメリカが決めることになっています。
あとの島を日本の領土だと主張することはできますが、ポツダム宣言を
受諾した瞬間に、固有の領土は北海道、本州、四国、九州しかなくなった
のです。この歴史的事実を私たちは教わってきませんでした。
政府が事実を説明しないからです。
そして、戦争に負けたにも関わらず、アメリカのおかげで、
すぐに経済大国への道を歩むことが出来たために、卑屈なまでの劣等感から、
アメリカへの従属心が生まれました。一方ではその反作用の形で、
中国、韓国などのアジア諸国に対する優越感を生み、過去の歴史に関する
こじつけや粉飾が行われたのだと思います。
この鬱屈した感情が、アメリカを含む既得権社会を形成してきたのです。
私は安倍政権であろうと、どんな政権であろうと、「日本は戦争に負けた」
という厳粛な事実をしっかり受け止めて、その上で、すべての国に対して
劣等意識も優越意識も持たず、友愛精神に基づいて、尊厳のある独立国を
創り上げていく努力をしていただきたいと強く願います。
そして、既得権益に群がる集団のみではなく、すべての国民に対して
公正な利益が享受(きょうじゅ)される友愛社会を創り上げていただきたい
と祈る気持ちです。
現在の円安・株高の傾向がもたらすものは、大企業にのみ利益を与え、
中小企業や地域社会は、より一層厳しいやりくりとなることは間違い
ありません。そしてその株高でさえも、外国人投資家が一斉に売りに
転じた時に、一気に急降下することにならないとも限りません。
消費税の増税やTPPが追い打ちをかけたらと、考えただけでも
ぞっとします。まさに、砂上の楼閣(ろうかく)のような現在の日本である
のに、多くの国民はええじゃないかとはしゃぐ始末です。
既得権の外にいる多くの国民には事実が隠ぺいされているからでは
ないでしょうか。
その責任は私にあることも理解しています。既得権との戦いに勝て
なかったことは誠に残念ですし、申し訳ありません。でも、その戦いに
勝てなければ、既得権社会に埋没(まいぼつ)するしかないと諦めては
ならないと思います。
そのために鼎談を行いました。「なぜ出来なかったか」から、
ではどうすればよいのかを学んでいただきたいのです。
その先に、独立国・日本が垣間(かいま)見えてくると信じて。
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