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2013年5月30日 東京新聞「核心」
安倍政権が原発を世界中に輸出しようとしている。中東歴訪の際の売り込み行脚に続き、二十九日の日印首脳会談で輸出の前提となる原子力協定の協議を再開し、早期妥結を目指すことで合意した。東京電力福島第一原発事故では、十六万人が避難生活を続け、原因も結論が出ていない。首相は国内ではそのことを認めながら、海外では「世界一安全」をアピールするという、露骨な使い分けをしている。 (金杉貴雄、宮尾幹成)
■売り込み
「日本は、世界一安全な原子力発電の技術をご提供できます」
五月一日、サウジアラビアのジッダ。同国の政府関係者らを前に、首相は自信満々の様子で、日本の原発を売り込んだ。
首相は福島事故を受け、国内向けには「(原発に)絶対安全はない」と述べ、事故の究明も終わっていないことを認める。再稼働は前のめりになってきているが、新増設には慎重な姿勢をみせる。
ところが海外に対してはまるで別人だ。訪問した国々で「安全」「最高水準」を強調。国内向けと国外向けで使い分けている。
■経済優先
首相は原発輸出を加速させ、トルコではトップセールスで受注。一月のベトナム訪問でも日本企業の輸出を確認。原子力協定の協議も各国と進める。
政府は「事故の経験を世界と共有するのは日本の責務」と強調する。各国から日本の原発技術の提供を求める声があるのは確かだ。ただ首相の本音は世界への貢献と言う以上に、一基五千億円とされる経済利益にあるようだ。
日本はこれまで原子炉そのものを輸出した例はない。だが安倍政権は世界の原発が二〇三〇年までに最大三百七十基増えると試算し、成長戦略に掲げたインフラ輸出の中でも柱の一つに位置付けた。政府100%出資の国際協力銀行(JBIC)も融資を検討している。単なる民間企業の支援にとどまらず、世界中で原発輸出の旗を振っている。
しかし、原発は一般的なインフラと違い、経済利益とは比較できないリスクがあることを日本は経験した。輸出では、そのリスクを各国の住民に押し付けることになる。
■友の苦言
福島事故は、過酷事故に至った原因が明確になっていない。
国会の事故調査委員会は、地震で原子炉の冷却に必要な重要設備が壊れた可能性を指摘。「津波が原因」とする政府や東電の事故調査委員会の結論と食い違いをみせる。
トルコは日本同様、多くの断層がある世界有数の地震国。福島事故の原因が解明されていない中でトルコへの輸出を疑問視する声は少なくない。
ベトナムでは津波、ヨルダンでは冷却水不足に懸念の声がある。中東はテロも不安材料。安全規制については、輸出相手国に日本の情報は提供できても、実際に規制を運用するのは相手国に任せるしかない。
「(日本は)廃炉技術や被害者救済の施策を提供することが、尊敬を集めるのではないか。人に人柄があるように、国家に国柄がある。そういう国を目指すべきだ」。福島県出身の荒井広幸参院議員は十五日の参院予算委員会で、原発輸出に進む首相に苦言を呈した。
二人は、同期当選で政界入り前から付き合いがある。荒井氏の言葉に、首相から明確な答えはなかった。
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