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投稿者関口博之
私自身ドイツで暮らしていた4年間を除き、この30年間コメ作りなどの農的暮らしを実践している。
昨日半反(150坪)ほどの田植えを3分の1ほどしたが、腰をかがめて一苗一苗植えていく作業は年々大変となってきている。
しかし山の遅い春のそよ風のなかでの作業は、自らを見つめ直す至福の時でもある。
この時期農家は大形乗用田植え機で苗を植えているが、苗箱の交換は手作業で運ばなくてはなくてはならず、家族総動員、さらにはアルバイトを雇い大変である。
特に10ヘクタールほどの専業農家ともなれば、田植えも数週間かかり、雪解けと同時に3000個ほどの苗箱を育てていくなかで、田を耕し整えていく作業は集約化しても決して楽な仕事ではない。
何故なら労働が集中的にきついだけでなく、借地代、肥料代、農薬代、農業機械の購入維持、借金の返済に多くの費用がかかり、耕作面積あたりの直接補償を受けても、食べていくのがやっとだからだ。
産業戦略会議の農業戦略ではさらなる集約化を第一に掲げているが、農林水産省が公表している「稲作の規模と生産量」の表を見ればわかるように、5ヘクタールを超える規模拡大のコスト効果はほとんど見られず、60キロのコメを生産する費用は12000円程度となっている。
現実的にも規模拡大は小泉政権の支援政策で既に頂点に達しており、私の周辺では老齢化もあって、20ヘクタールまで拡大した経営規模を半分程度にまで減らした農家も目に付く。
したがってさらなる集約化は、現在の3反規模の田んぼから5反規模の田んぼに改変する農業土木工事推進のかけ声に聞こえる。
確かに効率的ではあるが、日本の地形からして田がぬかるみ易くなるなど長所ばかりではなく、大形機械への買換えなどでむしろ専業農家は苦しくなりかねない。
こうした最早集約化も限界に達している状況において、TPP参加で関税が撤廃されれば、日本農業の壊滅は明白である。
もっともTPPは建前としては関税の例外を認めない自由貿易協定であるが、各国が国益を最優先することから(日本は例外なき関税撤廃は認められないことから)、今年度末の決定どころか、WTOの場合のように長期化する可能性は高い。
その場合、日本は相互扶助の視点からTPP参加予定国と先行して二国間自由貿易協定を締結していくべきであろう。
産業育成を求める農業国には、技術とノウハウを進んで提供する代わりに、日本の適正な関税の容認と、将来的な食料自給増大への配慮ある協定でなくてはならない。
もっとも現在の日本の食料品関税はコメ関税に見られるように異常に高く、適正な関税とは言えず、逆に農業意欲を奪っていると言っても過言ではない。
コメ778パーセントの異常に高い関税は、戦後の工業製品輸出のために穀物などの農産物が自由化で農村がコメ農家ばかりにならざろう得ず、食管制度を通して工場労働者ベースアップに応じて米価を毎年上げて行き、60年代末には有余るコメが全国の倉庫を埋め尽くし、農業意欲を削ぐ減反政策が強化されて行ったからである。
すなわちそれでもコメが有余るため、コメ100パーセント自給が至上命令となっているからだ。
こうした日本農業をコメ以外に生き延びる道を作らなかったことが、莫大な助成にもかかわらず、年々の農業衰退の本質的原因である。
したがってそこにメスを入れることなしには、関税撤廃を免れたとしても、将来的農業破綻は必至だ。
民主党政権での農家の直接個別補償も、減反農地利用に力点を置いているが、長年の食管制度の踏襲と五十歩百歩である。
何故なら蕎麦や大豆などの減反農地利用に多額の助成金を出しても、市場で全く競争力ないことから、インセンティブが全く働かない助成金目当てとなり、従来同様その場限りの農地利用となっているからだ。
だからと言って、農業への助成支援が必要でないと言っているのではない。
EUにおいても予算の半分近くは農業分野への助成支援に使われており、山地などの多くの小規模農家を抱えるEU農業は競争原理が強化されるなかで、環境農業政策の多額の助成支援なくして成り立たないからだ。
そのEU農業で、競争原理克服の切札として急増しているのがビオ農業(有機農業やスマートアグリ)である。
特にドイツでは有機農業を営むビオ農家の急増が著しく、2009年で1万9000軒に達し、ドイツ全農家の5パーセントを超えている(注1)。
これらのビオ農家では除草機やマルチング機などの利用で1ヘクタール規模でビオ農産物を生産し、それらのビオ農産物はドイツ全土の数千のビオショップだけでなく、ドイツスーパーの全ての店頭で販売されている。
またこれらのビオ農家は、放し飼い飼育の鶏卵や伝統種豚の飼育なども営み、多角的に経営されているところも多い。
日本では有機農業が湧き上がった70年代当初から長年異端視され、2008年にようやく始まった「有機農業モデルタウン事業」も民主党の仕分けで廃止宣言されるように(再復活したが)、未だに有機農家認証さえ自費で支払わなくてはならず、有機農業に対する重要性の視点が欠如している。
確かに日本の農業技術は、3反規模の田んぼで1反あたり500キロを生産することでは世界1であっても、除草機やマルチング機を利用して有機農産物を1ヘクタール規模で生産する技術は皆無であり、それを学ぶことが“攻めの農業”へ転じることでもある。
また5月20日に放映されたNHKクローズアップ現代『農業革命“スマートアグリ”』では、九州ほどの小さな国オランダのIT技術を利用したスマートアグリが紹介され、トマトやパプリカのハウス栽培で世界第二位の農業輸出国となっている素晴らしい実態が描かれていた(注2)。
こうしたスマートアグリは産業戦略会議でも着目しているようであるが、日本はこの分野でも努力を長年怠り、大きく遅れを取っていることから、当面はオランダからのパテント購入に依存するしかないが、参入企業任せでは先が見えている。
何故なら、オランダからパテントをいち早く導入した韓国はパプリカ日本シェアーの7割を輸出しており、全てにおいてコストの安い韓国相手の価格競争では新規参入企業の劣勢は否めないからだ。
重要なのは、農業を単に自国での食料生産という視点だけでなく、雇用問題解消や社会保障問題解消と言った大きな視点で、国策としてビオ農業に取り組むことである。
日本の現状を考えれば、生産力が機械化、オートメ化、ロボット化によって数十年前に比べて100倍近くに増大し、さらにはグローバル競争の激化で生産国が新興国や途上国に移りつつあることから、少子化の進行にもかかわらず大卒の就職雇用さえ年々困難になっており、それを吸収できるのは多様な人材を必要とするビオ農業である。
また生活保護者は年々増大しており、それらを容易に解消できる産業はビオ農業しかないからだ。
具体的には都道府県単位でビオ農業普及センターをつくり、毎年100人から200人のビオ農家を育成していけば、毎年1万人近い若者の雇用を生み出すことも可能である。
またビオ農業普及センターでは、1ヘクタール規模の有機農業やスマートアグリの技術開発に取り組んで行けば、幅の広い雇用も生まれよう。
そのようなビオ農業普及施設が機能していれば、生活保護受給者を受け入れ、生活保護の解消も容易である。
何故なら、自給のためのコメや穀物の有機農業栽培は1日1時間程度の体を動かす作業で可能であり、ビオ農産物施設ではアルバイト需要が高いことから高齢者の自立も十分できるからだ。
そうした大きな視点での日本農業の取り組みこそが、本当の“攻めの農業”である。
そのためには、現在のコメ自給100パーセント政策を70パーセントほどに緩和していく農業政策の大転換が必要である。
そうすれば将来的には日本の農地利用の半分近くをビオ農業に向けていくこともでき、無限に成長させていくことも可能だ。
それは、日本がオランダのように世界に向けてビオ農産物で農業輸出大国になることを秘めている。
注1(44)理想とすべき農業(市民と連帯するドイツの環境保全型農業)
http://d.hatena.ne.jp/msehi/20111013/1318535339
注2 NHKクローズアップ現代『農業革命“スマートアグリ”』
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3349.html
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