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救国対談 孫崎享×ウォルフレン 『米国の属国「ニッポン」の正体』
「憲法改正」「日中関係」「官僚支配」…今こそ『独立思考』が必要だ!
http://www.twitlonger.com/show/n_1rkhprp
サンデー毎日6月9日号 29th May 2013 from TwitLonger 新宿デイジー @Shinjukudaisy
▷右寄り安倍政権での改憲危うい
▷橋下発言まるでコメディアン
▷尖閣軍事衝突が起きてもアメリカは助けない
▷参院選自民党大勝で「原発再稼働」「TPP強行」
▷アメリカと霞が関に潰された小沢と鳩山
「米国追随のニッポンは、独立の思考を持て」。日欧気鋭の二人はこう警鐘を鳴らす。元外務官僚の孫崎享氏とオランダ人ジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が、“対米追随”の危険性にズバリ斬り込んだ救国対談ーー。
【サンデー毎日】新刊本『独立の思考』(角川学芸出版)で、対談したきっかけは?
【ウォルフレン】孫崎さんの『戦後史の正体』(創元社)が話題になった時、読者の中には、私のこれまでの著作を想起した人が多かったそうです。それを知った編集者が昨年12月、孫崎さんに引き合わせてくれた。私は日米関係について3冊の著作があって孫崎さんと関心事が近い。会うなり長年知り合いのように話がはずみ、「対談をやろう」となったのです。
【孫崎享】ウォルフレンさんの本を読んでいて、日本政治の肝要な点を常に主題にしていることに感心していました。原発、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、憲法改正、自衛隊の海外派遣など、日本にとって極めて重大な問題が山積みする今、決定的な時期にいます。しかし、新聞やテレビは問題の核心について触れていません。私たちが日本の現状を話し合うことは有意義だと思ったのです。
【ウォルフレン】私もオランダや他のメディアから日中関係や北朝鮮情勢についてコメントを求められる際、メディア関係者が事実関係のディテールについて、わずかしか知らないことにいつも驚かされます。そんなメディアが報じる「何が起きたか」「アメリカはどのような役割だったか」という筋書きはあまりにひどく、欠陥だらけ。重要なディテールは、日本の新聞や『ニューヨーク・タイムズ』など米紙の1面にも載らないので無理もないのかもしれません。だから私たちの話し合いには意義があると思います。
【サンデー毎日】“報じられない”重要問題とは何でしょう。
【ウォルフレン】日中関係についてはこんなことです。民主党が2009年9月、政権を握り、当時幹事長だった小沢(一郎・生活の党代表)と鳩山(由紀夫・元首相)は日中関係を改善しようと新たな手法に着手しました。たとえば、小沢はジャンボ機2機分に当たる大人数の芸術家、作家、政治家などからなる訪問団を率いて人的交流、党間交流を図った。だが、ワシントンは民主党の「日米関係の平等化、独立志向、日本主導の近隣諸国外交」路線の一環とみて、ヒステリックに反応し、鳩山政権の放逐を進めることにしたのです。鳩山政権の早期崩壊にアメリカが介入したことはまるで知られていません。一方、ジョセフ・ナイ(ハーバード大教授)やリチャード・アーミテージ(元米国務副長官)らが「幸いなことに菅(直人・元首相)や野田(佳彦・前首相)が日米関係の“傷”を癒した」などと、あたかも“傷”があったかのように話したと報じられました。
鳩山と小沢が思い描いていたのは、日米が対等な立場で話し合う本当の意味での同盟を築くこと、つまり「日本の独立」でした。日米関係を破壊するつもりはなかった。私はメディアの取材に答える際、これを全部説明するには時間がかかるし、取材者の背景知識が往々にして不十分でなかなか理解してもらえない。
【孫崎享】鳩山政権の崩壊について言えば、多くの日本人は「鳩山政権は変節した」と批判的です。しかし、普天間問題の経緯を振り返れば本当にそう言い切れるでしょうか。鳩山自身は「沖縄住民の考えを理解せずに、普天間問題は解決できない」とはっきり理解していました。当時の(岡田克也)外相や(北沢俊美)防衛相は、政権発足直後の09年9月に早くも立場を翻す中、鳩山は翌年5月まで立場を変えませんでした。
《ワシントンの「日米ネットワーク」》
【サンデー毎日】当時、外務官僚が鳩山首相を半ば公然と批判することもあったそうですね。
【孫崎享】官僚は本来、首相の立場に従う義務がありますが、普天間問題について外務官僚も防衛官僚も鳩山の指示には従わず、鳩山の立場を損ねることに熱心でしたね。非常に異例で、あってはならないことです。
【ウォルフレン】法務省、外務省、防衛省は民主党に“魚雷”を打ち込むように狙い撃ちしました。手始めに小沢を表舞台から追い出すためにウソの嫌疑をかけた。小沢が「在日米軍のプレゼンスは第7艦隊で十分」(09年2月24日)とする発言をしたところ、ほどなくして検察は小沢の秘書に(政治資金規正法違反の)嫌疑をかけて逮捕(同3月3日)しました。小沢には、在日米軍再編の主導権をアメリカから日本に移そうとする意図があったことは明らか。このような経緯も報道されていません。
実は、アメリカのメディアは、ワシントンのある人的ネットワークを情報源にすることが多い。アメリカ大学教授など日本専門家と日本人のアメリカ・ハンドラー(対米政治担当者)からなるネットワークで、日米の不平等関係を形成・維持しようとする人々。このネットワークが好ましくないとした事実は、歪められて報じられる。結果的に部外者には何が起きているのか分からなくなるのです。
【孫崎享】なぜアメリカ政府は小沢を敵視するのか。小沢はアメリカについて注意深く話す人だし、あまり多く言及することもありません。しかし、小沢は、アメリカに従属する日本の社会、政治、官僚制、言論を改革しようとしています。そんなことをすれば、アメリカは再び日本が従属するよう再構築しなくてはならなくなる。だから敵視するのです。
【ウォルフレン】日本がアメリカの思い描く枠内から少しでも外れ、小沢や鳩山のように「日米は平等な関係に」「中・露関係も」などと言い出すと、アメリカが正しいと思う考えを押し付けてきます。アメリカは日本の主権を認めないのです。小沢も鳩山もそのことを分かっていましたが、首相になった菅は「放逐されるのはゴメン」と思い、すぐさま時計の針を戻して乗り切ろうとした。以来、この状態が続いています。安倍(晋三・首相)は「偉大なるアメリカの友人」になりたくて就任直後に訪米しました。
《「核の傘」などありません》
【サンデー毎日】橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)の「従軍慰安婦・風俗発言」についてはどう見ますか。
【ウォルフレン】世界の一般的な理解では、「日本はいわゆる性奴隷の問題について一度として十分な謝罪の意を示さなかった」と思われています。橋下はポピュリストの政治家であり、石原(慎太郎・維新共同代表)とともに維新の思想基盤を形成した人です。橋下発言の問題は、どのように話せばどのように受け止められるかを考えず、即応的な返事をしてしまったことです。
【孫崎享】橋下発言の背景には、日本でコメディアンと政治家を隔てる境界が曖昧なことがあげられます(笑)。コメディアンに許される発言は、政治家にも許されると誤解したのでしょうか。
【ウォルフレン】発言自体、よく考え抜かれておらず、日本が世界で注目を浴びるのに値しないものでしたが、政治的な影響は大きかった。
【孫崎享】尖閣諸島について触れておきたい。今、軍事衝突を招きかねない重大な問題になっていますが、歴史的なディテールを知る人はとても少ないのです。実は日中国交正常化をめぐる交渉で「周恩来(元中国首相)とケ小平(元中国国家中央軍事委員会主席)が尖閣問題を棚上げし、田中角栄(元首相)も合意した」と2国間で理解されています。当時外務省条約課長だった栗山(尚一)元外務次官によれば、文書化されなかったものの、日中は明白に合意したそうです。78年、ケ小平による文書と外務省の返答があり、“暗黙の合意”が再確認された。だが日本政府はそれを認めていません。
【ウォルフレン】日中関係について言えば、北京は長年、「日本政府はアメリカの希望に叶うことばかり言う」と見なしてきました。日本政府と交渉のテーブルに着く時、「日本人に話しかけているのか、背後にいるアメリカ人に話しかけているのか分からない」というわけです。しかし、鳩山政権が人的交流、党間交流を始めた際、新しい体中政策が生まれる期待があった。中国もトップが変わろうとするタイミングで、大変な政治的変化が起きていたのです。新しい日中関係が始まるかもしれない、との機運があった。
ところが、突然、そうした対中政策は消滅しました。そうなると、
中国人は再びこう思うでしょう。「東京の誰が信頼できるのか」「あなたたちは何者なのか。アメリカ人かアメリカ人の代役か」と。その後、石原が尖閣の(国有化の意向を示した)“政治的いたずら”を引き起こします。中国が苛立つ中、日本のメディアはポピュリスト的報道を繰り返し、問題の真相がだんだん見えなくなりました。
【孫崎享】日中関係の悲劇というのは、日本が国益を明確に見定めれば、アメリカより東アジア諸国と緊密な関係をもっと構築すべきだったのに、そうしてこなかったこと。経済的なことでいえば、2005年時点の対米輸出は全輸出の15.5%、中国、香港、台湾、韓国は計38.8%と多かった。それを日本社会は理解していない。
【ウォルフレン】軍事情勢も日本人の理解は古臭く、現実と全然合っていません。もし「国家の安全のためアメリカを必要とする」というならば、考え直すべきです。アメリカは世界で不必要な戦争を仕掛け、気に食わない国に敵意をむき出しにする。中国には相反する感情が入り交じって「対中戦争は避けられない」という趣旨の本が大売れする国です。こんなアメリカ(との同盟)は日本の国益になりません。しかし、日本人がいくらイラク戦争に反対しても、ワシントンで立案された安全保障政策が自動的に日本のメディアに流れました。そして「やっぱり日米同盟は維持しよう」と思わせてしまう。北朝鮮情勢も同じことです。
【孫崎享】日本人の多くは、中国による核攻撃があれば、アメリカの核の傘が守ってくれると思っています。同様に、尖閣で軍事衝突があればアメリカが助けてくれるはずだと。しかし、核の傘などないし、アメリカは助けてくれません。
【ウォルフレン】まさにその通りです。
【孫崎享】なぜならアメリカは今、日本より中国を重要視しているからです。なぜ中国より重要度が低い日本のために戦うのでしょうか。日米安保条約は巧妙にできていて、日本に対する外国の侵略に対し、アメリカは直接介入をしないで済むようになっています。
《9条改正したほうがいい》
【サンデー毎日】憲法改正については?
【孫崎享】安倍首相の問題点は、ナショナリストのふりをしながら、日増しにアメリカに従属する姿勢を強めています。なぜ改正をしたいかといえば、集団的自衛権のため。自衛隊を海外に派遣したい目的でしょうが、国益とは合致しませんよ。
【ウォルフレン】私の分析に、総じて賛同していただける日本人の間では、私の憲法観は物議を醸すものです。(新刊の)『独立の思考』でも論じましたが、私は15年ほど前から日本国憲法を改正すべきという立場だからです。なぜなら9条2項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とありますが、現実には多額の予算を使う軍を保持している。違憲状態は問題か、といえばもちろんそうです。憲法を破っても問題がないというのなら、政府と国民との間の法的な規定など平然と破られてしまいますよ。
9条は、私に言わせれば、マッカーサー将軍が片手で日本に主権を与え、もう片方の手で主権を奪った象徴です。国家には戦争を行う権利がある。「戦争を起こすべき」と言うつもりはありませんが、どんな国家にも与えられる権利です。それを否定する9条は改正したほうがいい。たとえば、
「我が国は主権国家である以上、交戦権を有する。ただし、我が国の歴史及び20世紀の出来事を鑑み、いやしくも他国が我が国を攻撃し、我が国の防衛ためにやむを得ない場合を除き、交戦権は使用しない」
という趣旨の内容を盛り込めばいい。明確に「我が国は主権国家である」と記すべきです。今の憲法にはそう書いてありません。
【孫崎享】私たちに意見の相違があるのはこの点だけです(笑)。「9条は違憲状態なので改正すべき」というあなたの考えは正しいし、10年か20年前なら私も合意した。しかし今、改憲を進めるのは極端な右翼勢力です。民主的価値観や人間の尊厳を侵害するような改憲を考えている。今は正しいタイミングとは思えません。
【ウォルフレン】もしかすると私たちは、それほど意見が違わないかもしれませんよ。改憲は右翼や右翼寄りの為政者が実施すべきではない。つまり、安倍政権が実施するのは好ましくありません。本当は20年前ぐらいに改正されるべきでしたが、その頃、日本社会党が常に反対していた。社会党は日本の主権と世界における日本の状況を考える上で、障壁となる存在でした。社会党は少なくとも一部は、日本人として真っ当な考え方を持っておらず、“偽アメリカ人”かと思えたほどです。学者や外交官などで憲法問題を深く理解する人々が、ナショナリズムではない発想で、力強い運動を起こし、憲法を改正すべきです。
【サンデー毎日】憲法改正をしやすくするため、安倍首相はまず96条に手をつけたい意向です。
【ウォルフレン】完全に誤った考えです。憲法改正は重要な手続きであり、多くの国で大多数の合意を必要としています。総議員の3分の2から過半数にするという案はまったく間違っています。
【孫崎享】私も同じ意見。イラク戦争の時、アメリカの人たちは支持しましたが、歴史を振り返ると誤った判断でした。人間は時として誤った判断をするものです。憲法改正には圧倒的多数の合意が必要です。
【サンデー毎日】今夏の参院選後、日本はどうなると思いますか。
【ウォルフレン】残念なことに誤った方向に進むと思います。参院選は安倍政権発足からあまりに短時間で実施されます。金融緩和策などのアベノミクスが一見良い印象を与えていますが、安倍政権の成果ばかりとはいえないし、他の政策の成果を私たちは十分に理解するには時間が足りません。有権者はおそらくメディアに押されて自民党に有利な投票をするでしょう。重要なことは、昨年12月の総選挙で自民党の得票数は、大敗した09年大差がなかったということです。つまり、09年総選挙で民主党に投票した人は、昨年の総選挙を棄権した人が多かったと考えられます。野田と菅には、完全に裏切られたという思いをした有権者の行動は理解できます。参院選後、安倍政権が勝った場合、「国民の信任を得た」と言うのでしょうが、(得票数の問題などを考えると)実際にそのような資格があるとは思えません。
【孫崎享】参院選後、安倍政権は原発再稼働、経済的に他国に従属し主権を一部放棄するTPPを強行するでしょう。その結果、安倍自民党に票を入れた有権者は大いに落胆することになると思いますよ。今後、衆院選があるまで「失われた3年」といわれる大変な事態に直面するかもしれません。
構成/ジャーナリスト・谷道健太
孫崎享(まごさきうける)1943年旧満州国生まれ。66年東大法学部中退、同年外務省入省。英ソでロシア語研修を受け、在ソ連大使館赴任。93年駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。02〜09年防衛大教授。著書に『戦後史の正体』『アメリカに潰された政治家たち』など多数。
カレル・ヴァン・ウォルフレン ジャーナリスト。1941年オランダ・ロッテルダム生まれ。高卒後62年、初来日し映画製作に携わった後、72年オランダ紙特派員として再来日、アジア情勢を報道。著書に『人間を幸福にしない日本というシステム』『人物破壊ーー誰か小沢一郎を殺すのか?』など多数。
〜2013年5月28日火曜日発売のサンデー毎日6月9日号より
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