http://www.asyura2.com/13/senkyo148/msg/545.html
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▼2013年5月28日 (火)
【拡散希望】TPP/SPSルールの恐怖3 EUホルモン牛事件(前編)
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/05/post-e45f.html
週刊新潮(5月23日号)は、次のように書いている。
「アメリカでは、肉牛を効率良く育てるために…成長ホルモン剤を使うことが許されている。一方、日本国内ではこうしたホルモン剤の使用は禁止。が、不思議なことに、ホルモン剤を投与した牛の輸入は認められているのだ」
国内では成長ホルモンの投与を禁止しているのに、成長ホルモンが投与された牛を輸入しているのは確かに不思議だ。
しかし、WTOのSPSルールが、有害だという十分な科学的証拠がない食品は輸入しなければならないとしているしていることを知れば、法律的に避けられない事態であることがわかる。
日本は自由貿易至上主義の推進道具に変容した国際法(国際経済法)を誠実に守っているから仕方がないのだ。
では、ホルモン牛の輸入を禁止して、現実に乳ガンの発生率が低下しているEUは国際経済法に違反しているのだろうか。
結論からいえば、EUは国際法に違反している。
国際法に違反して、EU域内の国民の健康を守るという選択をしているのだ。
国際経済法のケーススタディでは必ず出てくるWTOの係争事例がある。
EU−ホルモン牛事件と呼ばれる。
EUは、消費者保護を理由として、1989年にホルモン牛の輸入禁止措置をとった。
この輸入禁止措置をアメリカとカナダがSPSルールに反するとして、WTOの紛争解決手続に訴えたのがEU−ホルモン牛事件だ。
(ISD条項と異なり、WTOの紛争解決制度の主体はあくまでも国家であり、提訴も国家が国家(国家連合)を訴える。またISD条項と異なり、直接、賠償等を命じることはせず、WTO憲章のルールに違反するか否かを判定するだけだ。WTOは、紛争解決手続を設けるとともに、貿易紛争を理由とする一方的な経済制裁等の発動を制限する仕組みを採用した)
この事件は、第1審のパネル(1997年)、最終審の上級委員会(1998年)とも、EUが敗訴している。
したがって、EUのホルモン牛輸入禁止措置は、WTOのSPSルールに違反しており、国際法違反が確定しているのだ。
EUホルモン牛事件では、EUは、成長ホルモンを投与した牛には発ガンのリスクがある、消費者の生命健康を守るために、「一応のリスクがあれば輸入を制限する」ことは国民を守るべき国家(国家連合)の権利だとして徹底して争った。国際法の言葉ではEUの主張は「予防原則」という。
しかし、WTOは、パネル(小委員会)も上級委員会も「予防原則」は、WTOのSPSの基本ルールではないとして、有害であることの十分な科学的証拠がないのに、発ガンリスクを主張して輸入を禁止したEUの措置は違法だとしたのだ。
EU域内の乳ガンの発生率の低下が、ホルモン牛の輸入禁止措置と相関関係があるとすれば、EUは国際法に違反してでも、国民の健康を守ったことになる。
国際法を遵守する一方で、乳ガンの発生率が高まっている日本と、国際法に違反して健康が改善されたEU。
国民の立場では、自由貿易を犠牲にしても健康を守ってほしいと思うのが、普通ではないだろうか。
しかし、日本は、国際社会(日本では国際社会が許さないというときの国際社会は必ずといっていいほどにアメリカを意味する。中国や韓国、東南アジア、中東諸国やアフリカ諸国を国際社会と呼ぶのは聞いたことがない)に従順な優等生国家だから、EUのような気骨のあることはできなかったという訳だ。
(続)
(EU−ホルモン牛事件1/3)
▼2013年5月29日 (水)
【拡散希望】TPP/SPSルールの恐怖4 EUホルモン牛事件(中編)
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/05/post-8dd6.html
ここまで、SPSルールは、有害であるという十分な科学的証拠がない限り、輸入しなければならないというルールだと述べてきた。
あまり、市民にわかりやすい言い方を繰りかえしていると、国際経済法の「専門家」(学生さんを含む)からお怒りが出そうなので、EUホルモン牛事件を例にもう少し、SPSルールについて、述べておこう。
SPSルールでは、食品の安全性に関する国際基準がある場合には、この基準に従った措置は適法な「衛生植物検疫措置」として、輸入を制限することも許される。
但し、「衛生植物検疫措置」は貿易に与える悪影響を最小限にしなければならないとか、「偽装された障壁」であってはならないとか、とにかく自由貿易に手厚い保護を与えていることには要注意だ。
さて、この国際基準には、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の共同委員会が決めるコーデックス規格がある。
ホルモン牛についても、このコーデックス委員会の定める、残留ホルモンに関する国際基準が存在した。
EUはこのコーデックス規格に適合するホルモン牛も含めて、輸入禁止措置(「衛生植物検疫措置」)を執り、アメリカとカナダからWTOの紛争解決手続に訴えられ敗訴したのだ。
SPSルールに従えば、国際基準を超える輸入制限措置を執る場合には、その措置を正当とするに十分な科学的証拠を示さなければならない。
しかし、成長ホルモンを投与された牛を有害だとする科学的証拠はなかった。
EUは、この事件において、あくまでも発ガンリスク(の可能性)があれば輸入を制限できるとする「予防原則」を「自由貿易」をより優先する原則だと主張し、堂々と敗れた。
EUの措置が、国際法上、違法だと確定したにも拘わらず、EUは輸入禁止措置を撤回しなかったため、アメリカは、EUに対して報復関税を発動して、EUに圧力をかけたが、EUは信念を枉げなかった。
そして、WTO発足前である1989年から継続した輸入禁止措置を貫き、20年余を経過して、乳ガンの発生率が顕著に低下した。他方、この間、ホルモン牛を輸入し続けた日本の乳ガン発生率が増加したと週刊新潮が伝えている。
さて、国際経済法分野の専門家の中には、EUには、もう少しましな争い方があったと指摘する向きもあるかもしれない。
WTO/SPSルールにも例外規定がある。
有害だとする十分な科学的証拠がなくても、輸入禁止措置を採ることができる場合があるとする指摘だ。
だから、予防原則を正面から主張して玉砕するより、例外規定に基づく現実的な争い方をするべきだったという言い方が一応成り立つ。
この例外は、科学的証拠が十分ではない場合に、暫定的な輸入制限を認めるルールだ。
SPSルール違反するとして、訴えられた国は、輸入制限措置の科学的証拠が十分ではない場合は、危険性評価のために追加の客観的な情報を集めるために、暫定的に輸入制限を継続することが認められる。
「ちょっと待って権」と言うような権利である。
こうした規定があるのだから、EUもこの規定に基づく権利を主張すべきだったとするのが国際経済法の通常の考え方としてあり得る。
しかし、この規定はあくまで暫定的な措置であるから、適切な期間内に輸入制限措置を再検討する(見直す)ことが義務付けられている。
国際経済法を遵守しようとすれば、絶えざる圧力をかけられながら、「ちょっと待って」と言い続けることになる。
国際経済法の文脈に入り込んでしまうと、結局、EUも、中途半端なところで、輸入禁止措置を撤回せざるを得なかったろう。
週刊新潮の記事によれば、輸入禁止措置以降、EU各国の乳ガンの発生率が有意に減少しているというデータが発表されたのは、ようやく2010年になってからなのだから、「ちょっと待って」権による争い方では、国民の健康を守るという国家の基本的責務を果たすことはできなかったに違いない。
福島第一原発事故による放射能による被害を想定すれば容易に理解できるだろう。
放射能の被害を把握するには、今後、長期間にわたる継続的で的確な追跡調査が必要である。
放射能被害が、統計的に有意性のある十分な科学的証拠によって裏付けられるまでには、十年単位の期間が必要なことは明らかだろう。
発ガンリスクなどは、適切な期間内に措置の見直しを義務付けられる「ちょっと待って」権などでは、防ぎようがないのだ。
今でこそ、農薬DDTは禁止することが国際的にも常識となっているが、DDTの有害性が判明するまでにやはり何十年という年月と大量の被害の発生が必要だったのだ。
そして、未だに多国籍業は、途上国へのDDTの輸出を続けているという。
SPSルールは、例外規定を踏まえても、やはり「毒だという科学的証拠がなければ毒でも食べろ」というルールだという他ない。
ことほど、さように国際経済法分野でのものの考え方は、国民の健康を犠牲にしてでも、自由貿易を推進しようという凶暴さを秘めているのである。
ゆめゆめ157カ国も加盟しているWTOのルールだから、常識的なものなんじゃないかなどと油断してはならないのだ。
(続 EU−ホルモン牛事件2/3)
▼2013年5月30日 (木)
【拡散希望】TPP/SPSルールの恐怖5 EU−ホルモン牛事件(後編)
http://moriyama-law.cocolog-nifty.com/machiben/2013/05/post-8616.html
SPSルールに基づく輸入制限措置の国際標準とされる代表的なルールはコーデックス規格である。
先に述べたようにコーデックス規格は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同委員会で策定される。
いずれもれっきとした国連の機関である。
国連の中でも、食糧、健康、安全を担当する機関が共同して決める規格であるから信頼性はいかにも高そうだ。
しかし、この国際基準は、EU−ホルモン牛事件の例に見る限り、健康リスクから世界の国民を守るためには不十分なものであったように見受けられる。
国連機関というなんだかありがたそうだが、泥沼のアフガン戦争を正当化したのは、国連安保理決議であった。
イラク戦争も、当初は安保理決議がなかったものの、米国が、勝利宣言した後は、多国籍軍の派遣を認める安保理決議をなして、その後、5年以上にわたる泥沼のイラク戦争に世界を巻き込んだ。
国連は重要である。
とくに国連憲章の精神を守り続けることは重要だが、国連が国際社会の力関係を反映する外交と政治の場であることも明らかである。
冷戦崩壊後、ソ連・東欧という重しが取れた資本主義はグローバルな新自由主義として暴走する。
軍事を除く場面においては、今や国際政治の権力は国連から世界銀行・国際通貨基金に移行しているように見える。
国連も否応なく、新自由主義に巻き込まれている。
その法律的な象徴が実は、WTOであったし、生命・健康の安全より自由貿易を優先するSPSルールである。
さて、ホルモン牛に関する国際基準は、国連を代表する二つの機関の合同委員会によって採用された安全規格だった。
コーデックス委員会自体は、1960年代から活動しているが、WTO憲章/SPS協定によって、法律的な意義付けを与えられ、コーデックス規格の重要性は一気に増した。
ホルモン牛に関するコーデックス規格は、WTO発足直後に採用されている。
コーデックス規格の採用は、それまで委員会全体によるコンセンサス方式によるのが通常であったとされるが、WTOの発足により、コーデックス規格に法的な意義付が与えられることに着目した米国やカナダは、1995年7月に異例の多数決方式によって、コーデックス規格の採択を推し進めた。
ホルモン牛に関するコーデックス規格は、賛成33、反対29、棄権7という僅差でかろうじて採択されたものだ。
国連の権威ある機関だからと言って、国際基準を鵜呑みにする訳にはいかない。
コーデックス委員会のように中立的に見える機関でも、国際政治の場に他ならないのだ。
しかもコーデックス委員会には、規格が消費者の生命・健康を守るのに十分なのかを疑わせる、その他の事情も指摘されている。
コーデックス委員会では、加盟国の代表だけではなく、その随行員にもオブザーバーとして発言権が与えられている。
そのため、米国などは、多数の多国籍企業の代理人を随行員として委員会に参加させている。
当然、モンサントなどの代理人も随行員に参加しているだろう。
また、NGOにもオブザーバーとして発言権が与えられているが、これも業界団体が大半を占めることが指摘されている。
たとえば国際農薬製造業者協会連合会等が、多国籍企業からオブザーバーとして派遣され、専門知識を活かした発言をして、多国籍企業に有利な規格が採用されるように、活動している。
2005年頃で、コーデックス委員会のオブザーバー資格を有するNGOは約160、明らかに企業の利益代表と認められる団体が100、消費者・健康・環境の利益を代表する団体は10に過ぎないと言われている。
国際基準に日本の食品の安全を任せていいのか。
問われる事態と言わざるを得ない。
以上、週刊新潮の記事を手がかりとして、EU−ホルモン牛事件を振り返った。
実際上、コーデックス規格を初めとする国際基準が、WTOの全加盟国において用いられているわけではないこと、むしろあまりにも多数に及ぶコーデックス規格の受容については、国によって不統一な印象もあることは先に述べたとおりである。
しかし、TPP、まして二国間交渉である日米FTAでは、それは許されない。
うさんくさい国際基準に基づく、食品の安全規格を、日本が全面的に飲まされる危険性は著しく高い。
日本が、怪しげな食品の薬漬けの人体実験場になると、繰り返さざるを得ない所以である。
なお、EU−ホルモン牛事件は、どの国際経済法の教科書にも載っているSPSの代表的なケースだ。
ここで述べたのは、国際経済法を学んだ者であれば、少し突っ込んで勉強すれば、学部生でも知っているはずの初歩的な知識に属する。
国際経済法学者は、ISDについても、SPSについても国民に正確な知識を与えるべき立場にあり、責任を有している。
しかし、TPPを巡って、国際経済法学者が、国民的な議論に参加した例を知らない。
僕の知る限り、国際経済法学者は、沈黙を保ち、口をつぐんでいる。
国際経済法の専門家には、国際仲裁の裁判官とか、国際会議の国家代表だとか、それなりの見返りがあるのだろう。
財閥や巨大企業の顧問であるビジネスロイヤーのグループは、国際経済法に詳しいはずだが、彼らにも同じようなステータスが保障され、ビジネスパートナーとなるアメリカのローファーム等からおいしいビジネスチャンスも約束されているのだろう。
国際経済法ムラと呼ばざるを得ない所以である。
法曹要請阿呆ムラよりは、よほど強力で、利益も巨大そうであるから、国際経済法ムラの結束は固く、突き崩すのは容易ではないだろう。
しかし、原子力ムラが国民の力によって、その姿を露わにしたように、国民は無力ではない。
だから、マチベンが、庶民の事件とはおよそ縁遠い国際経済法を勉強して報告している訳である。
(EU−ホルモン牛事件 完)
▼農水省
更新日:平成22年5月21日
担当:消費・安全局消費・安全政策課
WTO/SPS協定
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/#aboutspsa
WTO/SPS協定
アメリカが牛肉問題でOIEコードへの整合を要求!とか、コメのカドミウムの基準値がコーデックスで採択!といったニュースを見聞きしたことはありませんか。なぜ、OIEとかコーデックスで決められたことが私たちの生活に影響があるのでしょうか。
各国が、食品の安全性を確保したり、動物や植物が病気にかからないようにしながらも、公正な国際貿易を担保するための国際的なルールがあるからです。それがSPS協定です。
SPS協定とは
SPS協定を理解しよう
SPS協定の条文
SPS委員会とは
SPS措置の具体例
SPS協定とは
WTO協定に含まれる協定(附属書)の1つであり、「Sanitary and Phytosanitary Measures(衛生と植物防疫のための措置)」の頭文字をとって、一般的にSPS協定と呼ばれています。
正式には「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」と訳されているので、SPS協定は「検疫」(Quarantine)だけを対象としていると誤解されがちですが、検疫だけでなく、最終製品の規格、生産方法、リスク評価方法など、食品安全、動植物の健康に関する全ての措置(SPS措置)を対象としています。
そこで、このページでは、原文の意味をできるだけ忠実に表現するため、協定のタイトルと条文そのもの以外では「衛生と植物防疫のための措置」と訳すことにします。
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