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2013年5月21日 内田聖子
第17回TPP交渉会合が行なわれているペルー・リマに来ている。
まとまった内容はまだ書けないが、ツイッターでは伝えきれない情報は速報的にブログに掲載していきたい。
私自身は、前回のシンガポール交渉同様、長年交流のある米国NGO・パブリックシチズンのメンバーとしてステークホルダー(利害関係者)として登録、参加している。日本からの登録者は私一人だけである。他の団体からもリマに来ているが、登録はできていないのでステークホルダーには入れなかったようだ。また日本のメディアも何社か来ている。
日本はまだ参加国になっていないため、微妙な立場ではあるのだが、国際NGOの一員として交渉官や他のステークホルダーに日本の参加問題や交渉全体の進み具合について情報を聞き出す努力をしている。また、日本においては安倍首相が「TPP参加表明」をしたものの、自民党内にも反発があるばかりか、公約破りの責任を問う声や全国各地でさらに森がる反対運動など、決して「参加表明」はすべての者の意思ではないこと(むしろ安倍政権の暴走であること)を、交渉官やステークホルダーに伝えることも目的にしている。
さて今日は急ぎ、交渉が行なわれている裏で、参加各国の財界と、日本の財界がTPP交渉そのものにかけている圧力についてお伝えしたい。
TPP交渉会合には毎回、ステークホルダーとして大企業が登録し参加していることはシンガポール交渉後の報告でも述べた。今回はどうなのか。ステークホルダーの数自体は現時点でははっきりわからないが、会場で用意されていたネームタグの数などから推察するに約200~300人だ。また団体・企業数もまだ公表されていない。が、いずれにしても大企業が多数参加していることは事実である(詳細後日)。
19日のステークホルダー会議の翌日の20日、米国商工会議所や、米国貿易緊急委員会(ECAT)、APECのための米国ナショナル・センター、カナダ農産物輸出連合、ペルー外国貿易協会(COMEXPERU)、ペルー企業連合会議(CONFIEP)、ニュージーランド国際ビジネスフォーラム、シンガポールビジネス連合、チリ産業連合(SOFOFA)、アジア太平洋商工会議所などが各国交渉担当者との「ビジネス会議」と呼ばれる場を持った。まさにTPP参加国の財界・業界団体が一堂に会した会議だ。もちろんこれら企業はTPPを強烈に推進している。多くがステークホルダー会議にも登録している企業・企業連合だ。
この場で、この企業連合群は交渉官に対し「TPP交渉を今年中に妥結するよう求める」という趣旨の要請を出した(註1)。
ペルー外国貿易協会の会長は、「アジア太平洋地域における我々の国々の経済成長と、雇用創出はビジネスグループにとって最も優先度の高い課題です。TPPはその課題解決に大きく貢献するでしょう。TPPの妥結が早ければ早いほど、TPPによる利益も早くもたらされます。私たちはTPP交渉の妥結を早急に求めます。特に、懸案となっている重要イシューの解決と、もうすぐ参加することになる日本への対応について、充分に取り組んでいただきたい」と述べている。
カナダ農産物輸出連合のキャサリン・サリヴァン氏は、「我々、TPP交渉参加11ヶ国における『交渉パートナー』は、日本のTPP参加を支持しています。日本の参加によって、アジア太平洋地域の経済規模はさらに大きくなり、この地域での自由貿易は推進されます」
と述べた。さらに、「TPPは日本および他の交渉国に、包括的で、どのセクター・品目にも例外を認めない、ハイレベルの貿易水準を要求しています」とも述べた。つまりここでも、すべての品目は例外なき関税撤廃の対象となることが改めて確認されたのである。
TPP自体は、まったくの「秘密裡」に行なわれている。今回は特に、交渉も重要イシューが多く、スケジュールも差し迫ってきているという緊張感もあってか、交渉官から情報を引き出すことがなかなか困難である、というのが国際NGOの共通認識だ。
しかし、「国」と「国」との交渉の舞台のすぐ隣では、ここで紹介したように各地の財界が交渉官と集まり、財界によるプレッシャーがかけられているのである。
さらに重要な情報として、このビジネス会合には日本から亀崎英敏氏(三菱商事常勤顧問)も参加し、米国首席交渉官バーバラ・ワイゼルと、ペルー首席交渉官に対し「日本が次回TPP交渉に参加できるよう交渉日程を遅らせるよう要請した」という(註2)。日本政府はいま、なんとか7月の交渉に1日でも多く参加することで、国内向け(特に参院選に向け)に、「TPP交渉に参加できる。聖域も守る。自民党だからできたんだ。だから自民党に投票してくれ」と言いたいのだろう。すでに交渉参加することが目的化している日本政府にとっては、たとえそれがたった1日・2日の「形式的な」参加であってもかまわない。「参加した」と見せることに意義があるのだから。そのために政府間だけでなく財界も一緒になって他国に攻勢をかける姿は、怒りを通り越して恥ずかしく、虚しいばかりだ。「会期延長となり滞在が延びれば、交渉官の滞在費用もかかる」という参加国が出ると、日本政府内では「それらの費用は日本が負担してもよいだろう」という驚くべき案まで出ているという(日経新聞報道)。そこまでして入りたい、と政府を突き動かすものは何なのか。当然、その視野には全国各地からの反対の声、私たちの暮らしや農業、医療、その他分野への悪影響など入っていないし、説明責任放棄や公約破りへの呵責もない。
「命は売り物ではない!」
「TPPは交渉不能!」
5月18日、リマのTPP交渉会合会場である高級ホテル前にて、現地&国際NGOや活動家が集まり、TPP反対アクションを行なった際のスローガンだ。ここペルーではTPPによる影響として、薬の値段の上昇が懸念されている。この言葉を私は、誰よりもまず日本政府に投げつけたい。
【註】
●1:http://www.scoop.co.nz/stories/WO1305/S00494/business-leaders-across-asia-pacific-call-for-tpp.htm
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