http://www.asyura2.com/13/senkyo148/msg/118.html
Tweet |
橋下氏の「従軍慰安婦」問題発言は、歴史認識について“エセ国粋主義”的発言で世を惑わし日本を貶めてきた安倍自民党が知らん顔で軌道を修正するための“助け船”として行われたと思っているが、橋下氏が想定した以上の“反響”で、「橋下人気」が凋落に向かうきっかけになるかもしれない状況が生まれている。
(橋下氏の役割が推測通りであれば、主要メディアは、どこかで橋下氏の“復権”に手を貸すだろう)
なんであんなヤツを擁護するようなことをするんだと思われるかもしれないが、橋下騒動のおかげで楽屋に逃げ込んで頬被りをしている安倍氏らに較べれば、まだまともというか、救いがあるというか、潔いと思っているからである。
橋下氏についてシンプルに言えば、持っている価値観や政策に対する好悪は別として、“それほどあくどい政治家”ではなく、ただ“それほど頭がよくない人”だと思っている。
橋下氏は、読解力に劣るメディアなどが自分の説明を誤って報じたと嘆き怒っているが、頑張って好意的に解釈すれば、なんとかそう言えなくもない。
国会で元慰安婦に会って謝罪する気はないのかと問われて沈黙した安倍首相とは違い、橋下氏は元慰安婦とも面会する。
橋下氏は、日曜朝10時から放送されたテレビ朝日「情報ステーションSUNDAY」に生出演して、これまでの経緯や“真意”を説明した。
さらに、阿修羅に貼り付けてある映像で、土曜朝TBSのみのもんた氏の番組に生出演した橋下氏の言動も見聞きした。
それらを通じて、橋下氏の発言のスタンスは、一昨日投稿した「奇妙な発言でさらに日本を貶める橋下代表:「従軍慰安婦」の問題点は売春ではない:米国一部や仏独英豪など売春合法」)( http://www.asyura2.com/13/senkyo147/msg/795.html )と変わっていないと判断した。
(日曜朝のTBSサンジャポをちらっと見たが、今回の騒動で指南役になっているデーブ・スペクター氏が橋下氏を弁護する言葉がなくこの問題ではお手上げという様子だった。テリー・伊藤氏も、橋下氏の真意をなんとか代弁しようとしていたが低いトーンだった)
テレビに生出演しての橋下氏の弁明は、あの渦中にオウム真理教広報責任者として活躍した上祐氏のそれを彷彿とさせるものだった。
聞き手というか質問者が気を遣っている(能力が不足している)ことで、橋下氏は、主張の揺らぎを自覚しながらも、なんとか、強気の姿勢を崩さずに済んだと言える。
ここまで首を突っ込んだ橋下氏は、今後も、「従軍慰安婦」問題の決着に向けて奮闘する責任と義務があると言えるだろう。
ピントがずれているが、橋下氏の“救い”は、「従軍慰安婦」問題で、日本政府は責任を認めきっちり謝罪し補償もしなければならないと主張していることである。
戦争で軍隊を動かした国はどこもみな同じ穴の狢という奇妙な抗弁の部分や性に関する持説の場違いな持ち込みといった部分を削ぎ落とせば、安倍氏らの主張よりもずっとまともである。
橋下氏の現在の日本における発信力に期待し、橋下氏が、戦後67年経ってもなお現在の日本が責められる材料となっている「従軍慰安婦」問題の解決に尽力することを願っている。
このような考え方は、同じく戦後67年経ってなお外交及び歴史問題のトゲとなっている日朝関係の正常化に資するのであれば、蛇蝎のごとく嫌っている安倍首相や飯島氏の動きも見守るという考えに通じるものである。
橋下氏は、ツイッターで、「一政治家が政治でやれることなど限られている。敗戦国としての世界からの評価を全部ひっくり返すことに政治のエネルギーを注ぐぐらいなら、未来に向けて、世界一級の国家になることに力を注ぎたい。ただし、日本が不当に侮辱されることには徹底して抗議する。」と発信しているから、まずは、国際的なトゲになっている「従軍慰安婦」問題の解決に向け大いに奮闘されることを期待したい。
橋下氏が身に降りかかっている現在の“難局”を乗り越えるきっかけにできる近未来のイベントは、元慰安婦の方々との面会であり、外国特派員協会での記者会見であるが、それらで対応に失敗すると今以上の四面楚歌に陥る可能性がある。
そういう判断のもと、橋下氏が軌道修正できるよう援護射撃を少し行ってみたい。
● 橋下氏をドツボに嵌めている「あの当時、慰安婦は必要だった」論をめぐる奇妙な言い訳
橋下氏のカワイイところだが、性的欲求や風俗業に関する持説と「従軍慰安婦」問題がきちんと切り離せていないためドツボに嵌っていると言いたい。
切り離しができていないため、「僕は、あの時代だって慰安婦制度は悪いと当初から言っている」、「必要だと当時の人たちが考えたから慰安婦制度があったんでしょ」などと、必死に弁明してみたところで、反省のないゴマカシや空々しい言い訳としてしか受け止められていない。
橋下氏は、当初から「あの時代だって慰安婦制度は悪い、あってはならないもの」と言っていたのに、読解力がないメディアが大誤報でおかしな話を流布したと逆ギレしているが、そのような抗弁は、橋下氏の初回囲み取材の文脈全体を捉えれば捉えるほど、論理的に成立しない。
なぜ成立しないかと言えば、今月初めに「沖縄駐留米軍司令官に風俗の活用を進めた」という事実があるからである。
「(あの当時は)慰安婦制度が必要だったことは誰でもわかっている」と述べた初回の「従軍慰安婦」問題をめぐる発言のなかで、同時的に、米軍司令官に(合法的な)風俗の活用を進めたことを披瀝している。
少し考えればわかることだが、将兵の性的欲求をコントロールするために(合法的な)風俗の活用を進めることが正当(容認できる)なら、日本をはじめ多くの国で、あの時代は合法であった売春を活用することも正当でなければ(容認しなければ)ならない。そういう結論でなければ、論理的な整合性がなくなってしまう。
多くの人が直観的にそう考えるので、橋下氏が、「当初から、あの時代だって慰安婦制度は悪い、あってはならないもの」と言っていたと、いくら抗弁しても、多くの人は詭弁でしかないと判断するのである。
橋下氏の論理で成立する話は、“あの当時なら慰安婦を活用することまで認められていたが、現在では性器結合を伴わない性的サービスの風俗しか活用できない”というものであろう。
大阪市長&「維新の会」共同代表の立場でありながら、米軍司令官に風俗の活用を進言したことについて、橋下氏は、米国の性文化に対する無知のために言ってはいけないことを言ってしまったと自分の非を認めた。
自分の非は、「風俗の活用」という考えに関するものではなく、あくまでも、文化や性的価値観が違う米国人の司令官にそのような進言をしたことである。
そうであるなら、非を認め謝罪する相手は、風俗の活用を進言した相手の米軍司令官であり、ただ裏話を聞かされただけの大阪市民や国民にあれこれ釈明しても仕方がない。
橋下氏は、たとえ合法であっても慰安婦の活用は悪いと判断した根拠と、現在合法の風俗を活用することは悪くない(治安維持にとって有効)と判断した根拠の違いをきちんと説明しなければならない。それができなければ、橋下氏は、嵌ったドツボから抜け出すことはできないだろう。
橋下氏は、(合法的)風俗の活用が悪いと言うことは、そこで働く人に対する差別や権侵害にも通じるというようなことも言っているが、同じ批判が、戦時中の慰安婦活用は悪で、現在の合法的風俗の活用は良という橋下氏自身の言い訳にも向けられることに気づくべきである。
まさか、性器結合を含む性的サービスは悪いが、それ以外の手段による性的サービスであれば悪くないということではあるまい。
そんなことを言えば、橋下氏自身が嫌う、世界でけっこう認められている“合法の売春”に従事する女性を差別することに通じる。
● 話題性=ビックリ効果はあるが正論とは言えない「風俗活用」にこだわり続ける愚
土曜朝のTBSみのもんた氏の番組で、「風俗の活用」を説く橋下氏を諫めた吉永みち子さんに対し、橋下氏は、それじゃあ、米兵の性のはけ口が沖縄の若い女性に向かってもいいというんですかと反論していたが、橋下氏の風俗活用論を敷衍すると、日本国内の風俗のすべてが18歳未満禁止になっていることまで問題視しなければならなくなる。
風俗の活用が強姦や強制猥褻行為を減少させるかどうかは定かではないが、性犯罪に走るのは米兵だけではないし、風俗の利用が合法的に許されている世代の男だけでもない。自分の経験から言っても、中学から高校にかけては血気盛んで、穴があったら何でも入れたくなるような気分も経験した。18歳未満の性欲のはけ口が素人の若い女性に向かないようにするために、年齢による風俗利用制限を解除する主張をしなければ、橋下氏の論は辻褄が合わなくなる。
橋下氏は、中学校や高校の教師たちに「風俗活用」方法を生徒たちに教えるよう進言するのだろうか。
橋下氏が風俗活用を進言したとする米軍司令官だって、たとえ、凍り付いた反応を見せようとも、禁止を通達していようとも、兵士がそれぞれ適当に風俗を利用していることはわかっている。それがおとなのあうんの呼吸なのである。
いいアイデアを思いついたと舞い上がって触れ回る中学生でもあるまいし、大阪市長&「維新の会」共同代表が、駐留米軍司令官に風俗の活用を進言する必要なぞまったくないのである。
橋下氏は日米同盟及び米軍駐留維持派として、沖縄における米軍駐留の継続性が危ぶまれている要因は米兵による性犯罪の多発と考えているようである。
しかし、橋下氏の持論に照らせば、命を賭けた職業に従事する血気盛んな若者が多数いれば、基地内で暴動が起きるほどの行動規制をしない限り、性犯罪を封じ込めるのは難しい。風俗の活用が性犯罪を抑制できるとしても限定的で、素人の若い子とムリヤリでもやりたいという不届きな男もいる。
また、風俗店での“中途半端な”性的サービスに刺激された結果むくむく湧き上がる欲求に唆されて性犯罪に向かう可能性だってある。
橋下氏の性犯罪を減らすために「風俗の活用」が有効という考え方自体が正論とは言えないのである。
米兵の性犯罪をそれほどまでに問題視するのなら、沖縄をはじめ日本における米軍駐留をやめさせることを考えるべきである。
地位協定の改定は、どちらかと言えば犯罪の事後処理の問題だから、性犯罪抑止にそれほどの効果を発揮しないからである。
● その人の“思い”とは逆に「日本の名誉」をより失墜させてしまう橋下氏的言動
橋下氏が最後の拠り所としているのは、「不当な非難に晒されている日本の名誉」のために発言しているという自負であろう。
橋下氏は、ツイッターで、「日本は悪いことをした。しかし日本だけが特別なんじゃない。当時は世界各国同様のことをしていた。だからと言って日本を正当化するわけではない。日本は悪かった。しかし、日本だけを不当に侮辱するのは止めろと言う議論だ。」と発信している。
発言のなかには稚拙な説明や国際感覚に乏しい行為もあったが、誰もまともに反論してこなかった「従軍慰安婦」問題にかかわる不当な国際的非難に立ち向かう国士であるという誇りが、今の橋下氏をなんとか支えているようにも思える。
日本の政治家であるなら、諸外国から投げかけられる日本に対するいわれなき非難や侮辱に対し、事実関係を明らかにし、理非を正す活動に積極的に取り組まなければならない。
しかし、日本の名誉を守りたい、不当な侮辱や非難は払いのけたいという“思い”で発言したからといって、それが実現できるわけではない。
それどころか、意図とは逆に、そのような“思い”で発言をしたばかりに、より大きな侮辱や非難を受け、日本の名誉がよりいっそう失墜するという悲喜劇的な結果になることさえある。
国内でもそうだが、国際関係になると、国内以上に利害や価値観が対立する。
とりわけ、3千万人を超える死を代償として「世界秩序の大転換」が成し遂げられた先の世界大戦がからむ場合はよりいっそう注意しなければならない。
橋下氏も語っているように、敗戦国日本であればなおのことである。
事実ではないことやいわれのない非難を甘んじて受け容れ謝罪をする必要はまったくないが、第二次世界大戦が絡む主張で、最低でも自国に不利になることなくわずかであっても効果を発揮させようと思ったら、どのように主張すればいいのかじっくり考慮を重ねる必要がある。
このような視点で今回の橋下発言騒動を評価すると、橋下氏が主張した分だけ余計に日本は名誉を失ったと断言できる。
メディアなどの国語力や読解力の不足を指摘する橋下氏は、ツイッターで「日本はディベートの原則を知らない。自分の主張を展開する前に、相手の主張の本質を徹底的に吟味すること。表面的な言葉ではなく、その思考過程を吟味すること。これをしなければディベートには絶対に負ける。」と発信している。
日本の名誉を守るためではなく、ディベートに勝つことが重要なのかというチャチャは入れないが、そこまでわかっていながら、自らは、「相手の主張の本質を徹底的に吟味すること。表面的な言葉ではなく、その思考過程を吟味すること」を怠っている。
橋下氏は、まず、次のような簡単な思考実験を試みてみるといいだろう。
ドイツ国家(政府)が第二次世界大戦における罪過を謝罪していない状況で、戦後生まれのドイツの有力政治家が、「ナチスドイツがユダヤ人やロマさらには政敵や障害者を迫害し死に追いやったことは事実であり酷く悪いことだと思っている。しかし、16世紀から20世紀までの長期にわたって、西欧諸国や新大陸独立国家が、南北アメリカ・アフリカ・アジア・太平洋諸島で、先住者を迫害し死に追いやり、土地を奪い活動力を酷使した歴史的事実に頬被りして、ナチスドイツだけを非難する態度は間違っている。アンフェアだ」と発言したら、どのような国際的反応を惹起するかという思考実験である。
もう少し緩やかな条件にして、第二次世界大戦における罪過をきちんと謝罪し関係各国にも受け容れられているドイツで、同じような言動があった場合はどうであろうか?
橋下氏の言動がそこまで大げさなものとは言わないが、橋下氏の言動が惹起する国際的反応を推し量ることには役に立つはずだ。
正当な論であっても、立場をわきまえて発信しなければ、発言者だけが叩かれるだけでは済まず、国家国民全体に悪影響を及ぼすことになる。
研究者や市井の人たちが、それぞれの研究成果や価値観で歴史を評価するのはかまわないどころか重要な事だと思っているが、国家に関わる地位にある人が公然と歴史を評価するときは、政治的配慮をしなければならないのである。
日本政府は「従軍慰安婦」について謝罪と補償をすべきという主張をしている橋下氏であっても、「従軍慰安婦」は諸外国が戦争時に行ってきた将兵向け性処理政策と変わらず、日本だけが悪いわけではないというスタンスで元慰安婦らや外国特派員協会の記者らに対応すると、情念に裏打ちされた非難や別の視点からの批判にさらされ、逃げ場を失ってしまうことになるだろう。
だからといって、元慰安婦の方々の恨や外国人記者の批判に屈するかたちで、戦時中の日本政府や日本軍の悪逆非道を認めてしまえば、今では政界で唯一橋下氏の支えとなっている維新オールドナショナリストたち(石原グループ)や西村眞悟氏周辺の評論家などの不興を買うことになってしまう。
● 橋下氏が思い違いしている「従軍慰安婦」問題における最大の争点
先ほどの思考実験で書いた内容はそれ自体間違った理屈ではないと思っている。その一方、日本の「従軍慰安婦」制度は、戦争を主体的に行った諸外国の売春施設活用とかわらないものと主張する橋下氏の事実認識は誤っていると思っている。
なぜなら、「従軍慰安婦」問題で、売春に従事する女性を活用したことで、日本政府は謝罪し賠償もすべきと言われているワケではないからである。
もう少し進めると、橋下氏も認めているが、当時の政府や軍がその設営管理運営に関わっていたから、日本政府は謝罪し賠償もしなければならないと言われているワケでもない。
そのようなレベルで日本(政府)が非難されているのなら、私の主張も変わる。
「従軍慰安婦」問題にかかわる国際非難が戦争時に慰安婦を活用したことであれば、橋下氏の反論は方法論的には稚拙でも有効だが、そのようなレベルで、「従軍慰安婦」問題とはまったく無関係の人が国民の99%以上を占めている現在の日本(政府)が非難されているワケではないのだ。
UN人権委員会での調査は90年代に2回ほど行われ、1回目のクマラスワミ報告書で「日本政府は法的責任を認め、補償を行い、資料を公開し、謝罪し、歴史教育を考え、責任者を可能な限り処罰すべき」と報告され、2回目のマクドゥーガル報告書で「慰安婦制度は「レイプ・センターでの性奴隷制」」と定義されてしまう経緯があった。
クマラスワミ報告書は、日本政府が道義的な責任を認めたことを歓迎し、アジア女性基金を設置したことも道義的配慮の現れと評価している。
「河野談話」・「村山談話」による事実認定と謝罪をベースにアジア通貨基金を通じた償い金の支払い活動があったことで、それでは納得できない(国家による賠償を求める)元慰安婦の動きはありながらも、国際的非難は沈静化していた。
(いつ死んでもおかしくない年齢で、せっかくもらえるお金を拒否しているのだから、ある人たちが言うように、すべての元慰安婦がカネ目当てというわけではないことがわかる)
そのような状況が破られ、国家及び国家連合レベルで対日非難がなされるようになったのは、すべて第一次安倍内閣における安倍首相の「河野談話」否定発言に由来するのである。
単純化して言えば、内閣総理大臣となった安倍氏は、結局のところ「河野談話」の継承を表明することになるのだが、それ以前の段階で、「河野談話」や「村山談話」の内容を否定する言動を行ったことで、いくつかの国家での非難決議を誘発したのである。
下に列挙している各国の「従軍慰安婦」にまつわる対日非難決議は、米国連邦下院の決議がトリガーにはなっているが、すべて07年に行われている。
各決議の内容を読めばわかるが、リストアップした各国の対日非難決議は、詰まるところ、「従軍慰安婦」問題で責任を曖昧にしようとしている「安倍首相非難」と呼べるものなのである。
安倍首相の「河野談話」を覆すような言動がなければ決議されることなぞなかった対日非難決議なのである。
※ [国家及び国家連合レベルの「従軍慰安婦にまつわる対日非難決議」]
アメリカ合衆国下院121号決議(2007年7月31日可決)
韓国国会決議案・発議(2007年11月13日)
オランダ下院決議(2007年11月20日採択)
カナダ下院決議(2007年11月28日採択)
欧州議会決議(2007年12月13日採択)
フィリピン下院外交委員会決議(2007年8月13日発議 08年3月11日委員会採択(再議決予定))
日本の国会でも、2001年以降数度にわたり、民主党・共産党・社民党及び無所属の参議院議員たちによって「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」と題する法律案が共同提案されたが可決に至っていない。
「従軍慰安婦」問題で日本政府の責任を曖昧にする言動は、先の戦争について日本が一方的に非難されるいわれはないと語る以上の“打撃”と“不名誉”をもたらすと考えている。
戦争の責任は日本だけにあるわけではないという主張は、国家レベル感覚で非難される政治的なものだが、「従軍慰安婦」問題で日本政府に格別の責任はないという主張は、国民レベル感覚で憎悪を生み出すものだからである。
「従軍慰安婦」問題に対して日本(政府)が抱える最大の難点は、93年の「河野談話」、95年の「村山談話」を通じて事実を認定し謝罪もしているのに、今なお「従軍慰安婦」問題に対する日本政府や日本軍の“格別”の責任を曖昧にしたいそぶりを見せる内閣総理大臣や有力政治家がおり、アジア女性基金というかたちでの償いはしたとしても、国家として賠償をきちんと行っていないことにある。
日本政府が謝罪しきちんと賠償を行えば、それでもなお一部の国は「従軍慰安婦」問題を持ち出すこともあるだろうが、他の国々は、それに追随することはなくだまってやり過ごすのである。逆に、謝罪し賠償した日本に度を超えてあれこれ言う国があれば、その国の法がおかしいと思われるようになるだろう。
戦後65年以上も経過し、せっかく公式に謝罪していながら、なお、謝罪する必要はなかったとか、謝罪した「河野談話」や「村山談話」を撤回したいと主張する政治勢力が“メインストリームの大物政治家”を含むかたちで存在していることが、日本が「従軍慰安婦」をいつまでも国際問題として引きずっている最大の要因なのである。
仮に、阿修羅投稿者や評論家が、「従軍慰安婦」問題無罪論を唱えたとしても、ドイツなどにネオナチがいても直接にはドイツ政府への非難につながらないように、日本に対する非難には結びつかない。
橋下氏も“錯覚”しているようだが、第一次安倍内閣は、わざとわかりにくい対応ではあったが、「従軍慰安婦」問題について「河野談話」を継承する立場を明確に表明している。
橋下氏が第一次安倍内閣で閣議決定したという「(政府や軍による国家ぐるみの)強制連行を示唆する文書(証拠)は見当たらない事実」は、「河野談話」関連資料でも説明されていることであり、閣議決定した答弁書も、その資料に基づき書かれたことなのである。
第一次安倍内閣は、従軍慰安婦問題で新しく調査をしたわけでも、従来の調査をベースに新しい見解を打ち出したわけでもない。
● 日本だけが悪いわけではないという橋下氏の主張の難点
橋下氏の主張にみられる最悪の論拠は、戦争中における慰安婦の活用はどの国でもあったものだから、日本だけが非難されるのはおかしい(アンフェア)というものである。
自分自身の問題で謝罪が必要と言いながら、同時に他人も引きずり込んで、彼らも同類だから一緒に反省しなければならないという論法を使って“共感”が得られると本気で思っているのなら、橋下氏は、大阪市長や「維新の会」の代表職を辞したほうがいい。
謝罪するときは謝罪に徹し、橋下氏の場合は真の謝罪主体ではないから、日本政府は何をしなければならないかを明らかにすることに徹すべきである。
他の国々ついて言いたいことがあるのなら、日本政府がきちんと責任を果たした後で語ればいいのである。
これもこれまでの投稿で説明してきたが、日本政府が、「従軍慰安婦」問題できっちり責任を果たすよう言われているのは、戦争中に売春施設を活用したことではない。
戦闘時の安全確保や撤退時の身柄保証という問題をおくと、軍や政府が関与していたとしても、募集形態や年齢などが適法ならば、大きな「従軍慰安婦」問題とはならなかったのである。「従軍慰安婦」がそのような実態であれば、橋下氏のどこの国だって活用したではないかという反論は重みを持つ。
しかし、(国家あげての、家の中に踏み込むようなかたちでの)強制連行はなかったとしても、政府や軍が関与していながら、騙しやパワハラ(地域割り当てなど)によって女性の意に反するかたちで慰安所に送り込み、抵抗する女性であってもそのまま性的サービスに従事させたという事実は認定されている。
意に反して慰安所に連れてこられた女性が抵抗してもそのまま慰安所にとどめられ慰安婦として仕事をさせられたのなら、そこからは“強制連行”に相当すると言われても抗弁は難しいだろう。
強制性の問題で反論したいのなら、米国の新聞に掲載した意見広告で当時の日本政府は法をきちんと守って女性を集めるよう業者に指示を出し続けたという役に立たない“実証”ではなく、慰安所を管理していた軍が、低年齢の女性や意に反して連れてこられたとわかった女性をどれだけ実家に戻したのか、そのように不埒な募集活動を行った業者をどう処断したのかを“実証”しなければならない。
「当時の日本政府は法をきちんと守って女性を集めるようにと業者に指示を出し続けた」という意見広告を読んだ人は、当時の日本は、酷いかたちでの女性集めが蔓延していたに違いないという感想を持ち、それなら、強制連行もあったかもしれないと判断する可能性が高いと思う。
橋下氏は、「従軍慰安婦」問題の問題たる由縁を理解していないために、抗弁にならない主張でかえって日本に対するイメージを損ない日本の名誉を傷つけているのである。
● 韓国(朝鮮)と諸外国の立場の相違
「従軍慰安婦」問題にまつわる話では、橋下氏もそうだが、朝鮮半島及び台湾とその他の地域で問題を区分しなければならないのにごちゃ混ぜになっている感じがする。
先の大戦が絡む問題になると、韓国(朝鮮)は特殊なポジションに立つ。なぜなら、善し悪しや同等性は別として、当時の朝鮮半島は“日本”だったからである。徴兵制の施行が遅れた朝鮮半島の出身者で、強制とは言えない経緯で日本軍の将兵となって戦争に参加した人は少なくない。
慰安婦問題についても、戦時国際法が適用される占領地の中国・フィリピン・インドネシア・マレー半島などと日本国内であった朝鮮半島や台湾では同じ行為が行われていても法的な評価は異なる。
戦後、朝鮮半島は日本がポツダム宣言を受け容れたことで日本から“強制的”に分離された。
このような経緯を考えれば、法理論的には、日本が、朝鮮半島の両国に対し、戦争時の問題で賠償する義務があるかと問われればないと言える。
韓国は、1910年の日韓併合条約そのものを、締結の経緯に照らして認めないという立場であり、被支配地や併合地ではなく戦勝国の一員として日本に向かい合いたいと思ってきた(いる)。
このような韓国のスタンスが、65年に締結された日韓基本条約がもめにもめた一因でもある。
実際のところ、朝鮮半島は日本だったのかと問えば、法の適用にも違いがあり、朝鮮半島は日本だったとは強く言えない実態もある。
「慰安婦」問題にも関わることだが、1922年に発効した「婦人及兒童ノ賣買ニ関スル国際条約」を日本は批准していたが、売春従事者の年齢については、国内は18歳以上(条約は21歳以上)と宣言し、朝鮮半島や台湾領域については条約そのものが適用されないと宣言した。
これ以上細かいことは書かないが、言いたいのは、朝鮮半島の両国との国交回復に伴う“賠償”は、戦争中に占領した地域の国々に対する戦時賠償とは区別する必要があるという話である。
朝鮮半島北部の朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉に弾みがつきそうな状況になってきたが、「慰安婦」問題の解決は、この交渉を通じて前に進む可能性もあると考えている。
なぜなら、65年の日韓基本条約とは違い、「河野談話」や「村山談話」で日本政府及び日本軍の関与や慰安婦募集において一部不法行為があったことが認められている状況での交渉になるからである。
しかも、日韓基本条約で、第三条でUN総会決議第195号に基づき朝鮮半島にある唯一の合法政府は韓国と認定しており、それを前提に請求権協定(経済協力を含む)も締結されている。
私はそのような立場ではないが、日本は、すでに北朝鮮領域分を含むかたちで併合時代のお詫びとして韓国に“経済協力”を行っており、北朝鮮について何かしらの償いをしなければならない立場にはない。法論理に従えば、先進国の仲間入りをした韓国は、はやく北朝鮮と統一に向けた合意を形成し、日韓基本条約で受け取った経済協力の北朝鮮分を現在価値で配分しなければならないことになる。
戦後長い間のトゲである日朝関係の正常化がせっかく成し遂げられようとしているタイミングで、なぜこのような“危ない”話を持ち出したかと言えば、日韓基本条約がありながら、北朝鮮に“賠償”ができると日本政府が判断しているのなら、政府や軍の関与を認めていなかった時期に締結された日韓基本条約があるとしても、意に反して就業した元慰安婦個人に対する国家賠償も法的に可能だろうと主張したいからである。
● インドネシアでの「強制連行」問題
橋下氏は、軍が関わった強制連行の例として、インドネシアで起きた「スマラン慰安婦事件」を取り上げた。
せっかくそれを取り上げたのなら、強制連行を示す一つの実例として認め、日本政府は謝罪の根拠にすべきだと主張すべきだと思うが、橋下氏は、米国の新聞に意見広告を出しているグループ(安倍首相や古屋拉致担当相を含む)と同じように、「この慰安所は軍の命令により閉鎖され、責任のある将校は処罰された」と説明することで終わらせてしまっている。
橋下氏らが言うように、その慰安所は営業開始から2ヶ月で閉鎖され、女性たちは解放された。しかし、慰安所のいくつかは、その後、混血の女性を使って同じ場所で再開されている。
事実や経緯は政府がきちんと解明して欲しいと思っているが、「スマラン慰安婦事件」を穿って推測すれば、白人の女性が慰安婦になっていることで目立ってしまい、さらに言えば、白人女性に強制売春を強いることをしたことで生じる国際問題を危惧してとられた措置である可能性を指摘できる。
インドネシアでは、地元の女性も慰安婦に“採用”されており、なかには、地域への割り当てに従った地元の有力者の指示でいやいや慰安婦になった女性もいると言われている。
また、部隊が独自に女性を強制的に連行し、自分たちの駐屯地に慰安所のようなものをつくったケースまで報告されている。他にも、村から町へ働きに出ている女性が帰り道を襲われるというケースや両親が仕事で出かけて一人で留守番をしている間にさらわれるというケースもあったとされている。
こういった経緯で性的サービスに従事させられたケースでは、健康管理への配慮もなく、妊娠をふせぐためのコンドームの使用もなく、性的サービスの報酬支払いさえなかったと言われている。
これらが事実なら、将兵の個人的犯罪ではなく、部隊レベルとはいえ、軍が「強制連行」や「性奴隷化」に直接手を染めていたことになる。
他のケースが当時不問になっていたことを勘案すると、「スマラン慰安婦事件」は、当時の日本軍幹部が持っていた“人種差別意識”を反映している可能性が強いのである。
ざっくばらんに言えば、(優れた)白人の女性には気を遣わなければならないが、(劣った)混血の女性や地元の女性は好きにさせてもらうという考えが透けて見えてしまうのである。
「スマラン慰安婦事件」については、戦後、バタビヤ臨時軍法会議で裁かれ、陸軍少佐一人が死刑に処されている。
死刑もやむを得ないと思うが、この人にこそ、他にも同じことをやった将校がいるのになぜ自分だけが死刑になるんだという橋下氏的ロジックが適用できるのではと思う。
まさか、白人女性が相手だったから仕方がないとは言えまい。
死刑に処されたこの陸軍少佐の“名誉”を少しでも回復するためにも、日本政府は、事実の範囲で軍が直接関わった「強制連行」を認め、国家を代表して謝罪すべきだと思う。
※ 日本占領初期のGHQ政策について
橋下氏は、「日本を占領したアメリカは、日本政府に、米軍兵士による強姦を防止する目的で衛生的で安全な「慰安所」を設置するよう要請していた」として、日本だけでなく、どこの国も似たようなものだったという例証の一つして取り上げていた。
当時の日本は一定の条件で売春事業は合法であったが、占領軍に逆らいにくい日本政府に対しそのような要請をしたことは恥ずべきことだと思っているが、慰安所の設置を主体的に行ったのは日本政府である。仮に、その過程でも無理強いに近い募集があったのなら、責めを負うべきは日本政府ということになる。
米国は汚いという反論もあろうが、誰が、どこが、実際に手を汚すのかが問題になるのである。米軍将兵は、米軍が管理しているとは考えず、不幸な生い立ちが背景にあるとはいえ自由意志で女性が働いている日本の民間売春施設で遊んだと思っていたはずである。
橋下発言騒動について長々と書いてしまったが、橋下氏は、この間の「従軍慰安婦」問題に関する発言をいったん白紙に戻し、じっくり考え直したほうがいいと思う。
「公務員は腐っている!」とか「紫髪のおばさんはバカ!」といったまともな公人なら公然と言うことはない毒舌的ワンフレーズ発信は憂さ晴らしの一つとして一般受けもするだろうが、ああでもない、こうでもない、「読解力」がないから説明してもムダといいながら、ぐずぐずだらだら言い訳に聞こえてしまう発信を続ければ、聞かされる方もうんざりで、愛想を尽かされてしまう。
橋下氏は、この間も、「従軍慰安婦」問題について自分の考えが間違っていたらいつでもきちんとお詫びして訂正すると語っている。
もう一つ、発言を軌道修正するための姑息な手法なのかもしれないが、橋下氏は、橋下人気にあやかってすり寄ってきた人々さえそっぽを向きかねない“日本政府謝罪必要論”を強く主張している。
橋下氏の「従軍慰安婦」認識に拠れば、日本政府が元慰安婦の痛みに心を寄せることは当然だとしても、謝罪にまで踏み込まなければならないというのは理不尽だと言える。
橋下氏の考えを端的に言えば、謝罪しなければならない明確な理由はないのに、日本(政府)は謝罪すべきという奇妙で不届きなものになっている。
橋下氏が、「従軍慰安婦」問題での発言を全面的に撤回しないまま小手先の修正で乗り切ろうとして、“ともかく日本は悪かった”、“とにかく謝罪すべきだ”という主張を前面に出し続けていけば、橋下氏は、破綻した論理でリベラル派に媚びを売った裏切り者として批判される可能性さえあるだろう。
※参照資料
「[資料]平成4年加藤談話・平成5年河野談話・平成7年村山談話など」
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/861.html
「[付録1]北朝鮮の拉致問題は従軍慰安婦問題より軽いとする米国メディアの認識」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/610.html
※ 関連投稿リスト
「安倍首相に対する「不快感」を世界に晒したオバマ大統領:安倍自民党政権の誕生により民主党政権より悪化した日米関係」
http://www.asyura2.com/13/senkyo144/msg/609.html
「奇妙な発言でさらに日本を貶める橋下代表:「従軍慰安婦」の問題点は売春ではない:米国一部や仏独英豪など売春合法」
http://www.asyura2.com/13/senkyo147/msg/795.html
「橋下氏の問題は米国文化の認識欠如ではなくポン引き言動:「従軍慰安婦」ではなく「軍内慰安婦」制度を活用している米国」
http://www.asyura2.com/13/senkyo147/msg/737.html
「今日の橋下氏の主張は小利口な子どもやジコチュウのもの:「従軍慰安所」は「原発」と同じで“国策民営”施設」
http://www.asyura2.com/13/senkyo147/msg/706.html
「Xyzxyzさんへ:石原氏や橋下氏が標的にしている「河野談話」のどこが問題なのですか?」
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/870.html
「国益損なう「河野談話」見直し:“愛国保守”のふりをして現在そして将来の日本人に害を及ぼす日本維新の代表たち」
http://www.asyura2.com/13/senkyo143/msg/862.html
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK148掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。