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憲法を考える二つの映画が緊急上映されている。2005年に上映された映画だが、「今だからこそ、皆に見てほしい」と言う。僕もそう思う。特に改憲派の人たちにだが、むろん、「マガ9」の読者にも見て欲しい。5月10日(金)までポレポレ東中野で上映されている。連日、監督とのトークショーも行われている。僕は4月28日(日)に出た。
上映中の映画だが、一つはジャン・ユンカーマン監督の『映画 日本国憲法』。もう一つは藤原智子監督の『ベアテの贈り物』だ。僕は何回も見ているが、とても考えさせられる映画だ。今、自民党は「日本国憲法改正草案」を発表し、勢いに乗って改憲しようとしている。その前に、必ずこの二つの映画を見てほしいと思った。4月28日は、ジャン・ユンカーマン監督とそんな話をした。
『映画 日本国憲法』は、日本国内での「護憲・改憲議論」を大きく超えて、世界の中から見る。いわば、世界史の中から検証しようとする。世界的な知の巨人たちが日本国憲法について語っている。ジョン・ダワー、ノーム・チョムスキー、ベアテ・シロタ・ゴードン、ダグラス・ラミス、日高六郎、班忠義…といった人々だ。貴重なインタビュー集だ。憲法を考える上での「教科書」にもなっている。
日本の改憲派は言う。この憲法は占領中にアメリカに押しつけられたものだ。軍隊を持つことも禁じられた。だから改憲し、天皇を元首にし、国防軍を持ち、「普通の国」にするのだ。…という。
この映画の中で、知の巨人たちは言う。「それでは、ただの後戻りではないか」と。改憲しようというからには、それなりの理想や夢があってしかるべきだ。ところがない。ただ〈過去〉に戻るだけだ。
そうなんだ。夢や理想がない。僕は、憲法は見直すべきだと思っている。少なくとも5年以上かけて、いろんな立場の意見を聞き、より夢のある憲法にするべきだと思う。ところが今、自民党が「勢い」にのって改憲したら、自主憲法と言いながらもっとアメリカ寄りの憲法になる。アメリカが戦争をする時、一緒に参加する「国防軍」になってしまう。そして、国防軍の活動の前には、国民の権利や自由も制限されてしまう。三島由紀夫が危惧した「米国の傭兵」だ。
自由のない「自主憲法」よりは、自由のある「押しつけ憲法」ですよ、と言った。「それはニューヨークでも言ってましたね」とユンカーマン監督。そうだ。2007年にニューヨークで日本国憲法をめぐる大討論会に呼ばれ、話してきた。
ベアテさん、ユンカーマンさん、そしてもう二人のアメリカの学者、そして僕だ。よく僕などを呼んでくれたと思う。
「日本の右翼の人も参加すると聞いて初めは怖かったです」とユンカーマンさんは言う。ユンカーマンさんとは、この時が初めてだろう。「いえ、その前にロフトで会ってます」。ベアテさんには本当に初対面だ。「僕は改憲論者ですが、ベアテさんの書いた第14条、24条は素晴らしいし、当時の日本人ではとても書けなかったと思います」と言った。「アメリカでもそんな民主的な条項はなかったんです」とベアテさん。
憲法作成に加わった時は、ベアテさんが22歳だ。「じゃ女子大生のレポートのようじゃないか」と言う人もいる。しかし、日本人ではそんな「女子大生のレポート」すら書けなかった。ベアテさんたちには理想があった。夢があった。今、この憲法を改正しようとしたら、占領軍やベアテさん以上の夢や理想が必要だ。ただ、後戻りして、戦争の出来る「普通の国」にするのなら、時代錯誤だろう。でも、どんなにいいものでも、日本に来て、日本人に押しつけたんだ。そのやましさはなかったのか。そう思ったが、それは、どうも無かったようだ。
それに日本の「護憲勢力」もだらしがない。「この憲法だけ守っていればいい」「9条が戦後の平和を守った」と言ってきた。「嘘つけ、アメリカが後ろにいたから、平和だったんだ」と改憲派に反論されてきた。又、「一国平和主義だ」「自分だけ平和ならば、他の国はどうなってもいいのか」と批判された。それに対し護憲派は答えられない。
護憲派としては、まずアメリカに要求すべきだった。「9条を含め、この憲法はすばらしい。ただ、占領中に押しつけられた。だったら次は押しつけた当のアメリカの憲法を変えてほしい。9条をつくり、軍備を廃止してほしい。すぐにできないのなら、核を廃棄してほしい」と。それが押しつけたアメリカの「責任」だ。と言うべきだった。又、世界に対しても打って出るべきだ。9条の理念についても、又、核の廃棄についても、国連で決定して「世界も日本にならえ」と言ったらいい。
と不満に思っていたら、最近すごい本に出会った。それで「週刊アエラ」5月2日(木)発売号で、書評を書いた。これも「マガ9」読者必読の本だ。今までの憲法論からはグンと飛び抜けた本だ。木村草太氏の『憲法の創造力』(NHK出版新書)だ。木村氏は1980年生まれだ。33歳だ。若い。現在、首都大学東京准教授だ。本の帯にはこう書かれている。
〈憲法学界の若き俊英が世に問う、ラディカルで実践的な憲法入門書〉〈改憲論議の前に国民必読の一冊!〉又〈"通説""大原則"を疑い、憲法問題の核心に迫る!〉と書かれている。つまり、今までの護憲・改憲派の対立はもう古いと言っているのだ。それに憲法論議の「現場」から語ってる。例えば「君が代不起立問題」「一人一票」「裁判員制度」「生存権保障」「公務員の政治的行為」…と。そして最後は、「憲法9条の創造力」だ。読んでいて思わずアッと叫んだ。こういう方法があったのかと。奥平康弘氏の『憲法を生きる』(日本評論社)を引用しながら、9条は〈日本国の非武装を要求しているのではなく、日本国が非武装を選択できる世界の創造を要求している〉と言う。「一国平和主義」ではない。「自分さえよければ世界はどうなってもいい」という自己中心主義でもない。自分は捨て身になって、世界に「新しいルール」を作ろう! と強く迫っているのだ。そうなのか! と思った。凄い本だ。ぜひ、読んで欲しい本だ。それとポレポレ東中野で二本の映画を見て欲しい。又、テアトル新宿では、坂口安吾の原作を基にした『戦争と一人の女』が上映中だ。公式パンフレットには僕も文章を書いている。タイトルは「〈理想郷〉としての戦争」だ。危ない映画に挑発されて付けたタイトルだ。
又、5月3日(金)の午後4時半からは新宿のネイキッドロフトで「憲法トーク」に出た。「憲法変えて大丈夫? 憲法の役割と、憲法改正について」というテーマで、民主党の小西洋之さん、映画監督の福原進さん、そして僕だ。福原さんの最新作には日本国憲法の成立過程を描いたドキュメンタリー映画『太陽と月と』がある。
翌5月4日(土)の午前10時からはBS朝日の「激論! クロスファイア」に出た。山口二郎さん、田原総一朗さんと、改憲問題や日本の右傾化について話をした。
http://www.magazine9.jp/kunio/130508/
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