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『戦後史の正体』に始まる、敗戦後の日本の政治史への興味から、その原点ともいえるサンフランシスコ講和条約について重要な著作(『吉田茂とサンフランシスコ講和』)をあらわした三浦陽一氏への岩上安身インタビューを通して視聴した。
2013/04/23 『自由意志による従属』としての日米関係 〜中部大学・三浦陽一教授インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/75646
岩上のインタビューツイートをみて、この教授の話は聞いて損はないと思ったのだが、期待は裏切られなかった。以下、その内容とコメント。
・敗戦後早期に、どう日本という国を扱ってゆくか、中国の動静をみながらアメリカが方向性を決めかねていた5年間があったが、朝鮮戦争の勃発を機に、反共冷戦構造の中に日本を取り込もうということで、中国、ソ連の調印のないサンフランシスコ講和条約ができた。
・天皇裕仁が、米軍に駐留してほしいという方向に、戦後早々に判断をしていたということ。これは、徳川幕府から明治政府へ、さらに、横田幕府へといった、武力を直接持たない天皇あるいは貴族階級、官僚階級が、その時代の戦いに勝ったものに恭順を示してゆこうとする、本能的遺伝的な行動パターンなのかもしれない。戦後の、「公武合体」である。天皇なりの、敗戦国家を守るための決断ではあったのだろうが、ここで、天皇裕仁が命脈を保つために親米保守的な変節を行った右翼の元祖なのかもしれないという痛切な現実が提示される。それが「耐え難きを耐え、忍びがたきを忍び」で、現在のTPPまでつながっているのか?マゾ・サド的な、従属による地位確保とともに自分の論理や国の基盤を壊してゆくような、ゆがんだ保守論壇が、戦後日本の特徴となった。『自由意志による従属』である。
・一方、それまでは、戦争が終わればアメリカンボーイは国に帰るんだという空気が、アメリカにはあったが、朝鮮戦争での特需を機に米国軍産複合体が形成されることになったこと。1951年サンフランシスコ講和条約の枠組みでの日米の原体験として、他国を戦場にした戦争による企業特需がある。この動きが、平時国家を作ろうとした1961年のケネディー暗殺につながるのだろう。資本の力が、人民の権利を制限しはじめる、現在に至る民主主義理念の限定化、形骸化への道である。
・サンフランシスコ講和条約時、米日支配層が、お互いが正直にいって戦争犯罪を犯した国であること、および、反共であったことから、ある種の結託をした。米国は、日本に頭を丸めて周辺諸国へ謝罪賠償させないようにしむけ、核攻撃という自国の戦争犯罪を、返す刀で批判されないようにした。これは、アジアの中での日本の独立した信頼回復、尊厳の回復のブロックにつながり、サンフランシスコ講和条約での主権回復とは言うが、なにをするにしても、動くにしても米国のお墨付きが必要になった。ここから出ようと、日露、日中と日本独自の外交を政治家がしはじめると、特捜検察、マスメディアが積極的な転覆にかかるようになる。アメリカの虎の威を借りて、中国朝鮮を下にみるような、軍産複合体につながる財界に支えられた「親米保守」が変わって台頭するようになる。これは、民主党小沢、鳩山路線が、政権交代直前の時期から、用意周到に機制を制するように転覆され、菅、野田、そして自民党安倍にいたった流れでも繰り返されている。
現在、街中でみられる、そのもっとも戯画的な姿が、小沢を検審の俎上に載せた功労団体でもある在特会のヘイトデモである。「殺せ」「レイプする」「大虐殺だ」等公道で叫びまわっても、警察公安は、なにも言わず、「仲良くしよう」カウンターに対して、刺激するなと指導する。冷戦構造勃発期に急速に政治的にまとまった、「部分講和」の産物であるサンフランシスコ講和条約によって形成された動因の最先端だろう。
冷戦終結後の現在にいたっても、冷戦構造を引きずったサンフランシスコ講和条約の枠内に呪縛されている限り、「東アジア共同体」などは絵に描いた餅になってしまう。
・署名した諸国によって、日本の戦争犯罪がうやむやにされたことは、逆に日本が米国の核使用の非人道性を糾弾できずに許容すること、日本の真の道義的な米国に依存しない独立を阻害することにつながる。また、戦前の、アメリカに負けた、結果的にいえば残念ながらアメリカに劣っていた日本の官僚組織や国民性を、敗戦の総括や刷新を経ずして、「親米保守」にして、そのまま温存することにつながる。この日本的組織の劣等性が、福島原発事故を起こすにいたった経緯、起こした後の対応にも、如実にあらわれている。
・インタビュー後半は、日中戦争を想定して、日本本土が戦場になる日米合同軍事演習が、すでになされようとしているという話になり、三浦教授の「元気がなくなった」「泣きたくなった」との弱音発言も目立つようになるが、共感できる所である。
ここまで、日本が追い込まれる契機になった出来事の一つとして、ヘリテージ財団企画シンポでの、石原慎太郎「尖閣買います」発言がある。その後、野田が実際にそれをやってしまい、決定的な日中の溝が穿たれ、現在に至っている。しかし、この日中離反状態に対して、ヘリテージ財団上級研究員クリングナーの「喜びの雄叫び」のような論文が、2012年11月にだされていたという話に至る。2時間14分頃に、その重要な話がある。ヘリテージ財団は、「尖閣買収によって火がつけられた中国の抗日デモと、その後の、反中意識の日本の燃え盛るナショナリズムが、中国にだけ向かって、米国には向いていない現在の状態は、我々のいくつかの致命的に重要な政治目的を達成するための絶好の機会である」というのである。
これを、岩上は、昨年11月の時点で、石原知事に記者会見でぶつけて聞いている。
岩上:あなたは、この論文を読みましたか?
石原:読んでない
岩上:あなた全部できあがったシナリオにのっかって、そこで言ったんじゃないんですか。失礼ですが、財団に使われたんじゃないですか。
石原:いやいや、それはないかな・・・・
日本はアメリカの傭兵になる必要はまったくない
2012 11 30 日本維新の会 石原慎太郎代表に質問
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/47329
石原慎太郎の動きは、サンフランシスコ講和条約の内部で保障されたような敗戦から学ぶことを怠った日本の戦前体質が、親米保守の方向に自発的に服従変節した奇怪な「マゾ・サド的」なあり方であり、さらに、それによって、日本を極東の冷戦構造の中に閉じ込めている。これが、結果的に、軍産複合体の「いくつかの致命的に重要な政治目的」を達成するために利用されている。
こういう見方をしてくると、エーリッヒ・フロムが、ナチズムを批判して書いた『自由からの逃走』という題名の書物が思い出される。ナチズムは、ドイツ産業、資本家と共に拡大していったということもある。これは、ファシズム化してゆく社会を生む個人の心理というものを扱っている。第2次朝鮮戦争へのメディアの必至の演出や、対米自立を目指した民主党政権が工作的に解体された後の「主権回復の日」にみる、サンフランシスコ講和条約の、無理やりの深化という中で、日本人は、『自由からの逃走』の渦中に入りこみつつあるかもしれない。
以下、簡にして要を得ていると思われる、http://note.masm.jp/%BC%AB%CD%B3%A4%AB%A4%E9%A4%CE%C6%A8%C1%F6/ より適宜引用
フロムによれば,近代人は中世社会の封建的拘束から解放され,自由を獲得したが,孤独感や無力感にさらされることにもなった。その結果,彼らはこれに耐えきれずに「自由からの逃走」を開始し,サド・マゾ的な傾向をもつ「権威主義的パーソナリティ」を形成する。ファシズムの信奉者たちが,ヒトラーという権威のためなら喜んで自ら犠牲になる一方で,自分より劣った者,たとえばユダヤ人を虐待し,自らの劣等感を解消しようとする心理状態は,このパーソナリティのあらわれである。フロムのこうした方法論は他のフランクフルト学派のメンバーに大きな影響を与えた。
「われわれはドイツにおける数百万の人々が、かれらの父祖たちが自由のために戦ったと同じような熱心さで、自由を捨ててしまったこと、自由を求めるかわりに、自由から逃れる道を探したこと、他の数百万は無関心な人々であり、自由を、そのために戦い、そのために死ぬほどの価値あるものとは信じていなかったこと、などを認めざるをえないようになった」
「自由をえたいという内的な欲望のほかに、おそらく服従を求める本能的な欲求がありはしないだろうか。もしそういうものがないとしたら、指導者への服従が今日あれほどまでに多くの人々を引きつけていることを、どのように説明したらよいであろうか」
フロムの『自由からの逃走』は、近代人の自由の二面性を指摘しつつ、それを克服する道を人間の自発的活動に求めた。
「他人や自然との原初的な一体性からぬけでるという意味で、人間が自由となればなるほど、人間に残された道は、愛や生産的な仕事の自発性のなかで外界と結ばれるか、でなければ、自由や個人的自我の統一性を破壊するような絆によって一種の安定感を求めるか、どちらかだということである」
以上引用
サンフランシスコ講和条約の枠組みが力を持った根拠である冷戦構造は、現在は終結している。その冷戦構造によって巨利を得てきた軍産複合体につながる一部勢力が、北朝鮮の米韓合同軍事演習による大規模な挑発や、領土紛争に火をつけることによって、極東において新たな対立構造を形成しようとしているような、政治的意志が、明確にあるということを、衆人が知るべきことではないかと思う。
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