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2013.05.02 東京五輪は絶望的―猪瀬発言だけが悪いのではない
坂井定雄(龍谷大学名誉教授)
猪瀬東京都知事が、4月27日のニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、お互いにけんかばかりしている」と明らかにトルコのイスタンブールを意識しての発言をしたため、国際オリンピック委員会(IOC)が行動規範第14条「各都市は他都市との比較を行ってはならない」を改めて注意喚起した。日本のメディアは、この発言が、イスラム諸国の反感を買い、9月7日のIOC総会での開催地決定投票に悪影響を及ぼす懸念を報道した。
猪瀬知事は29日、「記事の焦点が、あたかも東京が他都市を批判したとされているが、わたしの真意が伝わっていない。他の立候補都市を批判する意図はまったくなく、このような、インタビューの文脈と異なる記事が出たことは非常に残念」というコメントを発表した。
これに対してニューヨーク・タイムズ紙のスポーツ担当責任者は同29日、「記事には完全な自信がある」「猪瀬知事をインタビューした記者2人は流暢な日本語を話す。また知事自身の通訳を用意しており、記事に引用した言葉はその通訳によるもの。通訳の言葉は録音している」と反論した。
私個人はオリンピックが大好きで、東京でぜひやってほしいのだが、東京招致は絶望的になったと思う。名古屋がソウルに開催地を奪われた1988年五輪の“ニの舞”になりそうだ。開催都市の知事のこの発言は重いが、立派な五輪を開催できる経験と設備、機能の高さ、移動に便利なコンパクトさだけを宣伝し、他都市を見下すような招致委員会の姿勢そのものが反感を買うだろう。同紙によると、猪瀬知事はイスラム国批判の他に、「競技者にとって一番いい場所はどこか。インフラが整っておらず、洗練された設備もない二つの国と比べてください」と露骨に述べてしまった。もちろんこの発言はIOCの行動規範に反している。
だが、それよりなにより、1964年東京オリンピック招致を実現した日本の最大のセールス・ポイントだった「敗戦から立ち直った平和国家」のイメージはいま、中国・韓国との関係が、靖国参拝問題、尖閣・竹島問題で悪化していることや、安倍政権のいわゆるタカ派姿勢でひどく損なわれてしまった。IOC委員の大勢は、近隣国との関係が悪く、戦争をやりかねないような国でオリンピックを開催したくないのだ。
私は80年から84年まで共同通信ジュネーブ支局にいて、ローザンヌに本部があるIOCを担当した。88年五輪開催地を決めた81年9月30日のドイツのバーデンバーデンでのIOC総会も現地で取材した。総会での名古屋とソウルの決選投票では、日本メディアの事前予想は名古屋の圧倒的優勢だった。日本は経済成長と夏、冬の五輪を開催した実績を誇り、愛知、岐阜、三重3県の広域にわたる、経験を生かし、設備のととのった開催計画を宣伝した。一方韓国は初めての開催で、IOCが希望した南北共同開催が実現できず、79年10月の朴大統領暗殺から2年で政情安定とはいえなかった。経験も国の経済力も治安も不安があった。名古屋組織委員会は優勢を信じ、圧倒的な票差で選ばれるとの予想を前日まで記者団に流していた。組織委員会は、韓国側がIOC委員に活発な接待攻勢をかけているという情報も記者団に流したが、共同通信の記者団が前日行った分析では「名古屋が大きな票差で勝つ」という結論になった。
名古屋が危ないという情報がIOC関係者や外国記者たちから入ってきたのは当日朝。私たち現地取材班から共同通信本社に「名古屋が負ける可能性がある」という情報を伝えたのが投票の2時間前だった。この情報はもちろん、新聞製作の準備に緊張する共同加盟社に直ちに流された。
開票結果は、ソウル52票、名古屋27票の大差だった。
後に何人ものIOC関係者から取材した私の結論は(1)韓国側の接待攻勢はあったが、それによって多くのIOC委員の投票が左右されたとは思えない。IOC委員はそれなりの地位、誇りと見識があり、接待は受けても買収されることはなかった。(2)IOC委員は、途上国出身も多いが、先進国での優れた設備や大会運営の経験、技術だけで評価することはない(3)むしろ経験のない大陸、地域で開催し、オリンピック運動を世界に広げたいという意識が強い(4)国民の熱意。大会開催がその国の発展に貢献するという確信がIOC委員を動かすーということだった。この(3)(4)は、2016年五輪開催地にブラジルのリオデジャネイロが選ばれた理由を十分説明している。バーデンバーデン総会から30年以上たっているが、IOC本部とIOC総会の体質は大きく変わったとは思えない。猪瀬発言がなかったとしても、9月のIOC総会で、イスタンブールが選ばれる可能性は大きいと思う。
猪瀬知事は30日の記者会見で、イスラム関連発言で謝罪したが、もう遅い。イスタンブールが有利だった上に、知事がイスラム教国を軽蔑したり、「インフラも整っておらず、洗練された設備もない」と競争相手の国(イスタンブールとマドリード)をけなすような発言をした。そんな都市に投票するIOC委員は、いったい何人いるだろうか。(了)
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