01. 2013年4月17日 01:10:34
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【第276回】 2013年4月17日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 参議院選は「野党実質不在時代」の幕開けとなるか 異例の高支持率を続ける第二次安倍内閣 経済以外の争点をつくらない参院選対策 第一次安倍内閣時代以来、内閣支持率というものは首相就任時が最高で、その後毎月数%ずつ下落していくものかと思っていたが、第二次安倍内閣は発足以来4ヵ月が経過して、徐々に数字を上げている。 たとえば、『読売新聞』(4月16日朝刊)が4月12日〜14日にかけて行った世論調査(電話方式)では、約1ヵ月前を2%上回る74%の高支持率を記録した。 円安と株高の進行で、経済に明るさが見えてきたことが大きな理由だろう。加えて、経済以外に争点をつくらない安倍内閣の「参院選対策」と見られる安全運転戦略が、功を奏している。また、これまでの各内閣で年中行事のようになっていた閣僚のスキャンダルが起こっていない。 後者に関しては、いわゆる「身体検査」などを含む内閣のマネジメントのほかに、民主党政権に比べて、大手メディア各社が協力的であることも影響しているのだろう。「叩けば埃の出る身体」であっても、叩かずにいてくれれば体面が保てるのが、政治家という生き物だ。 同日の読売新聞では、安倍首相に対するインタビューを載せており、同紙は首相がまず96条の改正から憲法改正を目指すことを参院選の公約に掲げると見出しにしているが、「美しい国、日本」を旗印にナショナリズム色を色濃くしていた第一次安倍内閣時代の安倍首相の印象よりは、遥かに抑制が効いている。 96条改正の方針は、日本維新の会と同じであり、選挙後に維新を取り込める「保険」を意識しながら維新と近い距離を取りつつ、大敗が予想される民主党との対立軸を出す戦略と見ると、これも「安全運転」の一環と見ることができる。 政府は、検討中の「アベノミクス戦略特区」構想で、東京、名古屋と共に、大阪府・市に法人税を引き下げる特区などを設けることを示唆しているが、これは維新の会の橋下徹大阪市長に花を持たせることにもなる。 参院選3ヵ月前の形勢は自・公圧勝 消費税増税延期という「切り札」も アベノミクスを大特集した『週刊ダイヤモンド』の「安倍マジック」特集号では、アベノミクスに対する賛否を述べ合うインタビューで、アベノミクスを全面的に支持する竹中平蔵氏が、「今後の成否は夏の参院選挙に懸かっている」との認識を強調していたことが印象的だった。 世論調査から参院選3ヵ月前の形勢を見ると、今のところ、自・公圧勝が予想される。 読売新聞の調査において、「夏の参院選挙の比例代表でどの政党に投票しようと思うか」という質問に対する答えは、自民党が48%で公明党が4%、合わせて52%ある。野党側は、日本維新の会が11%、民主党が7%、みんなの党が4%、共産党が2%、社民党1%となっている(その他の政党は0%)。 参院選で自公が過半数を獲得して、いわゆる「ねじれ」を解消した方がいいと思うか否かについての質問に対する答えが、「獲得する方がいい」の57%に対して、「そうは思わない」が33%しかいないことを見ると、野党の存在感が半ば消えつつある状況にさえ見える。 アベノミクスは、理屈の上でも、円安と株価をはじめとする資産価格の上昇をもたらすことによって景気を浮揚し、ひいてはマイルドな物価の上昇につなげようとする、「暗黙の円安・株価ターゲット政策」だ。 海外発の不安要因など、資本市場の調子が狂うリスクもあるが、日銀による追加の緩和措置がまだまだ可能であることのほかに、日銀法改正などで金融緩和政策に対するコミットメントを強化したり、インフレ目標の数値を引き上げるなどの「追加の弾」を撃つ余地は、まだまだ残っている。 また、安倍首相の判断で、デフレ脱却を確実にするために、消費税率引き上げを1年先送りすると早めに決断して発表すれば、「デフレを放置し、消費税率引き上げに血道を上げた民主党」と「デフレ脱却のために、消費税を柔軟に扱う自民党」というコントラストをつくることができる。 財務省が許すかどうかが問題だが、消費税率を引き上げたい財務省としても、「ねじれ」が解消した状態の自公政権の方が利用価値が高いので、考えようによっては悪くない話だろう。 アベノミクスが目指す「2%」の物価上昇率を達成するためには、賃金の上昇トレンドが必要であり、そのためには失業率を少なくとも3%台前半くらいまで引き下げる必要があるだろう。そのためには、来年度からの消費税率引き上げは、景気を冷やす大きなリスク要因だ。 株価や債券市場の様子を見ながら、また財務省と相談しながら、ということになるだろうが、消費税率引き上げの先送りは、安倍内閣にとって切り札的なオプションになるのではないだろうか。 まだ勢いを一定程度は保持 維新の会はどこに向かうのか 日本維新の会は、ここのところ自治体の首長選挙で負けるなど、場合によっては「橋下首相」が実現するのではないかと思わせた、1年前の勢いがない。 しかし、先の調査で、政党支持率では3%であるものの、比例代表の投票先としては11%もの数字を出しているところを見ると、「維新の会を継続的に支持するかどうかはわからないが、何かを変えてくれるきっかけになるのではないか」という流動的な支持層、すなわち「勢い」をまだ一定程度保持しているように見える。 維新の会は、そもそも選挙に向けて維新の「勢い」を借りた人々の寄り合い所帯的な色彩が濃いが、良いきっかけがあれば自民党に入りたい議員の集団と、自民党に対して距離を置き、政策的にはおおむねみんなの党に近い議員の集団があるように見える。 変化を求めて維新の会に投票したいと思う有権者の支持する政策は、後者に近いのではないかと思われることと、今後健康と年齢の問題から、石原慎太郎共同代表の存在感が低下せざるをえないことを考えると、まずは維新の会内部での政策と運営の統一が必要だろうし、ある種の「純化」のプロセスが避けて通れないのではないか。 また、橋下氏が大阪市長のポストを捨てなかったことは、維新の会の情報発信の有効性を考えると、結果的に良かったように思えるが、国会議員ないし国会議員候補の中に、維新の会の政策を国政レベルで語ることができる有力な人材を取り込むことが必要ではないか。候補者のスカウトや、人材の育成にはそれなりに時間がかかるが、橋下氏、石原氏以外にも、全国区で情報発信できる人材が欲しい。 維新の会は、残っている勢いを活用しつつも、足下を固めるプロセスと時間が必要かも知れない。 民主党は分裂を、みんなの党は団結を 「新しいグループ」の合流なら一定勢力に 比例の投票先で7%、政党支持率では6%と低迷する民主党には、活路が見えない。加えて、目下「ねじれ」解消の支持者が多いということは、民主党がもはや批判勢力としてもさして期待されていないということだろう。 読売の調査で、比例の投票先は日本維新の会11%とみんなの党4%なので、両党を合計すると、民主党にダブル・スコア以上の数字となる。 政権担当時の不出来に加えて、消費税増税で「嘘をついた」党、というイメージが決定的に拙い。党内の人材を有効に生かすためには、「野田元首相の民主党」から分かれた、「新しいグループ」が必要ではないだろうか。 民主党の現在のブランド価値を思うと、今後もバラバラと離党者が出ることが予想されるが、何名か何十名かのグループで行動することができると、「経済活性化には賛成だが、分配政策にあっては自民党よりも優しい政策を目指す」といった有権者の投票の受け皿になり得るのではないだろうか。 参院選までに残された時間を考えると、本格的な分裂が加速するのは、参院選惨敗後になるのかも知れないが、分裂なしに民主党の再生はないのではないかと筆者は考えている。 一方、所帯の割に今一つ党内の統一感がないみんなの党には、民主党とは逆に、もっと団結を強化して、自民党政権をチェックする勢力の中核になって欲しいと期待する。 特に同党には、今後、安倍内閣が公務員制度改革に取り組む際に、妥協的にならないように、自民党政権を監視する役割を期待したい。 人間同士の集まりなので、維新が主導権を持つのか、みんなの党が主導権を持つのか、という主導権争いが難しいのかも知れないが、維新の会の公務員制度改革に積極的な勢力とのなるべく早い時期の合流を期待したい。ここに、民主党から分かれて来た「経済成長に積極的で、公務員制度改革に熱心なグループ」が合流すれば、次回の参院選には間に合わないとしても、自公政権に対して一定の対抗勢力をつくることができるだろう。 「一強&その他大勢」型の政治状況に 自公政権への対抗勢力はできるか 当面は、現在民主党が持っている議席が「草刈り場」となる公算が大きいが、日本維新の会とみんなの党は、自民党に取り込まれ過ぎないことが重要だろう。 TPP参加も含めて(調査では交渉参加に賛成が60%、反対が28%とダブル・スコア以上の差がついた)、自民党を相手に経済問題を争点にしても勝ち目がない現状では、野党側の主張点は、1つは公務員制度改革の徹底推進だろうし、もう1つは年金改革を中心とした分配政策での対抗ではないだろうか。 現在の状況で、夏の参議院選挙を迎えると、自公政権をチェックする実質的な野党第一党がどこにもいないような「一強&その他大勢」型の政治状況が生まれかねない。 「強力与党の両院制覇」は、物事を決めて実行する上で好都合な面もあるが、自民党政権をチェックし、諸々の改革努力が緩むことがないように尻を叩くべき勢力にも、早く一定のまとまりが必要であるように思われる。 http://diamond.jp/articles/print/34768 |