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4/15/2013 「蟷螂の斧となろうとも」 by 元外資系証券マン
(強制捜査から1581日、検察控訴から34日)
現在進行形のPC遠隔操作事件。この事件の取調べで特異なことは、容疑者が取調べの可視化を要求していることにより、取調べが行われていないことです。
まず、一部報道に「取調べを拒否している」とされているのは実に残念なことです。そうした事実はなく、容疑者は取調べが可視化されれば進んで取調べに応じると言っています。彼は元々取調べには積極的に応じていましたが、検察の誘導を弁護人が危惧したため(彼が使えるプログラム言語として、「C#は学習したことがあるが、それを使ってプログラミングはできない」と言ったにもかかわらず、あたかも使えるかのように調書が作成されたことが分かったものです)、以降、容疑者及び弁護人は取調べの録音・録画を要求しました。我々は、この機会をメディア・リテラシーを上げる試金石とし、捜査権力の意向に沿って事実と異なる報道を選別することが求められています。
なぜ捜査権力は頑なに取調べの全面可視化を拒むのか。
その答えを求める前に、そうした捜査権力の姿勢が、彼らにとって大きなリスクをはらんでいることを指摘します。
日本の刑事司法における制度の建て付けは、捜査権力の無謬性を大前提としています。その信任をして彼らにフリーハンドの大きな権限(強制捜査権、逮捕権、検察上訴権、検面調書の特信性等々)を与えています。「なぜそこまでして可視化したくないのか?」と問い始めることは、その信任を大きく揺るがすものです。そのダメージを捜査権力は考慮すべきです。
この事件に関してだけ言えば、頑なに可視化を拒む理由は、要求されたから可視化に応じたという既成事実を作りたくないが故のものです。しかし、敢えて取調べをせず、容疑者の要求を退けることを選択したことが長期的に捜査権力にとってよかったことであるのか疑問が残ります。
この事件を通して、可視化を巡る考察として、1)なぜ捜査権力は取調べの全面可視化を拒むのか、と2)取調べに際し可視化を要求することは弁護戦略として有効か、ということを考えてみたいと思います。
PC遠隔操作事件では、警察による4人の誤認逮捕のうち、2人が自白強要で虚偽の自白に追い込まれています。「自白さえ取れればいい。その取調べの自白強要の様子を録音・録画されたくない。」というのが、可視化を拒む理由の一般的な理解だと思います。自白強要の取調べには、罵倒・罵詈雑言のほか、「壁に向かって立たせる」「尖ったものを目の前に突き付ける」「向こうずねを蹴る」等々、色々な伝説があります。しかし私は、捜査権力(少なくとも検察)の可視化を拒む理由はそれが主なものではないと思っています。
この問題を理解するには、供述調書至上主義を知る必要があります。
笠間元検事総長のコメントをお聞き下さい。
笠間(元)検事総長 「供述調書主義改めよ」
http://www.dailymotion.com/video/xh1zr2_yyyyyy-yyyyyyyyyyy_news#.UWtZILUqxjR
日本の裁判においては、被告人や関係者の調書が最重要視されることは広く知られています。公開された公判での供述・証言よりも、密室で作られた調書の方が重きを置かれているものです。そのため、検察は完璧な調書を作ろうとします。彼らにとって「完璧な調書」とは、真実を反映したものというよりは、有罪にするために効果的なものです。自白もその一つであることは確かなのですが、それより重要なことは、無罪方向の証拠の検証・防御だと思われます。
検察としては、捜査において知り得た無罪方向の証拠を、被告人にぶつけてそれをつぶす防御策を事前に講じておきたいものです。そして検面調書は、その無罪方向の証拠に対しても耐えることができるよう、十分に練られたものとなるように作られます。調書に有効策が講じられなかったにしても、そうした事実が検察側にとって不利なものとして存在するという取調メモが作られ、公判を担当する公判検事への事前情報になります。
しかし、録音・録画をすると、その無罪方向の証拠は弁護人の知るところとなる可能性が非常に高くなり、彼らに有効な手段を与えてしまいます。それを避けようとすれば、弁護人が知り得ない無罪方向の決定的な証拠を取調べで検証することなく、公判に臨むことになります。弁護人がそれに気付かなければよいのですが、優秀な弁護人がそれに気付いて、公判に証拠として出してくれば、調書及び取調メモしか手元にない公判検事は防御策を講じることができず、裁判官に対する心証に大きな影響を与える可能性があります。これが捜査権力にとっての録音・録画の最大のリスクです。
PC遠隔操作事件においては、取調べをすることなく容疑者は起訴されました。ことこの事件においては、検察が有罪に足る十分な客観証拠を持っているかどうかは微妙なところですが、一般的には、被告人の供述に頼る必要がない客観証拠を検察は持っています。それゆえ取調べをしないという、必ずしも検察にとっては不十分な捜査であっても、無罪方向の証拠を弁護人に知られる方が不利だという判断だと思われます。
それでは、弁護人が可視化を要求することが、弁護戦略上有効であるかどうかを考えてみます。
刑事弁護において、まず考えるべきことは、不当な人権抑圧である人質司法の回避であり、有罪率99.9%を前提にした起訴の回避、即ち起訴猶予を含む不起訴を狙うことだと思われます。このいずれもが、結局は検察の胸先三寸です。ゆえに検察との全面対決をまず避けることが初期の弁護戦略には求められるものです。
しかし、やみくもに可視化の要求をすることは、今回のように、取調べをせずに起訴を検察に決断させる可能性を非常に高くし、不起訴という道を弁護側自ら閉ざすことになりかねません。それゆえ、可視化の要求は慎重にすべきだと思われます。但し、(今回のPC遠隔操作事件のケースのように)検察と全面対決が不可避であれば、積極的にそのカードを切って、可視化への議論を高めることで、長期的には可視化実現につながることになると思われます。
しかしそうした長期的展望でなくても、ケースバイケースで可視化要求のカードは有効です。例えば、容疑者に黙秘権を勧めたい時です。取調べの黙秘は、言うほど簡単ではありません。自分で自己弁護したい気持ちを抑えて、あの手この手で揺さぶりをかけてくる取調べをはねつけることは、並大抵の精神力では通し切れるものではないと思われます。また、黙秘は容疑者の権利として認められていますが、どうしても裁判官に有罪心証を抱かせる可能性は否めないと思われます。この黙秘に代わるものとして、逮捕・起訴はやむなしという前提で、可視化要求は有効ではないでしょうか。
また、可視化に関して考えるべきことは、可視化が必ずしも容疑者・弁護人に有利であるとばかりは言えないことです。調書であれば、伝聞証拠として信用性を問うことができますが、録音・録画は書証ではなく物証として扱われると思われ、その内容は決定的な効力を持つと思われます。いわゆる諸刃の剣だということです。
是非、弁護戦略として考えてほしいのは、「署名の拒否」というカードです。署名された検面調書は、いかに弁護側が不同意にしても、特信性が認められて証拠採用されるのが実情です。しかし、署名がなければ、弁護人不同意は決定的な効力を持ちます。「署名の拒否」が供述調書至上主義を打ち崩す鍵になるのではないかと思っています。
しかし署名の拒否は、検察から相当の抵抗を受けると思われます。検察は、真実の見極めではなく、調書作成が取調べの意義だと思っているからです。調書に署名を得なければ、取調べをする意味がないとまで考えていると思われます(私は、自分の取調べでそれを実感しました)。そのため弁護人としては、「適正な取調べが行われる以上、調書は同意する」旨の同意書を事前に入れ、検察との信頼を確立することが必要です。その上で、取調べを積極的にさせ、但し調書には署名させないというのが、画期的かつ有効な弁護戦略だと思います。是非、胆力・知力に自信のある弁護人はトライしてみて下さい。
刑事司法が制度上、大きな欠陥を持ち、それを変革するには手続き上相当ハードルが高い以上、クリエイティブな弁護戦略が必要とされます。弁護人の方々は、被告人の人権擁護のため、圧倒的ハンデキャップをはねのけるべく頑張って下さい。
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