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2013/4/12 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
根本にアメリカのアジア支配の野望政策があるのになぜアメリカの立場に乗っているのか
この1週間、テレビは朝から晩まで北朝鮮問題で大騒ぎだ。
きのう(11日)の朝も官邸入りする安倍首相に向かって、番記者が「総理!」と芝居がかった声を上げ、こう聞いていた。
「北朝鮮のミサイル発射の兆候について新しい情報はありますか?」
安倍は「緊張感を持って対応していきます」とか何とか答えていたが、官房長官会見でも質問は北朝鮮のことばかり。地上型迎撃ミサイル「PAC3」が配備された防衛省の前にはメディアの報道車両が並び、どのチャンネルに合わせても、小野寺防衛相の視察風景が映される。
「山口県の岩国基地から電子情報収集機EP―3が飛び立ちました!」なんて実況風中継もあった。報道を見る限り、まるで「戦争前夜」なのだが、もちろん、国民は落ち着いている。AP通信によれば、平壌だって、平穏なのだ。つまり、メディアだけが騒いでいる。もうちょっと正確に言うと、政府が騒ぎ、メディアがそれを煽(あお)っている。
で、「北がミサイルを撃ったらどうなる?」「制裁措置は?」
「周辺事態は一気に緊迫」なんて報道があふれているのだが、これって、おかしくないか。メディアが戦争を煽ってどうするのか。
「これだから、この国のメディアは漫画、戦争ごっこのレベルなのです。もっともらしくミサイル性能の分析をしてみたところで、おそらく、日本政府だって正確な情報を得ていない。本当に北朝鮮は撃つのか、ミサイル戦争に突っ込む覚悟はあるのか。その分析、判断能力も決断力もないし、手の打ちようがなくて、カラ騒ぎしているように見えてしまいます」(外交評論家・天木直人氏)
◆メディアは問題を冷静に検証すべきだ
確かに、追い詰められた北朝鮮は何をしでかすか分からない怖さはある。だから、万が一に備えて、国が万全の備えを講じるのは当然だが、それと政府が先頭に立って危機を煽り、騒ぐのは違うだろう。防衛相のミサイル迎撃の「破壊措置命令」だって、「今回は公表しない」と言いながら、メディアにリークして書かせているのだから、「PRか」と突っ込みたくなる。そもそも、この緊張をつくり出したのは誰なのか。北だけが悪いわけじゃないはずだ。
法大教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「北朝鮮の一連の言動を擁護することはできませんが、北朝鮮を一方的に悪者に仕立て、対話の可能性を排除して強硬姿勢を貫いてきた米国側の対応にも問題がある。今回のことにしても、北の挑発に米国が挑発で返したためにエスカレートしていった。米国や周辺国の対応が北朝鮮を追い込んだのは間違いありません。本来であれば、“ここは冷静になれ”と、たしなめるのがメディアの役割でしょう。不測の事態が起きてからでは遅いのです」
毎年春に行われる米韓軍事演習で、米国は今年、核爆弾の搭載も可能なB2ステルス戦略爆撃機を初めて参加させた。これに反発した北が“宣戦布告”すると、ヘーゲル米国防長官は「北の挑発的な行動と好戦的な言葉が危険を高めている」と“脅し文句”を口にした。さすがに北が硬化してきたので、オバマ政権も軌道修正してトーンダウンしたが、ここまで来ると、北も引くに引けなくなってしまう。もともと緊張で持っているような国なのだ。どんどん態度を硬化させ、過激化せざるを得なくなる。
で、韓国との休戦協定の白紙化宣言、外交官への退避要請、開城工業団地の稼働中断……と、挑発行為を畳みかける事態になったのだ。それを受けて、政府が対北包囲網の国際協力を訴え、日本のメディアがまた煽る。揚げ句、なんだか、北はミサイルを撃たなきゃメンツ丸潰れみたいなムードになってきた。これは本当に恐ろしいことだ。
◆追い詰められては挑発の悪循環
そもそも、北がミサイルをブッ放すのは初めてのことではない。核実験も何度も行っているし、そのたびに制裁を受け、ますます追い詰められている。制裁解除を引き出すために新たな挑発行為を繰り返す。そんな悪循環なのである。こんなことを続けていたら、いつ突発的な軍事衝突が起こるか分かりゃしない。
「それでトバッチリを食らうのは隣国の日本なのですよ。それなのに、政治家は北朝鮮をならず者扱いして、拳を振り上げるだけ。メディアはそれを垂れ流し、イケイケドンドンで政府や防衛省の宣伝機関になっている。これは由々しき事態です」(五十嵐仁氏=前出)
この厄介な国をソフトランディングさせるにはどうしたらいいのか。それを考え、解決策を外交ルートで根回しする。そうした知恵が必要なのに、ダーレもそれを考えちゃいない。ここがけんのんなところだ。
なぜ、こんな不毛なことを続けるのか。なぜ、誰も半島の南北統一に動こうとしないのか。大メディアはここを問題にすべきではないか。
◆周到に練られた「作られた緊張」
朝鮮半島で南北対立が続いている背景にはアメリカの思惑がある。あえて分断させておいた方が都合がいいからだろう。そこをメディアは検証するべきだ。
新興国アメリカは常にフロンティアを探している。しかし、アフリカ利権には間に合わなかったし、かつて「アメリカの裏庭」と呼ばれた南米大陸でも、キューバ危機を境に米国の影響力は徐々に低下。米州33カ国からなる「中南米カリブ海諸国共同体」からも、アメリカは締め出されてしまった。そこで目をつけたのがアジアだ。元外務省国際情報局長の孫崎享氏が言う。
「米国は軍事力を背景に、アジア地域でのプレゼンスを高めたい。そのためには東アジアの緊張が必要なのです。そこで北朝鮮を利用してきた。したたかな米国は、あーだこーだ言いながらも、ちゃんと北朝鮮とのパイプを持っている。その上で、周到なシナリオを練っていますよ」
誤解を恐れずに言えば、これは“つくられた緊張”なのである。
◆アジアの不安定が米国の利益になる
ところが、金正恩第1書記体制になって、何をしでかすか分からない危うさが出てきた。タカ派の軍部を抑えきれるかも未知数だ。
「米国にとって、その辺は懸念材料でしょうね」(孫崎享氏=前出)
それで若干、慌てているわけだが、とはいえ、仮に北朝鮮が想定外の暴発をしたところで、アメリカにとって悪い話ではない。いざ戦争になれば、米の軍事力の存在感が増す。中国との関係にしても、北の脅威を口実に、ちゃっかり“包囲網”を強化できる。もちろん、本当に戦争になって、米軍兵士の犠牲者が大量に出たら困るが、その直前の“緊張”は米にとって好都合なのである。前出の天木直人もこう言っている。
「冷戦が終わり、東西ドイツは統一されました。これにはロシアや英国、もちろん米国も関与した。それなのに、なぜ朝鮮半島は分断されたままなのか。親兄弟が生き別れになったままなのに、統一に向かう気配がないのは不思議です。もちろん、体制がまったく違うし、どこがイニシアチブを取るかという難しい問題もありますが、それだけではない。アジアの不安定化は米国の利益になる。だから放置してきたのです。緊張を煽ることで、周辺国はどんどん米国製の兵器を買うし、言いなりになる。朝鮮戦争を経験している韓国は、日本以上の対米従属だし、北との緊張が続くかぎり、日本も米国に頼って追従するしかないのです」
すでに韓国は米韓FTAで“経済植民地”になりつつある。日本もTPPで属国化の道だ。気づけば、いつの間にか米国はがっちり、アジアの経済利権を手にしている。こうなれば、中国に対しても強気に出られる――。
北の脅しに過剰反応して大騒ぎするメディアは、米国のアジア支配のお先棒を担いでいるようなものだ。そんな戦争ごっこ報道に惑わされてはいけない。
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