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「消費税をやめれば日本は復活します
ビル・トッテン アシスト会長の「消費増税以外の道」
2013年4月12日(金)
2014年4月にも税率引き上げが予定される消費税を見越し、政府は大胆な金融緩和策でインフレ目標2%の達成、デフレ脱却を目指す。しかし「消費税こそ日本のデフレの元凶。消費増税は再び日本経済を壊す」とビル・トッテン氏は警告する。別の選択肢とは。
ビル・トッテン
株式会社アシスト代表取締役会長。1941年米カリフォルニア州生まれ。72年に日本初のパッケージ・ソフトウエア販売会社アシストを設立。著書に『課税による略奪が日本経済を殺した 「20年デフレ」の真犯人がついにわかった!』(ヒカルランド)、『アングロサクソン資本主義の正体 ―「100%マネー」で日本経済は復活する』(東洋経済新報社)、『日本は悪くない』(ごま書房)など多数。
(聞き手は秋山 知子)
(トッテンさんは以前から、日本のデフレの元凶はバブル崩壊でもリーマンショックでも少子高齢化でもない、消費税にあるとおっしゃっています。近著の『課税による略奪が日本経済を殺した 「20年デフレ」の真犯人がついにわかった!』(ヒカルランド)では、消費増税という選択肢を取らずに日本経済を復活させるためのソリューションを提唱されていますね。
ただ現在予定されている消費増税は、2%のインフレを達成した後に税率を上げるわけで、そこが過去2回(1989年消費税導入、97年税率引き上げ)とは違うと思いますが。)
トッテン:2%のインフレになったら消費税を上げるとは、日本政府は何をしたいんですか? 経済を活性化して、景気が良くなったらまた悪化させたいの?
消費税というのは、消費に対する罰税でしょ。
日本経済の約7割は消費です。そして投資が28%。でもその投資も大半が消費需要に応えるための先行投資。つまり日本経済の約9割は消費で動いています。
消費増税した場合、GDP(国内総生産)の9割を支える消費はどれだけの影響を受けるでしょうか? 2%のインフレに加えて消費税率が5%から10%に上がる。さらにこの3カ月で円が2割安くなった。日本はエネルギーのほぼ100%、カロリー(食料)の60%を輸入しなくてはいけないから、エネルギーが20%、食料は12%高くなります。これではいくら論理的に考えても、経済は良くならない。そういうことで経済が良くなると考えるのは「ドアホ」でしょ。
(しかし、これまで何年も円高デフレが続いて、GDPが停滞し続けていましたが、円安になった時期は多少なりとも株価が上がって景気も上向きましたが。)
トッテン:日本国民で、株から収入を上げている人はどれぐらいいますか。大部分の庶民は株を買ってないでしょう。
日本の場合、純輸出はGDPの1%に過ぎない。円安にすると1%分の経済は良くなる。でも輸入している60%のカロリー、100%のエネルギーは高くなる。「経済が良くなる」などと言わずに、「日本経済団体連合会の輸出企業と富裕層の減税のために、一般庶民の消費税を上げなくてはならない」と言うのなら分かります。
物価が上がるのに合わせて、賃金も上げてくださいという企業への施策も検討されていますが。
トッテン:でもロイターの企業調査では、「賃上げに前向き」と回答した企業はわずか1割だったから、その施策はあまり期待できません。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130410/246436/?mlp
「(トッテンさんは、消費税を廃止し、その代わりに土地に対する「地価税」、通貨や株式などの取引に対する金融取引税などの導入を主張されています。
また、消費税であれば逆進性(収入の低い層ほど税負担率が高くなる)をなくすために、収入に応じて税率を0%から200%まで段階的に変える累進消費税を提案されていますね。まず、地価税は固定資産税とは違うんですか。)
トッテン:違います。例えば、この会社が入っているビルのオーナーは、建物については固定資産税を払っているが、土地については払っていない。
(土地については、地主が固定資産税を払っていると思いますが。)
トッテン:でもそれは地価に対して微々たる金額です。土地の値段は、近くに地下鉄の駅ができたとか、百貨店ができたとか、地主の努力に全く関係なく上がっていく。働いている人からは所得税を取り、企業からは法人税を取るのだから、努力せずに土地の値段が上がった地主にもそれに見合う税金を課するという考え方です。地価をつり上げると税金も高くなるので投機的取引も抑制できます。
(もう1つは、外国為替取引や株式取引など金融取引への課税ですね。)
トッテン:昨年調べたのですが、1日に売買されている円は約90兆円です。1年間に換算すると日本のGDPの数10倍、日本の貿易額の200倍以上。何のために、誰が円を売買してますか。明らかに貿易のためではない。要はバクチ(博打)です。
例えば2011年の8月から11月までに、日本政府は円高を抑止しようと12兆円もの介入をしました。でも相手は1日に90兆円の売買です。全く意味がない。
今、消費税率を5%から10%に上げることで政府が見込んでいる税収の増加は13.5兆円です。その一方で、円高の抑制に全く効果のない介入に12兆円を使っている。だから、そういう博打には加勢しないで、税金を取ればいいのです。ドイツやフランスなどEUの11カ国は、債券や株の取引に課税する「トービン税」の導入を既に決めています。
(為替取引に課税したら、投機的な取引が抑えられますか。)
トッテン:投機的な売買をしようとしても利益がなくなるということです。彼らはほんのわずかな値動きで売買している。そこで、例えば取引額の0.5%の税金を取れば、彼らにとっては利益がなくなる。それでも為替相場で振り回されるよりはよっぽどましでしょう。博打がなくなったら、円の値段は日本の経済の力に見合う水準に落ち着いてくるでしょう。
投機的取引をする博打の人たちは不安定な環境のほうがいい。しかし真面目な経営者にとっては、経営環境は安定しているほうがいいでしょう。
例えば、NAFTA(北米自由貿易協定)ができてから米国の製造業はどんどん人件費が安いメキシコに行った。その次にはメキシコよりも安く作れる中国が伸びてきたので、どんどん中国に先行投資して工場を作った。でも中国の賃金が高くなったからまたメキシコに切り替えている。先行投資は10年、20年しないとペイしません。短い間に、条件の変動で方針を次々切り替えざるを得ないのは、経営者にとって情けないことです。
政府は、通貨売買という博打に対抗するために12兆円を無駄にするけど、原発事故で故郷を追われた何万人もの福島の人にはお金を使わない。一方で、タイに進出して洪水に遭った企業とタイ人の従業員にはすごく補償してあげている。きっと政府はできるだけ日本の空洞化を進めたいんでしょうね。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130410/246436/?P=2
「(円安が定着したら、国内に雇用が戻ってくる可能性はありますね。日本で作って輸出できるぐらいの円安になれば。)
トッテン:日本人の賃金がそれだけ下がればですね。でも、もし僕だったら海外に作った工場を、円安になったからといって日本には戻しません。その円安は博打が決めているから、いつどうなるか分からない。自分の会社の経営を博打の気まぐれに任せるなんて、経営者失格でしょ。
僕は何度も本に書きましたけど、日本国内の失業者300万人全員を時給850円で政府が雇ったとしても、年にたった5兆円しかかからないんです。政府が「公共事業」で失業者を雇ったらいい。
(公務員が300万人増ですか…。とはいえ現状、日本は公務員の比率が世界的に見ても少ないんですね。5%ぐらいですか。)
トッテン:OECD(経済協力開発機構)諸国の中では圧倒的に少ない。アメリカの公務員で一番多いのは軍人ですけどね。
(別に公務員でもいいですが、若い人の雇用を増やさないと。家の近くの都立高校に行っている人に聞いたら、そこの卒業後の進路で一番多いのはフリーターだというんです。ちょっとがっくりしてしまって。これまでのように円高デフレがずっと続いていくよりは、円安で株価が上がって雇用も増えていく、というほうに期待したいのですが。)
トッテン:しかし、コンピューターやロボットは進化しているし、経営者はやはり人件費を減らしたい。日本の高度成長期には、社会のため国民のために働いた経営者がたくさんいたけど、今の経営者は利益のためだけに働いているから、雇用が良くなることはあり得ないと思います。
あの頃の経営者は、自分の会社が国の仕組みの1つであることを分かっていました。国の協力がなかったら会社を作れないから、まず国の役に立とうとしたでしょう。3月15日に、確定申告で一番税金をたくさん払った人はそれを自慢していましたよ。今、税金をたくさん払ったことを自慢する経営者はいますか。
(いないでしょうね。株主が許さないでしょう。)
トッテン:だからこの先、企業が雇用を大きく増やすことはあり得ない。
これからの雇用で一番有望なのは農業分野だと思います。日本で専業農家はたった180万人で、そのうち6割は65歳以上です。農地はたくさん余っている。だから300万人の失業者を政府が雇って、農業をやってもらうといい。土地の生産性が高い有機農業がいいでしょう。
(有機農業については、トッテンさんは以前から京都のご自宅で家庭菜園をされていますし、社員にも勧められていますね。)
トッテン:自宅では野菜、果物、蜂蜜を自給していて、1週間前からは6羽飼っている鶏から卵も取れるようになりました。8年前は農業の素人だったけど、昨年は家で収穫した果物を毎日食べました。
現代人の仕事の大半はいずれコンピューターやロボットが代替するようになるから、人間に残る仕事は農業になっていくと思います。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130410/246436/?P=3
「(消費税だけでなく、近著ではTPP(環太平洋経済連携協定)の問題点も指摘されています。TPPはもちろん農業だけの話ではないですが、例えばTPP参加をきっかけに国内農業の競争力を高めようという機運もありますが。)
トッテン:TPPの最大の問題は、あまりに多くの重要なことが明らかにされていないことです。例えば、TPPで関税はゼロになります。ところがアメリカは以前から自国の農業にものすごい額の補助金を払っている。それは全く減らさずに、他国には関税をやめなさいと言っている。農産物のダンピングを許す協定なのです。
(日本のスタンスとしては、日本と海外の農産物にある程度価格差があるのは前提として、でも日本のものは品質がいいからそこでさらに企業努力してコストを下げればTPPでも対等に戦える、というものに思えますが。)
トッテン:それはそうかもしれません。でも、大規模化・機械化して農薬を大量に使って、短期で生産性を上げる産業的な農業は、長期的には土地の生産性を殺していくんです。
インターネットでいくらでも調べられるけど、アメリカやオーストラリア、ロシア、インドといった大規模な農産物の輸出国はこの10年以上、徐々に輸出高が減ってきている。温暖化と水不足もあるけど、土地の生産性がどんどん悪くなってきているからです。もともと規模の小さい日本の農業がさらに淘汰されたところへ、ほかの国が日本に食料を輸出できなくなったらどうなりますか?
(食料輸入ができなくなったら、大変なことになりますね。)
トッテン:日本の農業や農家よりも、日本の食べ物を欲しい人を保護するべきだと思いますね。
もう1つ、TPPの要求の1つに、食品のパッケージに遺伝子組み換えの表示をする必要はないという議論があるのは知ってるでしょ。遺伝子組み換えを好きな人はあまりいないのに、その内容を消費者から隠すと言っている。ただ、アメリカの中央政府は表示の必要はないとしているけど、州政府は必ずしもそうじゃない。昨年11月にカリフォルニア州は遺伝子組み換え表示を義務づける法律を作ろうとしました。反対する企業が巨額の政治献金を投入して法案を潰しましたが。
(TPPでは、表示義務が非関税障壁に当たるという議論ですね。)
トッテン:遺伝子組み換え表示が自分たちの利益の邪魔をすると。進出先の国の政策によって不利益を被るという企業は、ISD条項を利用して国際機関に仲裁裁判を起こすことができます。
また、日本政府はTPPに参加したらGDPは3兆円伸びるという試算をしていますね。だけどTPP参加国への日本からの輸出額はこの20年間ずっと減少しています。なのに、今この協定に入ったらどうしてそれだけ伸びるか、その数字はどこから来ているか説明がされていない。
さらに経団連はTPP参加を後押ししている。経団連は輸出企業が多いのに、この20年間日本からの輸出が減っているアメリカ市場や、輸出先市場としては小さいブルネイやチリやペルーやニュージーランドなどをなぜ選ぶのかということです。しかも変な条件つきで。ここが理解できないところですね。
今TPPについて国民の間に何も議論がないでしょう。トービン税にしても、ほかの国はできるのにどうして日本はできない?
地価税や累進消費税、金融取引税は、庶民はいいけど金持ちは嫌がる。だから実現は難しいのかもしれません。でも理想が分かっていたらそこへ向かうために何をやるべきかの議論ができるでしょう。そして、なぜできないかの理由を政府は明確にすべきと思います。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130410/246436/?P=4
「あの」日経がビル・トッテン氏のインタビュー記事を載せた事にまず驚きました。しかも、アクセスランキングでは現在(4/12 17時)トップになっています。日経としてはアリバイ作りのつもりだったと思いますが、思わぬことになったということかもしれません。
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