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2013年4月4日
「盤石」はいつまで続くのか
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環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加表明や集団安全保障への言及、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設に関連する名護市辺野古の海の埋め立て申請……。「決められる政治」を標榜し、タカ派的なイメージの強い安倍晋三首相がいよいよ本領を発揮し始めたかのように見える。だが、見かけの勢いだけをもって、「7月の参院選までは安全運転」という政権運営の方針を転換してスピード運転を始めたとみるのは早計だ。一部の政治決断を除けば、実際には安倍首相は今もきわめて安全な運転を続けている。
あまり目立たないので一部の人しか指摘していないが、実は安倍内閣の国会運営は不可解に感じられるほどのんびりしている。さぼっているのではないかと思えるほどである。そのひとつの例が3月29日に成立した2013年度暫定予算編成にいたる国会運営である。
■50日間の暫定予算
今の通常国会における2013年度予算案(いわゆる本予算案)の審議経過を振り返ってみよう。
昨年12月に衆院選が実施され、民主党政権から自民党政権に代わった。政治の激変期にあたったことによって、例年と比較して今回の本予算編成は大幅に遅れた。
普通の年は12月中に政府の本予算案がまとまり、1月召集の通常国会に提出され、遅くとも2月には衆院での予算案審議が始まる。今年は、本予算案が衆院予算委員会で実質的な審議に入ったのが3月6日であり、衆院通過は4月中旬、成立は5月中旬ごろではないかと言われている。
しかし、これは本予算案審議が遅れて始まった分を差し引いたとしても、ゆっくりしすぎである。ちなみに、野田佳彦内閣が組んだ2012年度予算案は2月9日に衆院で審議入りし、3月8日には衆院を通過した(29日間)。菅直人内閣による2011年度予算案も1月31日に審議に入り、3月1日に通過(30日間)。よれよれだった両内閣よりも絶好調の安倍内閣のほうが本予算審議に日数をかけているのである。
予算成立の大幅な遅れのため、安倍内閣は5月20日までの50日間に及ぶ長期の暫定予算を組まざるをえなくなった。これにも多くの野党議員は首をかしげた。3月下旬、自民党から暫定予算の提案を水面下で受けた日本維新の会幹部は、他の野党議員との会合でこう発言した。
「よくわからない提案だな。自民党は失敗したのかな」
この野党の反応は、現在の国会の相場観として、50日間は長すぎることを示している。今の安倍内閣と野党各党の力関係からみると、予算案の衆院通過は本来なら4月上旬に可能だったし、「暫定予算は長くとも5月10日までの40日間で十分だった」(日本維新の会ベテラン議員)との見方が一般的である。4月上旬に本予算が衆院を通過すれば、野党が過半数を占める参院がどんなに抵抗しようとも、憲法が規定する衆院優越の原則により、30日後には自然成立するからだ。
■「予期せぬ混乱」は避けるべし
つまり、野党との駆け引きという点において、自民党の最近の国会運営はかなり緩い。野党側からみれば、50日間の暫定予算が組まれたということは、「50日間、本予算を成立させなくてもいいことを意味する」(日本維新の会ベテラン議員)。野党でさえ、さすがに国家が破綻するような事態を避けようとするものだが、暫定予算の期間が50日間もあるとなれば、話は別だ。
50日間は国の財政が保たれるわけだから、野党は50日間を浪費しようとする。これは日本の国益からみればおかしなことかもしれないが、国会攻防のテクニックとしては常識的な対応である。
50日間が無駄にすぎれば、予算案以外の重要法案の審議にしわ寄せがいく。通常国会の会期は6月26日までで、今年は参院選があるため、常識的には会期延長は困難だとされる。自民党がのんびりと暫定予算の期間を長めにとったことにより、すでに通常国会終盤の日程はかなり窮屈になっているのだ。
それにもかかわらず、安倍政権がていねいでゆっくりとした国会運営を続けている理由は明らかだ。参院選までは国会で波風を立てたくないからだ。
一般論として、与党が何かの議案の国会審議を急げば、当然、野党は抵抗する。そこに予期せぬ混乱が生じて、安倍内閣を失速させないともかぎらない。また、予算が成立すれば、終盤国会では別の法案が俎上に載る。だが、安倍内閣は参院選までは国論を二分するような案件は扱いたくない。だから、予算成立が遅れてもかまわないわけだ。
■TPP推進の「偶然」
一方、波風を立てたくないはずの安倍首相はTPP交渉参加など一部の政策については、危険を伴うにもかかわらず、果断に動いたようにもみえる。ただ、TPPの決断に関しては、安倍首相の積極的な判断というよりも偶然という要素が大きく作用している。
昨年12月の政権発足直後、安倍首相は官邸で、菅義偉官房長官、加藤勝信、世耕弘成両官房副長官らと政権運営について協議した際、こう漏らしたという。
「TPPも難問だよ。農協も反対しているし、こんなの参院選までは手をつけられないよな」
政権幹部のひとりも次のように振り返る。
「面倒なことは全部、参院選の後。当初はそういう方針だった」
だが、各国のTPP交渉の進み具合が速いことで、政府はあわて始めた。また、決定的だったのは、「首相訪米がずれ込んだこと」(安倍首相側近)だという。
安倍首相は本来、1月の通常国会召集前の訪米を企画していた。だが、オバマ米大統領の日程がとれず、実際の訪米は2月下旬になった。その間、TPPに関する日本政府内の準備が進んだ上に、それと比例して反対派の勢いも増した。「1月の日米首脳会談だったら、『やあやあ、どうも』で済んでいたものが、2月下旬ともなると、何か成果がないとまずいという雰囲気になってしまった」(別の安倍首相側近)。その結果が、安倍首相によるTPP交渉参加表明のきっかけとなった日米首脳による共同声明の発表につながったのだ。もし、安倍首相が1月に訪米していたら、交渉参加表明は参院選後になっていたかもしれない。
■「民主党は分解していく」
いずれにしても、現在の自民党の最大の目標は参院選の勝利である。ていねいな国会運営も派手な演出のアベノミクスも、すべて参院選のためにやっていると言っていい。
自民党は3月17日、東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で、民主党から政権を奪い返してから初めての党大会を開催した。大会終了後の懇親会にはソウル五輪水泳金メダリストの鈴木大地氏やロンドン五輪アーチェリー銀メダリストの古川高晴氏らがゲストとしてスピーチ。安倍首相も全日本アーチェリー連盟会長を務めている立場から、大学時代のクラブ活動の経験談などを語り、スポーツの話題で盛り上がった。だが、続いて壇上に立った石破茂幹事長は、こんなふうにあいさつした。
「好きな運動は選挙運動以外にはない」
会場からは「面白いぞー」という声援が飛び、大きな拍手が沸き起こった。もちろん、石破氏の発言は半ばジョークである。しかし、これが自民党の本音なのだ。
各種世論調査での内閣支持率や政党支持率をみると、自公両党が現時点で参院選に向けて優位にあることは間違いない。政局観に秀でていると言われる生活の党の小沢一郎代表は3月中旬、都内の料理店で知人との会合を開いた際、こんなふうに断言した。
「民主党は分解していくだろう。(参院)選挙区のうち1人区(青森、秋田など31選挙区)は全滅だろう。参院選は自民、公明が過半数をとる」
小沢氏に言われるまでもなく、民主党の凋落ぶりは激しい。離党者が今も相次いでおり、まだまだ離党予備軍がいる。野党共闘が実現すれば、自公両党の勢いを止められる可能性はあるが、民主党と他党の選挙協力に向けた話し合いは不調。民主党は全選挙区に候補者を擁立する方針だ。
■「維新」「みんな」が「民主」を潰す
野党側で唯一目立つ動きは、日本維新の会とみんなの党の選挙協力である。3月26日、日本維新の会の松井一郎幹事長(大阪府知事)は公務の合間を縫って上京。あまりの多忙ゆえに、都心に向かう暇もなかったため、羽田空港内でみんなの党の江田憲司幹事長と会談し、大阪にとんぼ返りした。
この会談で、両党は、参院選挙区のうち、改選議席3の選挙区(いわゆる3人区)での協力を確認した。たとえば3人区の埼玉、千葉、愛知3県では、みんなの党が2県、維新の会が1県で候補者を擁立し、互いに相手候補を支援しあう。また、10カ所ある2人区のうち6カ所でも協力する。4カ所は維新の会の候補、2カ所はみんなの党の候補だ。
だが、このやり方では自民党の勢いを止めることはできないだろう。
維新とみんなの共闘が実現して、候補者が当選したと仮定する。その場合、ほとんどの選挙区で、自民党候補ではなく民主党候補が落選すると思われる。2人区以上の選挙区(2−5人区)では今のムードからみて、自民党が1議席も確保できないという事態は考えにくいからだ。
民主党の議席減――これが維新、みんな両党の選挙協力が生み出す結果だ。自民党の議席を減らしたいのなら、31カ所ある1人区で自民党候補を敗北に追い込むことが必要である。だが、現時点で維新とみんな両党は1人区の半分程度でしか協力関係を構築できていない。民主党も仲間に入れた形での野党による選挙協力が実現すれば、まだましだが、そうでないかぎり今の形の2党による選挙協力は、野党内での足の引っ張り合いになるだけだ。端的に言えば、民主党潰しという効果しかないのである。そう考えていくと、小沢氏が断言したとおり、今のままではよほどの激変がないかぎり、野党は自公両党の参院選勝利を阻止できないだろう。
■「長くはもたない」
それでは、安倍政権は当面安泰なのだろうか。小沢氏は最近の懇談会でこういう見方も示している。
「安倍首相は長くはもたないだろう。安倍さんが退陣したらどうなるか。また、麻生(太郎)さんが首相になるだろう。あの時と同じだ」
小沢氏は第1次安倍内閣の際に安倍首相が健康上の理由で退陣に追い込まれたことを踏まえて、今回も安倍首相が体調を崩すだろうと言っているわけではない。むしろ、政治的要因で安倍内閣が倒れ、その後に第2次麻生内閣が誕生し、それも倒れて自民党政権そのものが終わるだろうと予言しているのだ。
民主党離党後、完全に勢いを失っている小沢氏が負け惜しみまじりに強がりを言っているようにもみえる。そのきらいはある。しかし、この予測はあながち的外れとも言えない。確かに安倍首相にとっての本当の試練は参院選後にやってくるからだ。
安倍首相は、憲法改正など国論を二分するようなほとんどの難問を参院選後に先送りしてきた。外交や安全保障、憲法改正などの安倍首相らしいと言われる政策にはほとんど手がつけられていない。インターネット上では、自民党が先の衆院選で掲げていた尖閣諸島への公務員常駐化や「竹島の日」記念式典の政府行事化などをいまだに実行しない安倍首相に対して、保守系の国民から「期待はずれ」「約束違反」などの批判がすでに浴びせられている。
だが、対中、対韓関係などを考えた場合に、これらの政策の実現は安倍首相をもってしても困難がつきまとう。仮に参院選で自公両党が勝利して、衆参両院で与党が過半数を確保して「衆参ねじれ状況」が解消したとしても、である。このため、安倍首相に対する不満が革新層ではなくむしろ保守層にたまっていく可能性は否定できない。
もちろん、安倍首相が早期に退陣して自民党政権も倒れるという小沢氏の大胆な予言が当たる確率はそれほど高くはないだろう。しかし、参院選という今年最大の政治的ハードルを乗り越えたとしても、選挙後には保守的政策の実現と安倍支持層からの圧力というもっと高く険しいハードルが安倍首相を待ち構えている。この事実だけは指摘しておきたい。
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