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安倍総理は、日米首脳会談は成功裏に終わったと高らかに宣言し、さらにはTPP交渉参加を打ち出すことで日米同盟の強化を推し進めようとしている。しかし、アメリカの認識は違う。彼らは安倍政権に対して疑いの目さえ向けている。
アメリカの認識と安倍政権の認識の間には大きな溝がある。この事実にさえ気づいていない政権に、いったいどれほどの国益を守れると言うのだろうか。
元外務省欧亜局長・東郷和彦
「米国で高まる日本不信」より
http://gekkan-nippon.com/?p=4909
米国は日本に対する関心を失っている
―― 2月22日、安倍総理がオバマ大統領と首脳会談を行った。今回の訪米をどのように分析しているか。
東郷 私は2月24日から3月2日までワシントンを訪れ、ジョージ・ワシントン大学、ウッドロー・ウィルソンセンター、戦略国際問題研究所(CSIS)、カーネギー財団で講演をし、アメリカの著名な学者たちと意見交換を行った。また、昔からの友人たちとも議論する機会を持つことができた。日米首脳会談の直後ということもあり、アメリカで安倍総理の訪米がどのように受け止められているかがよく理解できた。
端的に言って、日本はワシントンの関心から外れてしまっている。ワシントン・ポストでも日米首脳会談は8面で扱われており、大きな話題となっていなかった。もちろん、アメリカ社会は日本と中国が戦争に突入するなどとは想像もしていないし、ましてや日米安保の適用によって米軍が参戦することなど考えてもいない。
アメリカのアジア専門家たちはもう少し丁寧に安倍総理の訪米を分析していたが、それでも日本に対する冷ややかさを感じた。たとえば、安倍総理がCSISで行った“Japan is back”という講演についても、彼らは冷めた目で見ていた。
確かに安倍総理が主張したデフレ脱却や防衛力の強化などは、それ自体としては悪いことではなかった。しかし、それらは全て、日本がこれから行おうとしていることである。政策は実行されなければ意味がない。一年ごとに総理大臣が交代し、「回転ドア総理」との評価が定着している日本の総理大臣が「これからこのような政治を行います」などと主張しても、海外の人たちが納得することはないのだ。
政策をしっかりとやり遂げ、それを数年間続けてこそ、日本の総理大臣の話には重みが出てくる。それまでは話半分で聞いておかなければ危なくて仕方がない。残念ながらこれがアメリカの有識者の現実である。
―― アメリカは日本に対する関心を失っている。
東郷 私が特にそれを感じたのが、尖閣問題について講演した時だった。私はその講演でだいたい次のようなことを述べた。
「中国は現在、実力行使によって尖閣諸島の現状変更を行っている。尖閣諸島周辺の領海に国際法で認められている無害通航以外の目的で侵入することは、私には国連憲章で禁じられている武力行使のように見える。少なくとも国連憲章の精神に反していることは確かであり、覇権主義と断じても間違いないだろう。
かつて日本がソ連と北方領土交渉を行っていた際、ソ連のグロムイコ外務大臣が『領土問題は存在しない、それゆえ日本とは話し合わない』という態度をとったため、日本の外務大臣もソ連を訪問することをやめた。しかし、だからと言って、日本は実力行使によって北方領土の現状変更を行おうなどとはしなかった。
中国は尖閣諸島について、どのような主張であれそれを行う権利はある。しかし、領海・領空に実力で入ってくることだけはやめねばならない」。
これに対して、あなたの意見は間違っていると反論するアメリカ人はいなかった。しかし、日米が協力して中国の実力行使に対処しようと明言する人もいなかった。
私は尖閣諸島に日米安保を適用すべしと主張したわけではないし、アメリカは尖閣諸島における日本の主権を認めるべきだと主張したわけでもない。国連憲章の精神を守り、実力による現状変更はやめねばならないという、最も基本的なことを述べただけだ。
それにも関わらず、彼らの中から日本と協力しようという声が湧き上がることはなかった。例えるなら、日本とアメリカの間に薄い透明の膜のようなものが生じてしまっているかのようであった。
日本は尖閣問題で不利な状況に置かれている
―― アメリカは日本の主張に対する信頼も失っているように見える。
東郷 日本の主張は空回りしている。これは先日起こった照射レーダー事件についても言えることだ。
自衛隊は中国海軍による照射レーダーについてしっかりとした証拠を固めて発表した。これに対して、当初沈黙を守っていた中国は一転して、レーダー照射などというのは事実無根であり、日本の謀略だと主張し始めた。ワシントンでは「日本はかつて柳条湖や盧溝橋で行ったことと同じ謀略を始めた」といった、アメリカ人の対日不信を呼び起こすような宣伝まで行われているようである。
日本はこれに対して有効な反論ができなくなってしまっている。防衛機密のために証拠を公開することができないからだ。しかも、ここのところ、日本政府はこの事件についてあまり論じなくなっている。そのため、ワシントンでは、中国が本当にそんなことをやったのかという疑いの声さえ上がっていた。(以下略)
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