04. 2013年3月27日 12:26:57
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【第46回】 2013年3月27日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員] 「教育資金贈与税非課税措置」の導入は 相続税引き上げとのバーター措置!? この4月から税制改正により導入される予定の、「教育資金の一括贈与に対する贈与税の非課税措置」が盛り上がっている。子・孫ごとに 1人1500万円まで非課税 3月18日付の日経新聞によると、「大手信託各行は祖父母の孫に対する教育資金の贈与が非課税となる4月の税制改正に合わせ、相談業務にあたるコンサルタントを増員するなどして営業体制を強化」している。 「教育資金の贈与に利用できる新たな信託商品(教育資金贈与信託)をテコに、相続に関心を持つ中高年の富裕層顧客を開拓するのが狙い」で、「信託銀以外の金融機関にも参入の動きがあり、顧客の争奪戦は一段と激化しそうだ」とある。 制度の概要を説明すると以下のとおりである。 祖父母(贈与者)は、金融機関に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して拠出する。この資金については、子・孫ごとに1500万円を非課税とする。3人の孫がいれば、祖父母は4500万円までを非課税で贈与できることになるが、孫一人については1500万円までが上限である。したがって、父方、母方の祖父母からそれぞれ1500万円づつ合計3000万円ということにはならない。 教育費の範囲は、入学金、授業料、塾、習い事などで、具体的範囲は、文部科学大臣が決定する。塾や習い事など学校以外の者に支払われるものについては、500万円を限度とする。 教育資金の使途は、金融機関が領収書等をチェックし、書類を保管する。 孫等が30歳に達する日に口座等は終了する。 平成25(2013)年4月1日から平成27年12月31日までの3年間の措置である。 相続税骨抜き、 格差固定化という批判 この制度については、いろいろな批判がある。 まず、このような世代を飛び越した資産移転を奨励すれば、相続税は骨抜きになるという批判である。米国でも、このような世代を超えた相続税回避が横行したので、防止のために「世代飛び越し移転税」を課している。 次に、富裕者を優遇する制度で、物的資産だけでなく、人的資産の移転も優遇するのは、ますます格差の世代間継承につながり、格差の固定化が進む、という批判である。 また、景気刺激効果があるという点についても、当面は貯蓄を増強させるだけ、という批判が行われている。 加えて、きちんと教育費に使われたかどうかのチェックを、30年間金融機関任せにすることでいいのか、という批判も出ている。 このような批判がある中、裕福な富裕高齢者層から教育資金の必要な子・孫世代へ資金を移転させることにより、景気拡大効果を期待するという政策目的のもと、冒頭のような思い切った措置が導入された背景は何であろうか、個人的な見解を述べてみたい。 相続税増税と セットで導入 最大の背景は、相続税の増税である。消費税率の10%への引き上げが決る一方で、資産格差の拡大、世代を超えた格差の固定化などが叫ばれてきた。そこで、バブル経済崩壊後、低下が続いてきた相続税の負担を引き上げることは、税制当局の悲願であった。 バブル期における地価の急騰に伴う負担の急増を軽減するため、基礎控除の引上げなどの負担調整が行われ、相続税の課税件数割合は、100人に対して4件というように低下してきた。 一方、相続税に対しては、単なる資産格差の是正という考え方に加えて、これまで家庭が負担してきた老後扶養の費用を国や地方が肩代わりしていく中で、死亡時にその費用を清算すべきではないか、という新たな相続税強化論も出てきた。 財務省は、課税件数の割合をかつてのような100件に対して6、7件程度に増やすための相続税強化を民主党政権下で探り、民主党も賛同、具体案の作成までこぎつけた。しかし、自民党の抵抗から、2度の試みは失敗に終わり、「負担増を求める」という3党合意が残った。 税制当局は、政権復帰後の自民党が、3党合意に基づく相続税負担増を本当に実行してくれるのか、大いに不安を抱いた。このような背景から出てきたのが、教育資金非課税制度をセットで導入するという考え方ではなかったか、これが私の見方である。 税制当局にとっては、「親子など扶養義務者から必要な都度、直接生活費や教育費に充てるためのものには贈与税がかからない。そうであるなら、それをきちんと法律化し、使いやすくするために運用できるようにしても、大きな減収が生じるわけでもないし、実態が大きく変わるわけではない」という読みがあったのだろう。 線引きがあいまいなら 現場では混乱も このような双方の思いが合致した今回の措置だが、できる以上は大いに活用し、経済活性化に役立ててほしい。執行については、混乱の生じないような工夫を凝らす必要がある。 適正に教育費用に使われるかどうかをチェックするのは、一時的には一括資金を受け入れる金融機関の仕事となる。一方で教育費の定義について、教材費や文具まで含まれるので、たとえばパソコンの購入費用は含まれるのか、ピアノのレッスン代を個人に支払う場合はどうかなどについて、きちんと線引きをしなければ、現場では混乱が生じかねない。 最終的には(おそらく30年後?)税務当局がチェックすることになるが、過去にさかのぼって教育費に使われたどうかのチェックは大変だろう。現在国会審議中の番号制度が導入される際には、番号で管理するなどの工夫をして、税務執行の適正を担保する必要がある。 |