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産経新聞2013年3月23日付朝刊29面
弁護人が冤罪を主張するこれだけの理由―PC遠隔操作事件
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20130324-00024029/
2013年3月24日 16時51分 楊井 人文 | 日本報道検証機構代表・弁護士
■弁護側主張を正確に伝えないメディア
いわゆるPC遠隔操作事件で、片山祐輔氏が3つの事件に関わったとしてハイジャック防止法違反、威力業務妨害、偽計業務妨害の罪で東京地検に起訴された。片山氏は逮捕直後から一貫して否認、録画・録音を条件に取調べを拒否している中、勾留理由開示手続きの公判が2度開かれ、事実上の「被疑者質問」により冤罪を主張する展開となった。
起訴を受け、主要各紙は、捜査当局が客観的な証拠を積み上げて有罪の確証を得るに至ったなどと報道。中でも、産経新聞は3月23日付朝刊で、「弁護側主張 不自然さも」という記事を掲載し、弁護人の主張に「多くの不自然さが残る」と指摘している。しかし、弁護人の主張を正確に理解し、検討したうえでの指摘とは到底いえない。
産経の記事は、「不自然」な弁護人の主張を2つ挙げている。1つは、片山氏が遠隔操作ウイルスの作成に使われたプログラム言語「C♯(シー・シャープ)」を使う能力がないという主張。もう1つは、大阪府の男性のPCが遠隔操作され、大阪市のホームページに無差別殺人予告が送られた当日は日曜日で、片山氏が派遣先に出勤していなかったという点だ。
□東京地検「有罪の確証得た」 弁護側主張に不自然さも 片山容疑者起訴(1)(2)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130322/crm13032220470020-n1.htm
(MSN産経ニュース2013/3/22 20:46)
■「他の言語が使えれば応用で使えるはず」との匿名コメント
1つ目の「C♯を使う能力がない」という主張は、弁護側が当初から強調してきた点だ。これに対し、産経の記事は、片山氏がIT関連の専門学校に通い、他のプログラム言語を使えることを指摘したうえで、「他の言語が使えれば、応用でC♯も使えるはず」との「ネットセキュリティー会社の関係者」なる匿名のコメントを根拠にして、不自然さを指摘する。
片山氏がIT関連の専門学校に通い、Java、C、C++といったプログラム言語を使う能力があることは事実だ。しかし、C♯については「他人がC♯で作成したプログラムを実行できるかどうかテストしたことはあるが、C♯を用いてプログラムを書くことはできない」と主張。片山氏は勤務先でC♯について研修を受けたことがあるものの、勤務先の社長は、片山氏のC♯の実力は今回の遠隔操作ウイルスのようなプログラムを作成することは困難だと証言しているという。(*1)
もちろん、片山氏はJavaなどのプログラム言語を使うことができる以上、そのスキルを応用して勉強すればC♯を使うこともできるようになるであろう。ただ、「持ち前のスキルを応用する」にしても、今回の遠隔操作ウイルスを作成するだけのレベルに達するには実際にプログラミングしてそれをテストするなど、一定の試行錯誤が必要となる。C♯に習熟するために試行錯誤をしていれば、自宅か派遣先のPCにその痕跡が残るはずで、そのような痕跡を残さずに密かにC♯のプログラム能力を習熟させることはできない、というのが弁護側の主張だ。
「片山氏がC♯を習得しようとしていたことを裏付ける証拠」があるのであれば「C♯を使えない」という主張は不自然だと指摘し得る。しかし、産経の記事はそのような証拠を何も示していない。真犯人がもっている能力を自分はもっていないとの訴えを、単に「他の言語が使える」というだけで「不自然」と一蹴する方が、むしろ不自然ではないのか。
■プログラム使用「能力」の影で看過されている「環境」
そもそも、片山氏が真犯人だというためにはプログラム使用「能力」とともに「環境」も必要だ。弁護側は「C♯を使えない」という主張だけでなく、「派遣先PCにも自宅PCにもC♯を作成するためのソフトがインストールされていなかった」と強調している。つまり、遠隔操作ウイルスを作成するための開発環境がなかったというのだ。
今回の遠隔操作ウイルスは「Visual Studio 2010」で作成されたとされるが、それは派遣先PCにも自宅PCにもインストールされていなかった。しかも、片山氏が使用していた派遣先PCには、犯人も用いたとされる接続匿名化ソフト「Tor」(トーア。以下「トーア」と表記)を使用した痕跡が残っている。真犯人ならVisual Studioだけ消去してトーアの痕跡を残すという不合理な行動をとるはずがない、とも指摘している。
産経だけでなく、どの主要メディアも「ウイルスを作る能力がない」「C♯を使えない」という弁護側主張は取り上げている。しかし、「そもそも開発環境がない」という主張はなぜか全く取り上げていない。この指摘は、3月21日の2回目の勾留理由開示手続き公判での佐藤弁護士の意見陳述および同日付検察官宛て意見書(一部メディアが「不起訴を求める意見書」と報じたもの)でも強調されていたにもかかわらず、である。そこで、「GoHoo」でこの問題を取り上げ、注意報を出した。
■【注意報】遠隔操作ウイルス試作痕跡 「開発環境なし」と指摘(3月23日付)
http://gohoo.org/alerts/130323/
■アリバイ主張ができない事態を皮肉った指摘
2つ目の「大阪市に無差別殺人予告が送られた当日に派遣先に出勤していなかった」という点について、産経の記事は「どこからでも遠隔操作は可能だ」と、弁護側があたかも無意味なアリバイ主張をしているかのように指摘する。
3月21日の勾留理由開示手続き公判で、弁護人の質問に答える形でなされた片山氏の意見陳述。そのときの弁護人の質問に、大阪市のHPへの無差別殺人予告の書込みがあった日に片山氏が派遣先の会社に出勤したかどうかが含まれていた。しかし、この質問は、片山氏がアリバイを主張したくてもできないことを浮き彫りにするために行われたもので、冤罪を証明するためのものではなかった。
そもそも、遠隔操作の犯行が、いつ、どこで、行われたのか、捜査当局も裁判所もこれまで全く明らかにしていない。それどころか、どのような方法で行われたのか、いわゆる遠隔操作により犯行が行われたことを示唆する記載すらない(この点、各紙は、被疑事実に「遠隔操作」という犯行の手法が明記されているかのように報じているが、そのような記載はなく不正確である)。
大阪市HPの事件についていえば、平成24年7月29日午後9時45分頃に大阪にあるパソコンを使用して書込みが行われたと、勾留状の被疑事実には記載されている。しかし、「書込み」が行われた日時が特定されているだけで、犯人が書込みの「指令」を行った日時や場所は特定されていない。このように被疑事実が特定されていないと、防御に著しい不利益があり、勾留は不適法だと弁護側は主張していた。(*2)
勾留理由開示手続きの公判で、被疑事実に記載された「書込み」日時に派遣先に出勤していなかった事実を明らかにしたのは「被疑者の防御に著しい不利益が生じていることを示すためで、それ以上でもそれ以下でもない」(佐藤弁護士)という。(*3) 犯行の日時・場所が特定されずアリバイ主張の道を封じられた不合理さを訴えようとした弁護側の真意を理解しようともせず、「不自然」と決め付ける方が、むしろ不自然ではないのか。
■メディアが取り上げない弁護側の主張・反論の数々
主要メディアは、捜査側が片山氏と犯人を結びつける「有力な間接証拠」を伝えることはあっても、弁護側の主張を伝えることはほとんどない(弁護人が指摘した3つの誤報疑惑―PC遠隔操作事件も参照)。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20130222-00023565/
たとえば、「派遣先PCがパスワードなどで管理され、片山氏しか使用できない状態だった」といった情報(産経新聞2013年3月13日付)についても、パスワードは同僚に知られ、片山氏しか使用できない状態にはなく、PC画面は誰からも見られる状況にあった、と弁護側は指摘しているが、取り上げられていない。
■【注意報】遠隔操作 「PCを使えるのは片山氏だけ」に反論(3月24日付)
http://gohoo.org/alerts/130324/
佐藤弁護士らは、片山氏の弁護人に就任以来、連日会見を開き、異例の頻度と量をもって情報発信してきた。弁護側の主張が不合理、不自然であれば、メディアが入手した捜査側の情報を突き付けて、いつでも指摘、反論してほしい、と報道陣に呼びかけていた。しかし、弁護側の主張を正確かつ公平に伝えた上で、捜査側の情報と比較したり、弁護側の主張に裏付けがあるのかどうか吟味して冷静に評価する報道は、(逮捕から1ヶ月以上もたった)今もって確認されていない。
弁護側がこれまで冤罪を主張してきた理由を箇条書きすると以下のとおり(全てではない。順不同)。これらは全てメディアに公開された情報だが、ほとんど報じられていないものばかりである。
•被疑者が使用していたプログラミング言語はJavaであり、C♯により遠隔操作ウイルス「アイシスエグゼ」を作成する能力がなかった
•C♯のプログラミング技術を身につけるには試行錯誤を繰り返す必要があり、PCにその痕跡が残るはずである
•被疑者の自宅及び派遣先PCから遠隔操作ウイルスやそれを作成した形跡が見つかっていない
•被疑者の派遣先PCにも自宅PCにもC♯のプログラムを作成するためのソフト(Visual Studio)がインストールされていなかった
•被疑者の業務は正規のプログラム開発であり、ウイルス関連の業務には従事しておらず、セキュリティ対策ソフトも導入していなかった
•被疑者は平成24年8月当時プログラムが読めない、書けないというスランプに陥り、休職して通院していた
•前回起こした事件と本件を比較すると、本件の手口の方が格段に技術を要する
•派遣先PC画面は日中誰からも見られる状況にあった
•派遣先PCのパスワードは同僚に知られていた
•米国連邦捜査局(FBI)により提供されたとされる情報は、そもそも存在自体が疑わしいし、存在したとしても信用性に乏しい
•携帯電話で保存されていた猫の映像は、被疑者がニュースサイト等を閲覧した際に取り込まれたものである
•雲取山で写真を撮影したときのデジタルカメラはタイ旅行で紛失したが、それを探し出そうとしていた
•真犯人が報道機関に送り付けた犯行声明メールに添付された雲取山の画像は偽造の可能性がある
•真犯人が元旦未明のメールを送信した当時、自宅で母親とテレビで紅白歌合戦などを視聴していた
•元旦未明のメールは接続匿名化ソフト「Tor」(トーア)が使用されていたが、自宅PCではトーアを使用していなかった
•犯行声明メールのパズルに用いられた題材は被疑者が何ら関心がなかった
•本件犯行が可能な人物は他に存在する
•江の島の防犯カメラ上も被疑者が首輪をつけた映像はない
•前回起こした事件については真摯に反省し、警察・検察には恨みをもっていない
•社交的な性格で、周囲の人も本件犯行を起こすとは思えないと話している
(*1) 平成25年2月28日付東京地方検察庁宛て弁護人意見書。
(*2) 平成25年3月8日付東京地方裁判所宛て準抗告。平成25年3月13日付最高裁判所宛て特別抗告。
(*3) 平成25年3月21日付勾留理由開示手続に公判における竹田真弁護士の意見陳述からもその趣旨は明らかである。
(*) 2段落目で「中でも、産経新聞は3月22日付朝刊で、「弁護側主張 不自然さも」という記事を掲載し、…」とあるのは「3月23日付朝刊で」の誤りでしたので訂正しました。記事の写真説明は間違いありません。ニュースサイトの記事は22日に掲載されています。(2013/3/25 18:00追記)
楊井 人文
日本報道検証機構代表・弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、平成20年、弁護士登録。弁護士法人ベリーベスト法律事務所所属。平成24年4月、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を立ち上げ、同年11月、一般社団法人日本報道検証機構を設立。
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