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隣家との垣根を低くすることと、土足で自宅に踏み込まれることは全く違う。後者の恐れが大きいのが、政府が交渉参加を表明したTPP(環太平洋連携協定)のISDS(投資家と国家の紛争解決)条項だ。国内法で定められた労働や環境などの規定を国際的な第三者機関で空洞化させられる危険がある。密室交渉が続いているが、昨年、ネット上に流出した草案をもとに探ってみた。(上田千秋、小倉貞俊)
「景観規制のある京都で、外国企業が好き勝手に高層ビルを建てたらどうか。国内ルールが改悪される危険な事態が進んでいる」。NPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子事務局長はそう指摘する。
ネット上に流出したのはTPP交渉で対象の「物品貿易」 「知的財産」など21分野のうち、「投資」分野の草案。米国の市民団体「パブリック・シチズン(PC)」が分析し、発表した。
PCは長年の実績から流出した草案を本物と判断。分析を発表後も各国からクレームはない。
ISDS条項は投資分野の中核だ。外国企業が進出国の政府から「不当な法律や規制で損害を受けた」とみなした場合、国際的な第三者機関に仲裁を申し立て、賠償金を得られる制度だ。
草案によると、同条項は環境や労働、消費者行政などで外国企業を優遇することになる。草案時点での参加9カ国のうち、オーストラリア以外は合意していた。
PCは「加盟国は外国投資家に数々の特権を提供することで合意する一方、投資家に自国民の健康や労働、環境を守る義務を求めていない」と分析。TPPを「巨大資本による世界統治の道具」とみなしている。
では、実際に裁定を下す第三者機関とは何を指すのか。世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)や国連の国際商取引法委員会(UNCITRAL)など複数の機関で、紛争当事者はそのうちの一つを選択。仲裁人は3人で紛争当事者同士が1人ずつ、残る1人を両者の合意で選び、3人の多数決で裁定するという。ちなみに上訴の制度はない。
◆投資家擁護の弁護士が仲裁
PCは「投資家を擁護する企業弁護士が仲裁役を担う」と指摘、公正さに疑問を呈している。なにより、国内での企業活動に国内の司法権が及ばない構造になり、主権侵害の可能性が高い。いわば、二重司法状態だ。
ISDS条項はTPP以外にも、他の貿易協定で既に使われている。日本も経済連携協定(EPA)などを結んだシンガポール、メキシコなど計24カ国との間で同条項を実施している。しかし、米国とはTPPを結べば、初のケース。その米国が絡む他国の実例をみると、懸念は増す。
北米自由貿易協定(NAFTA)では、ISDS絡みの訴訟が45件発生。このうち、メキシコで廃棄物埋め立て事業を企図した米企業のケースは典型だ。地元では反対運動が起き、メキシコの地方政府は操業禁止を決定した。米企業は不当と訴え、結果は企業側が勝ち、メキシコ政府は約1670万ドルの賠償金を支払うなどした。
ISDS条項を含むFTA(自由貿易協定)を米国と結んだ韓国では、2011年の発効前に韓国側が著作権法や租税措置など23の法律、制度を見直した。米国系企業の宅配便事業参入に配慮し、郵便事業の国家独占も放棄した。いずれも国際的な訴訟で負けることを懸念したためだ。
米国系以外にも、原発にかかわるスウェーデンのエネルギー企業は昨年、ドイツが脱原発政策を掲げたことで損害を被ったと、同国を訴えた。
日本企業が訴えたケースは1件。野村証券のオランダ子会社が06年、チェコ政府に対し「外国企業への差別的対応があった」として、187億円の損害賠償を受け取っている。日本政府が訴えられた例はないが、今後はどうなのか。
内田さんは「訴訟大国の米国が『日本のルールが不公平』として訴訟を乱発しない保証はない」と懸念する。例えば、細かく決められている食品表示基準について、遺伝子組み換え食品や添加物の多い食品を売ろうとして「ビジネスの妨害」と訴えてくるケースなどが想定されるという。
「巨大資本は、進出先の国の文化や価値観を考慮しない傾向が強い。国の側は訴訟を恐れて、健康、労働、環境などを守る制度や法律の切り崩しも始まるだろう」
◆ISDSだけ拒否は「無理」
内田さんは3月上旬、シンガポールで開かれたTPP交渉会合を視察して、米国主導を強く感じた。安倍首相は「主権を損なうようなISDS条項には合意しない」としている。だが、それは現実的に可能なのか。内田さんはこう語る。
「TPPはあくまでもISDS条項を含めた一つのパッケージ。部分的な拒否は無理だろう」
◆米に都合よい秘密交渉
ISDS条項の影響について、九州大大学院の磯田宏准教授(農業政策論)は「各国の国内法が全く考慮されないわけではない。だが、第三者機関が裁定の基本根拠にするのはTPPの条文となる。影響は計り知れないだろう」と推測する。
一例として、医薬品の値段。磯田准教授は「米国の医薬品メーカーは日本の薬価算定制度を変えて、高価な薬を売りたがる。実際にニュージーランドやオーストラリアで、彼らはそうした動きを見せた。仮に訴えが認められれば、医薬品の値段が上がって、国民負担は増える」と解説する。
地方自治体で実施されている公共工事の入札も方法変更を迫られかねない。地域経済活性化を目的に公共事業で地元企業の落札機会を増やす工夫を凝らす自治体が多いが「外国企業の出方は明らかだ。『訴えるぞ』と言うだけで十分に脅しになる。法律や政省令、条例がないがしろにされ、地方自治の原理が大なり小なり奪われていく」。
ISDS条項で利益を得るのは、米国系企業が中心になるとみる。「通商法に詳しく、訴訟で賠償金を得るのに熟達した法律家を探すと、どうしても米国人になってしまう。NAFTAでは両当事者の合意で選ばれる仲裁人の中にも、普段は米国企業の顧問をしている弁護士がいた。TPPも同じ状況になるのでは」
ただ、日本ではTPPに不参加だと、他の参加国にタッグを組まれて貿易や為替の面で不利益を生じさせられるのでは、という見方も根強い。
これに対し、磯田准教授は「世界貿易機関(WTO)や世界銀行、国際通貨基金(IMF)に訴えるなど、対抗策はいくらでもある」と説く。むしろ、TPP交渉の秘密性を問題視する。
「WTOでは途中経過を明らかにしたため、先進国が勝手に仕切れなくなった。秘密交渉は米国など推進したい側の思うつぼになるだけ。政府はもっと公開すべきだ」
[TPPの秘密性]
交渉内容は途中で公表されることはなく、正確な情報を得られるのは各国の担当者らに限られる。「外交交渉は秘密で行われるもの。交渉の経過が漏れれば、相手から『信用できない国』と思われる」と、内閣官房の担当者は説明している。
[パブリック・シチズン]
米国の消費者運動家で弁護士のラルフ・ネーダー氏が、1971年に設立した市民団体。会員数は全米で約10万人。医薬品や自動車、原発などの安全性を追求し、議会や企業に働き掛けを続けてきた。TPPにも反対の姿勢を示している。
[デスクメモ]
TPP交渉参加をめぐる各種の世論調査では、軒並み賛成が半数以上だった。正直、戸惑った。というのも、小生もメディアの端っこで生息している。それでも秘密交渉ゆえ、TPPはよく分からない。調査に答えた人たちがどれだけ理解していたのか。ムードなら恐ろしい。結果は自らに降りかかる。(牧)
2013年3月20日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013032002000129.html
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