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3月13日、石川知裕衆議院議員など小沢一郎氏の秘書3人に対する政治資金規正法違反事件について、東京高裁(飯田喜信裁判長)は、弁護人の控訴を棄却し、一審の執行猶予付懲役刑の有罪判決を維持する判決を言い渡した。
刑事事件の控訴審というのは、一体何のためにあるのだろうか。
刑事事件の裁判で誤った判断が行われることが、被告人に対する重大な人権侵害につながることに鑑み、一審判決の事実認定、法律適用等についての誤りがないかどうかを、必要に応じて新たな証拠も取り調べた上、慎重に審査するというのが、控訴審の最大の目的のはずだ(現行刑訴法は、被告人に不利な方向で誤判を是正することも認めてはいるが)。
陸山会事件では、小沢氏の秘書3人が政治資金収支報告書の虚偽記入で逮捕・起訴された事件(以下、「秘書事件」)と虚偽記入について秘書3人との共謀の刑事責任が問われ、検察では不起訴となったものの検察審査会の起訴議決によって起訴された小沢氏本人の事件(以下、「小沢氏事件」)の二つの刑事裁判が行われたが、この中で、東京地検特捜部の捜査において、不当な威迫、利益誘導等による取調べを行ったり、虚偽の捜査報告書によって検察審査会の判断を誤らせようとするなどの重大な問題があったことが、小沢氏を無罪とした一審の東京地裁判決(大善文夫裁判長)で指摘されただけではなく、最終的には秘書3人を有罪とした一審の東京地裁の公判の過程でも指摘された(検察官調書の証拠却下決定)。
そして、昨年11月12日、小沢一郎氏に対する政治資金規正法違反事件の控訴審判決(小川正持裁判長)では、一審の無罪判決が維持されただけでなく、一審判決は認めていた小沢氏の秘書3名の虚偽記入の犯意や、4億円の銀行借入れ、定期預金担保が隠蔽の意図によるものであったことも否定する判断が示され、この事件の捜査で検察が前提にした事件の構図そのものが否定された。秘書3人を有罪とし、虚偽記入の犯意だけではなく、4億円の隠蔽の意図まで認めた東京地裁判決(登石郁朗裁判長)とは大きく異なった判断であり、上記小沢氏無罪判決の直後に開始された、秘書3人に対する控訴審では、これらの地裁、高裁の審理経過、判決を踏まえて、秘書3人に対して、慎重な見直し判断が行われるであろうと誰しも思ったはずだ。
しかし、その後、開かれた秘書3名の控訴審第一回公判で、裁判所は、弁護側の証拠請求を、情状関係を除き全て却下し、事実関係に関する審理は一切行わず結審した。控訴審裁判所が、一審の事実認定を見直す気が全くないことは明らかになった。そういう意味では、今回の控訴審判決の結論は予想通りではあった。
しかし、驚いたのは判決文の内容だった。一審判決が「論理則、経験則に違反しない」と念仏のように繰り返しているだけで、何の根拠も示しておらず、小沢氏控訴審無罪判決での認定や指摘は、殆ど無視しているに等しい。
このようなデタラメな判決がなぜ出されたのか、その背景には、刑事事件の事実認定、法令適用の最終判断を行う控訴審の裁判長が絶対的権力を持つ、刑事司法の歪んだ構図がある。裁判長の意向一つで、控訴審に持ち込まれた刑事事件の判断は如何様にもなるという専制君主の裁きのような異常な世界で、控訴審の裁判長が、極力排除しなければならないはずの「個人的な感情」に支配されて判断を行った場合、控訴審判決は単なる「意趣返し」の手段になってしまう。今回の事件は、そのような恐ろしい日本の刑事裁判の現実を示すものと言える。
陸山会事件の判決の経過と東電OL事件の屈辱的結末
秘書事件の一審判決については、本ブログで、「東電OL殺人事件と陸山会政治資金規正法事件に共通する構図」と題して、一審判決が事件の実体を完全に見誤ったものであること、検察が4億円の虚偽記入の動機に関して、水谷建設からの裏金1億円を立証するという本来関連性のない事実の立証を認めてしまったために、土地購入代金の原資が「ゼネコンからの裏金であることの隠蔽」が動機であるような無理な事実認定をせざるを得なかったと考えられることを指摘した。そして、その構図は、再審で無罪となった東電OL事件において、一審無罪判決直後に、控訴審の審理を行う東京高裁の裁判部が、無罪判決を受け無罪の推定が一層強く働くべき被告人に対して「罪を犯したと疑うに足る十分な理由がある」と判断して、勾留を認めた段階で、事実上、控訴審の逆転有罪判決の結論が決まってしまったのと共通していることを指摘した。
今回、秘書事件の控訴審判決を出した飯田喜信裁判長は、東電OL事件の逆転有罪判決を出した裁判部の裁判官の一人であり、しかも、主任裁判官として勾留決定においても判決においても中心的な役割を果たしたとされている。裁判長だった高木俊夫氏は既に死亡しており、再審開始、再審無罪判決が確定し、ゴビンダ氏の冤罪が明らかになった今、「一審無罪になった被告人を勾留し控訴審の逆転有罪判決を出して無実のゴビンダ氏を15年にわたって服役させた冤罪裁判官」としての汚名を一身に背負うことになった(裁判所での審理を含めて、この事件の冤罪原因の究明を求める動きもある。)。
飯田裁判長にこのような屈辱を与えることになった東電OL事件の再審開始決定、再審無罪判決を出したのが、同じ東京高裁の小川正持裁判長の裁判部(以下、「小川裁判部」)であった。しかも、この再審開始決定は、「新証拠の有無」だけではなく確定判決の心証形成にまで踏み込んで事実認定の誤りを指摘したもので、従来の再審に関する判断と比較すると異例の積極的な再審判断との受け止め方もあった(その後冤罪の決定的証拠が発見されたことで、結果的には再審開始決定の事実認定が正しかったことが証明された。)。飯田裁判長にとって「誤判」「冤罪」という結果に終わった東電OL事件は、まさに屈辱以外の何物でもなく、終わり間近の裁判官人生の最大の汚点となった。この事件がそういう結末に終わったのは、同じ東京高裁の小川裁判長の裁判部が、再審開始決定で異例とも思える踏み込んだ判断を下し、冤罪であることを積極的に明らかにしたからにほかならない。
そして、その小川裁判部が、東電OL事件の再審無罪判決の僅か5日後に出したのが、小沢氏の控訴審無罪判決であった。
しかも、陸山会事件の構図自体を否定した控訴審判決とマスコミ・指定弁護士・小沢氏の対応でも詳述したように、小沢氏の控訴審無罪判決は、無罪の結論は一審判決と同じでも、その結論に至る過程が大きく異なる。一審では、石川氏ら秘書の収支報告書の虚偽記入については犯意も含めて認めた上で、「小沢氏に収支報告書が虚偽であることの認識がなかった可能性がある」との理由で小沢氏を無罪にしたものだったが、控訴審無罪判決では、収支報告書虚偽記入について秘書と小沢氏の「共謀」を否定しただけではなく、更に踏み込んで、秘書の虚偽記入の犯意自体も否定した。そして、検察と指定弁護士が事件の核心としていた4億円をめぐる偽装・隠蔽の意図がなかったとして、陸山会事件の構図そのものを否定した。
東電OL事件のことだけでも、飯田裁判長としては、小川裁判部に対して心中穏やかではなかったであろう。それに加え、小川裁判部は、秘書事件に関しても、小沢氏の犯意を否定するだけでなく、敢えて、秘書の犯意まで否定する判示を示すことで、秘書事件を担当する飯田裁判長に対して、「適切に証拠により事実認定を行えば、秘書についても無罪しかあり得ない」という強烈なメッセージを送ってきた。
飯田裁判長は、小川裁判部に対しては、内心「恨み骨髄」だったのではないか。
飯田裁判長にとって、小川裁判部からのメッセージを受け入れて、秘書事件について一審の有罪判決を覆して無罪の判断をするのは、何より耐え難いことだったはずだ。小川裁判部とは全く反対の結論、つまり、一審判決秘書の犯意や隠蔽の意図を認める結論を出そうとするのも、小川裁判部にここまでコケにされた飯田裁判長の「心情」としては、わからないでもない。
問題は、その判決の中身だ。小川裁判部とは反対の結論を出すことでリベンジしたいというのなら、自ら、或いは合議体の他の裁判官の力も活用して、小沢氏無罪判決の秘書に関する判示について問題点を徹底的に洗い出し、それを否定する根拠を示す方向で最大限の努力を行い、その方向で、説得力のある判決文を書くというのが、刑事裁判官の最上位の東京高裁部総括にまで上り詰めた「刑事裁判のプロとしての矜持」というものであろう。
しかし、実際の判決文の内容は、それとは凡そかけ離れたものだ。
前記ブログ東電OL殺人事件と陸山会政治資金規正法事件に共通する構図でも詳しく述べたように、健全な常識に基づく事実認定とは凡そかけ離れた異常な「推認」判決としか言いようのない秘書事件一審判決を丸ごと容認したものであり、秘書事件の控訴審開始の直前に出された小川裁判部の小沢氏控訴審無罪判決の緻密な事実認定と比較すれば、その中身のひどさ、杜撰さは素人目にも明らかだ。
そして、それ以上に異様なことは、飯田裁判部による秘書事件控訴審判決の中に、小川裁判部による小沢氏無罪判決の判決文を意識し、敵意をむき出しにしたと思える記載があることだ。
小沢氏事件控訴審判決
まず、小川裁判部の小沢氏控訴審判決の中の、小沢氏の秘書の石川知裕氏らの虚偽記入の故意を否定した部分を見てみよう。
《原判決は,石川は,Xとの交渉の結果,決済全体を遅らせることはできず,所有権移転登記手続のみを遅らせるという限度で本件合意書を作成し,所有権の移転時期を遅らせるには至らなかったとする。そして,原判決は,所有権移転の先送りができたと認識していた旨の石川の原審公判供述は信用できないとする。
しかし,関係証拠に照らすと,残代金全額の支払がされ,物件の引渡しがされて,本件土地の所有権移転登記手続に必要な書類の引渡しがされるなどしたことから,平成16年10月29日に本件土地の所有権が移転したとした原判断を不合理とすることはできないが,石川の上記原審公判供述は信用できないとする原判断は,経験則等に照らし,不合理というほかはない。
(ア)石川は,「本件合意書の1条において,本件土地の所有権を平成17年1月7日に移転することが取り決められたと考えていた。また,当時,所有権の移転と登記名義の移転との違いをよく理解していなかったことや司法書士からの説明で所有権移転の先送りができたと認識していた。」旨を原審公判で供述した。
これに対し,原判決は,本件売買契約書の記載を見れば,所有権の移転と登記名義の移転が異なるものとして扱われていることは専門家でなくても容易に理解できる,高額の不動産購入に当たり本件売買契約書の内容を慎重に検討したはずであり,所有権の移転と登記名義の移転とが区別されるものであることを理解していたはずであるから,本件合意書により本件土地所有権の移転時期の変更などは合意されていないことも認識していたものと認められる,司法書士は,その立場等に照らせば,陸山会における経理処理や収支報告書の計上方法について,石川に助言をするはずがない, として,石川の前記公判供述は信用できない旨認定判示する。
(中略)
これらからすると所有権の移転時期については本件合意書によって変更されておらず,本件売買契約書に従って処理されることになると理解することも可能といえる。
しかし,本件合意書作成の経緯等を見ると,関係証拠によると,次の事実が認められる。
すなわち,石川は,本件売買契約後に先輩秘書からの示唆を受けるなどして本件土地公表の先送りの方針を決め,当初は本件売買契約の決済全体を来年に延ばすようにYに求めた。しかし,売主の意向が残代金は10月29日に支払ってほしいというものであったことから, Yの担当者が,司法書士から聞いていた仮登記を利用して,本登記を延ばすことを提案し,陸山会側がこれを了承し,本件合意書の作成に至った。その際,所有権の移転時期についての具体的なやり取りがされた様子はない。(下線は筆者)そして,前記のとおり,本件合意書の第1条には,残代金の支払時期及び物件の引渡し時期は明記されているが,所有権の移転時期については何ら明記されていない。
(イ)そこで,石川の認識についてみると,仮に原判決のいうように石川が所有権の移転と登記名義の移転とを区別して理解していたとすると,本件合意書の作成に当たり,所有権の移転時期はどうなるのかと聞いたり,本登記の先送りだけでなく所有権移転時期の先送りも本件合意書に明記してほしいなどという要望をすることになるのではないかと思われる。石川がそのような行為に出ていないということは,石川としては,所有権の移転と登記名義の移転とを区別して認識しておらず,これらを一体のものとして認識していたためではないかとみるのがむしろ自然ともいえる。
また,本件売買契約書及び本件合意書の内容について,原判決は,石川が慎重に検討したはずであり,専門家でなくても容易に理解できるとする。しかし,石川は, 10月29日の決済直前にいわば駆け込みで先送りを実現しようとするなど,慌ただしい状況にあったといえるのであるから,時間をかけて慎重な検討をするような心理的余裕がなかったのではないかとみる余地がある。しかも,陸山会側からの要望が契機であるとはいえ,本件合意書自体は,司法書士という専門家も関与した形でYから提案されたものである。法律の専門家でもない石川がそれを十分な検討を経ることなく信頼したということはあり得ることといえる。したがって,原判決のいうように石川が慎重に検討して理解したとはいい難いというべきである。
そうすると,石川が,本件合意書により,自らの要望どおりに所有権の取得も先送りできたものと思い込んだということもあり得ることといえる。
他方,本件合意書作成の経緯等からすると,売主であるXとしても,陸山会側の当初の要望である決済全体の先送りに応じることはできないが, 10月29日に残代金の支払が受けられ,物件の引渡しができれば足りると考えていたものとみられ,登記と所有権取得とを一体のものとして先送りするという陸山会側の明示的な要望があれば,これに反対するような状況は何らうかがえない。これは,前記のような石川の認識に矛盾しない。
以上からすると,石川としては,原判決がいうような所有権移転登記手続のみを遅らせるという限度で本件合意書を作成したとの認識であつたとは認め難く,登記と一緒に本件土地取得も先送りされたと理解したとみる余地があるといえる。したがって,これまで検討したような考察を欠いたまま石川の前記公判供述は信用できないとした原判決の判断は,経験則等に照らし不合理というほかはない。
以上のとおり,石川は,本件土地の取得を平成17年に先送りできたと思い込んでいた可能性があり,石川から本件土地購入等に関する引継ぎを受けた池田についても,石川と同様の認識であった可能性を否定できない。そうすると,本件土地の取得について,石川の平成1 6 年分の収支報告書不記載(本件公訴事実の第1の3 ) の故意,池田の平成1 7年分の収支報告書虚偽記入(本件公訴事実の第2の2 ) の故意はいずれも阻却されることになるので,これらの故意を認めた原判決の判断は,論理則,経験則等に照らし不合理であって,是認することができない。》
この中で重要なのは下線部分の「石川氏が登記と一緒に本件土地取得も先送りされたと理解した」と認める根拠についての判示である。不動産業者Yの担当者の公判供述を踏まえて認定されたものである。
そして、このような事実認定を踏まえ、小沢氏から提供された4億円の処理に関する石川氏の認識について、
《石川は,平成16年10月28日から29日にかけて,預金担保貸付の手続や送金手続を短期間で実行するという慌ただしい状況にあったこと,返済計画等の事後処理は池田に任せていることなどに鑑みると,本件預金担保貸付を利用した本件4億円の簿外処理は,ある意味で,その場しのぎの処理として慎重に検討することなく実行されたとみられるのであり,石川としては,前記のような本件4億円の簿外処理のスキームについてそれなりの形がつけられたなどと安易に認識していた可能性がある。また,前記のとおり,石川としては,本登記と共に本件土地の取得の先送りが実現できたと思い込んだ可能性があり,本件土地取得費等支出の計上についても,本登記と合わせて計上することで一応の説明がつかなくはないと考えていた可能性があることは否定できない。》
と判示して、石川氏の処理が、「その場しのぎの処理として慎重に検討することなく実行された」ものであると認定した。
また、「石川らが本件4億円の簿外処理(りそな4億円の借入れ)を実行したのは,被告人が4億円もの巨額の個人資産を陸山会に提供し陸山会が本件土地を購入したことについて想定される追及的な取材と批判的な報道を避けるため」だとする指定弁護士(検察官役)の主張に対しても、
《前記のとおり,石川は,本件土地公表の先送りの方針について,短期間で慌ただしく実現しようとしており,ある意味で場当たり的な計画であったといえ,所論がいうようなところまで石川が考えていたとは疑わしいといえる。本件土地公表の先送りと本件4億円の簿外処理を行っただけでは,つじつまの合わない状況は平成1 7 年分に先送りされるだけで根本的には解消されないし,そうした状況が生ずるのを避けるより有効な別の方法が考え得るところである(例えば,本件4億円を原資とする定期預金の名義を陸山会ではなく被告人とし,これを担保に陸山会がりそな銀行衆議院支店から必要な金額を借りたり,本件売買代金全額を陸山会等が保有する現金で支払い,それによる陸山会等の日常的な資金繰りの不足分をその都度必要な限度で被告人が負担したり,端的に本件売買代金のうち必要な限度でその一部を被告人の個人口座からの借入金で賄うなどの方法)。これらからすると,本件土地公表の先送りと本件4億円の簿外処理とが専ら連動しているとはいえない。そうすると,原判決の判断を不合理とすることはできない。》
と判示して、石川氏の処理が意図的な隠蔽であることを否定した。
小川裁判部の小沢氏控訴審無罪判決での石川氏の虚偽記入の故意、隠蔽の意図を否定する論旨は極めて明快である。
秘書事件控訴審判決
これに対して、秘書事件の控訴審判決(飯田喜信裁判長)は、石川氏らの故意に関して、以下のように述べている。
《原判決は,本件4億円の借入れ等に関する「不記載」及び「虚偽記入」について,被告人 石川の故意及び動機が認められるとしているところ,その理由付けを要約すると,次のようになる。
ア 被告人石川は,小沢から受け取った本件4億円を分散入金した上,後日りそな衆院口座に 集約している。このような迂遠な分散迂回入金は,本件4億円を目立たないようにするための工作とみるのが自然かつ合理的である。
イ 本件4億円は,本件土地購入の原資として小沢から借り入れたもので,実際に本件土地の取得費用等に充てられている。それにもかかわらず,被告人石川は,本件土地の残代金等を支払った後に,小沢関連5団体から集めた金員を原資とする本件定期預金を担保にした本件預担融資を組み,小沢を経由させた上で陸山会が転貸金4億円を借り受けている。本件預担融資を巡るこれら一連の経過をみると,被告人石川において,平成16年分収支報告書上,本件4億円の存在を隠そうとしていたことが強くうかがわれる。
ウ 被告人石川は,本件土地の購入を平成16年分収支報告書に記載せず,平成17年分収支報告書に記載しようと考え,被告人大久保を介して売主側と交渉し,所有権移転登記を平成17年1月7日に延期している。このような画策行為も,前記イと同様に,被告人石川が本件4億円の存在を隠そうとしていたことをうかがわせるものといえる。
エ 以上を総合すれば,被告人石川は,本件4億円の収入や,これを原資とした本件土地取得費用等の支出が平成16年分収支報告書に載ることを回避しようとする強い意思をもって,それに向けた種々の隠ぺい工作を行ったものと推認することができる。
被告人石川が本件4億円の収入等を平成16年分収支報告書に載せないように,種々の隠ぺい工作を行っていたとする原判決の推認の過程は,自然かつ合理的であって,種々論難する所論を踏まえて検討しても,被告人石川の故意及び動機を認定した原判決の判断に,論理則及び経験則に違反するところはない。》
これを、前に引用した小川裁判部の小沢氏事件の控訴審無罪判決の判示と比較すれば、秘書事件判決の石川氏の犯意と隠蔽の意図についての判示が全く理由になっていないことは明らかである。
例えば、小沢氏事件の控訴審判決では、不動産の所有権移転の時期についての石川氏の認識に関して、不動産業者Yの側からの提案によって、所有権移転の延期の合意が行われたと認定しているが(下線部分)、秘書事件控訴審判決では、「石川氏が売主側と交渉して所有権移転登記を延期した」とだけ認定している(下線部分)。
判決後の記者会見で、石川氏の弁護人の安田好弘弁護士が明らかにしたところによると、秘書事件控訴審でも、小沢氏の控訴審判決の記録の取り寄せが行われ、その記録中に含まれる不動産業者Yの証人尋問調書を弁護人が証拠請求したのに、請求却下されたとのことである。
所有権移転登記が延期された経緯や、それについての石川氏の認識等について小沢氏控訴審判決では様々な証拠に基づいて緻密な事実認定をしているのに、秘書控訴審では、その点について、小沢氏控訴審判決が根拠とした証拠を検討しようとすらしなかったのだ。
また、小沢氏事件では指定弁護士(検察官役)が主張しなかった水谷建設からの5000万円の授受の問題等については、
《原判決は,検察官が本件の動機ないし背景事情として主張する,@ 本件4億円がその原資を公表できないものか否か,A 水谷建設からの5000万円の授受の存否の2点についても考察を加えて,@ については,本件4億円は,その原資を明快に説明することが困難なものとの限りで認定することは可能であると,A については,水谷建設の社長が平成16年10月15日被告人石川に現金5000万円を手渡した事実が認められ,それが本件4億円隠ぺいの動機形成の一因になっていると説示しているが,そこまで至らずとも,被告人石川の故意及び動機は,前記隠ぺい工作自体から推認するに十分である。(下線は筆者)》
と述べた上、
《次に,A については,原判決は,前記社長の原審証言が信用できることについて詳細な説示をしているところ,所論を踏まえて検討しても,関係証拠に照らせば,その説示に不合理又は不相当な,点は何もないから,原判決の認定に誤りはない。》
と述べて、原判決の認定を丸ごと容認し、
《原判決は,それを前提に,平成16年10月当時,胆沢ダム建設工事の利権を巡って小沢が金員を受領した疑いがあるとの報道がなされ,同月19日にその記事が被告人石川にファックス送信されていることなどを併せみれば,被告人石川が,同記事の受領を契機として,よりー層本件4億円を隠ぺいする必要性を感じて,そのための工作に及んだとみるのが合理的である旨説示しているところ,被告人石川において,被告人大久保に前記2ウの交渉を依頼したのが平成16年10月24日か同月25日頃であり,また, りそな銀行衆議院支店長に預担融資を申し込んだのが同月28日であって,いずれも,前記送信から数日後に行われていることに加えて,小沢の選挙地盤で行われる工事の受注に絡みゼネコンから多額の金員を受領したという事柄の性質を併せ考慮すれば,被告人石川が,同記事の受領を契機として本件4億円隠ぺいの必要性をよりー層感じ,それが,上記交渉や本件預担融資等の各工作を押し進める方向に影響を与えたことは否定できないというべきである。Aの点も,被告人石川の本件4億円隠ぺいの動機形成の一因になっており,ひいては,被告人石川の故意の存在を裏付けるものということができる。原判決は,同旨の判断を示しており,その判断に誤りはない。》
と判示して、裏金受領の事実が4億円の隠蔽の動機であると認定している。
「敵意丸出し」の判示
この中の下線部分の「そこまで至らずとも、被告人石川の故意及び動機は,前記隠ぺい工作自体から推認するに十分である。」の判示には、飯田裁判長の個人的感情が相当程度影響しているように思える。
その後に、その水谷建設からの5000万円の事実を、原判決と殆ど同じ理由で認め、しかも、それが、石川氏の隠蔽の動機形成の一因になったと認定しているのだから、「小沢氏事件では主張立証されていない水谷建設からの5000万円のことを除外しても、石川氏の犯意や隠蔽の意図は十分に認定できる」などと言う必要はないはずだ。わざわざ、そのようなことを言うのは、水谷建設からの5000万円の受領の主張・立証が行われなかった小沢氏事件の公判で、石川氏の犯意や隠蔽の意図を否定した小川裁判部に「喧嘩を売っている」としか思えない。
しかし、わざわざ「喧嘩を売っている」わりには、納得できるような根拠は何一つ示していない。その理由とされているのは、前記ブログでも詳述したように明らかに不合理な一審判決の「推認」を丸ごと容認しているだけだ。
しかも、石川氏の弁護人の安田弁護士が記者会見で明らかにしたところでは、秘書事件の一審で、全日空ホテルで5000万円を石川氏に渡したことを認める証言をした水谷建設関係者が、その証言が検察官の誘導によるもので、実際には渡した日時も相手も記憶にないことを認める陳述書等、5000万円の授受がなかったことを明らかにする証拠を請求したのに、飯田裁判長は、その証拠請求を却下したとのことだ。飯田裁判長には、事実に向き合う気も、小川裁判部の認定や判断と異なる判断を示すことについて納得できる根拠を示す気も全くないと言わざるを得ない。
要するに、「小川裁判部がどういう認定をしようとクソくらえだ。私の裁判部では、どんな判断をしようと私の勝手だ。ざまあ見ろ」と言っているようなものだ。
控訴審裁判長が「絶対権力者」となる日本の刑事裁判の歪み
日本の刑事裁判は、三審制とは言え、上告理由は、憲法違反、判例違反等に限られており、事実認定、法律適用については、事実上控訴審が最終判断であり、その当否が上告審で見直されることは殆どない。こうした日本の刑事裁判の現実の下では、控訴審の裁判長を務める高裁部総括判事というのは、まさに「刑事司法の絶対権力者」なのだ。
しかし、人の命や人生そのものを決定的に左右しかねない刑事裁判で、このような野蛮な判決が行われることは到底許容できない。
たしかに、刑事裁判では、共犯者間で、証拠が違えば同じ犯罪事実についても結論が異なることはあり得る。例えば、甲は、事実を全面的に認めて検察官請求の証拠をすべて同意し、同じ事実で起訴された共犯の乙は全面否認して証拠をすべて不同意にした、ということであれば、甲の裁判では、検察官請求の証拠だけで事実認定をせざるを得ないのだから、乙の公判での証人尋問の結果如何で、甲、乙の裁判の結果が異なるのは致し方ない。
しかし、今回の飯田裁判部による控訴審判決の問題はそれとは全く異なる。
同じ東京高裁の小川裁判部の小沢氏事件の控訴審で、秘書の犯意、隠蔽の意図等についても認定が行われ、判断が示された。そして、その根拠とされた証拠について、記録の取り寄せも行い、弁護人が証拠請求しているのであるから、その証拠を採用し、必要なら証人尋問も行うことも可能だった。そのような審理を尽くした上で、小川裁判部の認定がおかしいというのであれば、堂々とそういう判断を行い、最終的には最高裁の判断に委ねるべきだ。
ところが、この飯田裁判部の判決文には、そのような姿勢は全く見られない。東電OL事件での冤罪裁判官の汚名にもかかわらず、「刑事司法の絶対権力者」の地位にある飯田裁判長の傲慢さを象徴した判決と見るべきであろう。
石川氏は、控訴審判決を不服として即日上告した。憲法違反、判例違反等の上告理由はなくても、高裁の二つの判決で同一の事実についての認定・評価が真っ二つに割れているのであるから、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」事由が問題になることは明らかだ。最高裁は、事実審理を行った上、小川裁判部の判断と飯田裁判部の判断のいずれが正しいのか、裁判所としての最終判断を示すべきである。
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