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沖縄がまた激怒している。安倍政権が、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として、式典開催を決めたのだ。だが、この日は、沖縄にとっては、本土から切り離され、米施政権下に置かれた「屈辱の日」。「今でもヤマトは沖縄を日本とは思っていない」。怒りの炎は燃え上がっている。(小坂井文彦)
「米軍の演習でサンゴ礁は度々破壊されてきた。辺野古の先に飛行場が建設されると、漁場が崩壊し漁民は生きていけなくなる。建設を即時停止しろ」
宜野座村の宜野座漁港に16日、同村と金武町、うるま市石川地区の3漁協の漁師約150人が集結し、埋め立て反対の声を上げた。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に対し、沖縄県民の反対の声は高まるばかりだ。2010年の名護市長選では、反対を訴えた稲嶺進氏が当選。11年末には、政府の辺野古周辺の環境影響評価(アセスメント)評価書の県提出をめぐり、県民は座り込みで抵抗した。予定した14年の移設は絶望的な情勢とみられていた。
◆政権交代受け 移設協議加速
ところが、政権交代で安倍晋三氏が首相に就くと、状況は一変。辺野古移設は加速し始めた。2月の日米首脳会談で、普天間飛行場の早期移設で合意し、米側の意向に沿う姿勢を鮮明にした。
宜野座村漁協の城間盛春組合長(65)は「安倍首相になって、話がとんとん拍子に進み始めた。沖縄防衛局の担当者から最近の話し合いで、『埋め立てはあなたたちに関係のない問題』と言われた」と打ち明ける。
それは、辺野古沖の漁業権を持つ名護漁協が今月11日、埋め立てに同意する方針を決めたことと関係がある。
漁業権は水域ごとに決められている。辺野古沖の埋め立て予定地は「5号水域」で名護漁協が漁業権を持つ。一方、宜野座村漁協の漁業権はその南西側に隣接する「7号水域」にある。政府はこれまでどの水域を漁業補償の対象とするのかについてあいまいにしてきたが、名護漁協の同意のめどが付いたことで、「7号水域」は、補償外とする方針になったとみられる。
海に境界はない。宜野座沖はモズク養殖が盛んで、これから6月にかけてが収穫時期。漁師の一人は「埋め立てに使う赤土の微粒子が付着するとモズクは育たない。この辺は西に向かって潮が流れる。東の辺野古のサンゴが破壊されたら魚も貝も激減する」と心配する。
名護漁協が埋め立てに同意したのには、わけがある。名護市は沖縄本島の東西の海岸に面している。辺野古は東海岸に位置するが、漁協内で発言力があるのは約8割を占める西海岸の組合員たちだ。
補償金は漁協に一括して支給され、辺野古で漁をしない漁師にも渡る。またも、カネの力で地元を屈服させるやり方。宜野座村の漁師たちは「今まで通りに漁を続けることができて、カネがもらえるのなら賛成もするさ」と冷ややかだ。
政府は名護漁協の同意方針を受け、環境は整ったとみて、今月中にも埋め立て許可を仲井真弘多知事に申請する方針だ。だが、ハードルは低くない。埋め立てには、公有水面埋立法で県知事の承認が必要。知事は地元自治体の首長の意見を尊重して判断する。名護市長は反対の姿勢を崩さず、仲井真知事もアセスで反対意見を述べている。
辺野古でテントを張り、交代で反対の座り込みを続ける写真家の牧志治さん(63)は「油断はできない。来年1月の名護市長選で、自民党は賛成派を立候補させ、必死に戦うだろう。官房機密費を使ってカネをばらまくとうわさしている」。
沖縄県民の怒りの火に油を注いでいるのが、安倍政権が今月12日に閣議決定した「主権回復の日」の式典開催だ。4月28日は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効し、主権を回復したというのが、その理由。国会近くの憲政記念館で式典を開く。
だが、4月28日を、沖縄の人たちは長らく「屈辱の日」と呼んできた歴史がある。
◆本土と異なり 米の施政権下
ヘリ基地反対協議会の共同代表、安次富浩さん(67)は「みんな反対。沖縄への差別ですよ」。牧志さんも「沖縄を植民地として、しかも軍事的に提供した日。今まで何もしてこなかったのに、なぜ今年になって」と憤る。
確かに、日本の主権は回復されたが、沖縄や奄美群島、小笠原諸島は米国の施政権下に置かれることになった。いわば、沖縄を犠牲として、米国に差し出すことで主権を回復した日だ。本土にとっては「独立」であっても、沖縄にとっては「屈辱」でしかなかった。
その後、米国は「銃剣とブルドーザー」と呼ばれた強引な基地建設を進め、米兵による事件や事故も相次いだ。4月28日は「屈辱の日」と呼ばれるようになり、祖国復帰闘争では毎年、集会やデモが行われた。仲井真知事は「この日が現在の過重な基地負担につながる苦難の第一歩だったことを沖縄は忘れていない」とコメントした。
式典には、天皇、皇后両陛下の出席が予定されている。衆参両院の議長、最高裁判長も出席し、全国会議員と都道府県知事にも招待状を出すという。沖縄では「天皇の政治利用ではないか」という声さえ出ている。
基地問題に取り組む建築家の真喜志好一さん(69)は「式典をやればよい。君たち(本土)と僕たち(沖縄)の溝はもっと深まるぞ」と突き放す。「民主主義をただの多数決だと思っている。だから、少数派である被差別部落、アイヌ、在日、沖縄はすっぽり抜け落ちる」と怒る。
◆復帰記念碑の石板 一部破壊
最近、4・28を思い起こさせる出来事がほかにもあった。沖縄最北端の辺戸岬に立つ「祖国復帰闘争碑」の石板の一部が破壊されたのだ。牧志さんは「いたずらとは思えない。碑の文面を嫌った本土の誰かが壊したと、うわさしている」。
碑には「鉄の暴風やみ、平和のおとずれを信じた沖縄県民は1952年4月28日、屈辱的な米国支配の鉄鎖に繋がれた」と刻まれ、こう続く。「1972年5月15日、沖縄の祖国復帰は実現した。しかし、県民の平和への願いは叶えられず、日米国家権力の恣意のまま軍事強化に逆用された」
またも沖縄は「捨て石」にされようとしている。宜野座村の漁師伊芸幸雄さん(70)は「屈辱の日という感覚は薄れてきていたのに。寝た子を起こしたというか、思い出させてくれた」と話す。「沖縄でどれだけ叫んでも、東京では大きく報道されない。どうせ、本土の人は、沖縄には関心がないのでしょう」
[デスクメモ]
野球のWBCも米国主導の大会だ。米国側に有利な利益配分だとして、日本の選手会は反発したが、結局、押し切られた。野球といえば、復帰前、沖縄の高校球児が検疫の関係で、甲子園の土を持ち帰ることができなかった。本土の人間は忘れても、沖縄のみなさんは、いつまでも忘れていないと思う。(国)
2013年3月19日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013031902000134.html
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