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2013年3月17日 植草一秀の『知られざる真実』
安倍晋三氏によるTPP交渉参加表明に対して冷静で的確な論評を示すメディアも、数は少ないが存在する。
北海道新聞社説、愛媛新聞社説は、次のタイトルでTPP交渉参加問題を論じた。
北海道新聞
「TPP交渉参加表明 「国益」損なう拙速な判断」(3月16日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/449610.html
愛媛新聞
「TPP交渉参加表明 国益守る保証が見当たらない」(3月17日)
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201303177140.html
二紙とも極めて正鵠を射た指摘を示している。
二紙以外の大半のマスメディアが、政府決定礼賛の御用報道を繰り広げていることは、日本のメディアの劣化、権力依存体質を示すもので、嘆かわしいものである。
TPP交渉参加決定を批判する主張の論拠は、手続き論と内容論との両面から提示されている。
手続き論としては、以下の三つの指摘がある。
第一に、選挙の際の主権者に対する説明と安倍晋三氏との行動の間に矛盾があること。
第二に、自民党内にTPP検討の委員会が設置されて、わずか1週間で交渉参加を決定したこと。
第三に、TPPに参加した場合の影響試算をこれまで一切発表してこなかったとだ。
北海道新聞は次の指摘を示す。
「先の衆院選で掲げた公約との整合性も疑問が拭えないままだ。
自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と訴え、交渉に前向きな政党との違いを打ち出していたのではなかったか。農業関係者らが反発を強めるのは当然である。
交渉参加の「断固阻止」で支持を呼びかけた道内選出議員の説明責任も厳しく問われなければならない。
「農業をはじめ影響の大きい交渉にもかかわらず、あまりに拙速な判断ではないか。自民党のTPP対策委員会が発足し、議論を始めてからたったの1週間余りである。
首相は交渉参加の利益と不利益の説明を尽くす責務がある。国民不在の独断は容認できない。」
「政府が統一試算を公表したのは首相の参加表明と同時だった。事前に公表しなかった対応は極めて問題だ。
国民にとって議論の材料となるデータである。これでははじめに「参加ありき」と言わざるを得ない。」
私はTPPに参加する場合の弊害を五点列挙してきた。
1.日本の農業が破壊される。これは同時に、日本の文化、伝統、共同体社会が破壊されることを意味する。
2.国民の生命・安全・健康を守るための諸規制、諸制度が破壊される。
3.公的医療保険制度の根幹が破壊される。
4.共済制度が破壊される。
5.ISDS条項で国家主権が失われる。
これらの重大な問題が存在する一方で、日本がTPPに参加して得られるメリットとしては、GDPが10年後に0.66%拡大するということだけなのだ。
この数字も意図的に「創作」した数字に過ぎない。私はかつて売上税を導入した場合の経済への影響政府試算を行ったことがある。このときも、結論は試算の前に示されていた。
TPPと言っても、実態は日米EPAに過ぎない。
工業製品の関税率はすでに非常に低く、関税撤廃で日本が得るメリットは極めて小さい。
しかし、日本の農産物の関税が撤廃されれば、日本農業が壊滅することは火を見るよりも明らかだ。
日本の国柄を守り、美しい田園風景を守る考えを持つなら、TPPに参加しないという以外に選択肢はない。
「日本の国柄を守り、美しい田園風景を守ると言いながらTPPに参加する」との主張を支える、説得力のある説明が何ひとつ示されていない。
そこから透けて見える構図は、安倍晋三氏がわが身の保身だけを優先して、米国の命令にただひたすらひれ伏す姿勢である。
このような行動は明らかに日本国民の利益に反する。
主権者国民は全力をあげて安倍政権打倒を目指してゆく必要がある。
愛媛新聞の指摘は冷静である。
「首相がいくら強調しようとも、今後の交渉で日本が主導権を握れる余地は少ないと言わねばならない。」
TPPの最重要な点は、これが単なる関税撤廃交渉ではないことだ。
21分野の協議対象において、関税撤廃は21分の1しか占めていないのだ。
何よりも重大な影響を持つことになるのがISDS条項。愛媛新聞は次の記述を示す。
「不利益を受けた企業が相手国を訴え制度撤廃などに追い込める「投資家・国家間の紛争解決(ISDS)条項」は、日本の国民皆保険制度や厳しい食の安全基準、環境基準までをも揺るがしかねない。」
TPPで日本が得るものは限りなく少なく、失うものは限りなく大きい。これがTPPの偽りのない姿である。
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