07. 2013年3月15日 02:40:37
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>農業打撃、数兆円規模 TPP政府試算こういう試算もあるな http://blogos.com/article/26931/ TPPと日本農業 - 原田泰 原田 泰 東京財団上席研究員・大和総研顧問
日本がTPPに参加することで、日本農業は壊滅的打撃を受けるという議論がある。農林水産省は、米、小麦、甘味資源作物、牛乳乳製品、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵等の19品目を対象として試算した結果、農産物の生産減少額が4.1兆円、農業及び関連産業への影響でGDPが7.9兆円減少すると試算している(包括的経済連携に関する資料「農林水産省試算」2010年10月22日)。一方、TPPに参加してもしなくても日本農業の衰退は止まらない。であるなら、TPPを契機として、日本農業の構造改革を図り、むしろ打って出るべきであるという議論もある。これらの議論を検討する前に、そもそも、日本農業がどのような状況にあるのかをまず考えてみよう。
日本農業の概観図日本の農業(林業、水産業を含まない。以下、断らない限り同じ)総生産額(売り上げから機械、肥料、農薬などの投入費用を除いた付加価値)は、5.3兆円、農産物輸入額が4.8兆円、農業予算(林業、水産業予算を含むが大部分は農業である)が2.3兆円である。農産物の関税収入は0.5兆円である(関税・外国為替等審議会第4回総会(2007.4.20)提出資料)。また、OECD Producer and Consumer Support Estimates 2010によると、日本の国内価格は、国際価格の1.56倍である。ここの数字では国内農業生産額/(国内農業生産額+農産物輸入額)で表される食糧自給率は約5割となり、通常用いられている4割という数字より高いが、これは通常のものがカロリーベースであるの対して、ここでの数字が金額ベースだからである 。これらの数字を用いて、日本農業の現状を模式的に示したのが図1である。 現在の日本の農産物供給は、国内消費のほぼ半分を賄うものであり、農業総生産額は前述のように5.3兆円である。これは2.3兆円の農業予算、すなわち農業への補助金と1.56倍の価格引上げという補助、すなわち1.9兆円(=5.3×0.56÷1.56)の価格維持による補助を与えられた結果である。すなわち、図の補助金がないときの供給曲線から、2.3兆円の補助金と1.9兆円の価格維持、合計して4.2兆円の補助によって供給曲線を右方にシフトさせ、生産を維持した姿が、現在の日本の農産物生産ということになる。すると、もし補助がなければ、日本農業の生産は5.3兆円マイナス4.2兆円で1兆円ということになる。すなわち、壊滅してもおかしくない農業生産を4.2兆円の補助で支えてなんとか5.2兆円の付加価値を作り出していることになる。しかも、消費者がより高い農産物を買わされているコストは、国内消費量と内外価格の差であるから1.9兆円と本来あるべき関税収入2.7兆円の和の4.6兆円にもなる。さらに、関税収入は輸入額×0.56で2.7兆円あっても良いはずだが、現実には0.5兆円しかない。何か、非常に奇妙なことが行われているのではないだろうか。 確かに、繰り返しになるが、もし補助がなければ、日本農業の生産は5.3兆円マイナス4.2兆円で1兆円ということになるから、農業を自由化すれば大変だという人がいるのは分かる。しかし、ほとんど保護されていないにもかかわらず、着実に生産している分野も多い。 2011年11月4日の本欄論考「TPPを契機に農産物の差別を止めよ」で述べたように、日本は、同じ農林水産業でありながら、農産物によって保護の程度があまりにも異なる。例えば、大豆、トウモロコシの関税率は0%であり、野菜の関税率も3〜9%である。それに対して、こんにゃくいも1700%、コメ778%、タピオカでんぷん583%、バター360%、砂糖328%、小麦252%、いもでんぷん234%、脱脂粉乳218%、牛肉38.5%、オレンジ40%(季節により20%)、加工用トマト20%である。 すると、保護されていない分野は自立して生産を行い、保護されている分野は保護されているにもかかわらずいつまでも自立して生産できるようにはならないということになる。もちろん、因果関係は逆で、構造的に日本において生産性が上がらない分野だからだということはある。 日本の農業でも大規模化が進んでいる 図2は販売額ごとの農家の全体に占めるシェアを示したものである。例えば、ブロイラーについてみると、売上げ1000万円以上の経営体の全生産額に占めるシェアは98.1%となっている。売上げ1000万円以上のシェアが高いのは他に採卵鶏、豚、乳用牛で、いずれも97%以上である。 これに対して、果樹、稲、野菜類は1000万円以上の売上げを持つ経営体のシェアが低く、それぞれ38.8%、50.5%、63.0%である。この間に、シェアの高い順に肉用牛、麦類、その他の作物、工芸農作物、花き類・花木、豆類、いも類、雑穀が並ぶ。稲は本来大規模な経営に適しているが、それを小規模農家でも経営できるように保護をしてきた結果だろう。果樹や野菜は人手がかかり、外国人労働力を大量に使うことの困難な日本では、規模拡大には限度があるということだろう。しかし、規制や保護がなければ、それぞれの作物の特質によって大規模がもっと進んでいただろう。そして、規制や保護のある状況でも、いくつかの作物では大規模化が進んだということである。すなわち、実際の生産の多くは、すでに大規模化が進み、それ以外は小規模の兼業農家が田畑を耕しているという姿が見えてくる。 広大な土地を持つ新大陸に比べて、穀物生産などは不利である。しかし、人口に対する土地の面積が重要なのではなく、農業者に対する耕地面積が重要なのである。農業者が減少すれば、農業者当たりの耕地面積は拡大する。新大陸でも、これほど大規模化が進んだのは、農民やその子どもが都市に移動した結果でもある。 日本の場合、むしろ、政治的な理由で、農業者をあえて減らさないようにしてきたから平均で見た農家一戸当たり耕地面積が小さいのであろう。日本の総農家数は253万戸だが、専業農家は44万戸である。耕地面積は459万ヘクタールだから、総農家戸数で割れば一戸当たり1.8ヘクタールに過ぎないが、専業農家戸数で割れば一戸当たり10.4ヘクタールになる。 農水省のデータとは定義が異なるが、FAO統計(FAOS TAT)から耕地面積を農林水産業就業者で割ると、一人当たりは、日本2.6、韓国1.2、中国0.2、アメリカ63.8、カナダ132.3、オーストラリア99.4、イギリス12.4、イタリア7.8、オランダ4.7、ベルギー13.4、フランス7.3、ドイツ4.2ヘクタールなどとなる。アメリカなど新大陸の国にはかなわないが、ヨーロッパの国には十分対抗できるのではないか。日本の一人当たり耕地面積は、韓国や中国などに比べればすでに広い。 ヨーロッパの農業は食品産業 ヨーロッパ諸国の農業は、新大陸に比べれば規模が小さいが、世界の農業において主要な役割を果たしている。図3は、世界の農産物輸出額の多い国20か国と韓国、日本の輸出額とその内訳を示したものである。図に見るように、アメリカの次はオランダ、ドイツ、フランス、ベルギー、イタリア、カナダ、スペイン、中国、アルゼンチンと並んでいて、10位までにヨーロッパの国が6国も入っている。 図4は、世界の農産物輸入額の多い国20か国と韓国、日本の輸入額とその内訳を示したものである。図に見るように、日本と韓国を除いて、輸出大国は輸入大国でもあることが多い。10位までの輸出大国のうち10位までの輸入大国である国は、ドイツ、アメリカ、フランス、オランダ、イタリア、ベルギー、スペインと7か国もあり、うち6か国がヨーロッパの国である。 以上の中で、特に、オランダとベルギーが興味深い。これらの小さな国は何を輸出また輸入しているのだろうか。図で見る限り、オランダは肉類、油脂、タバコを輸出し、油脂、果物、穀物を輸入している。ベルギーは、肉類、果物、油脂を輸出し、果物、油脂、穀物を輸入している。しかし、いずれの国もその他の輸出、輸入品目が多く、これだけでは分からない。 そこで次に、オランダ、ベルギー、日本のそれぞれの上位20位までの輸出品目を示したのが図5、6、7である。 図5でオランダを見ると、タバコ、加工食品、全乳チーズ、骨なし牛・子牛肉、大麦ビールが上位5品目である。FAO統計の農産物には加工食品が入っているのである。図6のベルギーの上位5品目は、チョコレート材料、菓子、バナナ、冷凍野菜、加工食品である。もちろん、チョコレートもバナナもベルギーでは生産できない。輸入して加工して輸出しているのである。 加工であれば日本でもできることで、図7に見るように日本の輸出農産物の上位5品目は、加工食品、タバコ、菓子、非アルコール飲料、乳児食品である。日本の農産輸出品も加工食品なのである。問題は、日本の輸出額が小さいことである。オランダの加工食品輸出額が29億ドルであるのに対し日本は7億ドルにすぎない。図5、6、7では、縦軸の輸出額を揃えてあるので、日本の食品輸出額が、ヨーロッパの小国にも及ばないことがはっきりと分かる。 日本は、ミシュランで世界一の美食の国と認められたのに(東京はどの大都市よりも星が多い)、食品輸出が低調なのは不思議である。 日本の食品輸出が低調なのは、農水省が、国内農産物を守るために、食品の原材料の輸入を割り当てるなどをしたことによって、日本の食品産業の発展が制約されたからだろう。冒頭に紹介した、TPPについての農林水産省の試算では、関連産業への影響でGDPが7.9兆円減少するとしている。しかし、原材料はむしろ輸入が自由になるので、関連産業でGDPが減少するとは考えられない。農水省は、輸入自由化で食品産業が発展することは考えていないらしい。 加工食品の輸出は農産物の輸出だろうかここで当然の疑問が生じる。加工食品の輸出を農産物の輸出と言えるだろうか。FAOはそうだと言い、日本の農林水産省もそれを認めている。FAO(国際連合食糧農業機関Food and Agriculture Organization)は、飢餓の撲滅を目的とする国際機関で、マークに入っているfiat panisとは、FAOのモットーで、「人々に食べ物あれ」というラテン語だという。農水省は水産物も含めた独自の統計を作っているが(FAOは水産物を含めていない)、それによると、上位5品目は、たばこ、ソース混合調味料、さけ・ます(生・蔵・凍)、アルコール飲料、真珠(天然・養殖)となる。 加工食品を農産物輸出に含める意味があるだろうか。それは、そもそも何のために農業を守る必要があるのかを考えることになる。農業保護の理由を、いざというときの食料の安全保障、地方の産業の維持、農地の環境保全機能の保全と考えると、最初の2つの機能については、食品加工品も農業に含める意味がある。まず、食品加工業は食品の在庫を持つ。これはわざわざ備蓄するよりも安価である。加工して輸出するのだから、国内需要以上の輸入を恒常的に行っていることになる。なんらかの理由によって輸入が同じ割合だけ減るのなら、食品加工業を持っていることは食料安全保障になる。食品加工業は、地域の産業になる。地域で生産したものを加工すれば、当然、農業以上の付加価値が地域に落ちる。原材料を輸入して加工しても、製造業が地域の雇用を支えているように、地域の産業になる。 結語 まず、認識すべきは、日本の農業政策はうまくいっていないということである。農業は多大な保護を与えられながら産業として自立することができなかった。保護の与え方が失敗したということである。 産業として自立するには生産性を上げなければならないが、それは農業就業人口が減少することである。農業人口の減少は農村地帯の政治力を低下させることであるから、それを嫌って、農業者一人当たりの耕地面積を引き上げることは行われて来なかった。しかし、農業で豊かになることができると考える人々の力によって、多くの農産物で、数少ない大規模な農家が、生産額の多くを生産するようになってきた。この力を活かせば、生産性の高い農業を創ることができるだろう。 そのために農村の人口が減少するのであれば、食品産業によって雇用を造るのが望ましかったのではないか。ヨーロッパが、食品産業を農業と考えていることに学ぶべきである。すなわち、農業は大規模化し、農村人口の維持は、農業の範囲を広く考えることで対応するということである。 また、多くの農産物で、数少ない大規模な農家が、生産額の多くを生産するようになってきたことから、政策の基本的な考えを変えるべきである。農家戸別所得補償政策で小規模農家に補償することは、大規模化を妨げ望ましくないが、政治的には難しいというジレンマがあるとされる。しかし、大規模農家が生産額の多くを生産しているのであれば、生産量当たり一律に配ってしまっても、大部分は大規模農家に行き、規模拡大の妨げにはならない。図2のデータから計算すると、稲の戸別所得補償の67%は販売額500万円以上の農家に行く。それ以外の作物であれば、ほぼすべてで8割を越す。農家戸別所得補償は、自立する農家を助ける政策となる。それでも、農家戸別所得補償は、自立した農家を助けるためには2割の予算が無駄になるという人がいるかもしれない。しかし、そもそもこれまでの農業政策の多くが無駄だったようなものだ。2割の無駄にこだわることはない。 この記事を筆者のブログで読む 意見する 0 支持する 0 あわせて読みたい記事
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