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2013/3/13 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
国民を騙し国民に隠してTPP参加は既成事実化している
TPPをめぐる議論がヤマ場を迎えている。自民党は5つのグループに分かれ、部会レベルでTPPの検討を行っているが、きょう(13日)夜、党としての「決議案」をまとめる。これを受けて、15日に安倍首相が正式に交渉参加を表明する方針となったが、ふざけた話だ。
自民党は先の衆院選挙で「TPP反対」を公約に掲げ、6割の議員がそれを「売り物」に選挙を勝ち抜いてきたのである。民主党の公約破りをあれだけ非難しながら、自分たちは平気で有権者を裏切る厚顔無恥。あきれ返った連中だ。
「表向きは党内が荒れているように見せていますが、デキレースですよ。その証拠に5つのグループに分かれているTPP対策委員会のうち、農業分野を話し合っている第4グループ以外は全然、荒れていない。その第4グループも昨日の会合は大きなヤマ場だったのに1時間の予定が45分間で終わってしまった。民主党だって、消費増税の決着の時はエンドレスでモメたのに自民党はひどいものです。反対は有権者向けのポーズでしょう」(ジャーナリスト・横田一氏)
TPPの議論で許し難いのは、こうやって、平気で国民にウソをつく国会議員が大勢いることだ。というか、TPPに関しては、何から何までウソとインチキで塗り固められている。ここが異常で恐ろしいところだ。
自民党議員が選挙公約を無視して、最後は容認に転じる大義名分は、安倍首相が先の日米会談で「聖域」を確認し、石破幹事長も「守るべきものは守る」なんて声を張り上げているからだ。しかし、これがまずウソ。「TPPで景気回復」も、もちろんウソ、「今、交渉に参加しないとルール作りに加われず、乗り遅れる」というのも真っ赤なウソ。それどころか、こんなもんに参加したら、日本は米国に骨までしゃぶられてしまう。元外交官の孫崎享氏は「幕末の開国時よりもひどいことになる。日本は主権を奪われてしまう」とまで断じている。
「TPPでバラ色の未来」は冗談みたいな話なのだが、恐ろしいことに、そうした情報はちっとも新聞に出てこない。政治家とメディアが一体となって、情報を隠し、ウソを流布する。国民には何も知らせず、だまくらかして、その間に自分たちだけで勝手に亡国の交渉を進めてしまう。これが今のTPPの議論なのである。
東大大学院教授の鈴木宣弘氏は「世界」4月号でこうした状況を「信じがたい事態」「許しがたい背信行為」と書いた。まさしく、TPPの本質を射抜いている。
◆ウソをつかなければ交渉参加はできないのか
TPPをめぐるウソを挙げていけばきりがない。が、どうしても強調しておきたいのは次の3点だ。
「輸出が伸びて景気回復なんてあり得ないこと」「交渉次第なんて大ウソであること」、その結果、「日本は食の安全や皆保険制度まで脅かされ、国全体がボロボロにされてしまう」ということだ。
「TPPに参加すれば、どれだけ経済効果があるのか。経済産業省は10・5兆円のプラスとはじき、農水省は7・9兆円の損失といっています。間を取って、内閣は2・7兆円プラス。それじゃあ、議論にならないから自民党の部会でも『政府としての統一見解を出せ』となった。しかし、いまだに試算は出ていません。出したくても出せないんですよ。出せば、TPPのメリットなんてほとんどないということがバレてしまいますからね。交渉参加表明の後に、後出しジャンケンで出す。そんな筋書きで、こういうところにTPPの正体が見える。国民を騙(だま)さなければ、交渉参加は無理なのです」(横田一氏=前出)
前出の鈴木宣弘教授は〈内閣府の試算でも日本がTPPに参加してもGDPは0・54%しか増えない。日中2国間のFTAでもそれより多い0・66%、日中韓FTAだと0・74%〉とはじき、〈TPPは損失が最大で利益が最小の「最悪の選択肢」〉と書いた。これが真相だ。
◆不利な情報をひた隠しの亡国官僚
しかも、今後の交渉次第で日本の利益が増える可能性があるかというと、とんでもないのだ。
民主党の前原前政調会長が国会で、米との事前交渉の「内幕」を暴露した。それによると、米政府は野田政権時代から、「米国が輸入乗用車にかけている関税を一定期間、維持すること」「米国の安全基準を満たした車は日本で安全審査なしとし、輸入枠を設けること」などを要求してきたという。「事前交渉ってなんだ?」じゃないか。米国の関税は乗用車2・5%、トラック25%。こんなもんを維持されたら、日本車が売れるわけがない。何のためのTPPなのか、ということになる。2番目の要求にいたってはムチャクチャで、前原は「あまりに不公平なのでわれわれは妥協しなかった」と言っていたが、自民党政権はこうした事前交渉をどんどん進めているとみられている。それをしなければ、日本の参加の是非を判断する米議会の承認がスムーズにいかないと、圧力をかけられているからだ。
自民党議員は「これじゃあ参加表明前に全面武装解除して、白旗を掲げるようなものだ」と嘆いていたが、おそらく、裏ではどんどん譲歩を強いられているのだろう。
そのうえ、日本がこれから交渉に参加しても「すでに確定した内容に口出しできず、文言修正も認められない」。これも最近になって分かったことだ。政府はこうした情報をひた隠しにしてきたのである。
「これでは今後、日本が何を言っても交渉になりませんが、官僚はこうした事情を知っていて口をつぐんできたわけです。おそらく、国会議員も知らされていないでしょうね。とんでもない情報隠しが行われ、ウソの情報で、国全体がTPP参加に向けて突っ走っているのです」(元外交官・天木直人氏)
こうした不平等条約を一つ一つ考慮すれば、TPP参加で日本が享受できるメリットなんて、何もないことがすぐ分かる。一体、何のための交渉参加なのか。奇々怪々と言うしかない。
◆社会、文化まで変えさせるTPPの怖さ
鈴木宣弘教授はTPPの本質を「1%の、1%による、1%のための協定」と表現した。この協定でトクするのは米国の富の40%を握る1%の人々、つまり多国籍化した巨大企業だ。
日本企業は蹴散らされ、それでも生き残るためには自由化されたアジアの労働市場に進出するしかない。国内はますます、空洞化し、内需はどんどん細っていく。若者は職にあぶれ、相変わらず、二極化が拡大していくことになる。
食の安全や環境だって危機である。2011年12月、米国の公聴会ではマランティスUSTR次席代表が「日本が不透明で科学的根拠に基づかない検疫措置で米国の農産物を締め出しているのは是正すべきだ」と発言した。今後はBSE規制を撤廃させ、遺伝子組み換え食品もどんどん入れる。スーパーが遺伝子組み換え表示をしようものなら、「自由貿易の妨げだ」とか噛み付く。撤回しなければ、ISD条項の発動だ。企業が自由な企業活動を邪魔されているとして、国際裁判所に訴え、国の制度を変えさせてしまう「毒薬条項」のことだ。こうやって、TPPは国民の社会常識、ルール、慣習、文化までを変えてしまうのだが、韓国にはいい例がある。
「TPPのモデルといわれる米韓FTAを締結した韓国では環境のためにエコカー補助金を出そうとしていた。ところが、米国がクレームをつけて、2015年まで延期になった。そうした措置は大型車が多い米国車の輸入を阻む。FTA違反だというのです。米国が公共政策にまで口出しできるわけで、まさしく国家主権の侵害です」(立大教授・郭洋春氏=経済学)
◆交渉参加すれば国民皆保険も風前の灯
この調子だと、TPPに参加した途端、日本も同じようにやられてしまう。TPPの交渉分野は農業や自動車に限らず、保険、医療など社会のセーフティーネットの分野にまで及ぶのだから、なおさらヤバイ。
「現在も米国は官民挙げて日本の医療改革を要求しています。あからさまに国民健康保険をやめろとは言わないまでも、医療の株式会社参入や薬価・医療技術の規制緩和を求めてくるでしょう。そうなれば、国民皆保険は、なし崩しになっていく。抵抗しても、ISD条項で訴えられれば、米国の投資家の利益が日本の法律よりも優先されてしまう。まさに主権の喪失で、私が幕末よりもヒドイ状況と嘆くのはそういう意味です」(孫崎享氏=前出)
世間は株高に浮かれているが、その裏でこの国は壊れつつある。円安・株高だっって、どうせ米国の投資家の利益だ。その後はお決まりのバブル崩壊。日本は再び、焼け野原になって、米国にやりたい放題やられてしまう。そのツールがTPPなのである。
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