49. 2013年3月13日 23:23:00
: O2thzEsoVo
がんばれ、石原慎太郎!2010年9月7日の中国漁船衝突事件を機に「領土に対する意識が、住民に足りなかったのでは」という反省の声が、石垣市民からも上がり始めてきた。 2010年12月、石垣市は、1895年に尖閣諸島の日本領編入が閣議決定された1月14日を「尖閣諸島開拓の日」と定め、以降、毎年記念式典を挙行することになった。最初の記念式典が開かれたのが、教科書問題が勃発する半年ほど前である。私もようやく「国境の島の新聞社として、尖閣諸島問題には本腰を入れる必要がある」と感じていた。 八重山諸島で使用する教科書を選定するために3市町が設置した「教科用図書八重山採択地区協議会」の委員の1人は、後に公民教科書は育鵬社版に投票したことを明かし、「尖閣諸島の記述が一番のポイントだった」と証言している。 この委員は「今、中国に尖閣諸島を取られると、次は八重山、沖縄全体を取られる。中国はそういう国だ。領土を守るには実効支配しかない。保守も革新もない。それが私の信念」と訴えた。 確かに、石垣市に「尖閣」がなければ、育鵬社版の教科書が採択され、教科書をめぐる対立が起きる可能性は低かったかもしれない。 国境の島であり、尖閣諸島を抱える自治体でありながら、石垣市の教育現場では、これまで尖閣諸島についてはほとんど教えていなかった。そもそも教員が無関心だった。領土に関する学習は中学校の公民で扱うが、10年以上使用されてきた東京書籍版では、尖閣諸島についてほとんど記述がない。 石垣市、ひいては沖縄の学校現場で、意識的に尖閣や竹島、北方領土問題に触れる教員は、おそらく皆無だったと思われる。私自身、石垣市で小学校から高校まで学んだが、学校で「尖閣」という言葉を聞いた覚えがない。石垣市は長く革新地盤だった。前市長の大浜長照が4期16年市長を務める前には、1期だけ保守系の市長が当選している。しかしその前の市長は革新系の市長で、やはり4期16市政を担った。 教育委員会も革新系とされる人たちで占められており、常に定年退職した校長が就任していた教育長も沖教組の影響力を強く受けていた。教育行政にせよ教育現場にせよ、ことさらに領土問題を子供に教えようという気概はなかったのだ。 八重山の住民は尖閣諸島についての情報を、主にマスコミから得ていた。しかし学校の教室で学ぶのと、新聞を広げて知るのとでは、意識に大きな差が出るのは当然だろう。 尖閣諸島への上陸を繰り返し、実効支配の強化を訴えてきた市議で、尖閣諸島を守る会代表世話人の仲間均は「尖閣諸島は石垣市の行政区域だと、子供にしっかり教えるのが義務。これまでは自衛隊が国民を守っていることも詳しく教えていなかった」とこれまでの教育のあり方に疑問を投げかける。 一方、教職員でつくる沖教組は、教科書が尖閣諸島や竹島、北方領土について詳しく記述することを、長所とは考えておらず、中国や韓国、ロシアに対する敵愾心を煽る懸念があると主張している。領土問題を授業で取り扱うことには非常に消極的だ。 沖教組八重山支部執行委員長の上原邦夫は「(中国漁船衝突事件をきっかけに)領土問題に触れている教科書が良いという意見が出てきた」と、事件をきっかけに住民が「右傾化」していると危ぶむ。 これまで、八重山で使われてきた中学校の社会科教科書では、尖閣諸島はどのように記述されてきたのだろうか。育鵬社版や自由社版では何が変わったのだろうか。現在、中学校社会科の教科書は7社から出版されているが、八重山では、公民は東京書籍版を長年使用してきた。 尖閣諸島について、東京書籍版の公民教科書は「日本の領土ですが、中国がその領有を主張しています」という記述しかない。非常に日本の領有権があいまいな印象を与える。 育鵬社版と自由社版は、@日本の領土である、A1970年代、周辺海域で有望な油田が確認されて以来、中国が自国の領土だと主張し始めたーーという経緯を解説している。さらに、育鵬社版では、中国の主張について「領有権の主張を裏付けるに足る国際法上有効な根拠とは言えません」とする外務省の説明を引用している。中国漁船衝突事件についても紹介している。自由社版では、中国船が周辺で違法操業を繰り返していることにも言及。見開きのカラーで、日本の排他的経済水域(EEZ)の地図を掲載し、領土の意義を強調しているのも目立つ。 自衛隊の記述にも違いがある。 育鵬社版は「日本の防衛には不可欠な存在であり、また災害時の救援活動などでも国民から大きく期待されています」「国際社会の一員として公共の安全と秩序の維持に貢献しています」、自由社版も「国民の生命と財産を守る活動にも挺身し、これに対し多くの国民が共感と信頼を寄せています」「自衛隊の発足は、東西冷戦が厳しさを増すなか、我が国と東アジアの平和と安全を確保するうえで大きな意義を持ちました」と肯定的に評価する。 しかし、東京書籍版は、「日本国憲法は『戦力』の不保持を定めていますが、日本は国を防衛するために自衛隊を持っています」「平和と安全を守るためであっても、武器を持たないというのが日本国憲法の立場ではなかったのかという意見もあります」「自衛隊の任務の拡大は、世界平和と軍縮を率先して訴えるべき日本の立場にふさわしくないという声もあります」と否定的な表記が並んでいる。 中国や北朝鮮に関しても、育鵬社版は「2009年には北朝鮮が国連安保理決議に違反して、再びミサイル発射実験と核実験を強行し、朝鮮半島情勢はいっそう緊迫化しています」、自由社版も「北朝鮮による拉致事件や核ミサイル開発、中国の軍備増強、国際テロなどの新たな脅威が出現し、防衛力の役割は増しています」といずれも危機感を伝えている。 これに対し、東京書籍版は「日本が過去に植民地支配を行い、戦争で大きな被害を与えるなど、東アジアに耐えがたい苦しみをもたらしたことを忘れてはなりません」としたうえで、北朝鮮の核兵器開発について「解決すべき課題も存在します」とだけ述べている。 一方、沖縄の基地問題については、東京書籍版が「沖縄と基地」と題したコラムで米軍基地が住宅密集地の近くにあることを強調していることに加え、沖縄本島内の米軍基地を示した地図も掲載している。 育鵬社版は、本文では米軍基地については触れておらず、日米安全保障条約の条項と、普天間基地の写真のみで紹介。自由社版は国内の米軍基地を図示したうえで、沖縄について「県民の軽減負担が政治問題となっている」と述べるにとどまっている。 沖縄では一般的に、公民の場合は米軍基地の被害を強調する教科書、歴史の場合は沖縄戦の被害を強調する教科書が「良い教科書」とされる。地域性を重視する観点からは当然である。しかし、その点だけにとらわれてしまうと、教科書のあるべき姿の全体像を見失う。視野が狭くなってしまうのである。
|