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2013年03月10日 世相を斬る あいば達也
TPP交渉参加が今週にも安倍の一存で決まるとマスメディアは喧伝している。交渉の余地なき交渉参加の不気味さを、今さらのようにリークし始めている。小手先だらけの、日本の政治であり、官僚のテクニカルな国家方針の決定プロセスである。我が国は、こんな手法で、どのような重大な問題、国家の行き先を決めていたのだ、と今さらながら呆れると云うか、ため息交じりにデュー・プロセスを見つめている。
特に、約4年前の民主党の政権交代以降、日本の政治のデュー・プロセスを観察してきたが、第二次世界大戦における敗戦国としての地位は脈々継続している状況がよく理解できた。正直、このような状況から抜け出すには、どのようなプロセスが必要かも考えてみたが、どのような選択肢も頑強な壁にぶつかり跳ね返されてしまう。こんな事を書き出すと、自虐の日本史になってしまうのだが、それが紛れもない事実である事は、抵抗している人々自身、それなりに解釈し、呑みこんだり、気づかない風を装い、儚いなりの抵抗を企てているのだと思う。
安倍晋三にしても、米国から強くTPPへの参加を望まれ(命じられ)、断るに断り切れない状況に追い込まれているのだろう。どう考えても、1、包括的で高いレベルの貿易自由化を約束する。 2、合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さない。3、交渉の進展を遅らせない等と云う「早い者勝ちなルール」の中に、嬉々として、のろのろ後から飛び込むバカいないだろう。しかし、安倍は飛び込もうとしている。「今、入会しないと、来月から入会金は倍になりますよ」などと勧誘商法に近い誘惑の言葉に惑わされている。否、入会しないと対中問題で助けないぞ、と脅されているのかもしれない。
安倍とオバマの会談で了解されたように「TPP交渉参加に際し、一方的にすべての関税撤廃をあらかじめ約束することを求められない」とした文言も、入会し易くする方便であり、いか様にも解釈できるわけで、黒船、敗戦に次ぐ売国条約が結ばれてしまうのだろう。日本においては、開国は売国と同義な文言であるようだ。
ところで今夜の見出しの話だが、米国のシンク・タンクは、何故あれ程の力を持っているのだろうと考えていた。日本等のシンク・タンクは、精々リサーチの下請け的要素が強いのだが、米国のそれは、国家を左右に動かすだけの力を備え、米国政府以上に国益に沿う、モノの考えを常々準備している。この辺は、米国のシンク・タンクが利巧で、日本のは暇つぶしだからというわけでもない。最も明確な要因は、日本と米国の政治体制の違いによって起きるもののようである。つまり、米国では政権が変わる度に、ホワイトハウスの官僚達が入れ替わる。その為には、それなりの人材をどこかに貯めておく必要があるのだろう。日本では、政権が変わっても、霞が関官僚は常に不動で行政を取り仕切っていると云う点の違いだろう。その辺の事情を米国大使館レファレンス資料室のHPで解説している。
≪ 米国政府・政治 - シンク・タンク
概要
シンクタンクは調査研究を行い、独自の、政策に関連した知見を産み出す機関である。シンクタンクは、一方の学問分野と他方の政治分野との間に存在する重大な空隙を埋める。大学では、研究活動がしばしば、現実の政策上の二律背反とはほとんど関りのない不可解な理論的、方法論的な議論で動かされている。
一方政治においては、日々の政策立案という具体的な要求に没頭している官僚は、多忙さの余り、一歩退いて米国の政策を大局的に見直す余裕を持てずにいる。
従ってシンクタンクが果たす主要な貢献は、アイデアと行動の世界との間に存在するこのギャップに橋を架けることである。 米国の政策決定者の立場からは、現在のシンクタンクは5項目の重要な利点をもたらしている。
シンクタンクの最大の効果は(その名にふさわしく)、米国の政策決定者が世界の認識と対処の仕方を変えるような“新しい思考”を産み出していることである。独創的な洞察は、米国の国益という概念に変化をもたらし、優先度の序列に影響を与え、行動への道程を示し、政治的また行政的な連携を促進し、永続的な機構のデザインを描き出す。
政府上級官僚向けに新たなアイデアを考え出すほか、シンクタンクは次の政権や議会スタッフに仕える専門家の円滑な編成を準備する。
この機能は、米国の政治システムにおいてはきわめて重要である。フランスや日本といった他の先進民主国家では、新たに誕生した政権は膨大な数の専門職員が提供する継続的な業務に頼ることが可能である。米国では政権交代の都度、数百人にのぼる行政府の中級ならびに上級職員の人事異動が伴う。
シンクタンクは、大統領や各省長官が、この間隙を埋める手助けを果たす。 次期政権に専門家を提供するほか、シンクタンクは職を去る職員に、政府の仕事を通して得た識見を活用する環境を設定する。
シンクタンクはまた、 政策の選択肢に関する共通理解を築き、また米国民に世界の実態について啓蒙し、米国の広範な市民活動を豊かにする。最後に、シンクタンクは政党間の意見の不一致に対し、第三者として仲裁する。(米国大使館レファレンス資料室HPより)http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-govt-thinktanks.html
成る程と、筆者などは簡単に納得したが、たしかに、そう簡単に納得出来ないシンク・タンクもあるよな、とも思う。石原が尖閣を都で購入すると講演した、ヘリテージ財団も、米国80近くあるシンク・タンクの一つだ。日本の政府に現在深くコミットしてくるのは、野田に衆議院解散を指示したと噂される「戦略国際問題研究所(CSIS)」と云うシンク・タンクがある。安倍晋三が訪米し、政策スピーチしたのも「戦略国際問題研究所(CSIS)」である。「戦略国際問題研究所(CSIS)」は日本の国防に関して関心が高く、必ずしも、日本政治全般に関係してわけでもない。
日本のマスメディアでは、「戦略国際問題研究所(CSIS)」が日本の政治の上に網羅的存在しているような印象の報道をしているが、必ずしも絶対権力で動いているわけでもない。ただ、知日派が多く存在するシンク・タンクなので、ついつい米国の代表シンク・タンクのような扱いになるのだろう。たしかに、キッシンジャー、アーミテージ、ブレア、ハレム、ナイ、ペリー、シーファー、スタインバーグ、注:マイケル・サンデルとくれば、日本政府を小手先で操っているように見えるが、彼らだけが日本政府を操るわけではない。ただ、国防となると、嫌に突出しているようだ。
たとえば、対日空爆戦略を指揮した男たちが作り上げた軍事シンク・タンク「ランド研究所」は有名で、一時期米国を政府をもリードした。システム分析、ゲーム理論、インターネット等々に精通し、軍事ではネオコンとして、ICBM、核抑止力、フェイルセーフ等の概念を創出し、経済では、ケネス・アロー、ポール・サミュエルソンといったノーベル賞経済学者を擁し、合理的選択理論やゲーム理論などで市場原理主義を創出しているのが、米シンク・タンク「ランド研究所」である。ラムズフェルドやライスも所属していた。
竹中平蔵が「産業競争力会議」を取り仕切り、“労働の流動化理論”をまた持ち出し、あれだけ非正規雇用を増大させ、貧富の格差を増幅させたと云うのに、今度は“正社員の解雇が簡単に出来る法整備が必要。そうしないと、労働が固定化し、正しい市場原理競争を妨げる“などと言い出しているようだが、これも米国のシンク・タンクが考えた「合理的選択理論やゲーム理論などで市場原理主義」から生まれた発想だ。(正直、世界の流れからは古い概念だけど)
しかし、TPPの参加によりアメリカ流の流儀で競争を選択しない限り、日本企業はTPPで全敗する危機に瀕する予兆を竹中の発言は示唆している。TPPへの参加が1%の人間の資本利益の追求手段となっている事を彼は白状しているのだが、そこに気づくものはあまりいない。
たしかに、米国のシンク・タンクには、驚くべき知能と悪魔が集合しているわけだが、こんなものが70以上あるとなると、何処まで悪だくみを考えているのか、見当もつかない。まぁ、世界唯一のスパーパワー国家維持の為のコストなのだろうが、常に人の上に君臨するのも楽ではなさそうだ。そう云う意味で、極めて逆説的だが、野田や安倍の選択は身分相応だと言う事も出来る。小沢や鳩山は、身分以上のモノの考えを持っただけ、と云う敗北者的達観に至る、日本の識者は多いようだ。しかし、それだからこそ、筆者は小沢をいまだ支持するし、鳩山にもエールを送る。
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