01. 2013年3月09日 00:20:01
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「ゾンビ企業退治」を狙うアベノミクス国の競争力強化に必要な、企業の健全な新陳代謝 2013年3月8日(金) 磯山 友幸 安倍晋三首相が掲げる経済政策、いわゆるアベノミクスの「3本目の矢」が狙う的が見えてきた。 3本目の矢として「民間投資を喚起する成長戦略」の策定を急ぐ産業競争力会議(議長・安倍首相)が取り上げる「重要事項」が固まり、全体会議とは別に「テーマ別会合」が設けられたのだ。重要事項の決定に際しては民間議員の意見に加えて「総理指示」が大きくモノを言った。 テーマとして掲げられた「重要事項」は7つ。「産業の新陳代謝の促進」「人材力強化・雇用制度改革」「立地競争力の強化」「クリーン・経済的なエネルギー需給実現」「健康長寿社会の実現」「農業輸出拡大・競争力強化」「科学技術イノベーション・ITの強化」である。 これまでの政権も繰り返し成長戦略を描いており、今回、産業競争力会議が打ち出した7つの中にも共通するテーマが少なくない。だが、「産業新陳代謝」と「農業輸出拡大」はどうやらアベノミクスならではの、新機軸になりそうだ。 「戦える農業」作り出す戦略 農業輸出拡大は安倍首相が推進したい「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」への交渉参加と対をなす政策と考えていい。「TPPで大打撃を被る」と主張する農業団体を中心とした批判を抑え込み、TPPをむしろ活用して「戦える農業」を作り出そうという戦略だ。この農業の競争力強化策については、別途詳しく取り上げたい。 今回は産業競争力会議が「重要事項」として真っ先に掲げた「産業新陳代謝」に注目したい。新陳代謝とは要するに、役割を終えた企業・産業の退場を促進して、新しい企業・産業を生み出そうということだ。もちろん、これまでの成長戦略でも「新産業の育成」は常に課題として掲げられてきた。だが、「役割を終えた企業の退場」を政策として真正面から取り上げようというのは、おそらく初めての試みだろう。 産業競争力会議が、役割を終えた企業の退場を取り上げたのには理由がある。弱い企業が銀行の追加融資や政府の補助金などで生き残ることによって、強い企業の足を引っ張り、その産業の日本としての競争力を損なっている、という思いが民間議員の中にあるためだ。産業政策を担ってきた経済産業省もかねてから、同一産業内に多くの企業が存在することで、国内での消耗戦が起き、日本企業は低収益に喘いでいると分析してきた。主要製品で1社に集約した韓国などに競争力で劣ってしまった、というのだ。 もっとも、経産省の場合、その対応策として、官が主導して企業の合従連衡を促すことや、重点産業を決めてそこに補助金などを集中投下することを求めてきた。実際、円高立地補助金などの形で、それは実行されてきた。アベノミクスでも当初打ち出された「ターゲティング・ポリシー」という言葉には、この経産省流の産業政策が色濃く反映されている。かつて高度経済成長期に重点産業にヒト・モノ・カネを集中投下した「傾斜生産方式」を彷彿とさせるものだ。 だが、今回の産業競争力会議が打ち出そうとしている対策は大きく違う。 テーマ別会議で主査を務める経団連副会長の坂根正弘・コマツ会長が、1月23日に開かれた1回目の全体会議で配布した文書に、それは明確に表れている。その文書にはこう書かれていた。 「新規分野も大事だが、これに過度な期待をかけても国を支える規模には容易にはならない。まずは勝ち組もしくは近い将来勝ち組になるポテンシャルを持つ既存分野に重点投資すべき。ただし、弱者救済し、強者を蝕むゾンビ企業の創出にならないように注意」 つまり、「弱い企業を救済してゾンビ企業を生むな」「強い企業をより強くしなければ日本を支えることはできない」と主張しているのだ。これは従来の政策に対する痛烈な批判とも言える。 中小企業金融円滑化法廃止で4〜5万社が倒産? というのも民主党政権下では明らかに、弱い企業の救済に力を入れた結果、ゾンビ企業の量産につながった。その典型例が金融相として亀井静香氏が半ば強引に導入した「中小企業等金融円滑化法」いわゆる「金融モラトリアム法」だ。これによって倒産件数は激減。かつての好景気時よりも倒産が少ない状態になった。不況の中で金融によって倒産をさせないのは、生命維持装置を付けて命だけ永らえさせているのと変わらない。今年の3月末にようやくこの時限立法は廃止されるが、政府の推計では、何の手も打たなければ4〜5万社がいっぺんに倒産するとしている。逆に言えば、4〜5万社のゾンビ企業を量産したわけだ。 事態は大手企業でも似ている。半導体大手ルネサスエレクトロニクスの救済がもう1つの典型例だろう。第三者割当増資で筆頭株主になったのは、官民ファンドの「産業革新機構」。官民と言っても大半は国が出資する。そこがさらに大半を出資したわけだから、ルネサスは事実上「国有企業」になったに等しい。半導体は産業を支える重点産業だというのが、救済劇を主導した経産省の主張だ。 2009年には半導体大手エルピーダメモリに公的資金が注入されたが、結局は経営破たんして米国の半導体メーカーに買収された。その二の舞になるとの懸念が強い。 産業新陳代謝の議論は「敗者は退場させる」という当たり前の競争の規律を取り戻そうとしているだけだ、とも言える。だが、ここまで規律が緩んだ日本で、どうやってゾンビ企業に退場を求めるのか。 3月6日に開いた産業新陳代謝のテーマ別会合では、倒産法制の見直しが議論された。ドイツやスイスなど欧州では、企業の資金繰りが悪化し債務超過となると基本的に倒産企業として法的処理される。債務超過を回避するために増資の引き受け手が現れなければ倒産するのだ。これに対して日本の場合、企業が債務超過になっても、銀行が資金繰りを支えていれば持ちこたえる。つまりゾンビ企業化するわけである。これを退場ルールである倒産法の改正で規律を働かせられないか、というわけだ。 おそらくこれには異論が出るだろう。とくに銀行界は反発するに違いない。銀行が企業の生殺与奪の権を握っている現状を変えることになるからだ。銀行は企業に融資する一方で、企業の株式も保有、大株主となっているケースが多い。企業経営が傾いた時に、銀行は融資債権を守るために株主としての権利を行使することになりかねない。つまり債権者としての立場と株主としての立場が利益相反を起こすのだ。これは東京電力やオリンパスの経営危機の際にも明らかになった。 おそらく、この矛盾を断ち切るには、銀行による株式保有を全面的に禁止する以外にないだろう。米国では、1929年の大恐慌を機に1933年に制定したグラス・スティーガル法によって銀行による事業会社の株式保有は禁止されてきた。また、ドイツも銀行が企業の株を保有する「ドイツ型持ち合い」が長年続いてきたが、これも2000年以降大きく崩れた。日本は依然として企業への銀行支配が続いていると見ることもできる。一方で、現在は5%に制限されている銀行の株式保有を「規制緩和」の名の下に緩めようという動きすらある。 ゾンビ企業を支えているのは銀行だけでない。政府も同じだ。ルネサスを救済した「産業革新機構」と同様のいわゆる「官民ファンド」が次々と誕生している。相次いで設立される「官民ファンド」は民主党政権時代に財務省が主導して構想が練られたもので、本来はアベノミクスで出てきたものではない。だが、「3本目の矢」のタイトルが「民間投資を喚起する成長戦略」となったことで、一気にアベノミクスの柱としてお墨付きを得た。もちろん、現在のデフレは異常事態なので、景気に火を付けるには「国のカネが必要」という主張は理解できる。「従来型の補助金のバラマキを正したい」という財務省の思いも分かる。だが、「国のカネ」が入ることで競争が歪む事態は避けなければならない。 官民ファンドは情報開示を徹底せよ それを避けるための方法は、官民ファンドの徹底した情報開示だろう。官民ファンドは株式会社形式をとっているため、しばしば「民間企業だ」という逃げ口上が使われる。大半の出資を国のカネ、つまり国民のカネが占めているにもかかわらず、国会への情報開示などが疎かなのだ。 国の資金が入っている以上、一般の上場企業よりも厳しい情報開示が求められる。例えば、官民ファンドや投資先企業と、霞が関の関係だ。上場企業の情報開示で言えば「関連当事者取り引き」ということになる。国からの天下りや現役出向の状況、報酬などの情報、投資先企業への補助金の有無などを開示しなければ、公正な競争は担保できない。また、官民ファンドや投資先企業と政治家の関係も開示すべきだろう。企業側に政治献金の有無や金額を公表させるのだ。さもなければ、ゾンビ企業が政治献金などをばら撒くことで政府ファンドからの出資を得る、ということが起きかねない。 産業競争力会議がどこまで「産業新陳代謝」を打ち出すことができるか。「新事業育成」と言っているうちはどこからも異論は出ない。基本的には補助金をもらったり、税の減免を受けるなどメリットを享受する話だからだ。だが、「ゾンビ企業の退出」となった場合、状況は一変する。これまで受けてきた銀行や国による支援を剥ぎ取られる企業や産業が出てくるからだ。同じ産業界にも反対勢力がいるわけだ。「弱者切り捨てを許すな」といった反対論が出てくることは火を見るより明らかだ。 産業競争力会議はどこまでそれを貫き通すことができるのか。アベノミクスの真価が問われることになる。 磯山 友幸(いそやま・ともゆき) ジャーナリスト。経済政策を中心に政・財・官を幅広く取材中。1962年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末で退社、独立。熊本学園大学招聘教授、早稲田大学客員上級研究員、上智大学非常勤講師。静岡県アドバイザーも務める。著書に『国際会計基準戦争完結編』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。共著に『オリンパス症候群』(平凡社)、『株主の反乱』(日本経済新聞社)。 磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
安倍首相の驚くべき計画 金融政策で日本の再浮揚を図る危険な任務 2013年03月07日(Thu) Financial Times (2013年3月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日銀は新たなチームの指揮下で金融政策を大きく転換することになる〔AFPBB News〕
日本の安倍晋三首相が絶え間なく世間を驚かせている。首相が日銀のトップに指名したチームは、これ以上ないほど急進的だ。日銀の過去の消極性を批判してきた黒田東彦氏が金融政策を担うことになる。 間違ってはいけない。黒田氏は年率2%のインフレを実現したいと思っているだけでなく、この目標は中央銀行の力で達成できると考えているのだ。 黒田氏は政府および新副総裁になる岩田規久男、中曽宏両氏の支持も期待できるだろう。日銀は不満を漏らすかもしれないが、政策の転換は確実なように見える。 問題は、新たな政策が奏功するかどうか、だ。そして実際、「奏功する」とは何を意味するのだろうか? 日本が置かれた奇妙な状況 まず、日本の奇妙な状況に留意するところから始めなければならない。 デフレ期待はすっかり定着している。たとえ調査に表れていないとしても、債券市場にはデフレ期待が深く根差しており、10年物国債の利回りが現在0.66%となっている。短期金利でさえ、実質金利はプラスで推移している。また、デフレは粘着性が相当高かった。 最後に、債務の配分は民間部門から公的部門へとシフトした。経済アドバイス会社スミザーズ・アンド・カンパニーによると、非金融法人企業部門の純債務は1995年時点で株主資本の150%だったものが、30%まで低下した。だが、政府の純債務は1996年末時点の国内総生産(GDP)比29%から跳ね上がり、2012年末には同135%に達した。 こうした事実には深甚な意味合いがある。まず、デフレに終止符を打つことは、1990年代終盤と比べてはるかに難しいということだ。次に、インフレ率の上昇は、実質金利もマイナスになるのであれば有益だろう。支出を促すことになるからだ。第3に、マイナスの実質金利は、政府の債権者から将来の納税者へと富を再配分することにもなるはずだ。 このようなマイナスの実質金利は、インフレ率を予想よりも高くするか、金利を抑制することによって達成できる。 実際、日本の当局が実質金利を大幅なマイナスにすることを望んでいるかどうかははっきりしない。しかし、たとえそれが政治的な反発を招くリスクを生むとしても、当局はそうすべきである。 では、いかにしてこれを実現し、どれだけ透明性を確保すべきなのか? 日銀は2%のインフレを目指すと言いながら、それよりも高いインフレをもたらす可能性の高い政策を遂行することができるだろう。これは危険なごまかしだ。あるいは、日銀はより高いインフレ率の目標を発表しながら、低い名目金利が長期間続くと言うこともできる。これは公然たるインフレ税に当たる。 いずれにせよ、一時的に物価ないし名目GDPの水準をターゲットにすることで政策を補強することができる。そうすべき根拠は、このような極端なケースでは、過去を過去として済ますべきではないということだ。 現在の物価水準は、1997年以来ずっと、年間インフレ率が2%だった場合と比べて30%低い。同様に、名目GDPは日本経済が年間3%の成長を続けてきた場合よりも40%小さい。もし日銀が、1997年以降、年間3%の成長が続いた場合の名目GDPの水準に戻ることを目指すなら、向こう10年間、年間9%近い成長にコミットすることになる。 そうなれば、間違いなく債務の実質負担を軽減できるはずだ! その先は、政策立案者は2%のインフレ目標に戻ってもいいだろう。 これは一例を示しているだけであって、推奨しているわけではない。だが、これほどの急進主義を是とする論拠は、経済見通しを速やかに変えられることだ。通常の目標では不十分かもしれない。 ターゲットと並び重要な政策手段 問題は新しいターゲットだけではない。政策手段も重要だ。日銀を率いる新たなチームは、政府の赤字のマネタイゼーション(貨幣化)を含め、今より多様な資産買い入れのメニューを検討しなければならない。 サウサンプトン大学のリチャード・ヴェルナー氏はかねて、財政のマネタイゼーションを行う最善の方法は、政府が銀行から資金を直接借り入れることだと主張してきた。筆者が2月13日付のコラムで述べたように、いざとなれば、日本は「ヘリコプターマネー」を使ってもいいかもしれない。 もし日銀が市場から引き揚げることを望まない不換貨幣を使うなら、併せて商業銀行に明確な準備預金の義務を課す必要もあるだろう。 日銀の従来の見解は、金融政策はインフレ率を引き上げられないというものだった。この見方は驚くほどの想像力の欠如を露呈している。原則としては、日銀は不換貨幣を使い、世界中のすべての資産を好きな価格で買うことができる。そうすれば確実に円の購買力が低下するだろう。 問題は、インフレを実現できるかどうかではなく、その成果を管理できるかどうか、特に粘着性の高いデフレに対する根強い予想を変えようとしている時に管理できるかどうか、だ。 むしろリスクは、この取り組みがレンガをゴム紐で引っ張るようなものだということだろう。最初は少ししか動かず、やがて過度に動いてしまうのだ。ターゲットが重要なのは、このためだ。政策転換は信頼に足ると同時に、しっかりと抑制されなければならない。 行く手に待ち受ける2つの危険 ここで2つの大きな危険を予想できる。明らかに相互に関連した危険だ。 大きな危険の1つは円相場の暴落とインフレ昂進〔AFPBB News〕
第1に、新たなアプローチは、近隣窮乏化政策を目指す意図的な試みと見なされる可能性があり、その結果、危険な報復をもたらしかねない。 次に、これが円を保有している投資家の逃避を促し、円相場の暴落とインフレの昂進をもたらす恐れがある。 1つ目の方が差し迫った危険で、2つ目の方がより遠い先の危険だ。どちらのリスクも、政策転換を、正常な状態へ戻る確かな出口によって裏付ける必要があることを示している。 さて、最後になるが、金融政策の抜本的な変更で十分なのか? その答えはノーだ。短期的には、政府は赤字をマネタイズできるし、そうすべきでもある。だが、長期的には経済のリバランス(再調整)を図り、政府が創出した需要への依存を減らさなければならない。 筆者が2月6日付のコラムで主張したように、政府は最終的に構造的な財政赤字を減らさなければならない。 これを実現するためには、日本の民間部門が、政府の赤字に対応する構造的な資金余剰を減らさなければならない。こうして、日本の企業部門は長期的に、投資に対する内部留保の余剰を削減しなければならないのだ。 民間部門の資金余剰を減らさないとすれば、経常収支の黒字を永続的に増やすことになるが、これは世界第3位の経済大国が今、採用してはならない策だ。これを採用すれば、過剰貯蓄に苦しんでいる世界経済を不安定にしてしまうからだ。 日本は今、長らく地上で立ち往生していた金融政策の凧を飛ばそうとしている。中には中央銀行の独立性が侵害されたと言う人もいるだろう。それに対する反論は、日銀は物価安定の使命を果たせなかった、ということだ。 問題はむしろ、新たなチームが国内経済や世界経済を不安定にすることなく、インフレ率を引き上げ、実質金利を引き下げることができるかどうか、だ。 やり過ぎるリスクを冒しても、対策が不十分な事態は避けよ もしかしたら、2%のインフレ目標に向けて尽力することで、必要な成果を上げられるかもしれない。だが筆者は、少なくとも当面は、物価か名目GDPの水準を対象とするもっと急進的なターゲットが必要ではないかと考えている。 日銀を率いる新たなチームは、たとえ結果的にやり過ぎるリスクを冒すことになっても、対策が不十分な事態は避けなければならない。多くの決断と多少の運が必要になるだろう。世界は新たなチームの幸運を祈るべきだ。 By Martin Wolf
インフラの更新や命を守るための公共事業は必要だ 問題を賛成か反対に単純化したがるマスコミに惑わされるな 2013年03月08日(Fri) JBpress 大阪府議会議員の宗清皇一氏をゲストに迎えた、今回の『中山泰秀のやすトラダムス』(Kiss FM KOBEで毎週日曜24:00-25:00放送)。大阪府のインフラ整備や災害対策における課題、原発再稼働問題などについて、宗清氏が現職府議会議員の視点から語った。 兵庫県と大阪府では、公共事業に対する意識がまるで違う 中山 今回は東大阪市選出の大阪府議会議員、宗清皇一さんにお話を伺います。宗清さんは政治家になられて間もなく丸6年だそうですが、現在最も力を入れている活動は何ですか。 宗清 我々地方議会の議員は、知事から提出された議案をチェックし、間違いがないかどうか判断する仕事を行っています。 もちろん全てに力を注いでいますが、中でも今大事なのは、財政を規律あるものにすることと景気対策です。大阪に一番足りない景気対策や産業対策を、松井(一郎)知事がしっかり進めているかどうかを検証しているのです。 中山 先日、宗清さんからお聞きした話によると、兵庫県と大阪府では予算の使い方が大きく異なるそうですね。 宗清 国から緊急経済対策として各都道府県に配られる予算があるんですが、兵庫県は阪神・淡路大震災の教訓からか建設事業などの公共事業に注力しています。 前年度比で30%ほど公共事業を増やし、安心や安全、防災や減災対策に取り組んでいるわけです。 ところが、大阪府ではそれをほとんどやっていない。国のお金をもらい、そこにプラスして今年の予算を組んでも建設事業の伸び率はわずか5.5%ほどです。この数字からも大きな意識の差を感じます。 笹子トンネル崩落事故は世界のインフラ老朽化への警鐘に〔AFPBB News〕
国が経済対策としてお金を出してくれたのだから、大阪にとっては千載一遇のチャンスなんです。 ここ数年、公共事業はどんどん削られていますが、大阪のインフラは昭和40年代に造られたものが多く、老朽化が進んでいます。それを長寿命化するために維持管理費を使う必要があります。 また、学校の耐震化の問題も挙げられます。私学も公立も含めて大阪の耐震化率は全国平均よりも低く、こうした部分にもっと力を入れるべきですが、府の予算がまったく使われていない。この点についても今まさに松井知事に指摘しているところです。 中山 昨年12月2日、中央自動車道笹子トンネル上り線で天井板崩落事故が発生し、9人の尊い命が失われました。 かつて民主党が「コンクリートから人へ」という理念を掲げて政権交代を果たしましたが、それによって公共事業費が削減されたことと事故は決して無関係ではないと思います。 もちろん、自民党政権時代に集中的なメンテナンスを行わなかったことも猛省すべき点ではありますが・・・。いずれにせよ事故が起きてしまった今こそ、学校の耐震や免震、インフラの補修などにもっと予算を投じるべきではないでしょうか。 宗清 その通りです。命を守るための公共事業は必要であり、また経済対策、特に雇用面でも大きなプラスになります。大阪では、左官工や塗装工など建物の耐震や免震対策を行う職人たちの賃金が安く、日当1万4000〜1万5000円ほどです。 一方、東北や東京では日当2万円を超えるところも少なくありません。こうした地域格差が生じた理由は大阪に仕事がなかったからであり、職人たちが今どんどん大阪からいなくなっています。 これまでは公共事業を叩き過ぎたと思います。0か100かの議論ばかりやって、まるで公共事業を悪のように扱ったのが大きな問題です。 インフラを更新しなければ、将来の世代に負担が先送りされる 中山 先ほど「インフラの長寿命化」というキーワードが出ましたが、具体的にどんな事例が挙げられますか。 宗清 例えば水道管・下水道管があります。実は大阪は、東京と比べると浸水対策が進んでいるんですよ。浸水対策と聞くと河川を思い浮かべる方も多いと思いますが、下水道の整備も含まれます。 大阪は下水道が完備されていますが、年月が経ち古くなってしまっている。これらを適宜更新しなければ、将来の世代にツケが回ることになります。 水道事業が黒字になると、政治家は料金を下げようと主張しますが、この黒字を設備の更新に充てることで後年度に余計な負担をかけずに済むという考え方もあるわけです。ですから、今使用している我々が長寿命化を図るための負担をすべきだと私は考えています。 中山 大阪には豊臣秀吉によって建設された日本最古の現役下水道「太閤下水」もありますが、古くなったものを修繕して活用することも1つの知恵ですよね。 また私は、PPP(Public Private Partnership、官民パートナーシップ)にも着目しています。これは国や地方自治体が提供する公共事業に、民間の資金や技術を取り入れてサービスを効率化する手法です。 今は浄水場の技術なども輸出できる時代ですから、このように知恵を集結してインフラの維持保全を効率的に進め、ひいては海外展開によって利益を得る方法も考えられると思います。 原発再稼働は賛否を問うだけで解決できる問題ではない 中山 続いて原発政策の話題に移ります。以前、大阪では大飯原発再稼働をめぐり、橋下(徹)市長をはじめとする関係者の間で様々な論争が巻き起こりました。宗清さんは当時、あの議論をどうご覧になっていましたか。 宗清 原発問題が選挙の道具に使われてしまわないかが心配でした。橋下市長はもともと再稼働に反対していましたが、計画停電への懸念から一転して「容認」に立場を変えましたよね。 市長や知事は、原発が停止した場合に大阪にどんな影響が出るのか、そしてどんな手を打つ必要があるかを考えるべきです。国に意見を言うのも大切ですが、原発停止によって産業や生活に影響が出ないようにする責任があるのです。 中山 泰秀(なかやま・やすひで)氏 衆議院議員(自由民主党所属)。1970年大阪市北区生まれ。電通勤務を経て政治の道へ入る。2003年衆議院総選挙で初当選、2007〜2008年8月まで外務大臣政務官を務める。自民党・国防部会長(撮影:前田せいめい) 中山 安倍(晋三)首相は、先日の施政方針演説で「安全が確認された原発は再稼働する」と明言し、原発政策に踏み込みました。
今、原発再稼働に関する世論調査を見ると、賛成と反対が二分化しています。賛成派は「再稼働しなければ経済に影響が出る」と主張し、反対派は「子どもたちの将来のために止めるべきだ」と言う。どちらも正論ですから、賛否を問うだけでは結論は出ないと思います。 例えば、潮力発電や波力発電、また地熱発電や太陽光発電、風力発電などの代替エネルギーと、化石燃料や原発を比較し、高効率なエネルギーの利用法を検証することも必要ではないでしょうか。 宗清 そうですね。情報の出し方にも問題があると思います。専門家のレベルで伝えるべきことを、マスコミが一般国民レベルの話に変換して報じようとすることに問題がある。 だから0か100の議論になってしまうのです。また、電気を多く使う必要がある立場の人とそうでない人では、考え方も情報の受けとめ方も違うでしょうから、そこは配慮する必要があります。 ただ、原発を止めるのは現実的には難しいでしょう。近い将来、日本では首都直下型地震や南海トラフ地震の発生が予測されますが、大切なのはそうした自然災害が起こる前提で原発の舵取りをしていくことです。 中山 様々な意見がありますが、次の時代を担う子どもたちのためにも、政治家は政党やイデオロギーに関係なく最適な政策を打ち出すべきです。 最近は選挙のたびに政党を渡り歩き、有権者との約束を破って保身に走る政治家が少なくありませんが、国難の今こそ滅私奉公の覚悟が試されている気がします。 宗清 同感です。任期中に政党を替えるなら一度議員辞職すべきでしょう。本当に国のことを思うならバッジを外して、もう一度一から出直した方がいい。 選挙が怖いのは皆一緒です。それでも有権者との約束があり、自分の生き方が問われているからこそ私たちは信念を貫くのです。 一方で有権者にも責任はあります。大切なのは有権者が適切な政治家を選ぶ努力をすること。その上で選ばれた政治家が、自覚を持って頑張ることだと私は思います。 『中山泰秀のやすトラダムス』 3月3日 24:00-25:00放送 ※Kiss FM KOBE "中山泰秀の「やすトラダムス」" は、radiko.jpでも聴取できます(関西地方のみ)。auの対応機種では、LISMO WAVEを利用すると、日本全国で聴取可能です。また、「ドコデモFM」のアプリでは、日本全国でスマートフォン(ドコモのAndroid搭載端末、auとsoftbankのiPhone)で聴取できます。
安倍政権は円と元の協力関係を築けるのか 国際金融市場で存在感を増す人民元 2013年03月07日(Thu) 柯 隆 2012年12月に安倍政権がスタートしてから、大胆な金融緩和と大規模な財政出動により円安が進行し株価が大きく上昇した。 一般的に、円安になれば日本の輸出製造業の業績が改善すると言われている。主要自動車メーカーの試算では、1円の円安になれば、300億円前後の利益が現れるという。このように考えれば、円安進行が株価を押し上げる背景には、日本経済は依然として輸出に依存している現状があると言える。 バブル崩壊以降、日本は20年を失った。アベノミクスにより日本経済は20年ぶりに光が見えてきたようだ。しかし、これで日本経済が本当に回復軌道に乗るかどうかについては期待と疑いが半々といったところである。 この20年の歴代政権と違い、安陪政権は経済成長の実現に特化して大きな力を注いでいる。これまでは、複数のばらばらのベクトルのように政策目標が設定され、そのポリシーミックスは結果的にほとんど中折れしてしまった。 円安のメリットとデメリット 安倍政権が誕生して以来、円ドル相場は70円台半ばから90円台前半に急落した。上で述べたように円安は日本の輸出製造業の業績回復に大きく寄与している。だが、専門家の間では、アベノミクスに期待している一方、不安もある。マクロ経済の観点から日本にとり凶か吉かを検証する必要がある。 もしもこのまま円安が進行し、円ドルレートが100円近辺で定着すれば、日本の産業構造に大きなインパクトを与えるだろう。 まず、自動車や半導体などの高付加価値輸出製造業は海外での生産比率を減らし、設備の一部を日本国内に還流させる可能性が出てくる。このことは短期的に日本国内の雇用と景気に良い影響を与える。 また、円安傾向が定着すれば、日本経済の輸出依存はいっそう強まるだろう。これまでの20年間、デフレと円高進行は日本企業の海外移転を促してきた。その結果、日本では、産業空洞化が進み、雇用が一段と深刻化した。デフレを脱却するためには、円安誘導は短期的に有効な対策と思われる。 だが、円安にはデメリットも多い。日本の国内消費が完全に輸入に依存しているため、急激な円安進行は輸入インフレをもたらす。インフレが本格化すれば、家計消費が抑えられてしまう恐れがあり、本格的な景気回復はいっそう難しくなってしまう。 国際貿易とグローバル投資の観点から見れば、為替相場は安定して推移することが最も望ましい。ところが日本経済のファンダメンルズが変わっていない中で円ドル相場が急激に安く振れた。このことは、国際経済学的に重要な研究課題を残したと言える。 国際通貨としての円の立ち位置を明確に かつて、日本で円の国際化の議論が盛んだった時期がある。だが、日本の景気後退とデフレ進行により、その議論は次第に姿を消した。 その中で2010年、中国では30年にわたる「改革開放」政策により、ついに日本を追い抜いて世界第2位の経済大国になった。経済規模の拡大は自ずとその国の通貨が強くなることを意味する。近年、国際通貨マーケットにおいて中国人民元はますます大きな存在となりつつある。中国人民銀行(中央銀行)は人民元の国際化を推進する方針をすでに明らかにしている。 ここで問われるのが日本の通貨戦略である。具体的には、国際金融市場における日本円の立ち位置が問われている。 繰り返しになるが、短期的に円安は日本の輸出製造業の業績改善に大きく寄与する。しかし、戦略なき円安誘導はマイナス効果が大きい。 日本はこのまま貿易立国を続けていくならば、国際金融市場における日本円の存在をもっと強くしていかなければならない。すなわち、円に対する信任を強化する必要がある。 もともと円の国際化の議論のなかで、貯蓄通貨としての円はそれほど強みを保持していなかった。それは日本が目指す目標でもない。日本にとっては、決済通貨としての円の役割を強化していくことが重要である。さもなければ、為替の急激な変動は、日本の国際貿易に悪影響を及ぼしてしまう恐れがある。 アベノミクスの中で円安誘導の方針は明らかになっており、その効果も出ている。だが、国際通貨としての円についてその戦略のあり方は明らかにされていない。 国際金融市場で存在感を増す人民元 欧米諸国を襲った金融・債務危機により、国際金融市場におけるドルとユーロの信頼は大きく揺れ動いている。その一方で、人民元の存在が急激に大きくなっている。 中国人民銀行は、人民元の国際化を戦略的に進めている。まず、中国と国境を接している国や地域との貿易において人民元で自由に決済できるようにする「周辺化」である。この人民元の「周辺化」は、すでに実現している。 次に、東アジア域内において人民元を自由兌換できるようにし、主要な決済通貨としての存在を確立する。このセカンドステップの人民元の国際化は、まさに現在進行形で進んでいる。人民元のオフショア決済センターとして、香港、シンガポールと東京がそれぞれ選定され、制度や市場インフラなどの面でオフショア市場としてのシミュレーションが行われている。 今後、人民元は間違いなく、ドル、ユーロ、円に続く第4の国際通貨として国際金融市場に登場してくるだろう。人民元の台頭は拒否できない流れである。 そこで問われるのが、円と元の協力関係のあり方である。 安倍政権では、アメリカが主導するTPPに参加する意向だが、同時に、北東アジアの自由貿易協定(FTA)の結成にも意欲的なようだ。TPPに参加するかしないかは別として、日本にとって中国と韓国とのFTAを結成することは、国際貿易を促進する上で極めて重要である。域内貿易の規模がますます拡大する中で、貿易決済の環境と制度と金融インフラの整備が求められている。 2012年9月の尖閣危機以降、日本と中国の経済協力対話は大きく後退している。中国では2013年3月中旬に、習近平政権が正式
安倍晋三は頼れる同志か、それとも心配の種か?
米国が恐れる安倍氏のタカ派姿勢 2013年3月7日(木) The Economist 「この3年間で著しく損なわれた日米の絆と信頼を取り戻した」――。2月22日、米国の首都ワシントンでバラク・オバマ大統領との初の首脳会談を終えた安倍晋三首相は、誇らしげにこう宣言した。日本では政治家やメディアがこぞって安倍首相を褒め称え、経済・外交大国として「日本は戻ってきた」とする首相の大胆な主張に沸いた。
しかし米国での見方はかなり異なる。ニューヨーク市にあるコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、安倍政権が「この首脳会談を歴史上重要なものに見せるため」に今回の訪米を演出した、と指摘する。安倍首相が日米の同盟関係を救ったというのは断じて真実ではない。12月の総選挙で安倍氏率いる自民党が民主党から政権を奪うずっと前から、日米関係は十分に安定していた。 オバマ政権にとって信頼しきれない対象があるとすれば、それは安倍首相その人かもしれない。尖閣諸島を巡る日本と中国の対立があわや暴走しようかというこの時期に、しかも米国も巻き添えを食うかもしれない事態なのに、米国政府は安倍首相の真意を汲み取れずにいる。これまで安倍首相は右派の議員仲間と歴史認識の見直しに向けた動きを推し進めてきた。それが今、歴史認識に関してはトーンを抑えている。 安倍氏の目に映る戦後日本の姿 日本の地位回復を狙う安倍政権は、これまで急速な展開を戦略の柱としてきた。日本経済は長期にわたって停滞に苦しんでいる。デフレからの脱却を目指して日銀に大胆な政策を迫る一方、政府支出の拡大を約束する安倍氏の姿は、「決断力のある指導者」という印象を強めている。株式相場は急騰した。最近の世論調査によると、安倍首相の支持率は70%を超えている。ここ数年間にぶざまな姿をさらした歴代首相、そして2006〜2007年の第1次政権で見せた安倍氏自身の悲惨な姿に対する評価と比べると、驚くほどに高い数字である。 今回の日米首脳会談で安倍首相の評価はさらに高まったようだ。法政大学の森聡教授はその理由を、安倍氏がイデオロギーではなく実利に従って動く人間だとの印象を与えたからではないか、と分析する。安倍氏は経済を自らのアジェンダの中核に据えてきた(経済はおよそ同氏の専門分野ではない)。支持率が上がることで自民党内の調和も保たれている。それでも心配なのは、安倍氏の実利主義が上辺のものにすぎない可能性があるからだ。 首相就任以来、安倍氏が書いてきたメッセージは、同氏の世間知らずぶりを露呈している。彼は、1945年の敗戦以前の帝政日本は悪事を働いたことがほとんどないと考えているらしい(この見解は隣国の怒りを買っている)。さらに不思議なのは、戦後の日本に良い行いがほとんどなかったかのように書いていることだ。また、「日本という国」を「戦後の歴史による支配」から解放したいと綴っている。 安倍氏の意味するところが何なのか完全にはわからない。だが、主な不満は日本国憲法の平和条項に向けられているようだ。安倍氏から見れば、この条項は敗戦国の日本に米国が無理やり押しつけたものであり、国を骨抜きにした元凶だ。そして日本の骨抜き状態は1960年代に日本の社会主義者がもたらした影響によってさらに悪化したというわけである。 だが実際には、戦後における日本の平和主義は国民から高い支持を受けている。一方で、米国が日本の安全を保障したことによって、戦後の日本は未曾有の経済成長と繁栄を経験することができた。安倍氏の祖父にあたる岸信介氏(安倍氏と同様に首相を2度務めた*)は、戦後の秩序を構築する上で中心的な存在であった。安倍氏が率いる自民党とその支持母体である産業界は、戦後体制の恩恵を誰よりも享受した。 *:衆議院選挙をへて首班指名を2度受けた 米国にとって大事なのはTPPと普天間基地 通常なら米国も受け入れるであろう安倍氏の思想が今回は歓迎されなかった。タカ派の安倍首相が中国を刺激しかねないとの懸念からだろう。オバマ政権は、日本国憲法の解釈を見直したいという安倍氏の願望を公然とは支持しないことを明確にした。安倍氏の目指す解釈の見直しは、日本が集団的自衛権(例えば米国が攻撃を受けた場合に援助に駆けつけるための法的資格)を行使できるようにすることが目的だ。日中がいがみ合う尖閣諸島(中国名は釣魚島)を日本が治めることについて、オバマ大統領もジョン・ケリー新国務長官も、ヒラリー・クリントン前国務長官ほどには支援を強く約束しなかった。ケリー氏は、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であることを改めて確認しただけだった。 むしろ、米国政府は今回の首脳会談で別の2つの案件に対する日本のコミットメントを引き出そうとした。1つは、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)についてだ。安倍首相は慎重に言葉を選びながらも交渉参加を約束した。ただし、最大税率が777.7%であるコメの関税撤廃については何の約束もしなかった。自民党は聖域なきTPP交渉には参加しないと言い続けている。 もう1つは沖縄の米軍基地移設問題に関するコミットメントである。安倍首相はオバマ大統領に対し、米海兵隊が使用している普天間基地の移設に向けて「具体的な行動をとる」と伝えた。2009年に政権の座に就いた民主党は、この基地移設問題で日米関係を混乱させた。 安倍氏がしたこれら2つの約束は、どちらも大胆な内容だ。沖縄県民は12月の総選挙では圧倒的に自民党を支持したが、「基地を沖縄本島の人口過疎地に移設する」という方針には断固として反対する。彼らの望みは米軍がこぞって沖縄から出て行くことだ。 一方、自民党所属の国会議員の5分の3がTPP参加に反対している。7月の参議院選挙を控え、支持母体である保守的な農業関係者の反発を恐れているのだ。 米国やその他の国で、TPP参加を切望する通商の専門家が日本の参加による交渉の遅れを心配するのは理解できる。日本が参加しなければ、TPP交渉は今年中にまとまるめどがついている。日本が加わった場合、少なく見積もっても2年は交渉が延びるかもしれない。 リフレ政策を推進 国民と党員からの支持を維持するために、安倍氏は有権者に対して今後も経済を最優先に扱うと伝える必要がある。米国からの帰国後、安倍氏は驚くような政策を展開した。 2月28日には、アジア開発銀行総裁を務める黒田東彦を次期日銀総裁に指名した。黒田氏、及び副総裁に指名された岩田規久男氏は、新たな「2%のインフレ目標」の達成に向けて安倍氏が提唱する「無制限の金融緩和」の支持者だ。 この2人を任命することは、日銀に対して敵対的買収を仕掛けるのと同様の意味を持つ。日銀は、自らが着手した非伝統的な金融政策の利点に対して複雑な思いを抱えている保守的な砦なのである。 安倍氏は、野党が過半数を占める参議院においても13兆1000億円規模の補正予算への支持を取り付けた。予算案が1票差で可決された時、首相への歓声が上がった。今回の予算を成立させたことで、安倍首相は有能だとアピールすることができた。自民党にとっては、7月の参議院選挙に向けて幸先の良い一歩となった。 参議院選挙で自民党が勝利し、安倍首相が両院を掌握すれば、日本の政治が直面する行き詰まりを打開できるかもしれない。そうなれば、構造改革を進めることも可能になるだろう。だがそれで勢いづいた安倍氏が全面的な憲法改正に臨んだり、戦時中の残虐行為に関する認識を修正(ましてや転換)したりすれば、日中関係は悪化の一途を辿る。米国が何より懸念するのはまさにその点である。 ©2013 The Economist Newspaper Limited. Mar 2nd, 2013 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 英国エコノミスト 1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。
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