64. 2013年3月11日 22:09:51
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石原慎太郎さん、がんばって下さい。以下は「2013年2月 八重山日報編集長 仲新城誠氏」のコメント。 沖縄県の八重山諸島は尖閣諸島を有する「国境の島々」である。近年、中国による領海への相次ぐ不法侵入事件で全国的にも注目されることが増えたが、島々を異常な熱気に包み込んだもう一つの”事件”があった。200日もの長期にわたって島民を翻弄し続けた「八重山教科書問題」である。 私は石垣島に生まれ育ち、沖縄本島の大学を卒業した後、1999年、八重山の新聞「八重山日報」に入社した。石垣島を拠点に記者として取材活動をしている。12年目の2011年夏、この問題に遭遇した。翌年2月に問題が一応決着した後、時間を置いて一連の経過を振り返ってみたが、やはり前代未聞の出来事だと思った。 2012年4月から使用される中学校の公民教科書に、従来の自虐的な教科書を正そうとする「日本教育再生機構」のメンバーらが執筆した「育鵬社版」が選ばれたことを巡って、反対派・賛成派が激しい攻防を繰り広げたのである。 この問題を、発端から決着まで、つぶさに取材する機会に恵まれた。私は会社から編集長の肩書を与えられていたが、少人数の新聞社で、一人何役もこなさなくてはならない。 取材を他人任せにできず、結果として、発端から決着までを自分の目で見届けることができた。 八重山日報は1977年、沖縄タイムスの社会部長などを歴任した宮良長欣が私財を投げ打って創立した八重山のローカル紙である。石垣市、竹富町、与那国町で購読され、沖縄本島や本土にも若干数郵送で配達されている。 八重山には、すでに1950年に創刊された「八重山毎日新聞」があり、圧倒的なシェアを確保して1紙独占体制を築いていた。部数は約14000部。これに加えて、「県紙」と呼ばれる沖縄全域をカバーする新聞は、「沖縄タイムス」と「琉球新報」の2紙。発行部数は公称で計約30万部。いずれも育鵬社版の採択を厳しく批判した。 これに対し、八重山日報は約6000部だが、育鵬社版の選定を評価する報道姿勢であったため、他の3紙と論調が激しく対立した。事実上、30万部対6000部の戦いだった。 八重山教科書問題のきっかけは、2010年2月の石垣市長選で、史上最年少となる42歳の中山義隆が当選し、16年ぶりの保守市政が誕生したことに始まる。教育改革に熱心な中山は、教育長に現職高校校長だった玉津博克を起用。この玉津が、学力向上対策の一環として取り組んだのが、教科書選定方法の改革だった。 玉津の改革は、現場職員が推薦した教科書を実質的な審議もなく「追認」するだけだったこれまでの慣例を打破することだった。教科書選定作業は全国的にも旧態依然としていたから、玉津の改革は先進事例だった。 しかし、育鵬社版が選定されたことで、反対運動も激化した。 反対運動で注目すべきは、県教委の”介入”だった。協議会で育鵬社版が選定される可能性が高くなると、日程やメンバーの変更を要請。実際に選定されると、今度は協議会の答申に沿わない竹富町を指導するどころか、むしろ後押しするかのように新たなルールによる協議の場を設けて、逆転不採択に向けて道筋をつけていった。 さらに、本来の協議会の正当性を認めた国の見解すら否定した上、竹富町だけが違う教科書を使用することを是認するという”暴挙”ぶりを見せた。 そしてこの”暴走”を後押ししたのが、「沖縄タイムス」と「琉球新報」を始めとする地元マスコミだった。連日の批判報道キャンペーン。それは、連載記事だけでなく、読者の投稿欄にまで及び、改革を押し進めようとする玉津と、そして育鵬社版の教科書を批判。玉津を完全な”悪役”に仕立て上げていった。 住民運動も、マスコミ報道と足並みを揃えて、反対を叫び続ける。そして、その姿が連日、民法テレビで放映される。ヒステリックなまでに、沖縄に「育鵬社版反対」の声が駆け巡り、作られた民意が大きくなった結果、育鵬社版は、県教委のつけた道筋のままに「逆転不採択」となった。代わりに竹富町が採択した東京書籍版が、3市町統一の教科書として改めて採択されたのだった。 沖縄は、太平洋戦争で激しい地上戦を経験し、住民をはじめ20万人もの犠牲者を出した。「反戦平和教育」には全国でもとりわけ熱心に取り組んできた県でもある。しかし、それがひとたび米軍や自衛隊に矛を向ける時、常軌を逸した憎しみのエネルギーに変身することがある。そのことを、教科書問題を通じて痛切に感じた。 「沖縄タイムス」や「琉球新報」は、育鵬社版の教科書について、「米軍基地被害にほとんど触れていないから、教科書として不適格だ」と主張。尖閣列島、竹島、北方領土の問題に詳しく触れ、自衛隊の役割を高く評価する記述は「軍国主義的で、戦争につながる。子供を戦争に導く」、行き過ぎた男女平等をたしなめる記述は「男女差別を助長する」などと攻撃した。 ある教育関係者は「この教科書は、子供に与えるようなものではない」と断言。現場教員の組織である沖縄県教職員組合のトップも、「育鵬社の教科書が採択されたら、沖縄は全国に恥をさらす」と言い切った。 しかし、沖縄本島から遠く離れた八重山には、米軍基地も自衛隊基地もない。その代わり国境に接していて、例えば尖閣諸島をうかがう中国の脅威を、本島の住民よりも肌で感じている。八重山の住民の立場になってみれば、育鵬社や同じく保守系の著者が執筆した「自由社」の記述が特に異常とは思えなかった。 八重山で教科書問題が過熱した背景の1つに、与那国町で進む自衛隊配備計画がある。与那国町は日本最西端にある国境の島だが、警備力といえば警察の巡査がいるだけで、いわば丸裸に近い。しかし自衛隊配備反対派は、自衛隊に好意的な記述がある自由社、育鵬社版の採択を「自衛隊配備への地ならしだ」と猛反発した。 実は、育鵬社版採択の反対派の顔ぶれを見ると、「反自衛隊」を訴える人たちと同じなのである。それは育鵬社版を批判するパンフレットが、自衛隊の記述について槍玉に挙げていることからも十分うかがうことができる。 与那国島は現在でも、自衛隊配備の是非を巡って島が二分されている。与那国のみならず八重山諸島への自衛隊配備反対派にとっては、育鵬社や自由社の教科書が採択されては「都合が悪い」のである。 私は「逆転不採択」の現場に立ち会った。そこは、育鵬社版の教科書を何としても阻止するという反対派の常軌を逸した熱気に満ちていた。県教委職員は逆転不採択を露骨に主導した。そして翌日の紙面で、マスコミは逆転不採択を「平和と人権を貫く勝利」とたたえた。言論の自由が保障されている時代に、堂々と魔女狩りが行われたのだ。 結局、竹富町はいまだに育鵬社版を採択することなく、東京書籍版を使い続けている。教科書無償措置法によると、3市町は同一の教科書を採択しなくてはならないが、違法状態が八重山で起きているのだ。育鵬社版の採択を覆そうとした動きは、法治国家に対する一種のクーデターだった言えるだろう。 逆転不採択など一連の事態は全国紙でも取り上げられたが、その内実については、多くの人が「沖縄タイムス」や「琉球新報」など地元の主要マスコミの報道を通してしか知るすべがなかったのが実情だ。 八重山日報は、発行部数ははるかに及ばないが、できるだけ関係者を取材し、客観的な報道に努めてきたという自負がある。地元の主要マスコミの報道だけでは知り得ない八重山教科書問題の本質を伝えることで、「反日左翼勢力」による過剰な攻撃が1つの言論をかき消そうとする異常な実態に目を向けてもらいたい。
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