01. 2013年3月01日 11:40:32
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【第218回】 2013年3月1日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授] 得をするのは弁護士と消費者団体だけ? 日本版集団訴訟制度の法制化への懸念 米国の集団訴訟(クラスアクション)と似た制度を日本に導入し、日本でも同一案件で多数の消費者が被害を受けた場合の被害回復を可能としようという動きがあります。消費者庁はそのための法律案を来月下旬に国会に提出しようとしていますが、この法律案には問題が多いのではないでしょうか。 米国とは大きく異なる 制度の概要 もちろん消費者庁が導入しようとしている制度は、米国のものとはだいぶ異なります。米国の集団訴訟制度は、1人または数名の者が、共通の被害を受けた一定範囲の人たち(クラス)を代表してその全員のために原告として訴訟を起こせる仕組みとなっています。 これに対して、消費者庁が日本で導入しようとしている制度は、法案の詳細は明らかになっていませんが、これまで検討されてきた“集団的消費者被害回復に係る訴訟制度”がベースとなっているなら、以下の二段階型の訴訟制度となります(集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案の概要)。 @ 共通義務確認訴訟 (国から認定された)消費者団体が、企業が多数の消費者に及ぼした被害を回復させる(金銭を支払う)義務を負うことを確認する A 個別の消費者の債権確定手続き 企業が被害回復の義務を負うことが確認されたら、その旨を消費者に広く通知・公告し、それに応じて申し出た被害者の授権に基づいて消費者団体が裁判所で債権(企業の金銭支払い義務)を確定させる 消費者庁の説明では、個々の消費者が訴訟で被害回復を図るのは困難である一方、新たな制度は米国の集団訴訟制度の問題点(被害者なら誰でも訴訟でき、対象となる問題も限定されていないなど)も踏まえており、米国のように訴訟が濫発される可能性はないとなっていますが、本当にこうした制度を日本で導入するのが望ましいのでしょうか。 集団訴訟制度導入による 「2つの問題点」とは 私は、この制度には2つの問題点があるのではないかと思っています。 1つは、そもそも集団訴訟制度を日本に導入する必要があるのかという点です。消費者を悪質な企業から守り、消費者が受けた被害を回復することはもちろん不可欠です。 その一方で、米国での経験から明らかなように、集団訴訟制度の下では不当な和解を狙った濫訴や過大な損害賠償のリスクが生じるので、企業活動がリスク回避的となって萎縮しかねません。かつ、企業の側にとっては、情報収集、訴訟対応、保険利用の増加などコストアップの要因になり得ます。 即ち、経済全体の観点からは、この制度は企業のイノベーションを阻害し、デフレを促進する可能性があるのです。実際、米国のある製薬企業がある年に支出した訴訟関連費用は1900万ドルと、その会社の研究開発費1700万ドルを上回っていたそうです。 そうした事実を考えると、この集団訴訟制度は、安倍政権が目指すデフレ脱却、イノベーション促進、企業の投資促進といった大方針の政策目的とは正反対の政策と言えます。 かつ、かつ消費者の利益を守るという政策目的は、例えばADR(裁判外紛争解決手続き)の改善などによっても対応可能であることを考えると、特に今の政権の大方針の下では、集団訴訟制度の導入は他の手段では対応不可能であることが客観的に証明されない限り控えるべきであり、政府全体としてもっとよく検討してから法律案を国会に提出すべきではないでしょうか。 もう1つの問題は、二段階という制度設計ゆえに生じる可能性のある濫訴、更には既得権益の発生のリスクです。 @の段階では被害を受けた消費者から消費者団体への委任は不要となっています。また、消費者団体はAに参加した消費者から報酬と費用を受領でき、かつその算定基準も不明確です。つまり、悪く考えれば消費者団体が二段階の集団訴訟制度で儲けることができるのです。 更に悪く考えれば、貸金業法改正によってタチの悪い弁護士が儲けようと過払い訴訟に群がった前例からも、消費者団体と連携して訴訟を起こして儲けようとする弁護士も増えるかもしれません。 もし本当にそうなったら、ダメもとのあまり大規模でない(コストがかからない)訴訟が濫発される危険性が大きいのではないでしょうか。 そもそも、集団訴訟で企業の負担が大きくなっても、それに関与した弁護士などの“仲介者”が一番儲かり、被害を受けた消費者が得るものはそう多くありません。例えば、米国でレンタルDVDショップ(ブロックバスター)がレンタルの延滞金を巡る集団訴訟を起こされたときは、訴訟コストが900万ドルかかったのに対して、集団訴訟に加わった消費者が得たものはDVD1本のフリーレンタルだけです。 そうした現実も踏まえると、日本で導入を想定している二段階制度は消費者団体とそれに連なる弁護士に既得権益を発生させるのでは、と懸念せざるを得ません。 法案の国会提出まであと1ヵ月 官邸の政治主導への期待 繰り返しになりますが、消費者保護は重要な政策です。そして、消費者庁もその政策目標の達成に向けてマジメに取り組んでいるはずです。それらの点について否定する気は毛頭ありません。 しかし、部分を担当する官僚組織がその担当部分だけを考えて暴走してしまい、結果として政権の大目標にそぐわない制度が出来てしまっては、せっかくデフレ脱却と経済再生に向けて上々の滑り出しをしている政権全体の足を引っ張りかねません。 おそらく官邸は様々な案件で忙し過ぎて、この集団訴訟制度の法案の内容まで十分にフォローできていないのでしょう。しかし、法案の国会提出は3月下旬が予定されていますので、もうあまり時間がありません。官邸がこうした個別の政策でも正しい政治主導を発揮することを期待したいと思います。 消費増税前に値上げする
原田泳幸・日本マクドナルドホールディングス会長兼社長に聞く 2013年3月1日(金) 日野 なおみ 政府は今年秋にも2014年4月からの消費増税を判断する。円安による調達コストの上昇にさらされる小売業はさらなる重荷を背負いかねない。原田泳幸・日本マクドナルドホールディングス会長兼社長は価格戦略の重要性を説く。 アベノミクス効果で円安・株高が進んでいます。 原田:株価は期待値で動きます。サイエンス(科学)ではなく、サイコロジー(心理学)。そして今の株高は明らかにサイコロジー、つまり期待値です。 今後、経済成長の実態が伴わなければ、リバウンドが怖いでしょうね。今は何でもいいですから、実態ある成長を国民に見せなくてはなりません。例えばトヨタ自動車の業績を見ると、円安に転じた為替変動の恩恵だけではなく、トヨタ自体の業績が改善している。ああいった例を増やすべきでしょう。 アベノミクスの3本目の矢となる「成長戦略」では何が必要でしょう。 (写真:竹井俊晴、以下同) 原田:金融緩和と財政出動という最初の2本の矢は、カンフル剤だと思っています。公共投資に踏み切るといっていますが、これは、国が今までの経験の中で最も景気を刺激したという実績がある手法。ですから今回採用されたわけで、それを非難するつもりはありません。カンフル剤としての役目を果たせばいい。
ですが、日本経済を根本的に治療するには、どんな成長を図るかという国家としてのビジョンが欠かせません。そこはまだ漠然としているように感じますね。 例えば、1月に閣議決定された政府の2013年度の予算案では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を中心とした研究推進費として、90億円が計上されました。ですが、たったの90億円ですよ。これではあまりに少なすぎやしませんか。 日本マクドナルドのビジネス波及効果を考えると、うちは年間約5200億円の売上高があります。消費税が10%になれば、それだけで520億円の税金を払うことになる。それだけではありません。社員やクルーへの給与や、原材料費などを加味すると、日本経済に1千数百億規模の貢献をしているわけです。 それにもかかわらず、成長の基軸とするiPS細胞の研究費に90億円とは、ケタが1つ少なくありませんかと言いたいですね。 これはあくまでも一例です。日本国家とし、何を成長の軸に据え、何に投資するのか。成長戦略のフレームワークが全く伝わってきません。 経営者が自社の強みや価値を考えるのと同じように、政府も日本国家のエクスクルーシブバリュー(唯一持つ価値)は何かと考えるべきでしょう。他国が真似できない日本独自の強みや価値は何か。 それはやはり、付加価値の高い商品を作ることができる点にあるのではないでしょうか。農業、工業とも、品質や安全性に秀で、微細化技術も高い。これこそ、日本国民が持っている普遍的な強みでしょう。これを成長の軸に据えずにどうするというんでしょうか。 私に1兆円使わせてくれるなら… テレビ1つを見ても、これからは今までのようなテレビが売れる時代ではないと思っています。日本は、韓国のサムスングループが絶対に作れないテレビは何かを考えなければいけません。未来の家電はどうなるのか。今までとは全く違う形のはずです。 モバイルやインターネット、コンテンツ、物流が融合した家電は何か。米アップルのiPadやiPhone以上の家電が生まれてくるはずです。そして、それは間違いなく日本にとってチャンスとなります。こういった分野を政治主導で成長させないといけません。 かつて、通産省があった時代には、官民一体となってイノベーションを起こそうとするプロジェクトがたくさんありました。ですが今は、クルマならクルマ、家電は家電、物流は物流。それぞれがその枠内での成長を考えている。それではダメなんです。業界を串刺しして、どんな成長を望むのか考える必要があります。 「産業競争力会議」でも成長戦略が検討され、規制緩和について話し合われています。 原田:競争力会議に出ている民間企業の方々を批判するつもりはありません。ですが、本当に今は規制緩和の話ばかりが出ていますね。 医薬品をインターネットで売っても構わないでしょう。やれば、と思いますよ。ですが、その規制緩和で日本がどんな風に成長するのか。どんな風に世界進出することができるのか。 規制緩和によって世界進出を図ろうなどという考え方は甘いでしょう。それは経済成長を促すための、「one of them」でしかない。それよりも、新しいビジネスモデルを根底から作り直すことが重要なんです。 成長戦略で求められるのは、イノベーションリーダーシップです。日本において今後、どんなイノベーションを起こしていくのか。その議論をしなければいけない。規制緩和の枠を超え、イノベーティブストラテジーを考えなければいけないんです。 将来には、米アップルがクルマを製造するようになるかもしれません。米インターネット大手のグーグルや米マイクロソフトが自動車を作ったらどうなるのか。「スマートカー」が出てきたらどう対抗するのか。今までのレガシーエンジンを電気自動車に変えるだけで対抗できるわけがありません。イノベーションのリーダーシップを握らないと、国際競争力が付くわけがありません。 「夢物語」と言われるところに、イノベーションは起こるんです。それを牽引し、イノベーションに投資をするのが国の役割でしょう。 もし私に1兆円の国家予算を使わせてもらえるなら、イノベーションに対してバンバン投資しますよ。 「原材料高騰」だけを騒いでも仕方ない 具体的に、どういった分野に投資すべきだと思いますか。 原田:有限の金を高齢者に使うか若者に使うか。私ならば若者に使います。それが国家の成長戦略につながり、社会保障問題の解消になると思いますから。若者の高い失業率をそのまま放っておいて、高齢者にばかり金を投じて何が生まれると思いますか。金が循環せず、経済成長は見込めないでしょう。 動ける高齢者は、働かせないとダメなんです。65歳で定年してはいけません。アンリミティッドにしないと。 私の親父は96歳ですが、今もトラックに乗って仕事をしています。父の例は極端ですが、それでも今は国難なんです。国民が総力を挙げて働くべきでしょう。公園では早朝からラジオ体操をする高齢者がたくさんいます。みなさんとても元気です。であれば、働いてもらえばいいんです。 円安も進んでいます。原材料を海外からの輸入に頼る外食産業では、大きな影響があるようです。 原田:ただね、我が国の歴史を紐解くと、日本は昔からずっと貿易立国だったわけですよ。ですから輸入超過はやっぱりダメで、輸出超過であるべきです。今までは過度な円高がそれを止めてきましたから、適切な円安にして、輸出を活性化しなくてはなりません。 「円安が行き過ぎると輸入コストが上がるから困る」という意見も、もちろんあるでしょう。我々のように、原材料を輸入して国内で消費される産業は大変ですよ。 ですが、それ以外のビジネスでは打つ手がある。原料の輸入コストが上がっても、それに付加価値を付けて輸出するビジネスモデルを作ればいいわけです。これが軌道に乗れば、経済は循環してくるでしょう。 そうなればインフレによって多少、食料品などが値上げされても、収入が増えますから、ダメージは大きくないはずです。それがマクロ経済ですから。そんな議論もせずに、「原材料高騰」だけを騒いでいても仕方がないでしょう。 輸入コストなどの高騰を受け、商品の値上げを検討する企業も増えています。 原田:「色々なコストが高騰しているから、商品価格を値上げしたい。だが消費増税前に値上げをすることはできない」。消費者と接する外食や小売りの分野では、こんな声を耳にします。 同じような相談が、マクドナルドのフランチャイズのオーナーからも寄せられました。「原田さん、私たちはこれだけ手間隙かけて素晴らしいビッグマックを作っている。値上げしてもいいんじゃないですか」、と。 そりゃ、値上げはしたいですよ。したいけれど、顧客満足度のスコアがもっと上がらなければ、(値上げは)することができない。そんな風に答えました。 外食産業には63兆円の潜在需要がある 「値上げをすれば客足が減るのではないか」と懸念する声もあります。ですが、考えてみてください。日本の外食産業の市場規模は年間7.7兆円と言われています。対して、家庭で食べる内食は、食材費だけでも年間21兆円です。外食産業の原材料が売上高の3分の1とすると、「21兆円×3」で、内食が全て外食に置き換われば、63兆円に市場が膨らむ計算になる。つまり、外食産業には63兆円分の潜在需要があるわけです。それをどう喚起するか、ということでしょう。 外食の回数を今までよりも増やしてもらう。それが必要だと考えたからこそ、我々は朝食のキャンペーンなどを始めているわけです。 円安のダメージを受けていないのでしょうか。 原田:我々は、3年先まで為替予約をしていますから。この目的は、為替損益で儲けることではありません。円安に振れた場合のリスクヘッジです。円高の時期に、先を見越してヘッジをしていますから、1ドル=90円台の円安では何も影響を受けません。 ただし為替に関係なく、原材料の世界的な高騰の影響は逃れられません。だから我々は、サプライチェーンインフラの改革を進めて、毎年コスト低減を進めてきました。そこで吸収するように考えています。 原油高も影響しますし、電気代の値上げも響く。これらは、省エネ性能の高い設備に変えたり、LEDを導入したりすることで吸収していく。ですから、これらは我々の業績全体を大きく揺さぶるほどの影響はありません。 個人的には、円相場は(対ドルで)100円程度になるのが一番いいと思っています。輸出産業をはじめ、国全体が元気になりますから。給与が増え、消費が伸びれば、我々のような外食産業も活性化するはずです。来店客を増やすには、円相場は100円がベストでしょう。 2014年には消費増税が控えています。「原材料の輸入コストが高くなっているから、何とか持ち堪えて消費増税と同時に値上げをしよう」と考える経営者も多いようです。 原田: 消費増税と同時に値上げするのは、明らかに愚策でしょう。そもそも、消費税を理由に値上げをするから、消費が止まるんです。 また消費が止まるから「増税反対」という経営者もいますが、これも暴論ですね。消費税を上げなかったら、日本の国はどうなるのか。誰が社会保障費を払うのでしょうか。 重要なのは、消費税と関係のないところで値上げをすることなんです。 ですから我々は、今、九州で試験的な値上げをしています。100円の商品を120円にして、うまくいったら消費増税の前に値上げをする。増税前に早く値上げをして、増税時には価格を一切変更しない。そうすれば消費者は安心しますから、消費意欲は衰えないでしょう。事前に値上げをして、消費増税分を吸収する。それくらいの知恵を使って、消費増税に備えるのが経営者の責任でしょう。 インフレに悩む社員はいない それも、商品が10ある中で、全部一律に数%ずつ値上げをするのは間違っています。ある商品は2%、別の商品は10%上げるけれども、ほかの商品は値下げをする。セットメニューは今以上にお得に感じられるようにする。 実際に九州のテストでは、値下げしている商品もあるんです。フライドポテトやハッシュドポテト、マックナゲットは値下げしています。
全商品を包括的に見て、満足度を高めながら値上げをする。これが価格戦略です。消費税が5%から8%になったので、一律3%値上げします、というのは愚策です。こんなことをすれば、消費は一気に止まりますよ。 そもそも私が日本マクドナルドの経営を担うようになってから、1度も値下げをしたことがありません。このデフレの時代に、ですよ。それでも、客数は年間10億人から16億人に増えました。 デフレの時代に、いかに価値を伝えて高単価でも売れるようにするか。経営者はそういうことを考えなくてはならないんです。税金や外的要因のせいにしてはいけない。 「2%の物価上昇」を見込み、賃上げを要求する声も上がっています。 原田:「インフレになるだろうから最初に給料を上げろ」という意見も出ていますが、信じられませんね。マクロ経済が循環し、企業が収益を得たから給与が上がる。これが常識的な流れでしょう。マクロ経済が回り始めてもいないのに、賃金だけ上げる理由はどこにもないんです。企業が破綻したら、賃金さえもらえなくなるわけですから。 ただ、その点が説明不足になっているというのは事実です。安倍政権がしっかりと説明をすることが必要でしょうね。 日本マクドナルドでは今春、賃上げをしますか。 原田:我が社は成果主義です。自分でしっかり稼いで、自分でご褒美をもらうという考え方を取っている。それも顧客満足度や社員満足度も、ボーナスに反映させています。これは本当の意味で、成長のドライバーになると思っています。 なぜなら成果主義は、労働者が春闘で勝ち取るものではなく、会社と社員が一緒にお客様からお金をもらって勝ち取るものだからです。ただ当然、業績が下がれば給料も下がりますが。 巷では「2%の物価上昇に合わせて賃上げを」などと言われていますが、我が社はそれ以上に賃金が伸びています。ですからインフレで悩む社員はいませんね。 日野 なおみ(ひの・なおみ) 日経ビジネス記者。 徹底検証 アベノミクス
日本経済の閉塞感を円安・株高が一変させた。世界の投資家や政府も久方ぶりに日本に熱い視線を注ぐ。安倍晋三首相の経済政策は日本をデフレから救い出す究極の秘策か、それとも期待を振りまくだけに終わるのか。識者へのインタビューなどから、アベノミクスの行方を探る。
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