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2013/2/28 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
いくらお人よしでも熟慮すべき現在の国情、政府官僚マスコミは既得権益保持安泰に安堵し真相を一切知らせず総体制化になったこの国
カムバックは美談を伴う。再起不能とされたスポーツ選手がケガや病気を克服して勝つ。会社を潰した社長が新ビジネスで目覚ましい業績を挙げる。そんな復活劇のウラには、血のにじむ努力や苦労があるものだ。それに見る者は感動を覚える。人並み外れた精神力や知識、そして何よりも他を圧倒する実力があればこそ、返り咲きがかなうのだ。
第2次政権を発足させた安倍首相は、ワシントンの講演で「I am back」と胸を張った。それでは安倍も、人知れず努力や苦労を重ねたのだろうか。前回の退陣から6年だ。政策について勉強をしたり、価値観が違う人に意見を聞いたりして、政治家としての幅を広げる時間は十分にあったはずだ。
確かに株式相場は調子がいい。安倍政権になってから、日経平均は右肩上がりだ。昨年11月の解散時から2000円あまり上昇した。最近はイタリア総選挙の煽(あお)りでグラグラしているものの、いまだにリーマン・ショック前の水準を維持している。株価が上がれば、暮らしも上向きそうな気がしてくるから不思議だ。国民は株高を運んできた安倍を歓迎している。実際に大新聞の世論調査を見ると、安倍内閣の支持率は7割と高い。
だが、株価が高騰すれば何でもいいのか。
そもそもこの相場は、安倍の手腕でも何でもない。
「投資家が市場に戻ってきたのは、貧乏神みたいな野田首相が退陣したから。そこに米国の財政の崖や欧州の債務危機といった問題が峠を越すタイミングも重なり、一気に過熱した」(大手証券)というのが真相だ。
安倍はきのう(27日)の夜、中小企業経営者を前に、「安倍さんは運がいいと言われるが、運も実力のうちですから」と話している。本人が誰よりも分かっている。安倍は運が良かっただけ。6年前から進歩したわけではない。
◆2本の矢が折れたアベノミクス
政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「安倍首相は前回の失敗を書き留めたノートを毎日のように読み返しているそうです。保守的な政策を前面に出さず、経済の再生から訴えたのも、前回の反省からでしょう。ただ、勉強しているのは見せ方や振る舞い方ばかりのようで、中身は変わっていない。経済政策にも目新しさはありません。公共事業のバラマキは自民党の伝統的手法だし、金融緩和は民主党政権もやっていた。安倍首相の退陣は体調を崩したためとされますが、持病の悪化は参院選の敗北が原因です。それを招いたのは幼稚な政権運営にあった。お友達内閣とヤユされたように、仲間内だけで物事を進めようとして、国民の信頼をなくしたのです。経済政策では、格差拡大の小泉構造改革路線を踏襲している。そんな無能首相に重大な仕事ができるとは思えません」
実際、経済政策は早くも行き詰まっている。
「財政出動と金融緩和、成長戦略を3本の矢としていますが、すでに2本は折れてしまった。財政は限界が近づいているし、金融はG20が通貨安戦争の回避で合意するなど国際的に釘を刺された状態。結局、規制緩和を成長戦略の柱と位置付けてTPPに参加し、米国の要望を聞くことしかできないのです」(筑波大名誉教授・小林弥六氏=経済学)
TPPは国内産業をズタズタにする猛毒だ。相手国で不利な扱いを受けた企業の提訴を認めたISDS条項は政府の手足を縛る。中小零細企業の保護に乗り出せば、「不公正な競争を阻害する」と待ったがかかる恐れも強い。とてもじゃないがのめるようなものではないのだ。
◆輸入デフレ招くTPP歓迎の支離滅裂
それでもマスコミは、安倍政権に注文を付けようとしない。それどころか、「内政・外交の課題に着実に取り組んでいる」と思い切りヨイショしている。
腰抜け野党のテイタラクで補正予算が成立すれば、「決められる政治」と自画自賛した安倍の言葉を無批判に垂れ流す。オバマ米大統領と会談すれば、「日米同盟の復活をアピール」と大騒ぎ。社説ではTPP賛成の論陣を張っている。
「マスコミは、TPPで関税がなくなれば、外国製品が安くなると肯定的に報じています。しかし、安倍政権は、2%の物価上昇を目標にしたインフレターゲットも打ち出し、デフレ脱却を目指すと強調している。これにもマスコミは賛成しているから支離滅裂です。輸入デフレを招くことになるTPPを支持する一方で、物価上昇策も必要だとするのはおかしい。政策の不整合は明らかなのに、それを指摘しようとしないのだから、理解に苦しみます」(法大教授・五十嵐仁氏=政治学)
民主党は政権交代で明治以来の官僚統治を改めると訴えた。先頭に立ったのが、小沢一郎だ。官僚やマスコミの既得権にメスを入れようと奔走した。だが、既得権を守りたい霞が関とメディアの執拗なバッシングで地位を追われ、野田の自爆テロ解散で旧体制の自民党が復権。官僚統治は頑強なままで崩れず、権益も残された。安倍批判が高まらないのは当然だろう。
◆翼賛体制許した戦前に似た危うい雰囲気
国民は何も真相を知らされず、総体制化に組み込まれていく。長い物に巻かれるのは日本の国民性だ。明大講師の関修氏(心理学)が言う。
「フランスでは、『人と同じことをしていては、あなたらしさを発揮できない』と教育されます。だが、日本人は協調性が美徳とされる。ご飯のときも、だれかが注文すると『私も同じで』と言ってしまう国民性です。しかも、都合の悪いことは見ようとしない。安倍首相が政権運営に失敗して退陣したことも、水に流して忘れている。東京五輪招致なども、デメリットがたくさんあるのに、みんなで応援しようなどと肯定するのです。大政翼賛体制を許した戦前に近い雰囲気。危うい感じがします」
スポーツでも、日本が勝てば「やった、やった」と大騒ぎ。柔道で、しごきと称する暴力が横行していても、金メダルを取れば「よくやった」と喝采を送る。そんな一体化を善とする国粋主義の国民性が、安倍の暴政を肯定しているのだ。
「安倍政権になっても、この国の問題は一歩も前進していない。原発事故の収束は見えないし、復興もスピードアップしている様子は伝わって来ない。良くなったのは、株価だけでしょう」(山口朝雄氏=前出)
その一点で「すべてオーケー」と評価できるほど、日本の課題は少なくない。不都合な真実を知ろうとせず、曖昧な期待感で安倍政権を支持するのは愚かな行為。努力や苦労のない安易なカムバックを許してはいけないのだ。
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