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2013年2月27日 植草一秀の『知られざる真実』
1枚のポスターがある。
ウソつかない。
TPP断固反対。
ブレない。
日本を耕す!!自民党
とある。「日本を耕す!!」とあるから、農業地帯を中心に掲載したポスターであろうか。
昨年12月の総選挙に向けた選挙対策ポスターなのであろうか。
私が現物を確認したわけではないので、おとりの偽ポスターの可能性を全面否定できるものではないが、自民党は昨年の総選挙に際して、TPP慎重姿勢をアピールしていたから、その主張とは整合的である。
安倍晋三氏は
「聖域なき関税撤廃を前途とする限り、TPP交渉には参加しない」
と発言してきた。
TPP交渉においては、「すべての品目を例外なく交渉のテーブルに乗せる」ことが前提とされてきた。
同時に、「例外なき関税撤廃を基本として、すべての品目の10年以内の関税撤廃を目指す」ことが強調されてきた。
この文脈での安倍晋三発言は、「例外なき関税撤廃」の原則が明確に外されることが確かめられない限り、安倍自民党はTPP交渉には参加しない、慎重姿勢を貫くものと、有権者に受け止められてきたと思われる。
上記のポスターは、その意味をより分かりやすく示したものと理解できる。
しかし、安倍氏が取った行動は、こうした通常の理解力で理解される方向に進んだものではなく、言わば「言葉の綾」をかいくぐる、「詐欺的」と言わざるを得ないものであった。
2011年6月2日、菅直人内閣に対する不信任決議案が上程され、不信任案可決の流れができかけていた。
民主党代議士会の前に鳩山由紀夫元首相と菅直人首相が会談し、早期の退陣で合意した。
代議士会で菅首相が発言したあと、鳩山元首相が補足説明をして、復興基本法が成立し、第2次補正予算編成のめどがついた段階で菅首相が退陣することで合意したことを説明した。
この説明に対して菅氏が反論しなかったため、代議士会出席者の多くが早期退陣で合意が成立したと理解して、不信任決議案への賛成を取り下げた。
結果として不信任案は否決された。
ところが、不信任決議案が否決されると、菅首相は早期退陣を否定する発言を始めた。
代議士会で二つの具体的条件を掲げて早期退陣を明言したのは鳩山元首相であって、菅氏は「退陣」の言葉を口にしていないことが強調された。
菅−鳩山会談に同席した岡田克也氏も菅発言に同調する考えを示した。
これも「言葉の綾」をかいくぐる、「詐欺的」手法だった。
2012年8月10日、参議院本会議は消費税増税法案を賛成多数で可決し、同法が成立した。
増税法案可決は民主・自民・公明の三党合意によるものだった。
自民、公明は、民主党が総選挙で増税反対を公約として掲げたことを理由に、まずは選挙で民意を確認し、そのうえで増税法案を成立すべきだと主張して増税法案への賛成を留保した。
これに対して野田佳彦氏は、「近いうちに信を問う」ことを確約して自民、公明の賛成を得ようとした。自民、公明は、この約束と引き換えに増税法案への賛成を決めた。
ところが、増税法が成立すると、早期解散の約束が曖昧にされ始めた。
野田佳彦氏が「近いうちに」の意味について、はっきりした時間を念頭に置いたものではないと主張し始めたのだ。
これも「言葉の綾」をかいくぐる「詐欺的」な手法だと言わざるを得ない。
野田佳彦氏は2009年の総選挙の際に、「シロアリ退治なき消費税増税には反対」の方針を明示し、4年間は消費税を上げないことを確約した。
ところが、野田政権が発足すると、消費税増税法案を強硬に国会で採決する暴挙に打って出た。
これに対する批判が強まると、「衆院任期中は消費税増税を行わないと言ったが、その後もやらないとは言っていない」と増税推進を正当化する発言を示した。
しかし、国会質疑で、民主党議員が選挙時の新聞社による「衆院任期中は衆院任期後の増税を決めることにも反対か」とのアンケート調査に対して「反対だ」と答えていたことが暴露された。
また、野田氏が強調していたのは、「シロアリ退治なき消費税増税は認めない」というもので、野田氏が推進した消費税増税は、この約束に明らかに反するものだった。
野田氏が公約の一部の「言葉の綾」を利用して、消費税増税推進を正当化したのも、やはり「詐欺的」な手法であった。
私は日本の政治の劣化は、政治家による、こうした「言葉の綾」をかいくぐる「詐欺的」手法の濫用によって引き起こされていると思う。
こうした「政治の信用、政治への信頼」を打ち砕く政治家や政党の悪しき行動を批判し、天下に正道を実現するように論議を喚起するのが、本来のメディアの役割である。
そのメディアが、メディアの本分を忘れて、政治権力による「詐欺的」手法の片棒を担ぐ行動にいそしんでいる。
安倍氏は、日米首脳会談で「聖域なき関税撤廃を前提とはしないことを確認した」ことをもって、TPP交渉への参加の条件をクリアしたとの見解を表明しているが、これは有権者が総選挙で受け止めた自民党の基本姿勢とは、著しく乖離するものである。
「聖域なき関税撤廃が否定された」のであれば、条件がクリアされたと表現してもよいだろう。
しかし、
「聖域なき関税撤廃を前提とはしない」
つまり、
「一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認」
しただけなら、有権者の抱く懸念はまったく解消されたことにはならない。
なぜなら、
「あらかじめ約束することが求められない」
ことが確保されただけなのであって、
「交渉の結果として「すべての関税を撤廃すること」は否定される」
ことが確約されたわけではないからだ。
文章の上でこの確約がどこにも存在しない以上、最終結論の段階で、あらかじめ約束することは求めなかったが、交渉の結果として「すべての関税を撤廃すること」が決まったとされて、それにクレームをつけることはできない。
この結論が導かれても、まさに「言葉の綾」を理由に、クレームははねつけられてしまう。
こうした、「言葉の綾」をかいくぐる「詐欺的」政治手法の横行が、政治不信を増幅させ、政治の劣化を招いていると思う。
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