04. 2013年2月27日 01:33:31
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【第270回】 2013年2月27日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 日銀正副総裁人事案の評価と市場・経済の今後 黒田総裁と岩田副総裁 正・副反対なら満点に近い 注目の日銀の次期正副総裁に関する政府の人事案が発表された。既報の通り安倍首相は、総裁には黒田東彦アジア開発銀行総裁、副総裁には岩田規久男学習院大学教授、中曾宏日本銀行理事を起用する意向だ。 理想を言うと、黒田氏と岩田氏の正・副が反対なら、満点の人事だった。市場関係者から「最も株価が上がる総裁候補」と見られていた岩田氏が総裁なら、「これまでのやり方を変える」というメッセージが、より明確になったはずだ。 財務省出身だが次官経験者ではない黒田氏の名前が噂に上った段階では、財務省は副総裁ポストを取ることで満足する方針なのかとも思ったが、財務省は今回総裁ポストを取ることができてそれ以上に満足だろうし、政治的には麻生財務大臣の顔も立つ。 黒田氏は、財務省の中では過去の日銀の政策に批判的な方だった。一応、安倍首相と意見を同じくする人という条件には合致する。また、国際金融関係の仕事が長いので、外国の通貨政策関係者とのやり取りはスムーズだろう。 とはいえ財務省出身なので、少なくとも「傍目からは」、財務省の意を受けて将来緊縮的な政策に傾くのではないかという懸念が伴うし、“国際派”は外国からの圧力に弱いのではないかといった心配もないではない。 市場を相手にする日銀の役割を考えると、人事が与えるイメージも政策のうちなので、目下「財務省出身」はマイナスポイントだと評価せざるを得ない。 筆者は、日銀法改正に対してどう意見表明するかによって黒田氏の評価を決定するのがいいと考えている。 国会で所見を問われた際に、「政策目標は政府が与えるもので、中央銀行の独立性とは手段の独立性だ。このことを将来共々はっきりさせるために、日銀法の改正は必要であり、そうするように強く要望する」と堂々と述べるなら、黒田氏は人物として「本物」だ。 日銀法改正には触れずに、日銀の、すなわち自分の責任を曖昧にしたままで、ただ声高に「デフレ脱却を目指して頑張る」と言うだけなら、悪い意味で「バランスを取る」平凡な官僚出身者と評価して、将来の行動のブレを警戒せざるを得ない。 他方、長年日銀批判の急先鋒であった岩田規久男氏が副総裁とはいえ、日銀の内部に乗り込むことになったことは画期的だ。 人事が報道されて初日の25日に、日経平均が前週末比276円も上昇したことの効果の半分以上は、岩田規久男氏起用のサプライズ効果ではないだろうか。とはいえ、できれば岩田氏が副総裁ではなく、総裁ならもっといい。 ところで、冒頭で黒田・岩田両氏の正・副が反対だったら満点だと言ったのは、我ながらいささか正確性を欠いている。 組織としての日銀が、行内の出世頭の席としてプロパーの副総裁を何としても確保したいという意思を持っていることは理解できるし、世の中の人事というものは、このくらいのものなのかも知れない。 しかし、日銀プロパーの中曽理事の副総裁起用は、政策決定会合における「積極的な金融緩和論者」の票を一票減らしている点で“アベノミクス”の趣旨に逆行している。正副総裁3人のうち2人が財務省と日銀からというのでは、日銀が大きく変わるという印象にはならない。せっかく出世した(まだ正式決定ではないが)中曽氏には申し訳ないが、「残念な」人事である。 日銀人事は衆参両院で同意が必要 みんなの党は反対の旗を降ろさない さて、日銀の正副総裁は、言うまでもなく衆参両院の同意が必要な、手続き的に面倒な人事だ。目下、自民・公明の与党の合計では過半数を持っていない参議院の動向が注目される。 今回の人事案に民主党が反対した場合、自民・公明両党に加えて、みんなの党、日本維新の会などが賛成に回ると可決を得ることができるが、みんなの党は今のところ、財務省出身を理由に黒田氏の総裁就任に反対する意向を表明しているので、みんなの党が翻意しない限り、民主党の協力が得られないと、この人事案はすんなり通らない。 みんなの党の反対はそれ自体として筋が通っているし、キャスティング・ボートを持つことが同党の最大の政治的資源であり、当面の存在感の源の1つなので、彼らが「反対」の旗を簡単に降ろすことはないだろう。 問題は「民主党がどう動くか」 ぐずぐず注文を付けて賛成に回る? 問題は、民主党の賛否ということになる。 今回の日銀人事への対応は、民主党が政治的に主な敵を自民党と見ているのか、みんなの党や日本維新の会と見ているのか、ということを判別できるリトマス試験紙になる。 民主党が、財務省出身者を日銀総裁に選ぶことを説得的に批判し、より優れた対案を出すことができるなら、人事案に反対の道を行くことが考えられる。アベノミクスを批判するか、さらに上回る政策と人事案を提示して国民を納得させることができるなら、政治的には迷うことなくこの選択だ。 だが一方、退潮著しい民主党が、次の参院選を横目に見つつ、野党内での比較優位の確保くらいに目標を下げるなら、「いたずらな反対だ」とみんなの党を批判して、賛成に回る選択があり得る。 この場合、同党の存在感はますます希薄化することになるが、比較の対象を「野党内」に限るなら、しばらくの間は悪くない気分かも知れない。 筆者は、海江田代表の能力では今回の人事案に対する説得的な反対でポイントを稼ぐことが難しいので、ぐずぐずと注文を付けながらも民主党が賛成に回るような気がするが、現在同党はカオス化しており、どちらに転ぶのかは正直なところわからない。 黒田総裁が否決されて、岩田規久男氏が総裁に繰り上がるというような(ポジティブな)サプライズが転がり出ることも考えられるし、今回の人事案全体が否決されて、岩田規久男氏を日銀に送り込むことができなくなるという、何とも残念な事態になる心配もある。 相場と経済の今後はどうなるか 大胆な金融緩和は続けざるを得ない 日銀の正副総裁人事は、今後の日銀の行動予測への影響を通じて、為替レートや株価に影響するし、ひいては経済のパフォーマンスにも影響を与える。このこと自体は筋が通っており、政策としてはより良いメッセージ効果を持つ人事が重要だ。この点に間違いはない。 しかし、一歩退いて考えて見ると、仮に市場を失望させるような人事が実現した場合、たとえば株価が大きく下がったら、次には何が起こるだろうか。 おそらく、誰が正副総裁であっても、市場にポジティブなサプライズを与える政策を発表するだろう。さすがに今回の安倍政権は、日銀を自由気ままな放し飼いにしてはおくまい。 残存期間の長い国債の大量買い入れ、外債購入(外国との兼ね合いで難しいかもしれないが)、ETF(上場型投信)やREIT(不動産投信)を通じた株式や不動産の買い入れ、インフレ目標の引き上げ、日銀法改正など、追加的に使うことができる手段はあまたある。 投資家というよりもビジネスマンの目で、日々の相場の反応から一歩引いて事態を眺めると、誰が総裁・副総裁になっても、「物価上昇率2%」までは大胆な金融緩和を続けざるを得ないことが見える。 この点は誤解して欲しくないが、筆者は日銀が大胆な金融緩和によってデフレ脱却を実現させるべきだと思っているし、現在の資産価格(株価や不動産価格)はまだまだバブルの域には達していないと判断している。 だが他方で、金融が絡むビジネスの観点から考えると、当面予想される経済環境は、後にバブルに至るようなブームを起こすのに実に好適だと言える。 「アベノミクス」はバブルを起こすか 信用の質と金融システムの管理を工夫せよ バブルは、金融緩和状態を「必要条件」として、「リスクが小さな儲け話」に見えるような“バブルの種”が登場することで、信用の過大な膨張が起こることによって発生する。 そして、金融ビジネス及び個々の金融マンは、顧客や資金の貸し手、あるいは金融機関の株主(いずれも利用する対象だ)により大きなリスクを取らせることを通じて、自らの収入を拡大する「ビジネス・モデル」を持つ。金融ビジネスの制御が難しいことがバブル問題の核心だが、この問題が簡単に解決することはなさそうだ。 「予想」の問題としては、アベノミクスが将来「バブル的」状況をもたらす可能性は小さくない。(では、誰が、どのように起こすのかが問題だ!) 政策論としては、日銀を含む経済政策当局に対しては、あくまでもデフレ脱却と両立する形でだが、信用の質と金融システムの管理を工夫することを求めたい。これが、これからの中央銀行マンに求められる課題だと思う。 他方、金融マンを含むビジネスマンには、いささか挑発的に過ぎるかも知れないが、「金儲けが本当に好きなら、今の環境でバブルの1つも起こせなくてどうする!」と言ってみたい。当面、それくらいのチャンスがあるはずだ。 「さて、あなたは、何で儲けるつもりですか?」
【第54回】 2013年2月27日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授] なぜ日本はG20で名指し批判を回避できたのか ――ターニングポイントを迎える日本外交 安倍晋三内閣の経済政策「アベノミクス」が円安・株高を生じさせ、景況感をよくすることで、日本国内にある種の高揚感が生まれている。一方で「失われた20年」と呼ばれた期間、金融緩和や公共事業が繰り返されてきたが、本格的な成長に結びつかず、その効果が終われば再び景気が低迷してきたことを、日本国民はよくわかっている。これらの政策は「時間稼ぎ」に過ぎず、「第3の矢」と呼ばれる「成長戦略」が最も重要だと指摘する識者は多い。
安倍首相自身も、「成長戦略」の重要性を認識している。首相が「時間稼ぎ」の金融緩和・公共事業に徹底して取り組む理由は、7月の参院選で勝利して「ねじれ国会」を解消し安定多数を獲得することで、既得権との戦いになる「成長戦略」に万全の態勢で取り組むためであろう。安倍首相が参院選前に第2弾の景気対策を打ち出すとの噂があるほど、首相の参院選に賭ける思いは強い。 識者や経済界にも、安定多数の確保までは「時間稼ぎ」が許されるという意味で、アベノミクスを支持する向きは多い。だが、国会で安定多数を確保しても、既得権を抑えられるとは限らない。自民党政権の歴史を振り返ると、むしろ安定基盤を持つ政権のほうが、短命に終わってきた。例えば、竹下登内閣が総主流派体制による政権運営に乗り出したが、わずか1年半で退陣に追い込まれたのだ。 それは、自民党という政党が、さまざまな業界団体の支持を集める、政策志向の幅の広い派閥の連合体という特徴を持ってきたことに由来する。自民党が選挙で勝利すると、さまざまな支持者をバックにした議員が大量に当選する。そして「選挙の勝利」を盾にして、それぞれの「既得権の維持・拡大」を主張し始める。安定多数を確保すればするほど、自民党内ではさまざまな政策・利害の対立が激化するという現象が起こる。その結果、首相は党内の掌握が困難となり、政権が短命に終わってしまうのだ。 一方で、安定基盤を持たない政権ほど、歴史に残る大改革を成し遂げている。小派閥の長でしかなかった中曽根康弘内閣は、国鉄民営化など行革を成し遂げた。自民党・社会党・さきがけの連立政権では、村山富市内閣が消費税率の3%から5%への引き上げ、地方消費税を導入した。橋本龍太郎内閣は省庁再編、金融ビッグバンを実現した。安全保障政策も、自民党政権が安定多数を誇る時代には進ます、中道左派政党が加わった政権のほうが進展した(前連載第29回を参照のこと)。 そして、自民党政権ではないが、野田佳彦内閣がねじれ国会下で民主・自民・公明の三党合意により消費増税を実現したという事例もある。これは、安定した基盤を持たない政権ほど、野党の改革的な政策志向を取り入れざるを得なくなるし、野党側も政権獲得が見えてくると、より現実的な政策志向に変わるからであろう。従って、参院選での安定多数の獲得が、安倍内閣による成長戦略実現に資するとは限らない。 G20:日本は「円安誘導」との 名指し批判を回避できた さて、本題に入りたい。日米欧の先進国に中国、インド、ブラジルなど有力新興国を加えた主要20ヵ国・地域(G20)による財務相・中央銀行総裁会議がモスクワで開催された。会議の焦点は通貨政策になると考えられていた。特に、日本の経済政策「アベノミクス」に対して、海外の通貨当局の一部から「通貨安競争につながる」との懸念が出ており、G20が「日本叩き」の場となる恐れがあった。 安倍内閣の誕生後、日本銀行が更なる金融緩和を進めるとの期待から急速な円安が進んできた。円相場は、昨年11月14日の野田佳彦前首相の衆院解散発言の時点では1ドル=79円台だったが、G20前には92円台に下落した。そして、円安の好影響で、日本の輸出企業の業績が急回復してきた。 日本の輸出の急回復に対しては、韓国、ロシアやメキシコなど新興国が「円安誘導だ」との批判を強めてきた。新興国は、国内で製造した安価な製品を輸出し、経済成長の原動力にしてきたが、円安で日本が輸出を伸ばすようになると、輸出にブレーキがかかり始めたからである。また、新興国だけではなく、ユーロ高にたまりかねた先進国・ドイツも懸念を表明した。欧米メディアに「通貨戦争・勃発」の論調が広がりつつあった。 しかし、G20で日本は名指しの批判を回避することができた。G20声明は「通貨の競争的な切り下げを回避する。競争力のため為替レートを目的としない」としたが、同時に「金融政策は経済の回復を引き続き支援するべきである」との文言を盛り込んだ。事実上、金融緩和の強化は容認されたのである。麻生太郎副総理・財務相は、G20終了後の記者会見で「一番の成果は、通貨戦争とあおられるのを完全に抑えられたことだ」と、安堵の表情を浮かべた。 G7共同声明の効果 なぜ、日本は名指し批判を回避できたのだろうか。まず、G20に先立って開催された日米欧の主要7ヵ国(G7)が「通貨安競争を回避する趣旨」の共同声明を出したことが挙げられる。 G7声明作成を主導したのは、G7議長国・英国だったと考えられる。元々英国は、イングランド銀行・キング総裁が「一部の国の自国通貨引き下げによる通貨安競争の拡大」を警告するなど、日本の金融緩和に批判的であった。これに、ユーロ高に悩むドイツ、フランス、自動車産業などの圧力を受ける米国などが批判に加われば、G7でさえ日本包囲網が形成されるリスクがあった。 ただ、実はG7メンバー国の中央銀行は、いずれも低金利政策を採っていた。2008年のリーマンショックで始まった金融危機に対して、欧米先進国は金融緩和による自国通貨下落による輸出促進で、景気を上向かせようとした。これは、逆に通貨が切り上がった相手国に困窮を強いる、いわゆる「近隣窮乏化策」だと批判されてきた。金融緩和策の強化をテコに進んだ円安批判が高じると、「通貨戦争」との論調が広がり、それが欧米先進国全体に対する批判に拡大する懸念があった。 G7議長国・英国は、日本をサポートしてG7声明作成に動いた。英国は、声明のたたき台として、2011年8月の前回のG7声明における「市場において決定される為替レートを支持する」を提示し、介入を伴っていない今回の円安に対する批判を弱め、通貨戦争への疑念を消していった。このG7声明作成を強力に支持したのが米国であった。G7声明が決定した当日、ブレイナード米財務次官(国際担当)が安倍政権の経済政策、アベノミクスに関し支持を表明したのである。 G7声明がまとまったことは、G20会議での先進国の主導権獲得につながった。まず、先進国同士が批判合戦を展開する泥仕合を避けようとする方向で足並みが揃った。次に、日本は新興国などの円安誘導との厳しい批判に対して、徹底した理論武装をして、参加各国に対してロビイングを展開した。麻生財務相や白川方明日銀総裁が「円安の背景は、世界的な景気悪化シナリオが後退しているためであり、日本経済が成長すれば各国の利益にもつながる」と主張し、各国の好感触を得られた。 そして、G7声明は新興国の機先を制する効果があった。G20の議長国・ロシアは、会議の成功を演出するために、G7声明をベースにG20声明の取りまとめる方向で動いたのである。声明作成の交渉はギリギリまでもつれたが、新興国のG7に対する批判を最低限に抑えられたのである。 「悪役」日本と国際舞台の「黒幕」英国: 日本外交はターニングポイントを迎えている 結果論的だが、今回のG20会議で日本が果たした役割は大きかった。それは、従来の国際舞台での日本と異なり、日本が会議での「悪役」を務めたからである。 これまで日本は、国際舞台で「感謝」されることはあっても、会議の主導権を握ることはなかった。典型的なのは、麻生氏が首相として臨んだ2008年のG20だ。麻生首相(当時)は国際通貨基金(IMF)向けの最大10兆円に上る資金支援方針などを表明した。だが、これはG20で「感謝」されたが、首脳外交で交渉力を得ることにはつながらなかったのだ(前連載第11回を参照のこと)。 今回のG20会議での日本は、いつものような「感謝」を得る日本の姿とは程遠いものだった。むしろ、日本はアベノミクスを引っ提げて華々しく登場し、批判の矢面に立つ「悪役」となったのだ。そして、この「悪役」の背後には、通貨安による「近隣窮乏化策」との批判を避けたい国々がついた。英国・米国など先進国が「悪役」の陰に隠れながら、批判を受けることなくG7声明を取りまとめることができたのだ。 これを日本から見れば、自ら「悪役」となって批判を避けたい国々の「隠れ家」を作ることで、国際舞台で共闘する仲間を集めることができたといえる。結果的に、日本は為替介入との名指しの批判を避けられ、金融緩和の自由も確保に成功した。 今回、G7声明作成を主導した英国についても触れておく。一般的には、G7声明は米国が主導したと言われている。だが、実際の「黒幕」は英国だと考える。 英国は、国際舞台で豊富な経験を持ち、国際金融、WTO、地球温暖化など、さまざまな国際会議の場において、「黒幕」的に行動してきた。その行動の基本パターンは、表面的には米国に議論をリードさせ、「自分が決めた」といい気分にさせる陰で、英国がしたたかに各国を説得するというものだ。 英国は国際会議における究極の武器、「英語」を持っている。英語こそ、グローバルスタンダードの最たるものであり、国際会議では、交渉の最終段階で「英語がうまい人種」に主導権が握られていく。 英語のうまい人種とは 米国人のことではなく、英国人である。端的に言えば、国際会議に出席する英国の高級官僚は、オックスフォード大やケンブリッジ大を卒業し、格調の高いトラディショナルな英語を駆使する。国際会議のクライマックス、文章をまとめる段階になると、彼らが登場することになる。英国は、合意文書作成の最終段階で、各国との微妙な表現の調整を行い、自らの不利にならないように文章を作るという、ある種の特権を行使しているといえる。 この連載では、日本が国際舞台を渡っていく上で、英国との関係を強化することの重要性を指摘してきた(前連載第10回を参照のこと)。また、安倍内閣の外交方針は、第一次内閣および麻生内閣の方針を踏襲した「自由と繁栄の弧+戦略的互恵関係」とすべきである(第46回を参照のこと)。その観点からすれば、安倍政権の経済外交は、とりあえず好スタートを切ったといえる。 ただ、魑魅魍魎が跋扈する国際社会の中で、日本自身があえて魑魅魍魎となり、主導権を取りに行ったことは、これまでの小さな感謝を得ることを積み重ねて、「感謝と尊敬」を得てきた日本とは明らかに違う(前連載第11回を参照のこと)。 これは、日本が本気で国際舞台の主導権を取ろうとし始めたということかもしれないが、日本が「感謝と尊敬」を得れば満足だという「余裕」を失ったことを意味するのかもしれない。日本外交は、重要なターニングポイントを迎えているのかもしれず、今後の推移を見守らねばならない。 日米首脳会談: また安倍首相の「悪い癖」が出ていないか さて、日米首脳会談である。安倍首相とオバマ米大統領は、日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について「あらかじめすべての関税撤廃の約束を求められない」とする共同声明を発表した。自民党が昨年末の衆院選で公約した、「聖域なき関税撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対」を、米国が認めたことを意味する。 また、両首脳は中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル問題を踏まえ、アジア太平洋地域の安定のため日米同盟を強化することでも合意した。安倍首相は会談後「日米同盟の信頼、強い絆は完全に復活した」と力強く宣言した。 安倍内閣の支持率は更に上昇しそうな勢いだ。だが、なんとなく安倍首相の悪い癖が顔を出しつつあるような感じもする。日米首脳会談について、中国の報道官は「米国は安倍首相に冷淡だった」と、日本のマスコミと真逆の論評を行った。 実際、日米首脳会談で安倍首相・オバマ大統領の共同記者会見はなく、安倍首相は日本から来た報道陣を前に日米同盟の復活をアピールしていた。これは、どこかで見たことがある光景だ(第45回を参照のこと)。日米首脳会談の評価には、もう少し時間が必要なようだ。次回、詳細に分析したい。
スコアリング融資の反転増加を 喜べない三井住友銀行の内情
担保や第三者保証を不要としているだけに、金利は高くなることもある Photo by Mieko Arai 三井住友銀行(SMBC)のスコアリング融資、「ビジネスセレクトローン(BSL)」が再び脚光を浴びている。新規需要が増え始め、昨年末ごろから、これまで減少する一方だった残高に反転の兆しが出てきているのだ。 銀行関係者の間では、「そもそも、まだ新規需要を取り込むほど積極的にやってたの?」と驚きの声が上がる。それもそのはずだ。銀行界には、スコアリング融資に苦い経験がある。 スコアリング融資とは、融資の可否判断や設定金利を、決算書などのさまざまな数値を基に機械的にスピーディにはじき出す中小企業向け無担保融資のことだ。営業効率を上げる革新的なモデルともてはやされ、2000年代半ばにはメガバンクがこぞって活用した。 ところが、行員が企業の経営状態を把握しない「まるで通販」(地方銀行関係者)のような機械任せの審査が行われるなど、不良債権が想定以上に増加。スコアリング融資から撤退する銀行が相次いだ。 それでも、SMBCでは地道にBSLを続行。行員による取引状況などの確認強化はもちろん、数値化が難しい「定性的リスクを織り込むなど、モデルの高度化を進めており、貸し倒れが抑制されてきている」(SMBC)と胸を張る。収益面でも、「リスクに応じた採算性が改善している」(同)と、まずまずだ。 しかし、そんなSMBCの表情が冴えない。この3月に、中小企業の資金繰りを助ける中小企業金融円滑化法が終了することで、BSLの需要増が予想されるからだ。 一見、それはうれしい状況のように思える。だが実際には、有象無象まで駆け込んできて不良債権が膨らむ恐れが否めない。加えて、「今は中小企業の融資を銀行が断ると金融庁に通報が行き、円滑化法終了で倒産が増えないようにと焦る金融庁からすぐにお叱りの電話がくる」(複数の銀行関係者)のも悩みの種だ。 中小企業をめぐる融資に悩みは尽きない。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)
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