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http://tanakanews.com/130213nkorea.htm
2月12日、北朝鮮が核実験を実施した。私はその前日に配信した前回記事で、中国が北朝鮮に核実験するなと圧力をかけていることを書いた。中国が北の核実験を黙認し続けると、米国で対中協調派が弱くなり、軍産複合体が強くなって、新冷戦的な中国包囲網が恒久化されてしまう。だから中国は、共産党機関紙の人民日報系の新聞(英文の環球時報)に、北が核実験を挙行したら制裁すると脅す記事を載せるなどして、中国が核実験しそうな北に不満を持っていることを示した。北の核実験実施後、中国外務省は北京駐在の北朝鮮大使を呼びつけて非難した。(North Korea Tests The Patience Of Its Only Friend In The World)
米国は、北に核開発をやめさせる手段を持っていない。軍事的に北に侵攻したら米中戦争になる。核5大国(国連安保理常任理事国)どうしは戦争しない。「軍事オプション」は口だけだ。米欧日はすでに北との経済関係を絶っており、経済制裁を強化しても追加的な効果が薄い。北に核開発をやめさせられる影響力を持つのは中国だけだ。しかし、中国が北を本気で抑止する気があるのかどうか不確定だ。また北が、中国に本気で抑止されても無視できるかどうかも確定的でない。核実験前、中国は北に圧力をかけただろうが、北はそれを無視して核実験を挙行した。(China must halt North Korea's folly)
中国は北の核実験を止められなかった。もしくは、止めようと思えばできたが止めなかった。しかし、今回の北の核実験後、中国が置かれている国際的な立場は、明らかに変化した。これまで、核実験やロケット(人工衛星)発射を繰り返す北朝鮮を止める国際社会の主導役は、米国だった。北と関係を断絶している米国は北を動かす手綱を持っておらず、03年に6カ国協議の体制が組まれて以来、手綱は中国に移ってきたが、それでも米国が主導役という色彩が残っていた。(アジアのことをアジアに任せる)
だが今回は、国連安保理でも、米日などのマスコミでも「北の核実験をやめさせられるのは中国だけだ」「中国はもっと北に圧力をかけろ」「中国は北の核実験をどう考えているんだ」といった論調がぐんと強まっている。北朝鮮が中国の傘下の国であるという、中国の地域覇権を積極的に認める論調が明確化している。(World's Eyes On China After North Korean Nuclear Test)
中国は、北朝鮮が消費する原油の9割以上を輸出している。中国政府が北への原油輸出を止めるだけで、北の経済は麻痺する。中国は、北の生殺与奪を握っている。「中国は北の核開発を止められるのに、止めようとしていない」という米国の学者の指摘は一理ある。(Policy Group to Malzberg: China Could Stop North Korea Nuke Threat)
しかし同時にいえるのは、北への原油輸出を長期間止めたら、もともと脆弱な北の経済が崩壊してしまい、経済難民(出稼ぎ者)が越境して押し寄せるなど、中国にとって好ましくない現象が起きる。北朝鮮はソ連崩壊で国家運営に不可欠な経済援助が失われた90年代を、軍部主導の体制(先軍政治)を敷いて何とか乗り切っている。この時期、クリントン政権の米国が核問題で北と枠組み合意を結び、北に経済援助を与えつつ経済開放に向かわせようとしたが、米国が少し強いことを言うと、北は反発して言うことを聞かなくなり、裏で国際闇市場に武器や麻薬、偽札などを売って資金稼ぎして食いつなごうとした。軍主導の先軍政治体制には、米韓と敵対している方が好都合だった。(代替わり劇を使って国策を転換する北朝鮮)
米国が01年の911後、北との交渉を断絶して敵視政策に転じるのと前後して、中国が北の金正日を誘って中国式の経済体制を少しずつ導入させ、軍部主導を経済主導に転換し、それによって北朝鮮と韓半島全体の緊張を解いていこうとした。この戦略は、11年末に金正日が死に、金正恩が経済政策責任者の張成沢・金敬姫(金正日の妹)夫妻を摂政役として政権に就き、先軍政治を担ってきた軍幹部を次々に更迭したことにより、実現し始めている。(経済自由化路線に戻る北朝鮮)
中国が北を長期間経済制裁すると、北が軍主導から中国好みの経済重視路線に転換している流れを阻害しかねない。北朝鮮は自力更生(主体思想)を国是として掲げるだけに国際的に非常にプライドが高く「中国の言いなり」だとか「中国式政策を導入している」と言われることを極度に嫌がる。中国は、やんわりとしか北に圧力をかけられず、手こずっている。米国が90年代に北を経済的に取り込もうとした時も、同じように手こずった。中国が北への批判を込めて原油輸出を止めるとしても、その長さは、北の経済に悪影響が出ない数日間程度でないかと指摘されている。(China's patience with North Korea wears thin after latest nuclear test)
米韓などの分析者の間には「中国は、北が崩壊して韓国に併合されて米軍が自国の国境までやってくるぐらいなら、北が核武装しても黙認して北の政権が維持された方がましだと考えている」という説がある。これはありそうな話だが、その一方で今の中国は、03年に6カ国協議の主導役を米国から押しつけられて以来、南北を和解させて韓半島を緊張緩和し、財政難の米国が在韓米軍を撤退できる環境を作り、米軍を韓半島から追い出す構想を進めているのも事実だ。(北朝鮮の人工衛星発射をめぐる考察)
米国自身、かつてブッシュ政権のライス国務長官が「6カ国協議は、北の核廃絶後(米韓軍事同盟に代わる)東アジアの新たな共同安保体制になる」と明言しており、オバマ政権もおそらくこの構想を引き継いでいる(オバマ政権は北朝鮮に対する外交戦略を何も言わない)。経済発展した中国は、不安定な緩衝地帯を維持するよりも、安定的な対米関係、近隣情勢を望むようになっている。北の核武装は、対米関係と近隣情勢を不安定にする。(日米安保から北東アジア安保へ)
経済大国から東アジアの覇権国へと脱皮しようとしている中国は、韓半島(韓国と北朝鮮)を、自国の影響圏と考える傾向を強めている。冷戦時代、米英などが共産中国を混乱させようと、北朝鮮やラオス、ミャンマーなど中国の隣接諸国に敵対・介入し、対抗して中国はこれらの国々を傘下に入れていたが、冷戦後の中国の隠然とした影響圏設定は、これと似て非なるものだ。冷戦中の中国は、米国から攻撃されぬよう緩衝地帯として、受動的に北朝鮮を重視していたが、今の中国は多極化する世界における東アジアの覇権国として、能動的に北朝鮮と韓国を隠然とした影響圏に入れようとしている。習近平は胡錦涛よりも、この傾向が強そうだ。(North Korea Draws New China Scrutiny)(消えゆく中国包囲網)
イラク戦争の失敗後、米国の覇権が揺らぐとともに、韓国の李明博政権が、北への敵視を強めて南北の緊張を高めることで対米従属を維持し、米国の覇権に何とかぶら下がり続けようとした。おそらく北がやっていないのに、北がやったと言って南北関係を悪化させた10年春の天安号沈没事件が象徴的だ。天安事件が起きた海域は中国の前面である黄海で、事件後、米韓軍事演習で米軍空母が黄海に入ってくるなど、米韓同盟が中国包囲網の色彩を帯びた。これらの出来事の後、中国は、第1・第2列島線など、影響圏の設定にしだいに積極的になった。(中国軍を怒らせる米国の戦略)(韓国軍艦「天安」沈没の深層)(韓国軍艦沈没事件その後)
ここまで、中国の立場を分析したが、北朝鮮の立場はどうなのか。北は先軍政治をやめたはずなのに、なぜ核実験を挙行したのか。「北は、米国や韓国との敵対関係が緩和されると政府に対する人々の不満が噴出し政権が崩壊しかねないので緊張緩和できない。中米韓が和解策をやっても、北は乗るふりだけして乗らず、敵対を維持するはずだ」という見方がある。(北朝鮮の衛星発射と中国の尖閣領空侵犯)
しかしその一方で、北は近年、中露国境沿いの羅先や中国国境沿いの新義州などに作った工業団地に米欧企業を誘致したがっている。中国と韓国の企業ばかりが北と関係を持つ現状だと、中韓から圧力をかけられやすいので、北の政府は国際的な経済関係を多様化したい。そのためには、国連による経済制裁を解除してもらう必要がある。核実験の挙行は、北の経済戦略と矛盾している。(中国と対立するなら露朝韓と組め)
FT紙は、米欧などの北朝鮮専門家の間に「北は核実験後、米国や韓国に外交攻勢をかけ、米朝や南北の首脳会談をやって、経済制裁を解除させようとするのでないか」との予測があると書いている。米朝や南北の対話は何年も断絶しており、北が急に対話を再開することは現時点で考えにくい。だが、もし北が外交攻勢に出るつもりなら、その前に核実験やロケット発射をやって、米国に核兵器を撃ち込めることを世界に見せておく方が、交渉に有利になる。核実験後に外交攻勢に出るつもりなら、金正恩の経済重視策との矛盾もなくなる(そのような合理的分析に沿わないのが北朝鮮だが)。何が起きるか、何も起きないか、見ていくしかない。(North Korean nuclear test triggers four questions)
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