http://www.labornetjp.org/news/2013/1359986381746staff01

笹子トンネル天井板落下事故現場を取材
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　黒鉄 好

　２月３日（日）午後、中央自動車道・笹子トンネル天井板落下事故現場が中日本高速道路（株）（NEXCO中日本）によって報道関係者向けに公開された。レイバーネット日本もこの現場に入り、主要メディアに混じって取材を行った。

　この日、取材に入ったのは、在京及び地元・山梨県のメディア各社、自動車業界・建設業界の専門紙（誌）２媒体のほか、レイバーネットを含むインターネットメディア２媒体。NEXCO中日本が用意した３台のバスに分乗して現場に向かう。JR甲府駅から国道３５８号線を走り、甲府南ICから中央道へ。大月ICで中央道を降り、しばらく国道２０号線（笹子トンネル事故後、中央道が通行止めだった時期に迂回路として使用され、大渋滞した）を走った後、東京方面出口から逆走する形で事故現場の上り線トンネルに入った。

　●現場に入る

　現場に設けられた献花台の前で全員が黙祷した後、NEXCO中日本担当者がトンネルと事故の概要を説明。事故原因に関する質問には「事故調査委員会が調査中」であることを理由に「答えられない」とのこと。NEXCO中日本の説明ぶりから、事故原因調査は自社の手を離れたという同社の認識がうかがえた。「９名の貴い命を奪ってしまったことに対し、心からお詫びを申し上げます。現在、山梨県警と国の事故調査委員会が原因調査に当たっており、当社として協力していくとともに安全対策を講じていきたいと考えています」との説明があった。その後は撮影時間が設けられた。

　　↑概要説明するNEXCO中日本職員

　　↑現場に設置された献花台

　　↑死亡現場に置かれた花束　５人が亡くなった現場に作業員が置いた

　　↑82.6キロポスト

　改めてトンネル内部を見る。落下した天井板はトンネル開業時、排気ガスをトンネル外に排出するための通気口を設ける必要から設置されたもので、走行車線側が排気ダクト、追越車線側が送気ダクトとなっていた。路面から天井板までは4.7メートル、天井板から天井の最も高いところまでは5.3メートルとなっており、事故当日は4.7メートルの高さから天井板が落下、走行していた自動車が巻き込まれ９人が死亡した。

　　↑事故前の笹子トンネル概要（資料提供：NEXCO中日本）

　天井板が撤去されたトンネルは、天井が最も高いところでは路面から10メートルあることになり、一般のトンネルと比べても天井がかなり高く感じられる。初めて姿を現した天井には、セメントに含まれる石灰の成分が遊離して白く浮き出していた。これは、雨水や湧水によるものと考えられ、長い年月の経過を感じさせる。

　　↑トンネル天井

　この他にも、笹子トンネル内部にはNEXCO中日本による点検で多くの損傷が見つかっており、改めてトンネルの老朽化を感じた。

　　↑作業員による「異物混入」の表記

　　↑壊れた壁面　天井板落下との関係は明らかにされなかった

　　↑破損の激しい箇所　「破損」「欠損」「割れ」「浮き」などの表記がある

　　↑浮き上がったタイル

　天井板が落下した付近では、落下を感じさせる生々しい痕跡が残されていた。

　　↑天井の穴（赤丸部分） 落下によるものか、その後の撤去作業によるものかは不明

　　↑天井板落下でできたと思われる路面の傷

　笹子トンネル上り線は、１２月２日の事故発生以来２か月以上にわたって通行止めとなり、下り線を使った対面通行が行われてきたが、２月８日に通行止めが解除されることになっている。今回の報道関係者向けの公開は、事故の記録を後世に残したいとの遺族の強い要望を受けて実現した。事故現場の公開自体は非常によいことだと思う。

　現在、同型の天井板が設置されているトンネルでは、落下を防ぐため天井板の撤去が行われている。排ガスに対する規制が今ほど厳しくなかった当時は必要だった大規模な通気ダクトも排ガスに含まれる有害物質の減少によって今では不要になった。今こそ全国のトンネルを総点検し、この型に限らず危険なものには抜本的対策を講じるべきだ。

　●事故原因は？

　いくつかのメディアから事故原因に対する質問が出たが、事故原因に関する質問には回答できないとの事前の説明通り、NEXCO中日本側の口は堅かった。NEXCO中日本の姿勢からは、国の事故調査委員会が調査を行っている最中に予断を与えるような発言を、当事者である同社が行うべきでないとの配慮もにじむ。

　筆者は、仕事上付き合いのある建設業者に、事故発生直後の昨年12月、この事故の件を聞いてみた。「私は建築屋で、土木の世界は建築と少し違うところもあり、何とも言えませんが」と前置きした上で、彼は続けた。「建築屋なら、コンクリートが固まってしまった後で天井に穴を開け、アンカーボルトを差し込むようなことはしません。数トンの重さの天井板を支えるのに、それでは強度が足りませんよ」。

　では建築屋はどのような工法を採るのか、との私の問いに対しては「我々なら、先にアンカーボルトを入れてからコンクリートを固めます」と彼は答えた。もちろん、土木にはまた違う世界があるのかもしれないが、短期間に突貫工事を行ったことによる工法ミスの可能性もあるのではないか、と感じた。

　現在、捜査当局による捜査と並行して、事故で亡くなった若者５人の遺族がNEXCO中日本を刑事告訴する構えも見せている。今後、事故の責任がどのように追及されるのかにも注目したいと思っている。

　●問われる公共事業のあり方

　「コンクリートから人へ」を訴えた民主党政権の崩壊により自公政権が復活。野田政権末期から鮮明になった「人からコンクリート」への流れは、安倍政権でさらに大逆流になろうとしている。民自公３党の協議により、「社会福祉財源を捻出する」との建前で国会に提出された消費税増税法案は、附則に「事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」という条文が盛り込まれ、公共事業ばらまきの道具へと大きく変質させられた。消費税増税法案は昨年６月２９日に衆議院を通過したが、その日のうちに北陸新幹線の福井までの建設延長が決定されたことを私は偶然とは思わない。　

　その上、自民党の「国土強靱化総合調査会」会長には、自民党最後の大物利権政治家といわれるあの二階俊博衆院議員（和歌山県選出）が就任した。二階氏といえば、自分の後援会メンバーが乗った大型機（エアバスA300）を離着陸させるためだけに、地元の南紀白浜空港に新滑走路を造らせたと言われるほどだ（参考：「腐った翼〜JAL消滅への60年」森功・著、幻冬舎、2010年）。

　このような人物を国土強靱化総合調査会長に据えた自民党の「公共事業」が何を意味するかは言うまでもないだろう。ハコモノ建設最優先の一方で、儲けの少ない危険な施設の改修には予算が配分されない旧来型公共事業の復活では意味がない。国民の命と安全を守るために真に必要な事業にこそ優先的に予算が配分される新しい公共事業政策を、知恵を結集して築き上げていく必要がある。それこそが、この暗いトンネル内で散っていった９つの命に報いる唯一の道である。

〔２０１３．２．３（日）　笹子トンネル事故現場にて　分析：黒鉄好〕

コメント
01. 2013年2月07日 12:06:38 : 3qJsSynprg 空を飛ぶ物は、落ちる事がある。 海に浮かぶ物は、沈むことがある。 また、青函トンネルは、いつかは、海の藻くずになってしまう。 さて、笹子トンネルだが、天井に吊っている物は、外れて落下は、誰でも想定内。 このような構築物の事故は、全てmaintenance 不備の人災に外ならない。 このトンネルの場合は、新設時の設計不良に、その原因があったのだ。 なぜなら、本来吊りboltは、十分の太さがあって、天井部分の鉄筋に溶接し、絶対に抜け落ちない工法を用いるべきなのに、これを怠り後からドリルで穴を開け、差し込んで止めただけであったのだ。 こんな素人でさえ分かる手抜き工法で、事故が直ぐ起きなかったのが、不思議なくらいである。 私は、山梨県へブドウを買いに、一週間前通ったばかりであった。 恐ろしい。 まさか他のトンネルの吊りFANは、上部鉄筋と繋いでいないと言うことは、あるまいな。 でなければ、FAN自重で何時落ちても不思議でないぞ。 私は、電気通信主任技術者、構築物安全管理の専門家である。
02. 2013年2月07日 14:50:39 : vgQVMWdybs 　笹子トンネル事故は、ケミカルアンカーによる手抜きと断定できる。 なぜ、ボルトが腐ってちぎれるまで耐用可能なインサートアンカーにしなかったのか、誰も追求しない。 　当初の設計に「経年劣化が無いと証明されないケミカルアンカーを指定しているなら」、殺人罪適用となっても良いくらいである。まともな設計者なら、絶対に指定はしない。 　さらに、施工者がインサートアンカーの設計指定を、手間隙省けるケミカルアンカーに勝手に変更していたら、これも殺人罪が適用できる。 　費用の問題で、手抜きケミカルアンカーでいくら儲けたのか？ 経済的理由で、お金を浮かせるために安価な方法を採用し、「何時か人を殺すことになることを、知らぬ顔をしている人でなし」が施工業者にいる。 　まさに「人でなしが蔓延している国への警告」と考えるべき！ そもそも「ケミカルアンカー」は、醤油工場などのポンプ、機械装置の床面固定などに使用するために開発されたもの。「重量物の吊り下げなどに使用することは論外」である。 こんな事も知らないで、手抜き工事をする人間には死刑が相当だ。 　人で無しのマスコミも、人々が不正に気付くのを恐れて、このような具体的な証拠を調査もせず、情緒的に記事を書き、時間が経てば忘れ去るように導くだけ。 　小泉不正構造改革で「道路公団を民営化」したため、起こるべくして起こった事故だ。
03. 2013年2月07日 16:58:18 : HILqDlL5LE 『＜笹子トンネル＞事故は、起こるべくして起きた!』 前記＜02〜vgQVMWdybs様＞がご指摘のように。「無責任設計・手抜き工事」が元凶であり、誤った方法による「道路公団民営化」がコスト削減を名目に‘メンテナンス’を‘なおざりに’していたことが拍車をかけた必然の結果なのである。 翻って見れば、＜阪神大震災＞の時にも、無残に‘横倒し’になった高速道路の支柱から本来あってはならない‘ベニヤ板’が出てきたりして、構造そのものに‘疑念’が呈されたにも関わらず、たいした検証もされずに有耶無耶になってしまったことを、今更ながら思い出すのである。 更に言えば、＜首都高＞の慢性的渋滞の‘元凶’は、＜汐留インターチェンジ＞の設計ミスにあるという指摘を受けながら、全く対応してこなかった＜道路公団＞の無責任体質も同根である。 こうした体質は、＜原発事故＞と全く相似形の、＜中央集権・ヘドロ官僚機構＆ぶら下がり既得権益族＞のなせる業＝犯罪なのである。
04. 2013年2月08日 17:05:40 : ZL70kEf2Vg 全ては小泉・猪瀬らがごり押しした道路公団民営化の弊害。 この件だけでも、小泉は極刑に値する。
05. 元零細看板取り付け業者 2013年2月08日 20:33:36 : QJ7fehui2xoTM : hyLK8b1TiA ２月２日の朝日新聞朝刊を見てこの事故の原因はメンテナンスや耐用年数の問題ではなく、明らかに接着剤固定式アンカーボルト（ケミカルアンカー）の誤使用による設計ミス又は施工ミスであり現場の施工業者も少しでも経験が有ればそんな施行方法では１トンものコンクリート製天井板など吊り下げて静止荷重がかかっていれば近いうちに落下するだろう事は想像できるはずです、 ケミカルアンカーをトンネル上部のコンクリートに下から明けた穴に使用すれば液状の接着剤は穴の外に出てしまい設計強度の２〜３割にしかなりません。 このような施工方法の他のトンネル等ほ直ちに然るべき処置をするべきです、このままでは近いうちに必ず又事故が起きるでしょう。
06. 2013年2月11日 22:16:31 : YmoqycXxPw 私は、全くの素人なので、自分でものを造るときはオーバークオリティになってしまいます。 事故の後、構造を見て驚きました。 事故原因は？のところでの建築屋さんの言ですが、まだ不安です。 ボルトネジ部程度の引っかかりでは保たないでしょう。 先端がＬ型かＴ型になっている金属棒にネジを切り、そこにセメントを流し込んで、ナットで締めるべきだと思いました。 こんな施工でＯＫになるとは、信じられません。 よく、この下を走っていたもんだと思います。 私の義父も素人ですが、「アレでは保たんわ。」と言ってました。（高齢で、やや判断が？であるのに！） ０１さんのを読んで、 なるほど、Ｌ型やＴ型の金属棒を入れるよりは、可能なら鉄筋に溶接ですね。 しかし、後からボルトを入れるとは驚きです。 このトンネル工事の設計や工事をした業者・ＯＫを出した機関には責任を取らせるべきだと思います。 （既に倒産してるか？）

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