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レーダー照射の政治 - 緊張を高める安倍晋三の一策
中国のフリゲート艦が海自のヘリと護衛艦にレーダー照射した問題について、最初に考えなくてはいけないのは、1/30に発生した事件をわざわざ1週間後の2/5に発表したという事実だ。1/19のヘリへのレーダー照射からは2週間以上経っている。しかも、小野寺五典による発表の時刻は狙いすましたかのように午後7時で、NHKのニュースでの中継を作為した計画的なものだった。これは政治だ。目的は日中の緊張を高めることで、この政治ゲームで日本側が主導権を握り直すことだ。日本側は対立を激化させる方向に持って行こうとしている。中国側は首脳会談で尖閣を棚上げするところに目標を置き、緊張を解消する着地へと外交を動かしている。両者の意思と目的は全く異なる。説明するまでもなく、安倍晋三と右翼は改憲のために尖閣危機を煽っているのであり、日中が平和友好の方向へ進むことを欲してはいない。一方、1月下旬以降、鳩山由紀夫と山口那津男の訪中があり、中国側による外交攻勢が続いていて、中国側が尖閣外交のイニシアティブを握り、紛争解決に向けての環境作りの気運を盛り上げつつあった。さらに米国務長官にケリーが就任、米国の東アジア外交における中国重視・日本軽視の意向が鮮明になり、尖閣をめぐる日中の関係も次第に中国側の影響力に傾く趨勢と局面に変わりつつあった。焦った安倍晋三は、事態挽回のために一撃を入れるべく、1/30と1/19の事実を持ち出し、政治的反撃に出たのだ。
日本側が言うように、この問題は「中国内部の統制の乱れ」として説明できる。中国側は痛いところを衝かれた形となり、進めていた平和外交攻勢が打撃を受け、日本側による対決路線の扇動に引き摺られざるを得ない苦境となった。中国国内世論の制御の問題も含めて、相当に難しい対応に迫られた状況が現出した。戦争を嗾ける側である日本右翼側からすれば、機を捉えて効果的な逆襲の手を打って返したと言える。1/19と1/30のレーダー照射は、その起点は、1/9に産経が発信した「空自による警告射撃検討」の報道にある。産経の記事には情報出所は明示されておらず、政府筋からのリークだと分かる。産経の記者と仲のいい官邸筋のリークだろう。安倍晋三による直接の指示と見ていい。中国を刺激し挑発する情報戦の一手だ。この挑発戦術に中国側は敏感に反応し、1/14に人民解放軍の少将が、「それは開戦を意味する。中国はただちに反撃し2発目を撃たせない」と応酬した。中国のネットでも騒然とした空気となった。同じ1/14に、総参謀部が軍機関紙を通じて「戦争の準備をせよ」という檄を飛ばしている。軍の現地部隊がこの総参謀部の指示に従って行動するのは当然で、ピリピリした緊張状態の中で海上任務していたのだろう。朝日の今日の紙面記事(2-3面)によると、当日、米軍のAWACS(警戒管制機)が東シナ海上空を偵察飛行、それに対して上海郊外の基地から中国軍の殲10がスクランブル発進、追尾したとある。
その殲10による米AWACSへの追尾行動に対して、今度は空自のF15が那覇基地からスクランブル、中米日三軍の機が入り乱れてあわや空中戦というヒヤリハットの一幕となった。中国フリゲート艦からの海自ヘリへのレーダー照射は、この空中での一連の出来事の延長上に起きた事件らしい。朝日の記事は明確にそう断定してはいないが、どうやら、空自のスクランブルに対する意趣返しを中国側がしたように受け取れる書き方をしている。おそらく、米軍のAWACSは中国の領空を侵犯したか、中国の防空識別圏に侵入していたのだろう。AWACSだから、過失ではなく故意の偵察で、中国側の対応能力を情報収集するための飛行任務だったはずだ。この事件の後、ケリーの就任と時期が重なるが、尖閣問題に対する米国側の発言が慎重になり、1/23には日中双方に対して自制を求める意見が米関係筋から発信されている。私の希望的観測かもしれないが、親中派としての評判が高く、元軍人でリアリストであるケリーは、この一触即発の事件の報告を聞き、このままだと確実に軍事衝突すると判断したに違いない。ケリーは2004年の大統領選に出馬して敗れたが、ブッシュが始めたイラク戦争を批判する論陣を張っていた。ベトナム戦争の帰還兵であり、誰よりも戦争というものをよく知っている。実際のところ、このまま安倍晋三(右翼日本)を放置したら本当に戦争になる。そして、局地戦にとどまらず全面戦争に発展して、米国が日中戦争に巻き込まれる。
尖閣有事が局地戦にとどまることなく、総力戦と核戦争に発展することを、私はずっと記事で論じ続けてきた。日中戦争がイデオロギーの戦争である本質を指摘し、一方が他方を滅亡させて終戦せざるを得ない破滅戦になることを論証してきた。この真実を米国は早く気づかなくてはならない。日中が本格戦争になったら、米国が局外で傍観するのは困難で、仲裁もできず、日本側に立って中国に参戦するしかない。第3次世界大戦の勃発であり、戦後の国連体制の崩壊である。尖閣有事については、米国はこれを外交で制止するか、日本と共に最後まで中国と戦争するか、二つに一つの選択しかないのだ。米国は決断しなくてはいけない。前者を選んだ場合、米国は東シナ海から撤退し、この地域をG2のパートナーである中国の勢力圏と認める苦渋の選択をすることを意味する。そう思いつつ焦燥していたら、2/2の報道で、今月末の日米首脳会談で、米国が日本の集団的自衛権の行使を容認する件について、「中国を刺激する懸念がある」として支持に難色を示したという記事が出た。情報の出所元は「複数の日米関係筋」とある。朗報であり、戦争を知るリアリストのケリーの采配として歓迎したい。この事実は大きく、尖閣問題で外交攻勢をかける中国側を後押しする一助となっただろう。安倍晋三は焦っていたはずで、何とか形勢を逆転する政治材料はないかと模索していたのだろう。レーダー照射の件を反撃に使えと提案した参謀は森本敏だろうか。
レーダー照射の件を表沙汰にせず、外交の駆け引きに使わないように収めて政権が処理していたことは、1/19のレーダー照射の事件の後、それをずっとマスコミ報道しなかった事実から推察できる。ここへ来て、急に持ち出して外交問題として大々的に騒いだのは、尖閣をめぐる外交戦で押され気味で、安倍晋三が劣勢に立っていたからだと考えられる。例えば、ここで、朴槿恵あたりが仲裁役に手を挙げて、「尖閣問題で日中は話し合って解決するべきだ」などと正論の声明を発し、「韓国政府は日中首脳協議のテーブルを用意する準備がある」などと言い出せば、米国もそれをエンドースする流れができてしまう。武力紛争を虎視眈々と狙う安倍晋三は、平和攻勢の羽交い締めにされたも同然で、国際社会の監視と要請の中で身動きが取れなくなる。そのような流れを阻止するべく、日中の緊張を一気に高める策に出た。というのが全体の筋書きであり、今回の「レーダー照射」の政治の裏読みだろう。習近平政権は、日本側の武力衝突の策動に対する対処・防備を睨みつつ、平和の外交攻勢で尖閣棚上げの原状回復を実現する構えで、前者(軍事)と後者(外交)は当然ながら矛盾した対応となる。今回は、そこを巧く衝かれた恰好になった。中国側が日本の軍事行動に神経過敏になるのは生理的に当然で、過去に日本の軍事侵略を受けて1千万人の犠牲者を出した歴史があり、また現時点の海空軍のハイテク戦力差の実情がある。何より、日本に1930年代のドイツを彷彿とさせる悪夢の極右政権が誕生した。
極右が日本の政治を支配し、靖国の軍国思想が正当化され、憲法の平和思想が完全に否定されている。となれば、中国の日本に対する戦略方針は、一戦を覚悟して防備を固めつつ、平和外交でそれを未然に防ぐ措置をとるという方策しかなく、二つを同時並行で進める態勢しかない。軍事と外交が「統制がとれていない」二面性を呈するのは、中国側に立って考えればやむを得ない矛盾だと言えよう。レーダー照射が危険な挑発なのではなく、そもそも尖閣の国有化が重大な挑発であり、まさに戦争を宣告するに等しい行為なのだ。こうして、トラブルで睨み合う二者間においては、殴り合いの喧嘩に持ち込もうとする方が、それを避けようと努力する方よりも語勢で強い立場になる。暴走は簡単。抑止は困難。私は、二つの国の喧嘩(殴り合いの修羅場)は避けられないと思う。その悲観的な予想は、これまで何度も書いてきたとおりだ。戦争を避けるためには、米国が日本を止めるか、日本の選挙で平和勢力が勝たなくてはいけない。その二つの条件とも、現実には到底あり得ない架空のお伽噺で、想定することのできない図だ。ケリーのようなリアリストがいても、米国は生き残りのため東南アジアをテリトリー化する国家目標を追求せざるを得ず、必然的に中国とアジア・太平洋で覇権争いする結果となり、その戦略を有効に遂行するためには、日本の軍事力を利用して中国と敵対衝突させる方法がベストな手段となる。いわゆるナイ・レポートの戦略論理だ。ナイを中心にして、左にケリーやペロシが立ち、右にアーミテージとM.グリーンが立つ配置。
これは変わらず、米国に「止め役」を期待することはできない。マスコミは、朝日も含めて全紙が揃って「これまでとは一段違う状態になった」と喚き、国民の戦争気運を過熱させる報道に徹している。尖閣問題での対立激化が、石原慎太郎が石を投げた問題を発端として始まった昨年の経緯などすっかり忘れ、関係悪化の原因が一方的に中国にあると言い、中国に対する憎悪と敵意をエスカレートさせている。日に日に論調が過激になり、ファナティックになり、問題を客観視する冷静な見方が消えている。戦前の新聞報道と全く同じだ。
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