08. 2013年2月07日 00:39:37
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安倍政権が頼る“仕事師官僚OB”豊富な経験と人脈が安全運転の支えに 2013年2月7日(木) 安藤 毅 安倍晋三政権の出足が快調だ。円高とデフレからの脱却に向け日銀に大幅な金融緩和を促すと同時に、2012年度補正予算案と2013年度予算案を矢継ぎ早にまとめた。 市場は円安進展と日経平均株価の上昇で応え、1月末に実施された各種世論調査では、内閣支持率が軒並み昨年末の発足直後から上昇した。 「これ以上ないぐらいのロケットスタートだね」。安倍晋三首相は周囲にこう満足げに語っている。 順調な船出の背景には幾つもの要因があるが、安倍首相に近い議員は「前の政権時の反省が生かされていることが大きい」と指摘する。 ロケットスタートの陰に「失敗の反省」 その1つが、国民の生活に直結する経済の再生に真っ先に取り組む姿勢を強調したことだ。 2006年の第1次安倍内閣では、「戦後レジームからの脱却」を旗頭に、憲法改正や集団的自衛権の行使、教育再生といった保守色が濃い安倍首相がこだわりを持つ政策に就任直後から着手。憲法改正の手続きを定めた国民投票法の制定や教育基本法の改正、防衛庁の省昇格などは実現した。 だが、国民の大半が望む景気対策などに後ろ向きとの印象を持たれたことが2007年の参院選惨敗の主因の1つになったと安倍首相本人も認めている。 今年7月には鬼門の参院選を控える。「1に経済、2に経済」(自民党幹部)の姿勢を強調する背景には、過去の失敗を踏まえた安倍首相の確信がある。 政権運営上の特徴として、霞が関との良好な関係を重視していることも挙げられる。 実は、官僚の間では、「政官関係がぎくしゃくするきっかけを作ったのが前の安倍政権」との見方が広がっている。 首相官邸に親しい中堅の政治家を補佐官として集め「政治主導」を演出する一方、公務員制度改革に取り組む過程でことさらに霞が関との対決構図を作り上げた。そんな手法が当時、官僚から強い反感を買い、官邸内の不協和音や求心力の低下につながっていった経緯がある。 そこで、今回の組閣に当たっては「官僚は使いこなすべき」が持論の菅義偉氏を官房長官に起用。政務の秘書官に経済産業省出身の今井尚哉氏を充てる一方、安倍首相の知恵袋となる首相補佐官、内閣官房参与に複数の官僚OBを登用し、霞が関への配慮と官邸の求心力を高める布陣を敷いたのだ。 参与の中では、金融緩和を巡る注目度の高さから、米エール大学名誉教授の浜田宏一氏が一躍時の人になっている。その陰で、有力官僚OBの存在感がじわりと発揮される場面が相次いでいる。 存在感増す有力官僚OB 迅速な予算編成実現の裏方として要所で動いていたとされるのが、丹呉泰健氏だ。小泉純一郎元首相の秘書官や財務次官を歴任した丹呉氏は今なお古巣の財務省や霞が関全体に隠然たる影響力を持つ。 財務省のある幹部は「丹呉さんを通じて官邸の意図や感触が分かり、こちら側の空気を伝える場面があった」と明かす。 経済再生と並ぶ安倍内閣の看板である外交の立て直し。安倍首相が今年1月の初の外遊先として東南アジア各国の歴訪を選んだ背景には、第1次安倍内閣当時の外務次官で、安倍首相の外交アドバイザーとして内閣官房参与に就いた谷内正太郎氏の進言があった。 安倍首相が訪問先のインドネシアで強調した民主主義、法の支配など価値観を共有する国々との連携を重んじる「価値観外交」は谷内氏の持論そのもの。安倍首相が2006年の前政権時から対中国外交の基軸に据える「戦略的互恵関係」も谷内氏の発案とされる。 関係者によると、安倍首相は今回の組閣に際し、当初は谷内氏の外務相起用を模索したほどだ。安倍首相が全幅の信頼を寄せる谷内氏は今後も官邸主導外交のキーマンとして重責を担うのは間違いない。 こうした大物次官OBに負けず劣らずの仕事師ぶりが買われた官僚OBの政権への登用も相次いでいる。 その1人が、1月21日付で首相補佐官に加わった和泉洋人氏だ。 和泉氏は旧建設省(現・国土交通省)の出身。住宅局長を経て次官級の内閣官房地域活性化統合事務局長を最後に退官し、民主党の野田佳彦政権で内閣官房参与に就き、予算編成の基本方針など国家戦略を担当していた。 民主、自民で登用される「政策職人」 政権が代わって以降も引き続き重用される異例の人事で、霞が関の間では驚きの声も挙がっている。 関係者によると、今回の人事は和泉氏の行政手腕と政官財への豊富な人脈を高く評価する菅氏の進言が決め手となったという。 和泉氏の担当は、安倍政権の看板政策の1つである国土強靱化や東日本大震災からの復興などの社会資本整備。公共事業の大盤振る舞いへの国民の厳しい視線がある中、どんな事業を、どのようなペースで効率的に実施していくかを決めていくには、政治との調整作業が密接不可分だ。 そこで、自民党のベテラン議員はもとより、公明党や民主党の主要議員、各省庁幹部と太いパイプを持ち、「政策の職人」との異名を持つ和泉氏に白羽の矢が立ったというわけだ。「ねじれ国会」対策を強化する思惑もにじむ。 このほか、稲田朋美行政改革相のアドバイザーとなる内閣府参与に就いた岡島正明氏の表舞台への復帰も関係者の注目を集めている。 岡島氏は農林水産省出身。次官候補の1人と目されていたが、2008年末、官房長を最後に退官した。汚染米(事故米)不正転売事件に伴う事実上の引責辞任だった。 長期間の蟄居生活を経て、東日本大震災後は被災地支援活動に奔走。最近は中央大学で教鞭をとるなどの活動をしていたが、旧知の間柄の稲田氏から支援を要請された。 いきなり大臣に抜擢され、組織運営に不安を持つ稲田氏の隣の部屋に陣取り、稲田氏が官僚からレクを受ける際には同席し、稲田氏に助言する日々だ。 稲田氏の所管する独立行政法人改革や規制改革などは内閣の重要課題だけに、各省庁幹部は稲田氏の懐刀となった岡島氏の言動に目を凝らし始めた。 政権交代を経て再び距離を縮めつつある政と官。その象徴的な動きとして官僚OBの政権への登用が進む。官僚のノウハウと経験を活かし、最後は政治が判断する。その好循環の一歩となるのか、再び霞が関の影響力が増していくのか。目立ちはしないが、安倍政権の今後を占う重要なチェックポイントになりそうだ。 安藤 毅(あんどう・たけし) 日経ビジネス編集委員。 記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 |