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奔流アベノミクス[日経新聞]
(1) 日銀は「敵」なのか
政府・日銀が22日に発表したデフレ脱却と経済成長に向けた共同声明。異例の調整は年明けに本格化した。
「とにかく主語をはっきりさせてほしい。日銀に全てかぶせるつもりはないが、責任はちゃんと認識してもらいたい」。首相の安倍晋三(58)は、交渉にあたる財務相の麻生太郎(72)と経済財政・再生相の甘利明(63)にこう指示を出した。
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日銀に「従来と違う金融緩和への明確なメッセージを」と最も強く求めてきたのは安倍自身だ。
動きは早かった。衆院選の投開票から2日後の昨年12月18日昼。安倍は党本部で日銀総裁の白川方明(63)と会い、2%の物価上昇率目標を設けるよう直談判した。「選挙ではデフレ脱却や円高是正、経済成長を訴えました」。衆院選で圧勝した民意の重みを背景に、政策変更を迫った。
安倍は首相就任後も政府の関与を強めるための日銀法改正について「今も視野に入っている」と盛んにけん制した。
対話と圧力――。安倍側近が口にする日銀との交渉の基本スタンスは、くしくも政府の北朝鮮政策と同じだ。「日銀は『敵』なのか」。官邸の空気に苦笑する自民党のベテラン議員もいた。
1月9日夕、安倍政権が3年半ぶりに再始動させた経済財政諮問会議。出席者からは日銀への不満が噴出した。
「民間は現実問題として円高・デフレに直面している。それを頭に入れて協力してほしい」
「明確な物価目標の導入による積極的な金融緩和を」
官房長官の菅義偉(64)をはじめとする閣僚からの注文をテーブルの端に座った白川は厳しい表情のまま聴き入った。
安倍は会議後、周囲にこう漏らした。「白川さんは誠実な人だ。選挙の結果も真剣に受け止めようとしているが、日銀の中で苦しんでいてかわいそうだ。あまり追い込んではいけない」
政治の圧力に白川が反発し、辞表を出したりすれば調整は白紙に戻る。政府の日銀への働きかけは、硬軟両様の使い分けが顕著になっていく。
安倍が交渉を麻生と甘利に任せたのには計算があった。2人は積極的な金融緩和で緩やかなインフレを生み出し景気浮揚を目指す、いわゆる「リフレ派」ではない。
麻生は同じ福岡県出身の白川とは浅からぬ縁がある。白川の父は地元の大手企業の社長で、日本青年会議所(JC)で仕事をしていた麻生と近かった。共同声明の文案づくりに携わった官僚は「白川さんへの気配りを感じた」と証言する。
甘利は白川に「私は日銀さえ大胆な金融緩和をすればデフレ脱却できるという考えじゃないんですよ」と語りかけたことがある。白川は「よく分かっています」と応じたという。
甘利は共同声明をまとめる最終段階で安倍への殺し文句を口にした。
「ハードルを上げすぎると、首相が選ぶ次の日銀総裁を追い詰めてしまいます」。周囲は落としどころを探る上で「結構効いた」と振り返る。
安倍が東南アジア歴訪に向かう前日の15日午前、官邸5階の首相執務室。麻生と甘利が日銀と詰めている文案を見せると安倍は軽くうなずいて矛を収めた。「よくここまできましたね」
22日午後、安倍への正式な報告を終えた麻生、甘利、白川が官邸ロビーでそろい踏みした。共同声明は「2%の物価目標」を明記したほかに大きな驚きはなく、一時は市場の円買い、株売りの反応につながった。白川は追加の金融緩和に向けた「次の一手」を温存しているとの見方も根強い。
安倍が厳しい球を投げ、麻生と甘利が役割分担で日銀との接点を探る展開はほぼ想定通りだった。日銀への働きかけは「次の総裁人事が本番」との意識が政権内に広く共有されている。
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安倍は昨年9月に党総裁に返り咲いた直後から、政権奪取をにらんだ仕掛け作りに動いた。昨年10月に自民党の日本経済再生本部が議論を始めたのは「政権を取るまでの間も暖機運転しておいた方がいい」という当時、政調会長だった甘利の進言を受けたものだ。
「経済、経済、そして経済」。自民党幹部は政権の重要課題を聞かれるたびに繰り返す。安倍が掲げる金融緩和、財政政策、成長戦略の「3本の矢」。夏の参院選を乗り切り、安定政権への道を開く挑戦はいま始まったばかりだ。
(敬称略)
[日経新聞1月29日朝刊P.2]
(2) 3Aに仕える
「おっしゃる通りにやります」。首相の安倍晋三(58)が組閣を終えた昨年12月末、経済産業相の茂木敏充(57)は経済財政・再生相の甘利明(63)に頭を下げた。
茂木は「甘利大臣を通した資料以外は事前に漏らしてはならない」と省内に厳命。アベノミクスの両輪である副総理兼財務相の麻生太郎(72)と甘利、それに自らを加えて「大臣の三本の矢だ。よく協力していく」と強調した。
自民党が野党の座にあった2010年暮れ。甘利は次の政権交代に備えて政策の検討を始めた。経産省の幹部で甘利と議論を重ねたのは産業政策の責任者だった柳瀬唯夫(51)。党の商工族で経産相も務めた甘利と近い柳瀬は、民主党に政権を奪われた麻生の首相秘書官を務め、敗北感を共有していた。
甘利は12年8月、「日本経済再生プラン」を公表した。「産業投資立国」「いちばん企業が活躍しやすい国」など経産省肝煎りの言葉が並んだ。
今、柳瀬がいた経済産業政策局は、甘利が仕切る日本経済再生本部や産業競争力会議の「裏事務局」と呼ばれる。さらに甘利の大臣秘書官には経産省から野原諭(45)が送り込まれた。野原は第1次安倍内閣で経財相だった大田弘子(58)の政務の秘書官で、経済財政諮問会議の舞台回しを熟知している。
「経産省中心の事務局の体制は改めないとダメです」。1月19日、都内のホテルで安倍と向かい合った政調会長代理の塩崎恭久(62)や嘉悦大教授の高橋洋一(57)は、諮問会議の運営などで注文をつけた。
背景には経産省主導で政策が練られることへの不信感が渦巻く。成長戦略を検討する産業競争力会議を前に安倍は「メンバーは一桁で」と指示したが、ふたをあければ10人に膨らんだ。委員の一人は競争力会議を所管する経産省を警戒。「有識者にわーわー言わせて『後はこっちでまとめます』という手法を採りたいのだろう」と勘繰る。
安倍の秘書官は主要な省庁が1人ずつ出す原則が崩れ、経産省から柳瀬のほか筆頭格で政務担当の今井尚哉(54)が就いた。直前まで東京電力の経営改革やエネルギー政策を仕切った今井は「部屋にこもり首相の日程調整を引き受けている」(官邸のスタッフ)。茂木とともに支え役に徹しつつ、安倍、麻生、甘利の「3A」に人脈を持つ経産省がアベノミクスの真ん中にいるのは間違いない。
(敬称略)
[日経新聞1月30日朝刊P.2]
(3) 小泉「どんどんやれ」
最高裁が薬のインターネット販売を認める判決を出して1週間後の今月18日。衆院第2議員会館の会議室はネット販売に反対する自民党の議員連盟の会合で熱気に満ちていた。
「北海道薬剤師会のご推薦を頂いている。『ぜひ頑張って』という言葉をもらって参加した」。先の衆院選で初当選した船橋利実(52)は選挙事情を交えながら、販売規制の緩和を認めない考えを訴えた。ベテラン議員の平沢勝栄(67)は「政府内で『ネット販売しろ』と言っているのは誰だ」と出席者をにらみつけた。
アベノミクスは規制緩和を視野に成長戦略も柱とする。薬のネット販売は対面販売を原則としてきた規制の転換を迫るが、自民党の大勢や厚生労働省はなお背を向ける。
「一番大きな基本軸は規制改革ではないか」。23日、官邸で開かれた産業競争力会議。民間人として参加した楽天社長の三木谷浩史(47)は「企業にお金を出すより経営体質が強くなる仕組みづくりが必要」と語った。
楽天市場のサイト内の特設コーナーには日本薬剤師連盟から献金を受けた自民党議員の名前が並ぶ。三木谷の目には厚労省、業界と一体となった議員が抵抗勢力と映る。
その三木谷を慶大教授の竹中平蔵(61)は頼もしく見つめる。競争力会議に入り「役所がやりたいことだけではダメ。医療、教育、農業。やることは決まっている」と主張。「三木谷さんたちと一緒なら、違う動きができる」と期待する。
昨年12月。竹中が経済財政諮問会議のメンバー入りするとの観測が流れた。「あり得ない」「情報の出どころはどこだ」。財務省は動揺した。「聖域なき構造改革」を掲げた元首相、小泉純一郎(71)の下で経財相として竹中は諮問会議をフル活用。民間議員のペーパーを次々に作り、政官の抵抗を封じた。財務省にとって経済政策の主導権を握られた記憶は苦いままだ。
クリスマスを過ぎた頃、竹中の人事は諮問会議ではなく競争力会議に横滑りする形で決着。竹中は安倍の女房役で官房長官の菅義偉(64)と親しい半面、アベノミクスの先導役で公共事業の効用を唱える財務相の麻生太郎(72)との距離が縮まらない。小泉の唱えた郵政民営化に賛同した菅・竹中と、反発した麻生の対立軸は続く。
「どんどんやれ。正論が通らなければ政権の責任だ」。小泉は安倍の官邸や会議に加わるべきか悩んで相談に来る人に、そう励ましている。(敬称略)
[日経新聞1月31日朝刊P.2]
(4) 守るのは組織
昨年12月17日。日銀は重苦しい朝を迎えた。前日の衆院選で安倍晋三(58)が率いる自民党が圧勝。最初に異変に気付いたのは中堅以下の職員だった。
「8階で何かが起きている」。日銀本店でひそひそ話が広がった。8階は正副総裁や審議委員、理事らの部屋が並ぶ。2日後に金融政策決定会合が迫り、通常なら8階では経済データや政策の文言の説明に追われる職員が走り回る。その日は朝から「全くアポイントが入らない」。幹部に面会できず立ち尽くす職員が廊下にあふれた。
このころ総裁の白川方明(63)らは自民大勝で現実味を帯びた日銀法改正への対応を協議していた。「2%の物価上昇率目標」を迫る安倍の主張を丸のみすべきか。中央銀行として筋を通すべきか。議論は紛糾した。
「総裁の職を賭して、戦うべきだ」。OBには主戦論者も目立った。しかし白川らは物価目標をのむ代わりに、日銀法改正を避ける方向にカジを切った。「中銀の独立性が失われ組織をがたがたにされてもいいのか」。関係者によると、有力OBの鶴の一声が決め手となった。海外中銀幹部からも独立性を脅かす法改正を危ぶむ意見が続々と寄せられた。白川は3日後、物価目標の検討を発表した。
安倍は1月15日、内閣官房参与に就いた米エール大名誉教授の浜田宏一(77)ら金融緩和に積極的な有識者7人を官邸に招き昼食をとった。
「日銀法改正が必要です」。物価目標の話はもう終わったとばかりに、提案が相次いだ。浜田は「僕は弱腰だが」と控えめに語るが、一部には総裁の解任権に関する言及もあった。今の日銀法に解任権はない。
浜田とともに参与に就いた静岡県立大教授の本田悦朗(58)は政府・日銀の共同声明で「できるだけ早期」とした2%の物価上昇率の目標について「2年以内の結果で勝負だ」と力説する。本田は官邸の一室に陣取り日銀の出方に目を光らせる。
日銀職員はどう思うか。40歳代の男性は「何年も前から『物価目標』でも何ら問題はないと思っていた」と語り、別の40歳代の男性は「円安・株高も含め人々は何かが変わるかもしれないと思い始めている。この勢いを利用すればデフレを本当に脱却できるかもしれない」と半信半疑で期待する。OBに比べ現役の敗北感は薄い。(敬称略)
[日経新聞2月1日朝刊P.]
(5) 「株高の間は大丈夫」
「もうサンドバッグ状態になってます」。1月22日夕、内閣府5階の大臣室。自民党政調会長の高市早苗(51)は経済財政・再生相の甘利明(63)にこぼした。2013年度予算案の閣議決定を翌週に控え、党側の要望が反映されない不満との板挟みの現状を伝えた。
首相の安倍晋三(58)は閣内に財務相の麻生太郎(72)や甘利ら重鎮や盟友をそろえ官邸主導を目指す。政策決定での「政高党低」が際立っている。
少数の幹部が税制改正を牛耳ってきた自民党税制調査会にも変化の兆しがある。「これでは国会答弁がもたない」。官房長官の菅義偉(64)は23日、高市に電話で説明を求めた。
問題視したのは自動車重量税を巡る「道路の維持管理などのための財源として位置付ける方向で見直す」という税制改正大綱の記述。ムダな道路をつくる温床とされた道路特定財源の復活とも読める表現だった。
翌24日、大綱を決める与党税制協議会を2時間後に控えた党政策審議会で高市は「内閣の意向だ」と修文を主張。駆けつけた税調会長の野田毅(71)らが「特定財源化ではなく課税根拠を示しただけだ」と取りなし原案通りで決着したが、税調の決定に政府が口を挟むのは異例だ。
党内の不満が安倍批判に直結しないのは、今夏の参院選の行方はデフレ脱却や経済成長を目指すアベノミクスの成果次第という意識が共有されているためだ。「参院選で勝つまでは首相と一蓮托生(いちれんたくしょう)」。幹事長の石破茂(55)は公言してはばからない。
「円安・株高が続く間は政権は大丈夫」。民主党参院国会対策委員長で自動車総連出身の池口修次(63)は1月15日、自民党の脇雅史参院国対委員長(68)に語りかけた。景気に明るさが見え「こういう状況では安倍を批判しづらい」と語る。
30日の衆院代表質問。安倍に論戦を挑んだ民主党代表の海江田万里(63)は拍子抜けした表情で漏らした。「社会保障とか教育とか具体的に尋ねたが答えがなかった。経済のことで頭がいっぱいという印象だ」
安倍は多くの教訓を踏まえ、景気最優先の姿勢をとる。与党では出足は合格点との声が多く、安倍は31日夜、公邸に招いた公明党幹部に「よく眠れていますよ」と余裕を見せた。経済は成長軌道に乗るのか――。答えは遠からず出る。
(敬称略)
森本学、地曳航也、高見浩輔、坂口幸裕が担当しました。
[日経新聞2月2日朝刊P.2]
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