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[日経新聞]
日米関係再構築:(上)包括的な東アジア戦略を
田中均 日本総合研究所 国際戦略研究所理事長
<ポイント>
○日米取り巻く環境変化前提に関係再構築を
○軍事的信頼の向上へ日米中の枠組みつくれ
○TPPの下での経済ルールづくりに参加を
この10年で日米関係は大きく変わった。震災時の米国による「トモダチ作戦」のように、日米関係の強さを示す事例もなかったわけではない。しかし、日本の国力の相対的低下とともに、国際社会における重要性も低下した。米国にしてみれば1年ごとに変わる政権では、同盟国が前提とすべき信頼関係も築きようがなかったということだろう。
とりわけ2009年に誕生した鳩山由紀夫民主党政権は同盟国米国と十分な協議もないまま、「米軍普天間基地は最低でも県外」「対等な日米関係と東アジア共同体」といった方針を打ち出した。米国離れではないかとの疑念を生んだことも事実であろう。米国のオバマ政権もブッシュ政権の同盟国優先姿勢から、より実務的な姿勢に変わった。
安倍晋三政権は日米関係を強化していく方針を打ち出している。しかし、日米関係を過去の延長として再構築するという考え方であってはならない。日米を取り巻く内外の環境が大きく変わったことを前提に、関係の再構築を図ることなくして、日米関係が強化されるとは考えられない。
まず、日米関係の背景にどのような変化があったのかを考える。冷戦あるいは米国一極体制の時代には、米国と世界第2位の経済力を持つ日本の同盟関係は日米双方を利したのみならず世界を利した。新興国の台頭により多極化あるいは無極化時代といわれる今日、米国をリーダーとする西側先進民主主義国の協調体制で世界を動かすことは難しくなった。それは、特に東アジアで顕著である。
過去、日本、中国、米国の相克の中で歴史がつくられてきたが、第2次世界大戦後は日米の国力の大きさと同盟関係が東アジア地域の安定に大きく貢献した。しかし、この10年で構図は変わった。10年前には日本の半分にも満たなかった中国の国内総生産(GDP)は今や日本をしのぎ、今後15年で米国さえ追い抜くという予測もある(図参照)。
米国内における日本と中国の存在感も逆転した。現在の中国は、米国貿易総額に占める割合や米財務省証券保有高など主要な経済統計において経済力がピークだった1990年ごろの日本とほぼ同じ地位を占める。米国における中国系の人口は飛躍的に増えているのに対し、日系の人口はアジア系で唯一減っている。97年には最大であった日本人留学生は大きく減り続け、11年には約2万人にすぎない。これに対し、中国からは約19万人の留学生が米国で学ぶ。
米調査会社ギャラップによれば、米国にとって最も重要なパートナーは冷戦終了後一貫して日本という認識だったが、今や中国という認識に変化している。民主主義的価値を守るため日米同盟関係が重要であることは論をまたないが、現実に生じている力のバランスの変化から目を背けるわけにはいかない。日本にとっても中国は07年以降一貫して最大の貿易相手国である。
大国化し、より攻撃的になると同時に、相互依存関係も深まっていく中国をどうすれば建設的な存在に変えられるのか。これが日米同盟の最大の共通課題となっていることを認識しなければならない。
こうした認識に立てば、日米両国が中国をそれぞれの2国間関係の中でとらえるのではなく、包括的な東アジア政策の中で考える必要があるだろう。尖閣問題はその格好の事例だ。尖閣諸島を巡り中国の艦船や航空機が日本領海・領空を侵犯し緊張が高まる中で、米国が尖閣諸島について日米安保条約の対象であることを明確にしていることが、日本の抑止力を強めている。
クリントン前国務長官は岸田文雄外相との会談で米国の立場を一歩進め、日本の実効支配を弱めようとする中国の一方的行動に反対する旨を明確にした。同時に問題が日中衝突に至ることは避けねばならず、米国は日本にも自制を求めている。自民党公約にあるような実効支配の強化には反対ということなのだろう。日中関係を建設的軌道に戻すことを米国は望んでいる。
また北朝鮮を巡る情勢が緊迫する中で、日中関係の修復だけではなく、米国にとって重要な同盟国である日本と韓国が早期に関係修復を進めることも極めて重要と考えているようだ。そのため歴史問題の解釈を変えようとする動きには神経をとがらせている。米国は「村山談話」や「河野談話」の見直しの動きは日本を孤立させるのみならず、米国内の中国系や韓国系住民の反発を買うのは必至で、米国自身の問題となりかねないというとらえ方をしている。
日本自身が中国と建設的に向き合うことを念頭に包括的な東アジア戦略を構築し、米国と能動的に協議することこそが日米関係を再構築していくうえでの鍵だ。東アジア戦略の根幹には日米安保体制がある。大国化し将来が不透明な中国のリスクをヘッジ(回避)するうえで安保体制は強化されねばならない。この観点で日米の役割・使命の分担をもう一度見直すべきだ。
米国における大幅な国防費削減は避けられそうになく、日本の防衛負担を上げることは必要である。同時に日米共同基地使用、共同訓練基地造成などを通じて、安保体制の効率化を図ることにより、沖縄の基地負担の軽減につなげなければならない。日米の役割・使命の見直し協議の結果として、普天間基地問題についても新しいアプローチが可能になると考えられる。また、集団的自衛権問題は今後時間をかけてじっくり検討していくべきであり、拙速に結論を出すべきではない。
さらに、日本が韓国、オーストラリア、インドネシア、ベトナム、インドなどと戦略的関係を強化するのは正しい政策であり、米国の「アジア回帰」戦略と軌を一にする。それ以上に重要なのは中国との信頼醸成である。このため日本、米国、中国の3者の枠組みを、例えば日米中外務・国防大臣会合といった形で構築すべきである。国防予算の透明化や自然災害などへの3カ国の共同行動を通じて軍事的信頼が向上するだろう。
経済ルールづくりも活発化する必要がある。日本、中国、韓国の自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)により、東アジア経済統合を進めなければならない。しかしそれだけでは不十分だ。日本が環太平洋経済連携協定(TPP)の下でのルールづくりに参加することは、東アジア経済連携を進めるうえで欠かせない。
TPPの下で、国家資本主義ではない高度な自由経済体制のルールをつくることは、大きな市場を持つ中国にのみ込まれないという意味で日本の安心につながる。TPPに参加すると農業が壊滅するといった受け身で考えるのは間違いだ。聖域なき関税撤廃というのは交渉を始める際の目標であっても結果ではない。将来東アジアの紛争を予防していくうえで決定的に重要なエネルギー問題についても、東アジアサミットを活用して本格的なエネルギー協力を軌道に乗せることが望まれる。
筆者はこうした東アジアの包括的な枠組みを「東アジア共同体構想」と対比して「重層的機能主義」と呼ぶ。すなわち協力すべき機能により参加する国は違うが、全体としてみれば中国を含めて地域のウインウインの関係につながるという考え方だ。日中の対決的要因となっている尖閣問題にしても、どちらかが譲歩して解決に向かうことは想定しにくい。将来に向けて日中協力の利益が大きいこと、尖閣問題により日中関係全体が損なわれてはならないことを確認するのが何より重要だ。
こうした包括的構想に米国や中国を引き込むことこそが、日本の外交に求められていることではなかろうか。
たなか・ひとし 47年生まれ。京都大法卒。元外務審議官
[日経新聞2月5日朝刊P.26]
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