05. 2013年2月06日 01:12:29
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自動車取得税、痛み分けの廃止2013年2月6日(水) 張 勇祥 1月24日に決定した税制改正大綱に自動車取得税の廃止が盛り込まれた。自動車重量税は特定財源に近い形に戻り、自動車業界にとって痛み分けの格好となった。消費増税に伴う軽減税率の導入でも支持拡大と税収減とのせめぎ合いが続く。 1月7日、東京都内のホテルで開催された日本自動車工業会の賀詞交換会。開会から間もなく、小さなどよめきが起きた。自工会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が安倍晋三首相のサプライズ来場を告げたからだ。 現職首相の来場は2001年の森喜朗氏以来のこと。安倍首相は満面の笑みで述べた。「モノ作りの日本を取り戻したい。その中心にあるのが、まさに自動車工業だ」「頑張っている人が報われる社会を作っていく」。 2つ目の「頑張っている人が報われる社会」というフレーズは、豊田会長が政策要望の際に口癖のように繰り返してきた。この言葉を使うことで、安倍首相は自動車産業との蜜月関係を強調してみせた。居合わせた自動車業界の関係者は「今度こそ自動車課税の軽減が実現する」と色めきたった。 自動車業界は「自動車ユーザーの税負担は年8兆円」「道路特定財源は一般財源になったのだから、財源の自動車重量税や自動車取得税は廃止が筋」と主張してきた。負担が偏ってきたのも事実だが、今年は切実な理由がある。 2012年の国内新車販売(軽自動車を含む)は536万台と2011年を約3割超え、リーマンショック前の水準を回復した。しかし、昨秋まで販売を押し上げたエコカー補助金がなくなり、4月には自賠責保険料引き上げを控える。 全国軽自動車協会連合会は今年の軽自動車の需要を2012年比11%減の176万台と見積もる。維持費の安さなどから人気を集める軽自動車でも販売減を見込み、自動車全体では500万台を再び割り込むとの危機感が強い。 需要下支えには力不足 自動車業界の悲願を背に自民、公明両党が1月24日に決定した2013年度税制改正大綱では、取得税を2段階で引き下げ、消費税率が10%に上がる時点(2015年10月)で廃止すると明記した。エコカー減税も「基本構造を恒久化」する。一方、重量税は廃止を見送り、自動車業界と財務省にとって「痛み分け」の結果となった。 取得税は取得価格の5%(軽は3%)。現行のエコカー減税で課税が減免されている車種も少なくない。これらを考えると、消費税率の10%への引き上げの影響はほぼ相殺される。ただ、燃料などの税率も上がるため、自動車の需要を下支えする力はなさそうだ。 財務省は業界からの減税圧力に対し「本丸」を守り抜いた。取得税、重量税の2税による税収9000億円のうち7000億円を重量税が占める。金額が大きく代替財源が見つからないことが、重量税温存の大きな要因となった。 加えて、新たなロジックも潜り込ませた。「今後、道路などの維持、更新に多額の財源が必要」というものだ。 中央自動車道のトンネル崩落をはじめ、経年劣化したインフラで事故が多発しているのは事実。インフラ整備のための支出が不足しているとの懸念も強まっている。安定財源を確保するため、2009年度に一般財源化したものを特定財源に近い形に戻す。 野田毅・自民党税制調査会長は大綱決定後の記者会見で「基本的に一般財源であるのは当然」としつつ、「税収を道路の維持管理や更新のための財源と位置づけ、自動車ユーザーに還元される方が分かりやすいのではないか」と述べた。経年劣化したインフラの整備という大義名分があれば、税の改廃議論にさらされにくいとの読みもある。 2014年度の税制改正で制度設計をするため、現時点で固まっていない部分が多い。ただ、少なくとも現状では2税見直しで自動車需要を喚起し、国内産業を下支えする成果が上がるとは考えづらい決着となった。 軽減税率、支持拡大と税収減のジレンマ 産業界と政治は既に2013年度税制改正後に動き出している。その代表格が消費税引き上げに伴う軽減税率の導入。自民、公明両党は1月末の2013年度税制改正大綱策定時に、「(2015年10月に)消費税率を10%に引き上げる時点で軽減税率導入を目指す」としていったん合意した。 しかし、公明党は「軽減税率は(2014年4月に引き上げ、2015年時点では標準税率となる)8%でなく、5%に下げる」と強く主張し、産業界も住宅業界が「諸外国の多くで住宅は軽減税率対象」と叫ぶなど、次を見据えた動きを見せる。7月の参院選をにらみ、政党間の駆け引きや業界の攻勢が激しくなるのは必至の情勢だ。 軽減税率は、低所得者ほど収入に対する消費税の負担が重くなるのを緩和するため、食料品など一部品目の消費税率を抑えるもの。だが、実際には、専門家の間で消費税増税の影響を緩和する最善策だとする声はほとんどない。 「軽減税率の恩恵は高所得者にも及び、低所得者対策になりにくい」(佐藤主光・一橋大学大学院教授)うえに、標準税率での本来の税収が減少する難点がある。また、税率の異なる品目を扱うことで中小企業の事務負担が重くなるなど、導入時の課題が少なくないためだ(下表参照)。 それでも軽減税率が確実になりつつあるのは、公明党と自民党の一部からの強烈な圧力があったためだ。
例えば、公明党の強硬姿勢の裏に浮かぶのは執行部の独走。昨年6月、自公と民主党による3党合意で消費税引き上げが決まる直前まで「支持団体の創価学会と、大半の国会議員が反対だった」(ある公明党関係者)が、自民党との関係を重視する執行部が批判をかわすために消費税8%段階からの導入を言い出したという。 そこでは「税率を記載したインボイス(送り状)なしに軽減税率導入は難しいし、中小企業の負担も増す」との指摘もあったが、「税理士の一部から『会計をコンピューター処理できる企業ならインボイスなしでも対応可能』という声が出ると執行部はそれに飛びついた」(同)とさえ言われる。 一方の自民党には、消費税収の減る軽減税率に慎重な見方もあるものの、党税調内でさえ「住宅は適用してもよいのでは」(ある党税調メンバー)といった声も漏れるなど、業界の意向をくんだ動きが早くもちらつく。 俯瞰して見えるのは、支持層に幅広く目配りする自公政権の税制改正の姿だ。 自公両党は参院選を経て年末までに具体案を詰める考えだが、今後の課題は、前述のような問題点をどう小さくしていくか。重要なのが軽減税率導入に伴う税収減の抑制だ。 欧州は軽減税率で「付加価値税の実質的な税率である実効税率が標準税率より7〜10%も下がっている」(森信茂樹・中央大学法科大学院教授)。対象を広げるほど減収幅が大きくなり、消費税上げの効果は乏しくなる。財政再建へ抜本的な取り組みが必要な日本には頭の痛いところ。 食料品など、真に必要なものにどのように絞り込むかが問われる。今度こそ政治が襟を正した判断をすることが必要になる。 (編集委員 田村 賢司) 張 勇祥(ちょう・ゆうしょう) 日経ビジネス記者 時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。 |