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「渡辺治さん(一橋大学名誉教授)に聞く【安倍政権誕生の背景と運動の課題】保守主義と新自由主義の結合 政治の対立軸示さないマスコミ
先の総選挙における民主党の大敗は、09年の政権交代とは何だったのかも問いかける。市民の運動と新自由主義の政策への反発が政権交代をもたらしたと評価する政治学者の渡辺治さんは、新たな保守政治に対抗する運動のありかたを提起する。
――昨年4月に出された自民党の改憲草案は復古的ですね。
自民党の考える理想の国家体制とは何か。
一つは9条の改変です。今回の憲法案では05年に出された新憲法草案と比べ、あらゆる場合にあらゆる形で自衛隊を海外に派兵し戦争ができるよう明示しています。
二つ目は新自由主義改革を効率的に推進する体制を作ることです。それには内閣総理大臣の権限は強化しなければならないし、「緊急事態」には、議会の審査抜きに市民の権利制限ができるようにしたい。何より新自由主義改革を進めるための憲法「改正」も、もっとやりやすくしたい。 三番目は天皇や家族の重視。新自由主義による企業リストラ、福祉の削減で貧富の格差が拡大し、社会の分裂が進んでいる。しかし社会統合の破綻を、所得再分配の政治で補うわけにはいかない。そこで天皇を中心としたまとまった社会や、家族による福祉などを持ち出す。
軍事大国の象徴である天皇というより、新自由主義で分裂した社会のまとまりの象徴である天皇像です。さらに彼らは日本の含み資産と言われた家族を復活させたい。
一見すると復古的に見えるけれど、新自由主義によって壊れた社会を再建するための天皇制や家族の役割の強調です。
――幻想をばらまいているだけと思えます。
新自由主義は、福祉国家や自民党型の利益誘導政治とも違い、自分の力で社会の分裂を修復できないのです。新自由主義の政策をやればやるほど社会は分裂してしまうので、ナショナリズムや新保守主義、強権政治と結びつかざるを得ない。
フランスで右翼が台頭しイギリスのサッチャーが新保守主義理念を振りかざしたのはその例です。
新保守主義は市場経済の昂進による個人の孤立、競争や伝統社会の絆の解体という見地から、新自由主義に厳しく反対します。教育についても、日の丸・君が代は強調しても、競争主義的な格差と分断には抵抗する。しかし安倍首相の掲げる保守主義には、新自由主義に反対する「健全な」部分はかけらもありません。大企業の発展のためなら、地域も伝統も容赦なく壊す、都合のよいところだけ復古的なものをつまみ食いしているだけです。 それに比べ橋下徹大阪市長は対照的。競争と格差を信奉する新自由主義の申し子のような人です。それが石原的な保守主義と結びつく。野合です。
――総選挙では安倍自民党はなぜこんなに大勝したのでしょうか。
今回の選挙は、議席数でいえば小泉自民党の選挙、鳩山民主党の選挙に匹敵する自民党の大勝利です。ところが、この二つの選挙とは得票率が伸びてない点が決定的に違います。比例での得票率は27・6%で、自民党を支持した人は3割にも満たなかった。
そんな自民党の大勝の理由は小選挙区での民主党の激減です。
民主党が激減した最大の原因は、新自由主義の矛盾の顕在化と反貧困・反構造改革の運動に押されて一度は新自由主義反対に転じ国民の期待を担った民主党政権の変節です。新自由主義の政治に歯止めをかけてくれるかも知れないという期待で登場した民主党政権は、アメリカと財界の圧力で新自由主義に回帰した。当然国民の支持は離れて政策は強行できないので、野田政権は自公との3党合意で消費税引き上げを強行した。この変節に対する怒りです。
しかし大敗の理由はそれだけではありません。民主党に、地域の利害を気にせざるをえない自民党より急進的な新自由主義を期待していた大都市部の中間層も、民主党のジグザグに愛想を尽かして離れた。いわば左からの支持者も右からの支持者も離反したのが、民主党大敗の原因です。
480議席の内300を占める小選挙区では自民党と競い合うのは民主党しかいませんから、民主党が激減すれば残るのは自民党。実に自民党は237議席をとった。
なぜ自民党の支持率が上がらなかったか。自公政権の推進した新自由主義政策で地方はボロボロになった、その不信が解けていないからです。 今度の選挙の結果、日本政治は新たな段階に入ったと言えます。新自由主義政治の結果、民主党も自民党も信を失って、保守二大政党制の地盤沈下が起こったのです。ここ10年は、自民と民主は激しく議席を争ったが、両方足すと7割になった。ところが今回の選挙では足しても43%、実に30%近くの人が両党から離れてしまったのです。もはや民主党でも自民党でも一党だけでは、悪政を強行することはむずかしくなった。
保守支配層に幸いだったのは、自民にも民主にも愛想を尽かせた人が、革新政党に行かず維新の会に止まったことです。その結果、保守二大政党の寡占体制は壊れたものの、維新の会とみんなの党を合わせれば、85%がなお保守の枠の中にいる。そこで保守大連合の政治体制に移行したのが、総選挙後の政治体制です。保守翼賛体制のもとで新自由主義・改憲の大攻勢を許してしまうのか、それを阻み政治をさらに前進させるのか。今が正念場です。
――劣化した政党は、どうやって保守支配を維持しようとしているのでしょうか。
どの国でも雇用、公共投資、社会保障を削減する新自由主義のもとでは政党の国民統合能力は落ちています。
日本でも自民党は開発型政治により地域を支配していましたが、構造改革の実行や政権から離れたことで、地域統合能力を失った。だから3割の支持しか得られない。
そこで安倍政権は、一方で新自由主義を強行しながら地域の支持を回復し国民の支持を取り戻すため、大規模財政出動、地域への公共事業バラマキをやろうとしています。景気を回復して参院選勝利し、消費税を引き上げるとともに、地域の自民党支持を回復しようというわけです。
しかし自民党の思惑はうまく行かないと思います。ほかでもなく自公政権の行ってきた新自由主義・構造改革で地方の地場産業や農業、経営は疲弊し、公共事業の受け手になれないからです。その結果、公共事業バラマキの受け皿は、大手ゼネコンや大企業にならざるをえず、地域には届かないからです。
おまけに安倍政権の財政出動は、とんでもない悪政となります。公共事業支出の財源として消費税は10%以上の引き上げが必要だとなります。また公共事業にばらまく分さらに社会保障の削減がめざされています。
――脱原発運動の盛り上がりが選挙に結びつかなかったですね。
2006年以降、対抗勢力側では九条の会、脱原発、反TPPの運動などが噴出しました。これらの運動は、間違いなく政治を前に進める力になると思います。これらの運動には三つの特徴があります。一は、革新だけでなく、保守との連携を追求している。二は地域を基盤にした運動ということ。三番目は、今まで運動に参加しなかった高齢層、若年層、女性などが参加したことです。
しかし今回の選挙では残念ながら、こうした運動の盛り上がりを、政治を変える力にするところまでは行きませんでした。
だが運動と政治の連接の萌芽はありました。都知事選では統一候補が実現しました。宇キ宮候補の掲げた政策の四つの柱は、脱原発、福祉の再建、教育の再建、憲法擁護と文字通り反新自由主義の構想でした。けれども、都知事選挙ではこれらは争点にならなかった。それにはマスコミの責任も大きいと思います。
マスコミは、今度の選挙の争点を「自民か民主か維新か」と設定した報道に終始しました。新自由主義・改憲の政治か、反新自由主義・憲法の政治かという対抗の構図が示されないため、原発や消費税引き上げ、TPP、集団的自衛権に反対の思いを持ちながら自民党や猪瀬候補に投票した人も多かった。
――マスメディアも問われますね。
民主党政権が構造改革に異を唱える政策を取り始めた頃から、大手マスコミの転換が起こった。日米同盟と新自由主義の政治でなければならないという支配階級の合意を受けて、政党の政策にまで介入する言説をとるようになった。2011年正月に朝日と読売が社説で、消費税・集団的自衛権の容認などを柱に保守大連立をつくれと主張したのは転換の象徴でした。
私は現代のマスコミは大政翼賛会の時代のマスコミより悪いと思います。
今のマスコミは新自由主義政治の矛盾に動揺している政党を叱咤激励して、支配階級の意を受けた方向に持っていく役割を果たしている。「改革の痛みを恐れず、国民に迎合するな」と言っている。
何と何が対立しているのかを国民の前に示すのが、ジャーナリズム本来の役割ですが、現在はさまざまな矛盾を押し切って新自由主義を遂行できる体制をつくらねばという使命に燃えています。
なぜそうなったか。一つはマスメディアも企業であるという限界性でしょう。もう一つはマスメディアの指導部が、新自由主義と日米同盟以外に日本社会の発展の構想を持っていないし信じていない。現場の声に押され個々の問題では原発の危険性も報道する。しかし全体では今の政策に代わるオルタナティブな構想を持っていない。
その打開の方向性は、マスコミの記者が現場から練り上げた対抗構想を持って、指導部の新自由主義的な構想と突き合わせることができるかにあると思います。
聞き手=保坂義久
*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2013年1月25日号」
http://jcj-daily.seesaa.net/article/316505626.html
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