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(耕論)春の闘い何のため? 山田久さん、神部紅さん、ビル・トッテンさん
朝日新聞 2013年1月30日
デフレ脱却を目指す安倍政権下で春闘が始まった。結果は多くの人の賃金に影響するが、非正規労働者など、賃上げに縁のない人もいる。春闘は私たちの暮らしを豊かにできるのか。
●賃上げでデフレ脱却を 日本総研調査部長、山田久さん
「アベノミクス」は金融緩和と財政出動が柱ですが、それでデフレから脱出できるかどうかは分からない。だが、多くの企業が賃金の底上げ(ベースアップ=ベア)をすれば、デフレは確実に終わる。賃金が上がれば消費者の財布のひもが緩くなって需要が増え、物価が上がって企業業績も好転。さらなる賃上げが期待できるという好循環が期待できるからです。
平均賃金の下落傾向は十数年間続いており、今や「賃金は下がるもの」というのが半ば常識です。だが、2000年代半ばの景気回復期、確実に賃上げのチャンスはありました。この時期、企業が上げた粗利益のうち労働者の取り分の割合を示す労働分配率は、日本の適正水準とされる約65%を下回っていました。企業側には十分、賃上げの余力があったのです。
なぜ、賃上げができなかったのか。大きな理由は「日本経済の実力に見合った分だけ賃金を上げる」という春闘の果たしてきた役割が失われたからです。バブル崩壊以前の日本では、春闘では「企業の生産性が上がった分だけ、賃上げをしよう」という相場観が労使で共有されていた。結果的に賃金は実体経済の動向をよく反映し、安定成長の要因の一つになっていた。
だが、現在の日本では、企業側はグローバル競争への対応のため賃上げを渋る。労働者側も雇用確保を優先して賃上げ要求には及び腰です。賃金相場に大きな影響力を持つ金属・機械産業が今や、賃上げに最も消極的な業界になってしまったことも、春闘の力を失わせました。
現在の日本の労働分配率は65%をやや上回る程度。春闘全体では大幅なベアは困難でも、個別業界や企業では賃上げが可能な経営環境が整っているところがあるはずです。そうした企業の労組は全体の傾向にとらわれず、積極的に賃上げの要求をしてほしい。今、必要なことは「給料は下がるもの」という固定観念を突き崩すことです。
とはいえ、労使間のパワーバランスが崩れた現状では、かつての春闘のように業績に合った賃上げは難しい。「給料は上がるもの」という状況を取り戻すには、経営者は生産性を上げるために事業の仕組みを変え、働き手も必要なスキル転換や転職を受け入れる必要がある。
それには政府が介入して、職業訓練などで民間の取り組みを支援すると共に、主要産業ごとに賃上げについて労使が話し合う新たな場を設けることが望ましい。第三者機関が賃上げの目安を示すことも必要です。
ただし、ベアは正社員だけが対象。非正規雇用が増えた現状では、ベアが必ずしも労働者全体の取り分を増やすことにはつながらない。今後は「賃金の総額を何パーセント上げるか」という基準の方が適切でしょう。
(聞き手・太田啓之)
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やまだひさし 63年生まれ。87年住友銀行入行。98年日本総研主任研究員。11年調査部長、チーフエコノミスト。専門はマクロ経済分析、経済政策、労働経済。
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●非正規との共闘が先だ 首都圏青年ユニオン事務局次長、神部紅さん
私たちのユニオンは1人でも入ることのできる労組です。パートやアルバイト、派遣といった非正規の人が6割以上を占めます。
会社規模の大小にかかわらず、労働基準法が定める最低限すら守られていない例が目につきます。残業代の未払いはひどく、1カ月の賃金を時給に換算すると100円や300円ということは珍しくありません。会社側との交渉をしようにも交通費さえ困る人や心身を壊してしまっている人もいます。
こうした人たちの声は、既存の企業内労組の「伝統行事」である春闘に反映されません。非正規のことまで考えるゆとりがないのか、そもそも非正規の人たちを想定していないのか。とにかく実態を知らないのです。でも、非正規のほうが正規の社員よりも多い職場もある時代です。少なくとも非正規はかなりの仕事を支えている。その非正規を相手にしない労組の意義って何でしょう。
企業内労組の組織率は下がり、弱体化しています。これからは非正規の人たちにも参加してもらわざるを得ないはず。規約で制限しているなら改正すればいい。働き方の形態はさまざまとなり、正規と非正規の境界はあいまいになっています。両者の枠を超えた組織化に真剣に向き合うべきときです。
春闘で、既存の労組が自分たち正社員の賃金や地位を守ることだけに固執すれば、長い目で見ると足元から突き崩されていくでしょう。正社員であれば安定している、というのはもう幻想です。私自身、正社員として入った会社で土日や深夜の出勤を強要され続けたことがあります。契約では月給30万〜40万円なのに「仕事ぶりを見てから」と、何カ月たっても月10万円しか払われなかった。
そのように、会社側は正社員の賃金を非正規に近づけていこうとするでしょう。さらには正社員をもっと減らし、非正規に置き換えていく。「君の代わりはいくらでもいる」と揺さぶるのは必然です。実際、優秀な非正規労働者はいますからね。
雇用の安定化、労働時間の短縮、そして賃金の底上げ。これらは正規も非正規も共通する要求です。非正規の賃金という「一番低いところ」を上げる取り組みをすることが、実は正社員の賃金を上げることにつながる。非正規の問題はひとごとではなく、正社員の問題と連続しています。春闘を前に、労組は非正規問題も本気で考えてほしいのです。
ごくわずかですけど、既存の労組のなかには非正規の問題に正面から取り組もうという意識を持つ人が現れ始めています。非正規の人たちと力を合わせるならば、労働組合の存在感は高まる。そのことに気づいてほしいと思います。
(聞き手・磯村健太郎)
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じんぶあかい 82年生まれ。工業高校卒業後、内装業やタイル工、デザイナーなどを転々とする。正社員と非正規社員のどちらも経験。昨年3月から現職。
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●組合いらぬ会社が理想 ソフトウエア販売会社会長、ビル・トッテンさん
春闘ですか? 私は来日して43年半になりますが、後半にあたるこの20年間は、春闘は世間で大きな話題になっていないような気がします。
私が日本で会社を立ち上げた1970年代から80年代にかけては、労使が激しくやりあって、春闘も注目の的でした。強かった組合は賃上げを勝ち取っていました。
しかし、経済が失速し「失われた20年」と言われている、この期間は逆です。組合は弱くなり、経営者の意見ばかりが通っているように思います。
日本は終身雇用制度を中心とした家族的な雇用形態を守るべきでした。それが、日本企業の強みだったからです。しかし、米国式の能力給や雇用の流動化を目指した。そのため労組は弱体化し、優秀な労働者が切り捨てられることが起きて、企業の元気もなくなったのです。
経営者がそこで働く人を本当に大切にしていたら、労働者は組合を作る必要はありません。理想論かもしれませんが、春闘なんてなくなるんです。
家族的経営を掲げている従業員830人ほどの私の会社では組合はありません。従業員に「組合作ったら」と言ったこともありますが、必要ないようです。実際、我が社は2000年代に入って大きな組織改革をしましたが、ボトムアップで意見が出て実行できました。
今、多くの経営者は株主の方ばかり見て、目先の利益ばかり追い求めています。そして、簡単に利益を出しやすい、給与カットかリストラに走る。国や社会に奉仕するという理念を持つ創業者が去り、サラリーマン社長ばかりになったから、昨今はなおさらこの傾向が強い。
しかも、これからもっと労働者には厳しい社会が来るかもしれません。安倍晋三首相はアベノミクスと言われる経済対策を掲げていますが、消費税増税でさらに景気が冷え込むでしょう。
日本全体の景気が落ち込めば、我が社の利益も減ってしまう。私の給料も減額する。また、中長期的に考えて、エネルギーを浪費し、ゴミを出す経済自体が続くとも思えません。
だから、私は自分を守るため、自給自足に近い生活ができるように動いています。窓の外の庭をみて下さい。かつてテニスコートだったところを手入れして、ネギ、ニンニク、大根などを植えています。蜂蜜も採取するし、昨年からは鶏を飼い始めました。かなりの食料をまかなえます。
我が社では06年から、家庭菜園用の農地を借りる社員に年間2万円を補助しています。全社員の1割ほどにあたる80人ほどが利用しています。彼らは本気ですし、私も「晴耕雨読」の生活を続けていきます。
(聞き手・高野真吾)
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41年米国生まれ。72年、日本でソフトウエア販売会社「アシスト」を設立。来月「課税による略奪が日本経済を殺した」を刊行予定。
<コラージュ・下村佳絵>
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