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2013年1月27日 植草一秀の『知られざる真実』
二つの社説を読み比べていただきたい。
ひとつのタイトルは
「尖閣問題を紛争のタネにするな」
次の書き出しで始まる。
「日本が尖閣諸島の魚釣島で進めいている開発調査に対し、中国外務省が公式に遺憾の意を表明するとともに、善処を求めてきた。
この遺憾表明は口頭で行われ「日本の“行為”は法的価値を持つとは認めない」と中国側の立場を明確にしながらも、厳しい抗議の姿勢ではなく、繰り返し大局的な配慮を要望したという。事をあら立てまいとする中国の姿勢がうかがわれるが、わが国としてもこの問題を日中の“紛争のタネ”に発展させないよう慎重な対処が必要だろう。」
さらに次のように続く。
「尖閣諸島の領有権問題は、一九七二年の国交正常化の時も、昨年夏の二中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。
つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が“存在”することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした“約束ごと”であることは間違いない。約束した以上は、これを順守するのが筋道である。
ケ小平首相は、日中条約の批准書交換のため来日した際にも、尖閣諸島は「後の世代の知恵にゆだねよう」と言った。
日本としても、領有権をあくまで主張しながら、時間をかけてじっくり中国の理解と承認を求めて行く姿勢が必要だと思う。」
もうひとつの社説を読んでいただきたい。
タイトルは
「習・山口会談 首脳対話に必要な中国の自制」
次の書き出しで始まる。
「途絶えている日中首脳会談が再開できる環境を整えるには、日中双方の外交努力が必要だ。」
そして、こう続く。
「中国は尖閣諸島の領有権問題での日本の譲歩を求めているのだろうが、それは認められない。むしろ中国にこそ自制を求めたい。
昨年9月に日本が尖閣諸島を国有化した後、中国政府による日本の領海侵入は恒常化し、領空への侵犯も起きている。
不測の事態を防ぎ、日中関係を改善するには、まず中国が威圧的な行動を控えるべきだ。」
「公明党は、1972年の日中国交正常化の際、議員外交で大きな役割を果たした。今回も、溝が広がった政府間の橋渡しをしようとする意図は理解できる。
尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。日本政府の立場を堅持することが肝要なのに、気がかりな点がある。
山口氏が訪中前、香港のテレビ局に対し「将来の知恵に任せることは一つの賢明な判断だ」と述べ、「棚上げ論」に言及したことだ。日中双方が自衛隊機や軍用機の尖閣諸島上空の飛行を自制することも提案した。
山口氏は習氏らとの会談では触れなかったが、看過できない発言だ。棚上げ論は、中国の長年の主張である。ところが、中国は1992年に尖閣諸島領有を明記した領海法を制定するなど一方的に現状を変更しようとしている。」
「先に訪中した鳩山元首相は、尖閣諸島を「係争地だ」と述べた。領有権問題の存在を認めたことなどから、中国の主要紙が大きく取り上げた。中国に利用されていることが分からないのだろうか。
国益を忘れた言動は百害あって一利なしである。」
二つの社説の主張のなかに、正反対の事実認識がある。
尖閣の領有権問題についての事実認識だ。
前者の社説では、次のように指摘している。
「尖閣諸島の領有権問題は、一九七二年の国交正常化の時も、昨年夏の二中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。
つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が“存在”することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした“約束ごと”であることは間違いない。約束した以上は、これを順守するのが筋道である。」
尖閣領有権問題は日本と中国がそれぞれに領有権を主張しているため、1972年の日中国交正常化時と、1978年の日中平和友好条約調印時に
「領有権問題の決着を先送りすること」で日中両政府が了解した。
共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした「約束ごと」であることが間違いないとしている。
「棚上げ合意」が間違いなく存在しているとの事実認識だ。
これに対して、後者の社説では、
「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。」
としている。
そのうえで、公明党の山口代表が「棚上げ論」に言及するとともに、日中双方が自衛隊機や軍用機の尖閣諸島上空の飛行を自制することを提案したことについて、「看過できない発言だ」としている。
さらに、鳩山由紀夫元首相が訪中して、尖閣諸島を「係争地だ」と述べ、領有権問題の存在を認めたことについて、
「国益を忘れた言動は百害あって一利なし」
と罵倒する主張を掲示した。
こちらの社説では、「尖閣領有権問題は存在しない、尖閣諸島は日本固有の領土である」との認識が示されている。
まったく正反対の事実認識を示す新聞社説だ。
どの新聞社とどの新聞社が全面対決しているのか興味深い。
正解を示しておこう。
前者は読売新聞社説であり、後者は読売新聞社説だ。
真冬の夜のミステリー。
前者は1979年5月31日付の読売新聞社説
後者は2013年1月26日付の読売新聞社説
である。読売新聞とはこのような新聞である。
こんな新聞を購読するのは「百害あって一利なし」だと言える。
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