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アルジェリアのガス石油採掘施設で起きた今回の「人質事件」で犠牲になられたすべての方々のご家族及びご親族に心からお悔やみを申し上げます。
日本人10名(国籍別で最多の可能性)を含む37名もの人質の犠牲者が出た結末に、予想はできたとは言えあまりに痛ましく、ご遺族の無念さや怒りを考えると、事件について言葉を紡ぐことにためらいを覚えた。(武装勢力の32名を加えると69名の死者)
■ 罪が問われるべきはフランス政府とアルジェリア政府そして“西側諸国”
最初に自分の立場をはっきりさせたほうがよいと思うので、そこから始めたい。
まず、詳細はのちほど述べるが、経済的権益の確保という本来の目的を「イスラム過激派」と「マリの統一確保」という修辞句で隠しながら、マリ北部に対する軍事侵攻に踏み切ったフランスやそれを支援したり支持したりしている“西側諸国”や中国の諸政府に強い憤りを表明する。
フランスのマリへの軍事介入を中止させるという名目で「人質事件」を起こしたイスラム武装勢力は、遺族や関係者から激しい怒りを浴びせられ、日本を含む多くの政府や市民からも強く非難されているし、今後も、ことあるごとにその脅威が語られることになるだろう。
私も、アルジェリア軍に殺害された戦士に哀悼の意を表明するが、結末が見えていた今回の「人質作戦」を敢行した武装勢力組織を強く非難する。
非難の対象は、「人質事件」を起こしたことそのものではなく、アルジェリア政府やフランス政府とりわけ当事国アルジェリア政府を相手になんらかの交渉ができると考え実行したことである。
フランスのマリへの軍事介入を中止させる戦術として、アルジェリアで「人質作戦」を敢行することの有効性は見い出せず、願望や夢想の域を超えないことは自明である。
それは、1992年の軍部クーデタ以降、正当性のないアルジェリア政府が、“西側諸国”の後押しもしくは黙認を受けながら苛烈なイスラム勢力掃討作戦を展開し続けた事実を思い起こせばわかることである。
今回の事件でイスラム過激派を非人道的で残虐無比のテロリストとして非難している米英仏など西側諸国の政府は、アルジェリアで1991年に実施された民主的選挙で圧倒的勝利を収めたイスラム救国戦線(FIS)を“イスラム原理主義者”として権力掌握の正当性を認めず、翌92年に起きた軍部のクーデタを支持ないし黙認し、10万人以上の犠牲者を出すことに至る長期のイスラム勢力掃討作戦(軍によるテロリズム)を陰で支えた。
このような経緯を知っていれば、“西側諸国”がイスラム武装勢力をテロリストと呼び非難できる立場ではないことがわかるはずだ。
日本の主要メディアも、今回の「人質事件」に関連してアルジェリアで90年代を通して続いた軍部とイスラム勢力の悲惨な戦いを取り上げてはいたが、イスラム勢力の過激さや残虐さそして北アフリカの危険性を想起させるものでしかなく、民主的な選挙で圧勝したイスラム勢力が軍部のクーデタによって権力から放逐されたことが内戦の発端という肝心な事実には口をつぐんでいた。
初の複数政党制に基づいた91年のアルジェリア総選挙を概略的に言えば、昨年のエジプト総選挙で大勝し大統領まで当選させたムスリム同胞団と同等レベルのイスラム系政治組織イスラム救国戦線(FIS)が大勝したというものである。
そのような政治的変化を今風に解説するなら、アルジェリア民族解放戦線(FLN)の一党独裁にNOを突きつけるなかで得た複数政党制選挙がもたらした“アラブの春”である。アルジェリアには、20年以上も前に“春”が訪れていたのである。
そのようなものであった政治的変化を、アルジェリア軍部といっしょになって潰したのが、米国をはじめとする“西側諸国”なのである。
言論の自由に関しても同じだが、“西側諸国”が普遍的正義とする「民主主義」でさえ、極めて政治的で恣意的な基準やスローガンでしかないのである。
マリについては、マリ暫定政権や周辺諸国の“意向”を前面に立てながら、アルカイダ系武装勢力の排除を“大義”として軍事介入に動いている仏米英だが、壮絶で陰惨な内戦状態に陥っているシリアでは、アサド政権に戦いを仕掛けている勢力であれば、自らがアルカイダ系と認める組織さえ支援するという自己矛盾を晒している。
フランス政府は、軍事介入を正当化する大義として「マリの統一」を掲げているが、90年代の旧ユーゴスラビアの紛争では、フランスを含むNATO加盟諸国は、コソボ・スロベニア・クロアチア・ボスニア−ヘルツェゴビナの武力闘争による分離独立を支持し、ユーゴスラビアの統一に背を向け解体を促進した“実績”がある。
より根源的に言えば、革命で共和制を樹立したフランス、清教徒革命など多くの革命を経験しながら現在がある英国、激しい戦争で英国からの独立を勝ち取った米国、共産主義革命で権力を掌握した中国といった各国の歴史的経緯を考えれば、政治的変化や独立を求めて武装闘争する勢力を非難するのは筋違いである。
今なお世界政治で主導権を握っている“西側諸国”は、「アルカイダ」・「イスラム過激派」・「イスラム原理主義」・「独裁政権」・「民主主義」などの概念を、口先だけでうまく使い分け、自分たちの目的を隠したり活動を正当化したりするための重宝な道具として利用しているのである。
イスラム圏で起きる戦争や武装闘争(西側でテロと呼ばれるもの)について語りにくいのは、対イラク戦争や「シリア内戦」さらには「カダフィ政権崩壊」についても言えることだが、西側のメデイアから流される情報があまりにも偏っており、裏の情報もひどく錯綜しているため、あれこれ必死に整理しても内実が見えにくく、ずっと後になってから“そういうことだったのか”と腑に落ちることが多いからである。
01年の「9・11→アフガニスタン侵攻」は言うまでもなく、03年に米英が仕掛けた対イラク戦争も、当時もそう説明したが、今でもブッシュ(米英)政権とフセイン政権の“合作”だったと考えている。
現在進行形の「シリア内戦」も、諸外国がそれぞれの勢力を支援することで継続されている“ムスリム同士の殺し合いキャンペーン”のように見える。
「リビアのカダフィ政権崩壊」も、CIAやMI6と協力したカダフィは今どこにいるの?と疑問を抱いてしまうものである。
このように歪んだ考え方をする私が今回の事件を見ると、実際に作戦を展開した武装勢力の戦士たちは“まっとうな大義”を胸に秘めていたとしても、組織の指導者(首謀者)の“真意”は別にあるのではないかという疑いが生じてくる。
パレスチナの反イスラエル闘争でも、地域のムスリムが置かれた現状から、声をかける人物がイスラエルなどの“代理人”であっても、「パレスチナの大義のために自爆闘争」をと持ちかけられると、そこに隠された意図を見抜くことなく身を犠牲にするヒトもいるはずだ。
そのような仕掛けは、日本政府が、尖閣諸島問題で中国政府の“非道”や“無理無体”を煽ることで、「日米同盟」強化に利用している政治的動きと似たものがある。
よりわかりやすい類似の事件は、「9・11同時多発テロ」を持ち出さずとも、事実経過が広く共通認識になっている、満州事変の発端となった柳条湖事件であろう。1931年9月、日本(関東軍)は、満州を中華民国から切り離し日本の勢力下にある国家とするため、自ら満鉄の線路を爆破し、その犯人を中国軍(張学良の軍)とすることで、満州全土を支配する契機とした。
翌1932年に勃発した第一次上海事変のきっかけの一つとなった中国人による日蓮宗僧侶襲撃事件(一人死亡)も、関東軍の謀略であったという証言がなされている。(極東軍事裁判での田中隆吉少将:但し傍証や他の証言はない)
NHKBS1で放送されているフランス「F2ニュース」によれば、フランス政府は、マリに軍事介入する判断をした時点から様々な情勢分析を行い、数ヶ月前から今回の施設を含む数カ所の施設がイスラム武装勢力の標的になる可能性が高いことを予測していたという。プラントメーカー日揮は他の数カ所の施設から従業員を退避させると決めたようだが、F2に出演していたアナリストも、他にも2、3箇所危ない施設があると語っていた。
(英国のアナリストも、同様の内容を日経新聞で語っている)
そうであるなら、フランス政府及びアルジェリア政府は、「マリ空爆」開始後すぐに、危険と判断した施設に対する偵察活動や警戒行動を強化することができたはずである。
そして、そのような手立てを講じていれば、今回の人質事件は、防げたとまでは言わないが、ずっと少ない犠牲で済んだ可能性が高いのである。
今回の施設は広大な砂漠の真ん中にあるから、無人機などでの偵察活動を怠らなければ、そこにアクセスしようとする“不審な車両”は数十Km離れた場所で捕捉することができる。むろん、攻撃能力を備えた無人機もあるから、見つけた時点で“殲滅”することだって可能である。
現時点では“西側”が意図的に「人質事件」を起こさせたとは言えないが、武装勢力の武器が米英仏の“管理下”にあるリビアから持ち出されたものであることなども考え合わせると、今回の事件のようなことが起きてもかまわない(起きたら政治的に利用する)という思いがあったのではないかという疑いを捨て切れない。
(武器の出所に関する情報はロシアRTRニュースによるもので、リビアの暫定政権は、リビア南部にアルカイダはいないと抗弁していた。米国オバマ政権(クリントン国務長官)は、今回の武装勢力が昨年9月にベンガジで起きた駐リビア米国大使の死亡事件に関与していた可能性があるいう情報を流している。このような情報は、事実はともかく、米国民の“反テロ”や“反イスラム”の意識を高める役割は果たすであろう)
NHKはアルジェリア軍の軍事行動を「人質救出作戦」と呼んでいたが、アルジェリア軍の軍事行動は、口先だけの“救出目的”としか言えないもので、「武装勢力殲滅作戦」と表現したほうが的確である。人質になった方のご家族を慮っても、「制圧作戦」と呼ぶべきものである。
武装勢力が人質を連れ出そうとしたときにアルジェリア軍の攻撃が始まったと見られるが、そのまま逃がしていれば、37名もの犠牲者を出す事態には至らなかった可能性がある。
サハラ砂漠周辺地域では、当該武装勢力によるものを含め、外国人の誘拐事件が数多く起きている。年単位で拘束が続いている例もあるが、“身代金”と引き換えに解放された例も多い。
今回の事件で亡くなられた方々のご家族や日本政府・日揮も、最終的な結末はどうなるかわからないとしても、アルジェリア政府には、一日でも長く「解放の希望がつながる道」を選択して欲しいと願ったはずである。
しかし、アルジェリア政府は、目の前にことを起こしたイスラム武装勢力がいるのなら、逃がすような悠長な選択は行わず、その場で殲滅するという“原則”を貫いた。
どれだけかはわからないが、アルジェリア軍の爆撃や銃弾で死んでいった人質が相当数いたはずである。逃走時点で車両に同乗させられていた人質は、そのようなかたちで殺されたと推測できる。
えぐい言い方をすれば、アルジェリア政府は、たとえ外国人であっても、ことを起こした武装勢力とともに居るのなら死んでしまってもやむを得ないと判断したのである。
そして、米英仏の三国の軍(政府)は、そのような殺戮の状況を無人偵察機のカメラを通じてリアルタイムで見ていた。
当事国とも言える英国(施設を保有するBPの国籍)や武装勢力の標的であるフランス政府が、アルジェリア政府とどのような協議をしたのかは見えてこないが、フランスのオランド大統領が、アルジェリア政府の措置は適切なものであったと語っていることを考えれば、「マリへの軍事介入の中止」を要求する人質事件が長引くことを嫌ったと推測しても誤りではないと思っている。
日本では犠牲となった方々に関する報道が続いているが、アルジェリア政府の犠牲者数公表記者会見を最後に、「人質事件」は、NHKBS1で放送されている諸外国のニュースからはばったり消えてしまった。
安倍首相は、保守主義を標榜し、国民の生命と財産を守ることが第一の使命と語ってきた。そうであるなら、英国・フランス・アルジェリアの各政府に対し、イスラム武装勢力の標的になることが予測されていた施設があっさり武装勢力の手に落ちた“失態”を強く問いたださなければならない。
■ 日本政府の対応について
今回の「人質事件」については、日本政府が異なる対応をしていれば違う結果になっていたというようなことはないと思っている。
今回の結末を受け、自衛隊の海外での邦人救出活動を可能にする法律改正が取り沙汰されているが、足場も展開力もある英米仏政府でさえ対応できなかった今回の事件については、それが有効な手立てになったとは思われない。
逆に、上述したようなことを考えると、自衛隊を出動できる条件をつくれば、それを利用して、日本を対イスラム“戦争”に引きずり込もうとする“陰謀”が起きる可能性さえある。
結果は同じであったとしても、今回の事件に関する日本政府の対応で問題視したいのは次の三点である。
● 「日米同盟」が肝心なときにまったく機能しなかったこと。
● 政府が情報統制をできていなかったこと。
● 外務省のアルジェリアに関する渡航情報さえ、しばらく(5日間ほど)旧来のまま放置されていたこと。
今回の事件で日本政府ができることは、自衛隊が動ける法的条件にあったとしても、情報収集に限られていたと思う。
しかし、主要メディアの報道内容から推し量ると、政府は、肝心な情報についてさえ、メディアが得るもの+アルファといったレベルしか入手できていなかったようである。
現在わかっている人質の犠牲者総数は、アルジェリア軍が攻撃を仕掛けた翌日の18日に、アルジャジーラやモーリタニア通信が報じた数とそれほど違っていない。
日本政府は、事件の大きな推移に関する情報さえ入手が困難だったようだが、リビアや欧州南部に軍事拠点を持つ米英仏は、人質事件が起きてほどなく無人機を飛ばし、状況の変化が把握できる態勢を作った。それにより、アルジェリア軍が逃亡を図って動き始めた武装勢力に攻撃を仕掛けた状況も、リアルタイムで確認していた。
施設の内部は見えないとしても、無人機のカメラを通じてアルジェリア軍が施設に入る様子や施設の外における人質や武装勢力の動きはずっと把握し続け、どれほどの犠牲者が出たのかまでは詳細に把握できないとしても、何がどうなっているか皆目わからない状況にはなかったのである。
そのような事実は、米国のニュースメディアや英国BBCさらにはフランスF2のニュースを見ていればわかることである。無人機を通じて得られた情報がリークされていることがすぐにわかるし、情報源がそうであることさえ説明していた。
哀しいことだが、日本政府は、今回の「人質事件」において、米国という同盟国や共通の価値観を有する友好国と考える諸国から“情報疎外” を受けていた(蚊帳の外に置かれていた)のである。
安倍首相は、政権奪取が確実視されていた総選挙の前から、「日米同盟」の重要性を訴え、憲法解釈もしくは憲法改正による「集団的自衛権」の容認さえ主張してきた。
私は、それを、「米国の世界戦略に組み込まれたかたちで日本が軍事力を行使できるようにしようというもの」であり、米国艦船に対する攻撃云々という安倍氏の説明を「「攻守同盟」と区別がないものであり、日本を米国の国策に委ねる愚かで危険極まりない考え」と批判している。
(※ 参照投稿:「集団的自衛権、行使を再検討:安倍政権、法整備は参院選後に:「防衛同盟」と「攻守同盟」の区別もない危険で愚かな国策 」(http://www.asyura2.com/12/senkyo142/msg/268.html))
「日米同盟」の強化が日本の国益のために必要だと考えている安倍首相は、同盟国である米国から、今回の事件に関する基本情報さえ得られなかった事態をきちんと釈明しなければならない。
鈴木宗男氏は、ブログ「ムネオの日記」で、「今回、菅官房長官の冷静な会見ぶりが光った。今迄こうした件では情報が錯綜し混乱したことが多々あったが、菅長官は予断を与えたり、又、余計なことは一切言わず、政府の立場を懸命に述べられていた。 」と評価しているが、買い被りだと言いたい。
菅官房長官は、アルジェリア軍が殲滅作戦を開始した情報を、「駐アルジェリア英国大使から駐アルジェリア次席公使への連絡」で知ったと発表した。施設が英国資本のBPのものだとしても、あまりに歪んだ情報入手経路だと言わざるを得ない。と同時に、そのような情報入手経路を詳細に公表する必要があるのかという疑義も呈したい。
菅官房長官は、情報入手が困難な理由として「土地勘がないから」と説明し、施設にアクセスできない理由として「地雷が敷設されている可能性もある」と説明した。
しかし、ジャングルのなかの秘密施設ではなく、公開された施設で多くの日本人も働いている場所に関して、「土地勘がない」から情報が入手できないというのは奇妙な言い訳でしかない。
また、「地雷が敷設されている可能性がある」と説明した10時間くらい後に、城内外務政務官が現地に入って確認作業を行った。菅官房長官の当該発言の前に、人質から解放された700名ほどのヒトが施設から離れ、英国などは救援機も派遣していることを考えれば、地雷が敷設されているから現地にアクセスできないという話は、情報の入手が思うようにできないことの言い訳でしかないと断ずる。
日本政府の情報管理で何より驚いた出来事は、安倍首相がジャカルタにおけるユドヨノ大統領との共同記者会見の場で行った“失言”である。
ジャカルタでの共同記者会見は、18日(金)午後6時(日本時間:現地午後4時)過ぎに行われたが、日本国内も世界も人質の安否が不明と大騒ぎしている最中に、安倍首相は、堂々と「多数の犠牲者が出た」と語った。
アルジャジーラなどからはそのような情報が漏れ出しており、正しい情報であったことは今となれば確認されているが、国内における日本政府や諸外国政府の当時の立場は、あくまでも、「人質の安否は不明」というものだったのである。
NHKのニュース(23日午後9時)によると、日本政府が外交ルートを通じて「日本人犠牲者が5名」という情報を得たのは19日になってからという。安倍首相は、未確認の情報を元に、公の場で「多数の犠牲者が出た」と表明してしまったのである。
むろん、その責は、安倍首相が直接的に負うものではない。情報を腑分けしたり原稿を用意したりした人物の責任である。誰よりも、国内に残っている政府関係者とのあいだで情報を確認していた人物の責任である。
今回の安倍首相の東南アジア歴訪では、官房副長官に就任した世耕弘成参議院議員の“存在”が目立っていた。
安倍首相のバンコクでのぶら下がり記者会見では、安倍氏のすぐ後ろで“ささやき”を続ける世耕官房副長官のほほえましい姿が映し出されていた。
いっこく堂ではないから、映像でわからないように“ささやき”をすべきとは言わないが、記者への説明をウィスパリングに頼っている安倍首相のみっともない姿をさらしたことは間違いない。
小泉政権時代も自民党の広報マンとして活躍し「自民党のゲッペルス」とも言われた世耕氏が、ジャカルタでの「多数の犠牲者」失言の直接的責任者かどうかはわからないが、安倍首相を尊敬し、「自民党の“参謀”」と呼ばれていることを誇りに思っている世耕官房副長官なら、安倍首相が世界に向かって恥ずかしい言動をしないで済むよう、国内にいる政府関係者と密に連絡をとりつつチェックに励まなければならないはずだ。
仮に、民主党の首相が安倍氏と同じような“失言”を行っていたら、主要メディアは、鬼の首でも取ったかのように、「日本の首相として世界に恥をさらした」とか、「安全保障のイロハも知らない」とか、「インテリジェンスのセンスに欠ける」などあれこれ非難したのではないかと想像する。
NHKは、18日午後9時のニュースでは「多数の犠牲者が出た」というジャカルタでの安倍発言を記者会見の映像付きでそのまま流したが、午後10時からのワールドWAVEでは、その部分をカットした映像を流すという配慮を講じた。
鳩山元首相や菅元首相がその典型だが、民主党政権の首相は、後ろから鉄砲を撃たれるかのような主要メディアの言動で追い詰められ、自民党の安倍首相は、主要メディアが必死にかばい提灯持ちに支えられるというえげつない構図がはっきりしてきたと思っている。
■ マリ内戦介入と今後の世界:植民地支配や独立戦争についてきちんと謝罪ができないフランス
フランスのオランド大統領は、つい1ヶ月ほど前、アルジェリア独立戦争終結50周年にあたる12月19日にアルジェリアを訪問した。
フランスのメディアや国民は、アルジェリアを訪れたオランド大統領が植民地支配や独立戦争についてどのようなことを表明するのか注目した。
サルコジ前大統領は、すでに、「植民地化は極めて不当なシステムだった」と表明していた。
個人的な感想で恐縮だが、日本を超えて「歴史認識」に問題がある国は、フランスだと思っている。
第二次世界大戦の“敗戦国”でありながら戦勝国ヅラをしている(安全保障理事会の常任理事国でもある)ことはさておき、戦後も、ベトナム(インドシナ)やアルジェリアで、独立を抑え込むため陰険な策動や激しい軍事行動をとったフランスは、政治的に恥知らずの国だと思うからである。
核兵器保有国フランスは、大気圏での核実験も、タヒチとして知られるフレンチポリネシア海域や植民地であったアルジェリアのサハラ砂漠で行った。
さらに、フランスは、凄惨を極めた最悪の“民族浄化”とまで言われた90年代前半のルワンダ内戦(フツとツチ)でも、ラジオ放送を利用した虐殺扇動や軍事介入を行った。
サルコジ大統領は、10年にルワンダを訪問し、虐殺についてフランスに責任の一端があることを認めている。(この問題は、NHKBS1も、海外制作のドキュメンタリー番組で放送している)
昨年末のアルジェリア訪問の話題を戻す。
まず、オランド氏は、フランス大統領として初めて、フランス人でアルジェリアの独立闘争に身を投じた共産主義者モーリス・オダン氏の記念プレートを訪れた。
オランド大統領は、その翌日、アルジェリア議会で、「アルジェリアは、132年間、極めて不当かつ粗暴なシステムに服従させられていました。私は、ここに植民地化がアルジェリア国民に与えた苦しみを認めます。これまで、歴代大統領は、誰一人として、公に、「セティフの虐殺」や拷問について触れてきませんでした。私たちは、暴力・不正・虐殺・拷問について、真実を認めなければならない義務を負っています」と表明した。
アルジェリアの国会議員のなかには謝罪があればなお良かったと考える人やアルジェリア国民にはフランス人に重大な罪を認め謝罪するよう求める権利があるとする人もいたそうだが、植民地化という悪行を事実上認めたオランド大統領の演説を大きな一歩として評価する人が多かったという。
(今にして思えば、昨年暮れのアルジェでのオランド発言は、1ヶ月足らずのうちに敢行されたマリ北部空爆のために、アルジェリアの領空を通過する許可を得やすくするための地ならしであった可能性も指摘できる)
フランスは、戦後1960年まで、アフリカに広大な植民地を抱えていた。大まかに言えば、英国とフランスが広大なアフリカを分割支配していた。
英国が縦断、フランスが横断という構図で、広大な西アフリカ及びその北の北アフリカ地域は、フランスの植民地ないし保護国として統治されていた。
赤道アフリカ地域などは除くが、現在の国名で列挙すると、
[北アフリカ]アルジェリア・ チュニジア ・モロッコ
[西アフリカ]マリ・モーリタニア・セネガル・ギニア・コートジボワール・ニジェール・ブルキナファソ・ダオメ
と、とてつもなく広い領域を支配していたのである。
現在進行中の「マリ内戦」への軍事介入は、このような「歴史的経緯」と「現在の経済権益」を抜きに考えたり評価したりすることはできない。
現在のアフリカ諸国の国境線そのものが、ヨーロッパの帝国主義諸国家の協議や思惑で引かれたものである。
だからこそ、アルジェリア南部・モータリア北東部・ニジェール北部・リビア南西部を生活の基盤とするトゥアレグ人(今回の「人質事件」を起こした武装勢力もそうだとされている)は、各国で分離独立闘争を行ってきたのである。
トゥアレグ人は、アラブ系と黒人系の混血で、人種的にはムーア人と呼ばれる人たちのようである。
「マリ内戦」に対する軍事介入の目的や今後の世界についてより詳細な説明を書こうと思っているが、それは、戦争板か国際板に場所を変えて行いたい。
多くの日本人にとってのマリは、国土の多くが砂漠に覆われ、さしたる産業もない最貧国というイメージかもしれない。
しかし、“西側諸国”支配層にとってのマリは、価値が高い鉱物資源や戦略資源に恵まれた「カネの成る木」である。かつて黄金で光り輝くマリ王国と言われたが、今でも、マリの産金量は世界10位である。
フランスの軍事介入の目的を単純化して言えば、フランスの原発政策がニジェールやアルジェリアさらにはマリの膨大なウラン資源に依存していること、トゥアレグ人が分離独立をめざしている地域にも多種多様の鉱物資源が豊富に埋蔵されており、その利権を好条件で得られる法律が世界銀行などの“助言”に基づき施行されていること、マリではニジェール川流域の豊饒な農耕地が欧米資本に“切り売り”される政策がすでに行われていることなど、数多くの権益をなんとしても維持することにある。
(NHKBS1は、今年元旦に放送した「収穫は誰のものか」というドキュメンタリー番組で、マリの農耕最適地が農民から接収されて、欧米資本に貸し出されている問題を取り上げていた。その番組の制作にはNHKも参加している。しかし、「マリ内戦」へのフランスの軍事介入が開始されても、その問題には口をつぐんでいる。「アルジェリア南部のトゥアレグ人居住地域にあるウラン鉱山で採掘されたウランの一部が日本にも輸出されているとされている)
第二次世界大戦後、帝国主義を謳歌した欧州諸国は、激しい独立闘争もあったが、膨大な経費と人的資源でようやく維持できる植民地支配の“不合理性”を認識し、経済的にも人的にも“効率性”が高い「間接支配」に移行した。
対イラク戦争から「マリ内戦」軍事介入までを見ていると、今後は、その方向性がさらに強まっていくと予想できる。
“西側諸国”は、21世紀に入るやアフガニスタンそしてイラクへと立て続けに軍事行動を展開したが、それは、今後の“間接支配方式”への地ならしだと思っている。
イラクやアフガニスタンでは、それらの国に民族的宗派的分断を作りだし、その対立をうまく利用しながら、“西側”の意向を踏まえて統治を行う政治勢力を育成している。
最終的に“間接支配方式”を支えるのもカネである。
簡単な計算ですぐにわかることだが、“西側諸国”が自国の兵力を派遣するコストや自国の若者を死に追いやることで生じる政治的リスクなどを考えれば、それらのためにかかる費用の何分の一かの「援助金」を渡すことで当事国にやってもらうほうが“得”であると判断するのは“利”に叶っている。
目的が権益の確保であれば、そのカネが、自分たちの意に沿う支配層の懐に入って(いわゆる汚職)も、結果的に目的が実現できるのなら無問題と思っているだろう。
「マリ内戦」への軍事介入では、当初から、旧フランス植民地諸国を中心とした西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)から兵士を派遣するかたちにしていた。
おそらく、兵を派遣した国々には、フランスをはじめとした“西側諸国”から「援助金」が支払われることになるだろう。
フランスが周辺国の派兵が間に合わない1月11日に急遽軍事介入に踏み切ったのは、反政府武装勢力の勢いが増し、中部の都市まで陥落させ、首都バマコまでが危ないという情勢になったからである。そのため、フランス軍は2500名規模の地上軍をマリに派兵することになった。そのような計画や覚悟はあっただろうが、誤算であったことは確かだ。
「マリ内戦」への周辺国の派兵が実効的に機能するかどうかわからないが、イスラム主義者など“まつろわぬ”勢力への今後の対応は、自国兵士にほとんど害が及ばない爆撃は先進国で、危険な地上戦は当事国及び周辺国の兵士でという図式になると考えている。
「マリ内戦」への軍事介入が、そのような図式が成功するかどうかの壮大な実験例になることは間違いない。
(日本では、マリへの軍事介入がUN安保理決議で認められたように報じられているが、マリ政府や西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)加盟国がフランスの働きかけで安保理に国際部隊による軍事介入の承認を求めたことに対し、国連事務総長の計画提出を受けたのちに安保理が討議し、必要と判断すれば国際部隊派遣決議をあらためて採択するというのが決議の内容である)
今朝NHKBS1で放送されたBBCニュースは、マリ北部奪還作戦が一筋縄ではいかないもので、長期にわたって血なまぐさい戦いになると予想していた。さらに、フランス軍の空爆後に地域を奪還したマリ政府軍が、報復的行動として住民虐殺に手を染めているとも報じていた。
マリ政府軍は黒人で構成されており、アラブ系と黒人系の混血で外見的に区別できるトゥアレグ系は、容易に報復対象になるとも解説し、政府軍がトンブクトゥを奪還すれば多数の一般住民が犠牲になるとも語っていた。
1月からNHKBSプレミアムで、「火怨・北の英雄 アテルイ伝」というドラマが放送されている。奈良政権や平安政権が“まつろわぬ”東北地方の人々を支配下に置くために駆使した戦術の一端がわかる番組でもある。
それは、オランド大統領がいみじくもかたったように「暴力・不正・虐殺・拷問」であり、分断を作りだしそれを利用することで、自分たちの犠牲はできるだけ少なくしながら目的を実現するというものである。
(余計なお世話だが、けっこうえぐいまでにヤマトの横暴さが描き出されている「アテルイ」のドラマが地上波で放送されたら(3月に予定)、論議を呼んだり、NHK批判がなされたりするのでないかと危惧している)
“西側諸国”は、帝国主義植民地主義時代とは形ややり口は変えながらも、21世紀になってなお、帝国主義政策で経済的利益を追い続けているのである。
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