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2013年01月24日 世相を斬る あいば達也
安倍首相は28日の通常国会冒頭に行う所信表明演説の原稿を前に、高揚感に満ちているのだろう。特にアベノミクスの三本柱が好感して、円安株高が演じられていると云う錯覚に陥ったのも肯ける。現実に相場が、そのように動いたのだから、錯誤の中で悦にいっても咎めることは難しい。しかし、既に足元から砂上の楼閣が崩れ出している事に気づかないようだ。否、気づいても、今さら逆戻りする選択など残されていないのだから、シナリオ通り前に進むしかない。産業競争力会議等と云う、既存の産業界の面々と関係閣僚を集めた会議で「産業競争力、世界一を目指したい」などと笑わせる気炎を吐いている。
所信表明の中身は、日本の経済、震災復興、外交安全保障、教育の4分野が危機的状況にあるので、その危機を突破し、誇りと自信を取りもどうそうと云うもののようだ。富を生み出さない限り、再配分機能はマヒするわけで、社会保障の現状維持も難しい。だから、金融を青天井で緩和し、その政策を後押しする為に、公共事業と云う財政出動を行う。そして、その為には規制改革と云う成長戦略を応援としてつける。つまり、三本の矢作戦である。しかし、成長戦略のビジョンは殆ど手つかずで、言葉だけが躍っているのが現実だ。円安で輸出企業の業績を伸ばし、富を得て、社会保障財源を確保するのだと言うが、GDPに占める輸出製造業の割合は13%に過ぎず、既に日本は輸出大国ではない事実から目を背けている。
GDP13%の輸出企業の多くが電機メーカーを中心に多大な赤字を計上しているのだから、仮に彼等を手助けして、企業業績が一期において好転しても、累積赤字の繰り延べで、税は免除されるわけだから、速攻で税収が伸びる事もない。グローバル経済の輪に参加している日本の輸出製造の企業は、無国籍企業化しているわけで、株主利益の還元が第一義であり、第二も第三もないのが現実だ。つまり、最終的に労働者の賃金が上がると云うリフレ派の言説はまったくの嘘である。おそらく、賃金の減少は今後も続くとみるのが妥当だ。また、どう考えても、少子高齢化においては、国内市場に希望を見出すのは困難であり、どれ程製造業の空洞化対策を打とうと、世界の流れに対しては無力である。
タイやチェコ、韓国や中国やロシアといったGDPの30〜60%を輸出に頼っている国を輸出立国と呼ぶわけで、日本は随分前に輸出立国ではなくなっているのだから、明らかにポイントの産業を間違えている。再び、近隣諸国と摩擦を起こす貿易戦争をしようと云うのだから呆れる。まして、米国オバマも輸出製造業の復活を政策の柱にしているのだから、見事にバッティングする。TPPに参加しないと世界の孤児になると強欲経団連会長は言っていたが、輸出製造業を強くしようと、円安誘導をすればするほど、世界の仲間外れになる危険は増大する。円安では、最初に一般庶民は大打撃を受けるのは確実。生活必需品である、食糧や電気料金、ガソリン灯油と 値上げラッシュが襲い、国民が最初に悲鳴をあげるだろう。
既に、韓国、中国、ドイツなどから“身勝手な国ニッポン”と云う論調が目立ってきている。マクロ経済の理屈から話せば、欧米韓国等々は、既に大胆な金融緩和を行い、自国通貨をジャブジャブにしていたのだから、漸く日本も追いついただけと云う理屈はある。しかし、通貨問題は、その経過よりも、その時点における“輪切り評価”で論じられるので、輸出でバッティングすることが多い、製造業救済の政策は、僅かな賞賛と多大な批判を浴びることになるだろう。当然、外交安保に於いても、その批判が足を引っ張り、思うに任せなくなる公算が大である。
それでいて、舌の根も乾かぬ段階で、中長期のプライマリーバランスの黒字化を目指すと言うのだから、図々しいと云うか、そんな手品のような事が出来る筈もない。借金返済に困った人間の実しやかな方便に過ぎないことは、並の知能で考えればわかることである。外交安保で、緊密な日米同盟関係の復活を世界に示すと言っている。安倍内閣の経済政策でバッティングするオバマを納得させるだけの材料に、何を提示するつもりなのだろう。生半可な手土産程度で済む話とは思えない。
政府と日銀による「共同声明」も、安倍首相はマクロ経済政策のレジームチェンジだ、と自画自賛しているが、どうもこの「共同声明」は虐められっ子風貌の白川総裁の粘り腰が勝ったようで、2%の物価目標を定め、上限、期限なき国債買い入れと云う触れこみの割には、新たな金融緩和は2014年からで、その買い入れ基金の枠も10兆増と云うチンケな「共同声明」に終わった。筆者からみると、何も変わっていない大胆金融緩和だ。現に、24日の株式市場は失望売りが加速しているし、円相場も円高傾向に触れている。まるで、駄馬の先走りを見させられている感じだ。誰の口車に乗ったのか判らんが、日本を閉塞から、絶望に導いた総理になってしまいそうな按配だ。
経済財政諮問会議で、日銀が物価上昇の目標を定めたことを踏まえ、今後も四半期ごとに、金融政策と物価の推移を点検するらしいが、その日銀総裁の査問に出てくる人物が白川でない可能性がある。順調に行けば武藤敏郎元財務事務次官かもしれないが、いずれにせよお役御免でどうでも良いことになる。だからと云って、進捗状況が悪いからと云って、日銀を責めると云うよりは、政府の成長戦略が後手後手に回るのは必定なので、責は政府側に向けられる可能性の方が高いだろう。まさか幾らなんでも、株価維持の為に民間企業の株式購入やCP購入を言い出すわけには行かないと云うものだ。
中国やロシアとの関係改善を実行する、絶好のポジションで現れた安倍晋三内閣だったのだが、どうも状況判断を誤らせるアドバイス勢力が優位だったのだろう。なんとも悲劇な運命を背負った政治家である。野田佳彦の失政を高らかに宣するのであれば、消費増税の3党合意を白紙に戻し、あらためて国家の財政をきめ細かに検証した上で、是非を考える。そう言うだけで、安倍の評価は上がっただろう。日米同盟にヒビが入ったと言っているのは、隷米派の連中やジャパンハンドラーズと呼ばれる利権集団に過ぎない。こんな都合の良い属国を、みすみす米国が手放すはずもない。中国外交で、緊張感の緩和。ロシアとの平和条約に向けての動きの加速など、米国を多少イラつかせる戦略を選択する事も可能だった。どうも、悲劇的運命は、自ら引き込んでいる面もあり、日ごろの右派的言動に手足を縛られる自縄自縛のジレンマに陥っているようである。どうも、どこかで勘違いを犯したとしか思えない。好人物なだけに残念である。
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