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<松橋事件>「父はやっていない」長男訴え30年 声届いた
毎日新聞 7月1日(金)12時44分配信
「父はやっていない」−−。熊本県宇城(うき)市(旧松橋=まつばせ=町)で1985年に男性(当時59歳)が刺殺された「松橋事件」で、殺人罪などで懲役13年が確定して服役した宮田浩喜(こうき)さん(83)の再審開始を認めた30日の熊本地裁決定。父親の無実を信じ続け、裁判のやり直しを求めてきた長男貴浩(たかひろ)さん(60)=熊本市西区=の思いがようやく実を結んだ。【柿崎誠】
「警察は映画のシナリオのように父を犯人に仕立てたとしか思えない」。貴浩さんは事件当時28歳。「親族の悪口を言われたのが動機というが、そんなことで自宅に小刀を取りに戻って殺害するだろうか」。任意の事情聴取に否認していた父親の突然の逮捕に納得できず、30年以上にわたり警察への憤りを胸に日々を過ごしてきた。
法廷で無実を訴えた宮田さんは99年に出所したが、その後はあまり事件について語らなくなった。弁護士らの支援を受けて2012年に再審請求したが、その時には既に認知症の症状が出ていた。現在は熊本市の介護施設で暮らし、「必ず無罪を勝ち取れるから」と励ますと黙ってうなずいてくれる。事件や服役していたことは忘れた様子で「自分はプロ野球選手だ」と話すこともあるという。
貴浩さんは今年1月、支援者や報道関係者らと事件現場から当時の自宅までの道のりを1時間かけて歩いた。犯行時に使った軍手を「捨てた」と自白したとされる大野川の川岸に差しかかると自然に足が止まった。「捜索してそれらしい軍手が見つからないと、今度は『燃やした』と供述が変わるなど明らかにおかしい」と捜査への不信感をにじませた。そして「捜査に当たった警察、検察の関係者も父と同じ期間を刑務所で過ごしてほしい。そうでなければ冤罪(えんざい)はなくならない」と憤った。
再審開始決定については「もし出ればいち早く父に報告したい。丁寧に説明すればきっと喜んでくれるはず」と話していた。しかし、その後、体調を崩して入院したため、この日の決定を地裁で受け取ることはできなかった。
◇速やかに開始を 県弁護士会・吉田賢一会長
松橋事件の再審開始決定を受け、県弁護士会の吉田賢一会長は30日、声明を発表した。声明では元被告の宮田浩喜さん(83)が高齢であることから「生きているうちに冤罪(えんざい)を明らかにし、救済をなすことが急務」と指摘。検察側には即時抗告せずに速やかな再審開始を求めた。【蓬田正志】
◇九州再審弁護団連絡会も声明
九州で起きた7事件の再審開始を目指す弁護団でつくる「九州再審弁護団連絡会」(世話人・八尋光秀弁護士)は30日、「松橋事件」の再審開始決定を受けて、検察に即時抗告の断念などを求める声明を発表した。
声明は、自白の信用性を否定する一方、任意性を支持した裁判所の決定内容については「いわれなき殺人の罪をかぶせられて任意に自白しないと考えるのが社会常識」と指摘。「特別な事情を証明する証拠が無い虚偽自白には安易に任意性を認定すべきでない」とした。【柿崎誠】
最終更新:7月1日(金)16時9分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160701-00000052-mai-soci
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松橋事件
再審決定、宮田さん感涙 「懲役13年」服役 31年前の殺人 熊本地裁
毎日新聞2016年7月1日 東京朝刊
熊本県宇城(うき)市(旧松橋(まつばせ)町)で1985年に男性(当時59歳)が刺殺された「松橋事件」で、熊本地裁(溝国禎久裁判長)は30日、殺人などの罪で懲役13年が確定して服役した宮田浩喜(こうき)さん(83)の請求を認め、再審を開始する決定をした。熊本地検は上級庁と協議し、福岡高裁に即時抗告するかどうか検討する。即時抗告されれば、再審の可否は福岡高裁で再び審理される。【柿崎誠、野呂賢治】
再審開始決定を受け、弁護団が熊本市内で開いた記者会見には、車椅子に乗った宮田さんが晴れやかな表情で姿を見せた。弁護士が決定について説明すると、涙を浮かべてうなずく仕草を見せた。弁護団共同代表の斉藤誠弁護士は「感無量だ。大変すばらしい決定と評価している」と述べた。
宮田さんは捜査段階で自白し、1審途中から否認に転じて無実を訴えたが、公判では認められなかった。確定判決では宮田さんと犯行を結びつける証拠は自白以外になく、再審請求審では自白の信用性が主な争点となった。弁護側は傷が凶器の形状と一致しないことなど自白と矛盾するとする証拠を提出。検察側は「再審開始の要件である新規性も明白性もない」として請求棄却を求めていた。
被害者の傷と凶器とされた小刀の形状が一致しない点について、溝国裁判長は「新証拠である鑑定書などから、被害者の傷の一部は凶器として提出された小刀ではできない合理的な疑いがある」と指摘。さらに宮田さんが「小刀に血液がつかないように巻き付け、犯行後に燃やした」と自白した「布切れ」については「弁護人が提出した新証拠である布切れにより、布切れが燃やされておらず、血液も付着していないことが判明した」と述べた。その上で「凶器にも血痕が付着していないのは不自然で、小刀が凶器ではない疑いが強まった」と結論づけた。
宮田さんの供述の変遷については「取調官から客観的事実との矛盾を追及され、取調官に迎合して作り話をした疑いがある」と指摘。「自白の重要部分に客観的事実との矛盾が存在する疑いが生じており、自白のみで確定判決の有罪認定を維持することはできなくなった」と述べた。
弁護団、自白偏重を批判
弁護団は熊本市内で開いた記者会見で「決定は画期的」などと評価し、同席した宮田さんはほほ笑んで涙を浮かべた。
「宮田さん、再審が認められました。あなたの無罪に向けてこれから裁判が始まります。分かりますか」。熊本市内の介護施設に入所している認知症の宮田さんが車椅子に乗って記者会見の会場に姿を見せると、弁護団共同代表の斉藤誠弁護士が決定内容を伝えた。宮田さんは時に涙を浮かべながら、約40分にわたって無言のまま記者会見を聞いていた。その後、支援者から花束を受け取り、笑顔のまま退席した。
斉藤弁護士によると、判決が確定した3年後の93年、岡山刑務所で服役する宮田さんと面会したのが今回の出発点。「再審請求の準備を始めます」と切り出すと、「やってくれるんですか」と語った宮田さんの笑顔が印象強く、今も記憶に残っているという。
決め手となった新証拠の一つが凶器に巻いたとされるシャツの一部が出てきたこと。確定判決では「燃やした」とされたが、検察が保管していたことが証拠開示で明らかになった。斉藤弁護士は「自白だけを求め、客観証拠は調べず、公判にも出さない。そうした姿勢が問われている」と指摘した。【野呂賢治】
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■解説
「決定的新証拠」なくとも道
熊本地裁の決定の特徴は、弁護側が積み重ねた123点もの「新証拠」を総合的に判断し、確定判決の唯一の支えだった自白の信用性を覆した点だ。犯人性を明確に否定する新証拠がなくても、既存の証拠との関連を調べて再審開始につなげる近年の流れの延長にある決定といえそうだ。
再審開始に必要な新証拠は、新たに見つかった「新規性」と、裁判で検討されていたら結論を変えていた「明白性」が求められる。かつてはDNA型鑑定で明確に犯人でないと分かるなど「決定的証拠」が求められる傾向があったが、近年はそこまで求めないケースも散見されている。
大阪市東住吉区の女児焼死事件では、弁護側の着火の再現実験などを新証拠と認め、2012年に大阪地裁が再審開始決定を出した。今回の決定も宮田さんが犯人ではないとする「状況証拠」を弁護側が積み重ねた結果と言える。
一方、決定は自白の任意性は否定しなかったものの、旧来型の「自白偏重」の捜査手法を否定したと言える。5月には取り調べ可視化などを柱とした刑事司法改革関連法が成立し、捜査のあり方が変わりつつある中で改めて警鐘を鳴らした。【吉住遊】
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■ことば
松橋事件
1985年1月8日、熊本県宇城市(旧松橋町)の民家で男性(当時59歳)の遺体が見つかり、将棋仲間の宮田浩喜さんが殺人容疑で逮捕された。熊本地裁は86年12月、殺人罪などで懲役13年を言い渡し、90年に最高裁で判決が確定した。確定判決によると、85年1月5日夜、男性宅で飲食中に口論になった後、帰宅して小刀を取って戻り、6日未明に男性の首や顔などを小刀で十数回突き刺して失血死させたとされる。99年に出所した宮田さんは認知症の症状があり、2012年に成年後見人の弁護士が再審請求した。
http://mainichi.jp/articles/20160701/ddm/041/040/106000c
- 殺し方が似ている2004年に起きた「熊本・宇土市病院長夫人殺人事件」と犯人のつながりは? あっしら 2016/7/01 18:05:34
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