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※関連参照投稿
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「取り調べの録音・録画 どう機能したか:間接的ながら栃木女児殺人事件宇都宮地裁判決にNHKの厳しい批判」
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「栃木女児殺害 判決の影響は」
http://www.asyura2.com/16/senkyo204/msg/351.html
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2016年05月19日 (木) [NHK総合]
「刑事司法制度改革 えん罪を防ぐために」(時論公論)
橋本 淳 解説委員
事件の捜査や裁判のあり方を変える刑事司法制度改革の関連法案が19日、参議院の法務委員会で可決され今の国会で成立する運びとなりました。改革の柱は容疑者の取り調べの録音録画を捜査機関に義務付けることです。後を絶たないえん罪の防止にどうつなげるのかを考えます。
取り調べの録音録画の主眼は捜査の適正化ですが、解説のポイントは、録音録画でうその自白を見抜けるかということです。無実の人が犯人扱いされたえん罪事件は、その多くで容疑者がうその自白に追い込まれていました。取り調べの動画が裁判に出された場合、国民から選ばれた裁判員は自白が本当に信用できるのか判断を迫られることになります。
録音録画の法案では、殺人や誘拐といった一定の重大な犯罪を対象に警察や検察が容疑者を逮捕してから起訴するまでの間、原則としてすべての取り調べをビデオカメラで撮影するよう義務づけています。密室での尋問を映像と音声で記録することで、自白を強要するような不当な捜査を抑止し、のちの裁判でも供述の真偽を正しく判断できるようにしようという狙いです。
法制化の機運が高まったのは平成22年です。栃木県で女の子が殺害され、菅家利和さんが服役中に捜査の誤りがわかった足利事件。そして厚生労働省の局長だった村木厚子さんの無罪が確定した郵便不正事件と、えん罪が相次ぎました。これをきっかけに5年越しの議論を経て、取り調べの録音録画の法案が成立する運びとなったわけです。
録音録画の制度は世界の潮流です。日本の刑事司法は欧米やアジアの国々から大きく後れをとり、「まるで中世のようだ」と揶揄されたこともあったので、遅まきながら国際標準への第一歩という意味では評価できます。ただし問題は、あからさまに強引な捜査を抑止できたとしても、うその自白が生じる危険があることです。裁判で自白の真偽を見極めるには、供述に頼ってきた刑事司法の構造的な問題や取り調べに潜む危うさを理解しておかねばなりません。
捜査や裁判では、なぜ自白が重視されるのでしょうか。裁判ではおよそ90%の被告が犯行を認め、99.9%の事件で有罪が言い渡されています。「自白=有罪」という図式が染み付いてきたわけです。捜査機関からすれば、自白させることで事件の解明が進み捜査が楽になる面があります。担当の捜査官も職務上の評価につながります。また裁判所にとっては、自白事件なら裁判を長引かせずに被告の反省や立ち直りを促せますし、被害者の気持ちを落ち着かせるのにも役立つとされてきました。これが「自白は証拠の王様」と言われたゆえんです。捜査や裁判が自白に頼ったのも、「処罰を覚悟であえて自分に不利益の供述をするのだからまさかうそはないはず」と信じていたからにほかなりません。
ところが、その「まさか」が起きるのがえん罪です。無実の人がなぜ自白するのでしょうか。一般には、「拷問まがいの取り調べ」というイメージが強いかもしれません。しかし最近は、直接、暴力や脅迫を受けなくても心理的に追い込まれるケースが多いと言われています。連日のように「君がやっただろう」と言われ、「違う」といくら弁明しても聞き入れてもらえず、これが延々と続くうちに絶望感や無力感に苛まれて「やりました」とつい認めてしまう。このプロセスはえん罪の被害者が口をそろえて指摘していることです。そして、ひとたび認めてしまった後は捜査官から犯行のストーリーを語るよう求められることになります。
心理学者の浜田寿美男さんは、「犯人じゃないので『わからない』と答えても、『否認するのか』と言われてまた無力感にとらわれる。そこで巧みな尋問にヒントを得ながら捜査官が期待する筋書きに沿って語り、犯人を演じてしまう」と話しています。一方、捜査官は犯人だという確信を深めているのでその方向にどんどん走ってしまう。このようなことがえてしてあるわけです。
では、録音録画があれば裁判でうその自白を間違いなく見抜けるのでしょうか。多くの専門家は、いったん自白した後の録音録画だけを見ても真偽を見分けるのは難しいと言います。
例えば、改革議論のきっかけとなった足利事件では菅家さんに対する取り調べの一部を録音したテープが残されていました。録音テープは無実が明らかになってから存在が分かり、再審(裁判のやり直し)の法廷で再生されました。テープでは、それまで自白していた菅家さんが否認に転じた際、検察官は「ずるいんじゃないか、君」とか「誠実さを失ったら人間として失格じゃないかな」などと執拗に語りかけ、菅家さんが泣きながら「ごめんなさい。(否認は)取り消してください」と自白に戻ると、検察官は「言わなきゃいけないという気持ちと逃げたいという気持ちが入りまじっているんだね」と優しく応じていました。
取り調べの様子は拍子抜けするほど穏やかで、「この場面だけを聞けば自白は信用できると大半の人が思ってしまう」と専門家は指摘しています。菅家さんの涙も汚名を着せられ悔しくて流したものなのに、逆に罪を悔いる涙ととらえてしまうというわけです。
こうして見ますと、裁判で正しく判断するには、自白した後だけでなく自白に至る過程の録音録画が必要で、とりわけ初期の取り調べが重要であるように思います。この点、法案で義務付けているのは容疑者を逮捕して以降の取り調べです。しかし、逮捕の前に任意同行を求め、ある程度自白をとってから逮捕状を執行する。そうした事件も多く見られるわけで、逮捕前の任意の取り調べの段階から録画を義務付けておかないと捜査側に都合よく利用されかねないという懸念が根強くあるところです。
この懸念が強まりかねない裁判が先月ありました。栃木県の旧今市市、今の日光市で小学生が連れさられ殺害された事件です。被告は無罪を主張し、裁判では自白した後の取り調べを撮影した動画が再生されました。1審は無期懲役を言い渡し、一部の裁判員が記者会見で「映像だと臨場感があった」とか「録音録画がなければ判断はどうなったかわからない」と述べました。ところが、この発言に少なからぬ専門家が違和感を覚えたといいます。この事件では逮捕直前の任意の取り調べが録画されておらず、インパクトの強い自白後の動画を見て有罪判断の根拠にしていたからです。裁判が確定していないので早計なことは言えませんが、今後に議論の余地を残したのではないでしょうか。
取り調べの録音録画は義務化されても、ようは運用次第、使い方を誤れば逆にえん罪を生む危険さえあるかもしれません。録音録画が完璧でない以上、捜査機関には供述を吟味する技量の向上と取り調べに偏らないような意識改革が求められます。また裁判所も過去のえん罪を検証し、裁判員にうその自白のこわさを共有してもらう工夫も必要でしょう。録音録画の制度化を機に刑事司法の改革をさらに前に進めてほしいと思います。
(橋本 淳 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/245292.html
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