4. 2015年10月08日 19:23:37
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2015年10月07日(水) 週刊現代 今年すでに自殺6件! 投資敗者が最後に向かう「新小岩駅」、憂鬱の実態とJRの対策〈あの人 この人に 支えられ 今を 生かされ 生きている〉 昭和の雰囲気が漂う「新小岩駅」は、最近になって飛び込み自殺が相次いでいるという。なぜ、この駅を人生の終着点に選ぶ人が増えているのか。本誌記者が実際に訪れて、その「憂鬱」の実態に迫った。 吸い込まれていくように 東京・葛飾区のJR新小岩駅。どこか昭和の佇まいを感じさせる南口改札を入ると、北口に繋がるコンコースを大勢の人が行き交っていた。途中には、ワゴンいっぱいに婦人服が積まれた出店が賑わう。いかにも下町の駅、といった風景だ。 しかし、この新小岩駅構内をよく見ると、長閑な下町風情とはほど遠い、「特殊性」に気づく。 仄暗い通路を進むと、ホームに繋がる2つの階段が見えてきた。奥側の階段の前には、その場におよそ似つかわしくない大きな液晶パネルが3台設置されている。そこには、動物、景色、植物などをテーマにした映像が流れていた。 ホームに向かう階段を見ると、足もとに青色の光が差していることに気がつく。どうやら、天井の一部分が半透明の青色の板になっているようだ。階段を登り、ホームにたどり着くと、辺りを巡回している警備員と目があった。少し驚きながらもホームを見渡してみると、「いのちの電話」といった相談窓口の看板がやけに目立つ。 なかでも、印象的だったのは、掲示板に貼られた手書きのメッセージだ。 〈あの人 この人に 支えられ 今を 生かされ 生きている〉 心を落ち着かせて。 思い詰めないで。 あなたはまだ一人じゃない—。 新小岩駅は、駅全体がそう語りかけるかのように作られている。 2011年7月から急増 こうなったのには理由がある。新小岩駅は、近年になって飛び込み自殺の件数が急増しているのだ。'05年から'10年にかけては、年間でせいぜい1〜2件だった人身事故が、'11年には11件と急増。今年も既に6件の事故が起きており、負の連鎖が止まらない。 原因は、株やFX(外国為替証拠金取引)などの投資に失敗し、財産を失った人々がネット上に残した書き込みだった。 〈10年間必死に働いて貯めた500万円を失った。新小岩にいきます〉 〈妻や子供に合わせる顔がない。もう新小岩にいくしかない。みんなありがとう〉 自殺者が急増するようになったのは、'11年7月12日に起きた人身事故からだったと言われている。45歳の女性が通過中の成田エクスプレス(NEX)に飛び込み、その衝撃で5〜6m離れたキオスクまで弾き飛ばされた。さらに翌日には同じホームの反対側で男性が飛び込み、一連の事故が大きく報道されることになった。 「有名人の自殺のように、自殺に関する大きな報道があった後に、一般人の自殺者数が増加するという現象は『ウェルテル効果』として知られています。新小岩に関しても、同様な効果があったと考えられます」(アメリカ・シラキュース大学の研究助教授、上田路子氏) 成田エクスプレスが怖い! 投資失敗で大損をし、それを誰にも言えず苦悩する人々が、ネット上の「新小岩にいく」という書き込みを見て、吸い込まれるようにこの駅に集まってくる。そんな思い詰めた人たちを、最後の土壇場でなんとか止めたい。それが、駅構内に施された様々な装置、工夫の理由なのだ。 千葉県在住の岩崎彰さん(68歳、仮名)も、株に失敗し、新小岩での自殺を考えたことがある一人だ。 岩崎さんは、退職金の500万円を運用しようと昨年から株を始め、やがて信用取引も行うようになった。ところが、今年の5月に持っていた株が暴落。借金をして追加入金をするも、株価は回復せず、追証を合わせて約1000万の借金だけが残った。その後、何日も後悔と自責の念にかられるうちに、死を意識するようになったという。 「新小岩で人身事故が多いということは知っていました。株で大損してからは電車が止まる度に、もしかしたら自分と同じような境遇の人が飛び込んだのかもしれないと考えるようになり、新小岩に降りてなんとなくベンチに座ってみることが増えたんです。 そんな事が続いたある日、気が付くと、ホームギリギリのところに立って、上半身を前後に揺らしている自分がいました。でも、どうやってここにたどり着いたのか、途中の記憶がまるでない。慌てて身を引きましたが、一歩間違えれば飛び込んでいたかもしれません」 新小岩駅の特徴の一つは、ホームの横スレスレをNEXが猛スピードで通過するという点だ。実際、飛び込みが多発しているのも、NEXが通過する3、4番線のホームである。 駅を訪れた本誌記者が、実際にホームに立ってみると、「ゴオォー」という風を切る凄まじい轟音とともに、目の前を高速の鉄の塊が通り抜けた。線路からは十分な距離があったはずだが、あまりの恐怖感に思わず仰け反ってしまった。 「NEXは錦糸町駅でもホーム脇を通過していますが、そちらは駅前後に高低差があるので速度が出しにくい。一方で、新小岩駅は直線が続くためスピードが出しやすい環境にあり、時速120kmの速さで駅を通過します。 また、4番線は視界が開けていて、自分に向かってくる電車がよく見えるので、吸い込まれるような感覚を受けるのかもしれません」(鉄道評論家の川島令三氏) 駅員たちも必死 自殺志願者が増えたことは、新小岩の駅員たちや、通過する運転士たちにも大きなストレスを与えている。JR東日本関係者が明かす。
「どんなに我々が目を光らせても、高速で通過する電車を前に飛び込まれたら、手の打ちようがありません。そのため、飛び込まれる前に自殺を止める必要があるんです」 まさにその対策として、新小岩駅には冒頭に紹介したような青色の天井や手書きのメッセージが設置されているのだ。 3台の液晶パネルの設置場所にも意味がある。 「これまでの経験上、自殺しようとしている人は、階段の前に立ち尽くしていたり、階段を登れずに彷徨っていることが多い。ホームに登ってしまえば、否が応でも死を意識してしまうので、最後に逡巡する場所が階段の前なのでしょう。そのような自殺を思い悩んでいる人に届くように、4番線に続くこの場所に液晶を設置しているのです」(前出のJR関係者) 同駅を管轄するJR東日本千葉支社広報によると、人身事故防止の切り札とされるホームドアは「'18年度までに工事に着手していく予定」と言い、設置までにはまだ時間がかかりそうだ。ホームが湾曲している、屋根の脇から吹きこむ風雨により機器が壊れやすいなどの理由で、設置は困難を極めるという。 だが、前出のJR関係者は、「なんとかして、この負の連鎖を止めたい」として、こう語った。 「ホームのベンチに長時間じっと座っていたり、不自然に笑顔を浮かべ続けていたり、とにかく少しでも違和感を持たせる人がいたら、声をかけるようにしています。でも、駅員たちだけではとてもカバーできない。できたら、一般の方々もそういう人を見つけたら気にしてあげてください」 ふとした気づかいが、新小岩の憂鬱を晴らすことに繋がるかもしれない。 「週刊現代」2015年10月10日合併号より
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