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子供にあいさつしただけで「不審者」のレッテルを貼られかねない昨今、迷子を見かけた際に「どうしたの?」と声をかけるのは少し勇気がいることかもしれない。 ある男性は声をかける代わりに「110番」としてその場を去るという苦肉の策をとった
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140110-00000002-jct-soci
J-CASTニュース 1月10日(金)18時37分配信
迷子に「どうしたの」と声かけるべきか 「不審者」扱い怖く、「110番」した実例巡り議論
夜道で迷子みかけたら、声かける?(画像はイメージ)
子供にあいさつしただけで「不審者」のレッテルを貼られかねない昨今、迷子を見かけた際に「どうしたの?」と声をかけるのは少し勇気がいることかもしれない。
ある男性は声をかける代わりに「110番」としてその場を去るという苦肉の策をとった。一連の出来事を2014年1月9日にツイッターで告白すると、すぐに反響が広がった。
■「駅はどちらですか」「すみません」で通報の例も
男性は9日、「昨晩110番を利用してしまった」として8日夜の出来事を語り始めた。ツイートによると、男性は20時ごろ、小学校1〜2年生くらいの子供が1人で泣きながら歩いているところを住宅街で見かけた。迷子かと思い、声をかけようとしたが、いわゆる「声かけ事案扱いされること」が頭に浮かんだ。男性は不審者扱いされるリスクを考えて声をかけることを断念し、代わりに「110番」通報をしたという。
一般的に「声かけ事案」とは、子供に「お菓子をあげる」「車に乗せてあげる」などと誘うものや、住所などの個人情報を尋ねるもの、卑猥な言葉をかけるものなど、誘拐事件や性犯罪などの前兆と思われる事案のことを指し、条例で禁止している県もある。
ところが、各警察署がメールマガジンやホームページで発表している事例をみてみると、本当に不審者だったのか分からないものも散見される。「おはよう」と挨拶した男性や、「駅はどちらですか」と尋ねた男性、「すみません」と声をかけた男性の通報例は、受け取り手の過剰反応である可能性も否定できない。インターネット上には、転んだ少女に「大丈夫?」と声をかけた結果、長時間にわたって事情聴取されたという不幸な報告もある。
こうした現状を踏まえた結果、男性は110番を選んだようだ。その慎重さは徹底していて、女性オペレーターから電話口で「最寄りの交番まで連れてきてほしい」と言われると、それでは「事案」を恐れて通報している意味がないとして断った。声をかけた場合に、子供が大声をあげたり防犯ブザーを鳴らしたりする可能性も危惧していた。また、オペレーターに「せめて警察官が到着するまで、近くで見守ってあげて」と求められたが、子供の近くで立ち止まって見ていては、それこそ「不審者」として通報される可能性があるとしてこれも断ったという。
「10年前なら間違いなく声をかけて交番に連れて行ってあげたが、今は男がそんな事をしたら何を言われるかわからない」という男性は、やりとりの末「一分でも早く警察官に保護させてください」と伝えて、後味の悪さを感じながらも子供のいる現場を立ち去ったという。
「考えすぎ」「電話するだけたいしたもの」と議論に
一連の投稿がツイートまとめサービス「Togetter」にまとめられると、すぐに注目を集め、議論を呼んだ。男性の慎重な行動に対しては「想像力がすげーな。そこまで回転するか」「普通に声かけて普通に交番連れていけよ。事案なんて只の注意の呼びかけで犯罪でもなんでもない」と否定的な意見も見られるが、「過剰」とみる人でも「警察って調書一つ書くんでも馬鹿みたいに長時間拘束するからなぁ」「今の世の風潮からしてこのように考える人が出てくるのには何の不思議もないね」と一定の理解を示す人もいる。
一方、男性に共感する人たちからは「色々勉強になった」「自分も多分同じような行動になると思う」といった声が寄せられたほか、「電話するだけたいしたもの」「通報しただけこの人はリスクを負ったので立派」と賛辞を送る人も少なくなかった。
幸い、この子供は無事保護されて親の元へ戻れたそうだ。ただし、男性は「再度同じような子を見かけても、もう通報する勇気は無いかもしれない。子供が泣いているのをたすけるという単純な行為がこんなに大変なものだとは思わなかった」とツイッターで振り返っている。
見知らぬ人すべて「不審者」扱い これじゃ誰も子ども助けない
教育評論家の尾木直樹さんに聞く
http://www.j-cast.com/2009/01/02032900.html
迷子を送り届けようとして逮捕された事件が埼玉であった。あいさつしただけで不審者とされるケースも増えている。背景には、子どもを狙った凶悪事件の多発があるが、過剰反応とは言えないのか。教育評論家で法政大教授の尾木直樹さんに、話を聞いた。
「おはよう」とニヤニヤすると不審者になる
教育評論家の尾木直樹さん
教育評論家の尾木直樹さん
――「親切心」から小学1年の女児を連れ回した無職の男を逮捕した埼玉県警に、ネット上で批判が巻き起こっています。
尾木 埼玉の事件は、昔なら美談になりこそすれ、逮捕はありえないことですね。背景には、親や学校から見れば、過剰反応とは言えない事件が起こっていることがあります。しかし、不審者とみなされたり、逮捕されたりする現象だけ捉えれば、過剰反応であることに間違いありません。警察は「親に連絡するのが常識だ」と男を指導するのに留めるべきでした。いきなり逮捕は行き過ぎで、警察権力の横暴だと思います。
――「事件」になった背景には、不審者に対する地域社会の過剰反応があるようですね。
尾木 不審者情報はものすごく多く、ある市では、1か月で2000件も流していました。「おはよう」とニヤニヤしていただけで流れるというんですね。でも、これでは情報としての機能を果たさず、人間不信ばかり煽るのではないでしょうか。不審者はごく少数なのに、これでは逆に子どもに何かあっても、声をかけなくなると思います。ナンセンスですね。
――子どもが過剰反応するケースも多いようですね。
尾木 東北地方のある市では、子どもが知らない人から電話を受けると、無言のままだというんです。家庭や学校が、電話では相手が分かってから答えるよう指導しているからです。近所の者だと説明して初めて、「ああ、おじちゃん」と答えるそうですよ。電話で、親が不在なことがわかると襲われる恐れがあるので、ウソをつくこともあるそうです。
――なぜ保護者ら身内以外を不審者とみるようになったのですか?
尾木 高度経済成長下における近代化で、地域コミュニティが崩壊したことがあります。それは、労働者が企業に吸い取られ、地域に代わって企業が居場所になったということですね。また、家庭も同時に破壊されてしまいました。しかし、最近は、グローバル化による競争社会で、企業からも切り捨てられる人が増えています。その結果、居場所をなくし、社会への恨みが募って、復讐のための無差別殺人まで起きるようになったのですよ。
――埼玉の事件の男にも、何か問題はありますか?過剰反応の中で、自ら疑われるという危険を考えるべきだったのでしょうか?
尾木 6歳の子どもなら、私も不安になります。1時間半も車で子どもを連れ回したら、疑われると頭に入れるべきだったと思います。送り届けるのに30分以上かかるなら、警察に連絡したり連れて行ったりすべきでした。
あいさつで心を通わせることが大事
――自治体は、子どもたちを守ろうと、地域での声かけを励行しています。しかし、見知らぬ人が声をかけても不審者に見られるだけでは?
尾木 九州のある地域では、PTAがあいさつ運動にとても熱心で、「1日10人以上声かけ運動」というのもありました。あいさつタイムや、あいさつストリートがあったり、あいさつカレンダーさえPTAで配られたりします。でも、PTA会長が交流活動で隣の小学校を訪ねて子どもたちに声をかけたとき、「知らないおじさんだ」とみな逃げてしまいました。運動だと形式ばかりで、実にばかばかしいと思うんです。僕は、あまりこういうのが好きでないんですね。
――では、どうしたらいいですか?
尾木 形だけ機械的に、「おはよう」と言えばいいのではありません。あいさつは大事ですが、対症療法で地域は作れないんですよ。「元気ないね、つらいことでもあったの?」「お母さんから怒られたのか」こんなふうに、心を通わせることが大事なんです。あいさつは、心と心のキャッチボールのきっかけに過ぎない。大声でのあいさつを自慢する学校も多いですが、気持ち悪いだけでおかしいですよ。
――地域社会崩壊の中で、心を通わせるのは難しくないですか?
尾木 それだからこそ、家庭で普段からコミュニケーションの努力をすることが大切です。子どもと朝ご飯を一緒にしたり、夜もなるべくそうする努力をしたりするとか。心を通わせる努力ができないような国家なら、いずれ崩壊してしまいますよ。勝ち組、負け組だけの社会でいいんでしょうか。子育ては、一人ではできませんので、コミュニティでグループを作り、知恵を出してお互いに支え合う地域作りをすることが大切でしょうね。
――どこかに、いい具体例はありますか?
尾木 オランダに、ワークシェアリングというのがあります。不況でも投げ出されない、いわば社会のセーフティネットで、これだと両親のうちどちらかが家にいることになるんですよ。夫婦が協力して子育てをするので、子どもにいい影響を与えることになります。社会の構造を変えないで、あいさつだけではダメです。社会全体が支え合うことで、コミュニケーションの質が変わってきます。国としてのビジョンが問われているんですよ。
尾木直樹さん プロフィール
1947年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、私立海城高校や都内の公立中学校などの教師を長年務める。その後、教育評論家として、講演活動やテレビのコメンテーターなどとして活躍。現在、法政大学教授。また、臨床教育研究所「虹」を主宰し、教育現場などについての調査・研究活動もしている。「『よい子』が人を殺す〜なぜ『家庭内殺人』『無差別殺人』が続発するのか」(2008年8月、青灯社刊)など著書多数。東京都武蔵野市在住。
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