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【第460回】 2013年10月18日 小川たまか
村田奈津恵さん、桜塚やっくんが残した悲痛な教訓
行楽の秋、自動車・鉄道事故を回避する心得と対処法
踏切内の高齢者を助けようとした村田奈津恵さんが犠牲になった横浜市の踏切事故、有名タレント・桜塚やっくんが命を落とした中国自動車道の高速道路事故。10月に入って間もなく、痛ましい自動車・鉄道事故のニュースが相次いだ。これは他人事ではない。事故は我々の一瞬の心の隙を突く。これらの事故から、私たちはどんな教訓を学ぶべきなのか。秋も深まり、高速道路を使って自動車で遠方へ行楽に出かける人、年末を控えて飲み会が増え、ほろ酔い気分で駅のホームを歩く人も増える。常日頃から心得るべき「リスク回避法」を、専門家の意見を基に検証する。(取材・文/プレスラボ・小川たまか)
目前に自動車や電車が迫ってきたら
村田さんとやっくんの事故死の教訓
もし道路や踏切内で目の前に自動車、電車が迫ってきたら、どうする――。あなたは普段、そんな光景を想像することがあるだろうか。
夏の暑さが残る10月初旬、悲しい事故が相次いで起こってしまった。
10月1日に横浜市のJR横浜線・川和踏切で起こった事故では、村田奈津恵さんが亡くなった。村田さんは父親と一緒に自動車に乗り、踏切前で停車していたところ、踏切内に横たわろうとする高齢の無職男性を目撃。「助けなきゃ」と、父の制止を振り切って踏切に入った。
村田さんが男性をレールとレールの間に移動させたことにより、電車は男性の上を通過。助かった男性は鎖骨骨折の重症ながら、命に別状はなかったという。
事故が報道されると、ネットでは村田さんの行動を称賛し、追悼するコメントが書き込まれた。6日に行われた葬儀では、安倍晋三首相名の感謝状と紅綬褒章が贈られ、警察庁も警察協力章を贈ることを発表した。報道では、村田さんは心優しく、困っている人を放っておけない性格だったと報じられている。
また10月5日には、お笑いタレントとして活躍し、最近は女装バンドの活動を精力的に行っていた桜塚やっくん(本名:斎藤恭央さん)が、山口県美祢市の中国自動車道下り線の事故で亡くなった。バンドメンバーを乗せた車を自ら運転していたところ単独事故を起こし、車外に出たマネジャーと桜塚さんが後続車に轢かれたのだ。
人気タレントの突然の死を悼む声は多く、ニュースでは連日のように過去に出演した番組の映像が流れた。自身は飛行機で移動するだけの余裕があったものの、バンドメンバーと「一緒に売れていきたい」という気持ちから、自動車での移動を選んだという報道もある。
どちらも一瞬で尊い人命が奪われた痛ましい事故であり、遺族の気持ちを思うとやり切れないものがある。特に村田さんの場合、人を助けるために自らの命を失ったという現実は、遺族にとって簡単に心の整理がつくものではないだろう。
行楽の秋に忍び寄る「魔の手」
自動車・鉄道事故は他人事ではない
秋も深まり、高速道路を使って自動車で遠方へ行楽に出かける人、年末を控えて飲み会が増え、ほろ酔い気分で駅のホームを歩く人も増えるだろう。しかし、自動車・鉄道事故の魔の手は、我々の一瞬の心の隙を突いて訪れる。
事故に巻き込まれないために、また事故を起こさないために、常日頃から「とっさのときのリスク回避法」を心得ておいたほうがよいだろう。悲しい事故のニュースの余韻が冷めつつある今、それを改めて考えてみたい。
まず、鉄道事故について見てみよう。村田さんが亡くなったニュースが報じられたとき、ネット上では彼女を悼む声が溢れる一方、「なぜ非常停止ボタンを押さなかったのか」というコメントも見られた。
「非常停止ボタン」は、駅のホームや踏切に設置されている緊急用のボタンで、黄色と赤色で目立つようにデザインされている。このボタンを押すと緊急停止の知らせが運転手に届き、運転手はこれを受けて急ブレーキをかける。仕組みは、ただボタンを押すだけの簡単なものだ。
乗客らが危険を目撃した場合に使うためのボタンで、2001年に山手線大久保駅で3人が亡くなった転落事故の後、国土交通省が安全対策を通達したことにより、増設が行われた。
しかし、見たことがある人は多いと思うが、いざというときにどう使ったらいいかについてまで知っている人は、実際のところあまりいないのではないだろうか。踏切事故やホームで起こる事故は多くの場合、数秒間の間に判断を行わなくてはならない。そもそもそのとっさの状況で、非常停止ボタンの存在を思い出せるか、その場所を探せるかは難しいところだ。
いざとなったら頭の中が真っ白
使い方がわからない非常停止ボタン
10年以上前になるが、筆者は「あわや踏切事故が起こる」という場面に居合わせたことがある。駅に隣接する踏切で遮断機が開くのを待っていたところ、中年の男性が自転車に乗ったまま遮断機を押して線路内に進入。入ってくる電車に対面するようなかたちで止まった。
幸い、男性は電車が来る直前に、自転車のまま再び遮断機を突っ切って線路外に出て、走り去った。いたずらだったのか、自殺志願者だったのかはわからない。電車は急ブレーキをかけて止まり、ホーム上にいた駅員が去った男性を追いかけていった。
そのとき、踏切の両側には乗用車も含めておそらく10人以上の人がいたが、男性を助けるために動いた人は誰もいなかった。筆者は状況を把握することすらできず、「なぜ人が踏切内にいるのか?」という疑問ばかりが頭の中をぐるぐると回り、一緒にいた友人に「あの人は何をしているの?」「なんで?」と聞くばかりだったことを覚えている。
恥ずかしいことだが、「危ない」という感覚すらなく、「何が起こっているかわからない」状態だったのである。当時、その踏切に非常停止ボタンがあったかどうかは記憶にないが、あったとしてもそれに気づき、押すことはできなかっただろう。
自分自身、そんな経験があるので、とっさに状況を把握した村田さんは、ある程度状況判断を素早くできる人だったのだと、個人的には思う。だからこそ、それが悲劇的な結果となってしまったことを残念に感じる。
都内JRの踏切や駅の全てに
非常停止ボタンは設置されていない
JR東日本では、危険を感じた場合の行動について、「線路内には入らず、非常停止ボタンを押してほしい」(広報)としている。ただし、今年4月に神奈川新聞社が報じたところによれば、JR東日本横浜支社管内にある車の通行を規制している踏切のうち約4割で、非常停止ボタンが未設置の状況だったという。
同調査では、県内に路線のある小田急電鉄、東急電鉄、京急電鉄、相模鉄道は全ての踏切に非常停止ボタンを設置しており、「(JRと私鉄の)安全対策の温度差が浮き彫りになっている」と指摘されていた(※今回事故があった川和踏切では、非常停止ボタンは設置されている)。
JR東日本広報に問い合わせたところ、都内の踏切と駅においても、「全てに非常停止ボタンが設置されているわけではない」という回答だった。現状で、とっさの場合に乗客が取れる行動が非常停止ボタンを押すことしかないのであれば、やはりできるだけ多くの駅・踏切に設置してもらいたいと感じる。
また、前述したように、非常停止ボタンが設置してあり、その操作が簡単なものであったとしても、とっさのときに普段利用したことのないボタンを押せるかどうかという問題もある。
これに対して対策を行っているのは、東武鉄道。東武鉄道では、「非常ボタンの存在や機能、使用法などを知っていただくとともに、模擬装置のボタンを実際に押し、感触を確かめていただく」という目的のもと、2009年前からこれまでに10回、「非常停止ボタン体験会」を行っている。
体験会では「本当に押してもいいの?」という質問が出ることがあるといい、緊急時とはいえ「電車を止める」ことに対して少なからず抵抗感がある人もいることがわかる。
これに対し東武鉄道では、「危険と判断したら躊躇なく操作してください。また、ボタン下に表記してある連絡先に一報していただくか、駆けつけた駅係員に状況を教えてください」と促している。
一方、高速道路の事故についてはどうだろうか。桜塚さんの事故は、雨が降る夕方、下り坂のカーブという見通しの悪い状況で起こった。中央分離帯にぶつかって停まった車の助手席からマネジャーが降りたところ、トラックにはねられ、続いて車を降りた桜塚さんも事故車の後方で後続車にはねられてしまった。
警察庁のHPでは、高速道路の事故について一般向けにまとめられたページがある。掲載されたデータによれば、交通事故全体の死亡者数は減少傾向にあるものの、高速道路での死亡事故は2010年から2012年まで3年連続で増加している。
高速道路の事故は「ベテラン」
後続車が衝突する事故は4件に1件
また、高速道路で事故を起こした第一当事者(当事者が複数いる場合、過失が重い方の人)のドライバーのうち、約8割が高速道路の走行経験が多い、いわば「ベテラン」のドライバーだったという。
さらに、今回の事故のように自動車や人に後続車が衝突するケースは、高速道路の死亡事故中、4件に1件の割合で起きているという。
また、NEXCO東日本に取材したところ、関東での高速道路死亡事故件数は、今年10月4日時点で27件と、昨年の年間件数22件を上回っているという(NEXCO東日本調べ)。27件の特徴は次のようなもの。
・停止車両に衝突する事故が7件。そのうち5件は第一次事故後に追突
・対人衝突が昨年3件から今年9件に増加。このうち5件は一次事故後に車外にいたもの
・車外放出(事故の衝撃で車外に出てしまったもの)が昨年0件から今年7件に増加。このうち、5件はシートベルト非着用だった(運転席2件、後部座席3件)
交通事故への対策として、私たちができることの1つには、こういった事故の状況や走行経験の多いドライバーでも(むしろ走行経験の多いドライバーの方が、とも言える)事故を起こしている状況を知り、自分の運転に慢心を起こさないという心構えを持つことがあるだろう。
運転席、助手席だけではなく後部座席でもシートベルトをするのは非常に基本的な安全対策だが、車外放出7件のうち5件が非着用という結果からは、このルールが徹底されているとはいえない状況がわかる。
走ったことのない道を走るときは
事故の多発地点を調べておきたい
さらに、対人衝突事故、停止車両衝突事故はどちらも夜間・早朝にかけて起こることが多く、貨物車が第一当事者となるケースが多かった。このため、NEXCO東日本では、「夜間・早朝時間帯での早めの休憩」を啓発するとともに、ドライバーだけでなく運送事業者に対して「無理のない運行計画策定」を要請している。
高速道路上での車両の故障トラブルは約11万件(2012年・全国/NEXCO東日本調べ)あり、故障を起こして高速道路上で停止してしまわないために、基本的な点検・整備を行うことも大切だ。
またこれ以外にも、例えばNEXCO東日本内のHPには「気をつけて!高速道路ヒヤリマップ」というページがあり、NEXCO東日本が管轄する高速道路において事故が多い地点を確認することができる。いくつかの地点については動画付きで紹介されているので、走行のシミュレーションに役立つ。
警視庁の「高速道路を利用する皆様へ」というページでは、都内の高速道路における人身事故の多発地点、死亡事故の発生地点を確認できる。もちろん、この地点でのみ気をつければいいということではないが、事故の発生地点をできる限り調べておくことは、これまで走ったことのない道路を走る場合などに参考となるだろう。
それでは、実際に高速道路で事故が発生してしまった場合はどうすればよいのか。JAF(日本自動車連盟)のHPでは、「高速道路で事故や故障が発生したらどうすればいいのですか?」という質問に答えるかたちで、事故発生後の対処法を説明している。
詳細はHPを確認していただきたいが、順番に述べると以下のようになっている。
(1)ハザードランプを点灯して、路肩に寄せる
(2)発炎筒、停止表示器材を車両後方に置く
(3)ガードレールの外側などに避難
(4)非常電話か携帯電話で救援依頼をする
ただし、発炎筒などで事故を知らせたり、安全地帯に避難したりする前に、危険な目に遭うことももちろん多い。
同社のロードサービス部技術課・江口浩倫さんは、次のように話す。
「そもそも高速道路上は危険な場所で、車から人が降りて安全なところはありません。実際に高速道路上で事故に遭い、路上に出た経験のあるドライバーの方たちは、高速で走る乗用車やトラックを間近に感じ、『あれほど怖いものだとは思わなかった』と話します。走行音や車の風圧を感じるだけでも相当怖い。そうした経験がある人は、高速道路上で事故に遭うことがどれだけ危険かがわかると思います。また、事故の状況によっては、ドアの数センチ先を後続車が走ることもありますが、それほど間近に他の車が接近することを自覚していない人も少なくありません」
ほんの数秒間が命取りになる場合も
リスク回避法は常に心得ておくべき
事故や故障トラブル対応のプロである同社でも、高速道路の事故処理上での作業は、後続車への注意は最も気を遣うことの1つだという。
「作業現場へは原則、2車2名で出動します。後続車へ警戒を促す担当者は、昼間で視認性が高い場合は、『後続車のドライバーの目線をチェックする』ということまで行います。直線で見通しの良い状況であったとしても、ドライバーがほんの数秒よそ見をしただけで、停止車両に気づかずハンドル操作が遅れるということはあります。どんな状況であっても、『後続車は気づいてくれる』という思い込みは大変危険です」
一般道路では当然のように避けられる距離であっても、高速道路上ではそうでないことがほとんどだ。難しいことではあるが、緊急時だからこそ慌てずに対処したい。そのためにも、日頃から事故に遭った場合のシミュレーションを行っておくことは重要だろう。
同社では、全国で定期的に参加・体験型の安全運転講習会を行っており、なかには急ブレーキをかけた状況を体験できるものや、苦手運転のアドバイスを受けられるものなどもある。JAF会員であれば、500円〜1000円程度と比較的安価で実施されているので、利用してみるのもよいだろう。
第一事故から第二事故まで5分のケースも
パニックにならず安全地点まで逃げるには
NEXCO東日本では、事故・故障が起こったときの対応について次のように注意を促している。
(1)歩き回らない
(2)後続車に合図
(3)避難
(4)通報
同社の調査によれば、事故停止車両に追突して起こった5件の事故のうち詳細が判明している3件の事故は、第一事故から第二事故までの時間が5〜6分あったという。適切な対応を取れば、この数分の間に当事者が安全な場所まで逃げることができたかもしれない。
事故が起こってしまったときはパニックになりがちだが、まずは状況を確認し、一般道と同じ感覚で歩き回らないことが大切だ。また、後続車への合図はJAFと同様、ハザードランプ・発炎筒・停止表示器材の順で使うと紹介されている。
最初にすぐにつけることができるハザードランプを点灯させ、次に発炎筒を炊いて車両の後方に置きに行く。このときももちろん、ガードレール沿いを歩くなど細心の注意が必要だ。発炎筒を置く位置は、できるだけ早く後続車に気づいてもらうため車両から離れた距離の方が良いが、置きに行く間に後続車と接触する危険もあるため、20メートルほどでもよいという。
発炎筒を置いたら、それより車両側に停止表示器材を置く。発炎筒は5分ほどで消えるため、発炎筒は「停止表示機材を置きに行くときに持って、後続車に注意を促すためのもの」という位置づけという。停止表示機材はネットでも1000円程度で購入することができる。
ガードレールの外など安全な場所に避難したら通報を行う。110番・非常電話・道路緊急ダイヤル(#9910)の3つの通報方法があり、それぞれ次のような特徴がある。
(1)110番■携帯電話などから行う。事故・故障を起こした地点を告げる必要がある。
(2)非常電話■高速道路上に約1kmごとに設置されている。事故・故障を起こした地点の管轄に直接つながるため、比較的スムーズに処理の手配や後続車への注意喚起ができる。
(3)道路緊急ダイヤル(#9910)■非常電話が近くに見つからない場合、携帯電話からかけることができるが、音声案内に従って事故・故障地点を指定する必要があり、30秒から1分程度かかる。
事故・故障地点を伝えるときには、100メートルごとに表示されている「キロポスト」が便利だ。
同社でも、年間で20回ほど、主に業者向けに安全指導を行う「出前講義」を無料で行っている。
高速道路で事故を目撃した場合
絶対にしてはいけないことは?
高速道路上での事故の危険性について、同社管理事業部・道路管制センター交通管理課課長の道上義仁さんは次のように話す。
「事故や故障があった際に駆けつけるパトロールカーは黄色で大変目立つ色をしていますが、それでも追突される事故があります。それほど、高速道路は油断できないということです」
高速道路上で事故を目撃してしまった場合については、次のような対応が必要だという。
「運転手以外の方が携帯電話で通報するか、同乗者がいない場合はパーキングエリアで通報を行ってください。事故を目撃したからといって自分の車を高速道路上に停車させ、通報や対処を行うことは絶対にやめてください」
事故目撃以外でも、高速道路上に停車して携帯電話を使用したり、用を足したりするケースが見られるというが、危険防止や故障、料金支払い以外の理由で高速道路上に駐停車することは、道路交通法で罰則の対象となる。
絶対安全策は不可能
「定期的に考える」機会を
誰もが利用する鉄道や道路上での事故は、いつ誰が当事者になっても不思議ではない。しかし多くの人が、「自分は大丈夫だろう」と心のどこかで思ってしまうのが現実だろう。
また高速道路の事故では、歩行者や自転車が本線に立ち入っての死亡事故が報告されており、そのうちの多くが70歳以上。踏切事故に関しては、認知症の高齢者が事故に遭い、遺族に高額の支払い命令が出たニュースが報じられている。高齢者だけでなく、幼児が誤って線路内に入ってしまうケースもある。数日前には、携帯操作をしながら踏切に侵入してしまった死亡事故も報じられた。
事故に遭遇するケースは様々であり、「これをしたから絶対に安全」という対策は存在しないが、自分や家族が事故に巻き込まれないために、また事故を目撃したときのために定期的に安全について考える機会が必要だ。
取材中に聞いた、「(踏切事故・高速事故に注目が高まっている現在だけではなく)定期的に注意喚起を促す発信をしてもらいたい」という声が心に残った。
http://diamond.jp/articles/print/43175
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