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重さ・温度の定義 大転換
精密な測定手法 競う各国
質量や温度など身近なものを測る時の単位の定義が、大きく変わろうとしている。2018年に開かれる国際会議で、4つの単位の基準が変更されそうだ。具体的な物体で「1キログラム」を決める従来の方法から、自然界に存在する不変の「物理定数」を基準にした定義に変わる。ただ、そうした物理定数の値は、正確にはわかっていない。これを極めて精密に測定する実験に、各国がしのぎを削っている。
茨城県つくば市の産業技術総合研究所。その地下に暗証番号つきの扉で堅く閉ざされた金庫がある。中には白金とイリジウムの合金でできた分銅が3つ、二重のガラス容器の中に鎮座している。「日本国キログラム原器」だ。
現在「1キログラム」というのは、この原器の質量で定義される。企業や研究機関はこれを使って計量器の精度を確認する。だが実際には「金庫の扉が開くことはめったにない」と産総研の藤井賢一・質量標準研究グループ長は話す。
日本の原器は複製で、本物の国際キログラム原器はパリにある。1889年から質量の定義に使われてきたが、ついに廃止されることになった。人工物で基準を決めるのには限界がある。そんな問題意識が背景にあるからだ。
国際原器は厳重に管理されてきたが、洗浄の繰り返しで重さが60マイクロ(マイクロは100万分の1)グラム変動した。日常では問題にならないが、ナノテクノロジー(超微細技術)の進展で原子レベルの精密測定が広がり、より安定した定義が求められるようになった。
昨年の国際度量衡総会で、質量の定義を18年に改訂する方針が決まった。総会はほぼ4年に1回フランスで開かれ、質量や温度、電流、時間など、世界共通の「国際単位系」で使う7つの基本単位の定義を定めている。
新たに質量の定義に用いるのは、高校で習った「アボガドロ定数」だ。原子の数と質量との関係を表す数で、原子の種類によらず一定。改定案では、基準となる炭素原子(質量数は12)を用いて「炭素原子をアボガドロ定数の数だけ集めたときの質量を12グラムとする」と定義する。
新たな定義なら、炭素原子の重さが変わらない限り、質量の基準も変わらない。定義の変更は「約130年ぶりの大改訂」(藤井氏)となる。
ただし新定義を導入するには、まずアボガドロ定数を精密に知る必要がある。学校では「6.0×10の23乗」と教わるが、これはあくまで概算値。原器と同等以上の精度を実現するには、1億分の2以下の誤差でつきとめなくてはならない。
産総研では高純度シリコンを研磨し、現在の原器に等しい1キログラムの球を作った。規則正しく並ぶ原子の距離をエックス線で測り、さらにレーザーを1000方向から当てて直径を測る。
半導体にも使われているシリコンは、きれいな結晶を作りやすい。体積と原子間距離から1キログラム中の原子数を割り出し、アボガドロ定数を求める。表面を磨き直して不純物を除去したり、測定装置を改良したりして、今年3月、ついに目標の精度に届いた。
絶対温度の単位であるケルビンも、18年に定義が変わる見通しだ。現在は氷と水、水蒸気が共存する「水の三重点」温度(セ氏0.01度)の273.16分の1を、1ケルビンと定義している。
だが、これも水という物質に依存する。極めて純度の高い水を特殊なガラス容器に封入し、水の三重点を作って測っているが、長期間のうちにわずかに汚れ、ズレが生じる懸念が出ている。
新たな温度の定義には、温度とエネルギーを関係づける「ボルツマン定数」を使う。一定体積の気体の温度が高くなるとエネルギーが大きくなるが、ボルツマン定数はその比例係数だ。アボガドロ定数と同様、まずボルツマン定数を精密に測定して、国際的な合意により決定。その上で、決定したボルツマン定数に合わせて1ケルビンの大きさを決めるという手順になる。
現在各国でボルツマン定数の測定を進めている。産総研などのチームは、金属球にガスを封入してスピーカーで音を出し、音速を厳密に測定。そこから気体のエネルギーを計算し、温度と比較してボルツマン定数を求めている。山田善郎・応用熱計測研究グループ長は「この手法は、精度の高さで他を一歩リードしている」と話す。
単位の定義変更で、身の回りで何が変わるのか。山田氏は「何も変わらないようにするのが再定義の目的」と話す。めまぐるしく動く現代社会で「究極に変わらないもの」を作る努力が、実を結ぼうとしている。
(山本優)
国際単位系、7つの基本単位が軸
長さ(メートル)、質量(キログラム)、時間(秒)、電流(アンペア)、温度(ケルビン)、物質量(モル)、光度(カンデラ)の7つの基本単位が軸となっており、これらを組み合わせて面積や速さなど他の単位が作られる。1960年の国際度量衡総会で定められた。定義の見直しは総会で決定する。現在、総会には約50カ国が加盟しており、日本では産総研が業務を担っている。
質量と温度のほか、2018年には電流と物質量の定義も変わる見通しだ。電流は電子1個の電気量である「電荷素量」を基にアンペアを定義。粒子の個数である物質量の定義にもアボガドロ定数を使う。
[日経新聞6月21日朝刊P.25]
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